【一強政権の死角】(01) 安倍首相よ、国民をバカにするな!――“上から目線”の安保法制、本誌アンケートでも6割が「説明不足」

株価は連騰を続け、野党はバラバラ。秋の自民党総裁選は早くも無投票再選の声が聞こえる安倍一強時代である。だが、驕りは無いだろうか? 緩みは無いだろうか? 安倍政権の死角を撃つ短期集中連載第1回は、戦後日本の安保政策の大転換となる『安保法制』を取り上げる。

「委員長のご指摘・ご指示も頂きまして、私の発言に関して重ねてお詫び申し上げると共に、ご指示を踏まえて真摯に対応して参ります」。6月1日、安保関連法案を審議する特別委員会の冒頭、安倍晋三首相はこう言って頭を下げた。しかし、「ここに至るまでは紆余曲折があった」と明かすのは、ある自民党国対関係者だ。「総理は辻元清美議員へのヤジについて、謝罪を拒否し続けていました。ただ、国会に法案を提出し、審議をお願いしている立場の政府が、『早く質問しろよ』とヤジを飛ばしたのでは話にならない。総理自身が野党のヤジを『静かにしてください。学校で習わなかったんですか?』と厳しく批判したばかりですから。結局、自民の国対幹部が総理に謝罪を要請することになった。しかし総理は、『一度謝ったのに、何で謝らなきゃならないの?』とゴネまくったのです。結局、安保法制特別委員会の浜田靖一委員長が『国民の関心が高い問題ですから』と説得に当たって、何とか受け入れさせたのです」。だが、首相は謝罪の言葉を口にしたものの、実際には全く反省の色は無い。

「嘗て、辻元さんは『ソーリ、ソーリ』と言っていたのに、何で今は『大臣、大臣』なのか?」。辻元氏にヤジを飛ばした日の夜、ハイテンションの首相は銀座の料亭で行なわれた会合で、こう怪気炎を上げていた。「自衛隊の最高指揮官は総理なんだから、オレに聞けばいいのに」。ワイン通の世耕弘成官房副長官が選んだ赤ワインが注がれたグラスを傾けながら、首相の野党批判は止まらない。「野党の質問はワンパターンで、大したことないね」「民主党の岡田(克也)さんの質問は、以前にも国会で議論されている。それを知らないのかな?」「維新の党の江田(憲司)さんにしたって、自分の意見ばかり話すだけだ」。遂には、身内・自民党の批判も口にした。「辻元さんと一緒に大阪都構想に反対した(自民党)大阪府連はけしからんね」。会合の出席者が明かす。「首相の出身派閥である“清和会”の若手等10名ほどを集めた勉強会だったのですが、ヤジの一件があった直後で総理は高揚した様子で、気分良く自説をブチまけていました」。5月26日から、集団的自衛権の行使等を可能にする安全保障法制の関連法案の国会審議が始まった。自衛隊の海外での活動を飛躍的に拡大させ、戦後日本の安全保障政策の大転換となる法案だ。安倍首相は今国会での成立を期し、自らが答弁の先頭に立っている。だが、現実には国民の理解を得られているとは到底言えない状況だ。共同通信が5月30・31日に実施した世論調査では、「安倍政権がこの法案について国民に十分に説明していると思いますか?」という設問に対して、「十分に説明している」は僅かに14.2%に留まった。そして、「十分に説明しているとは思わない」が81.4%に上ったのだ。




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問題なのは、安倍首相の姿勢を批判する声が、法案の支持者からも上がっていることだ。本誌はメルマガ読者を対象に緊急アンケートを実施した。安保関連法案の今国会成立への賛否を問うたところ、賛成が52.9%と過半数を超えた。「若し、中国が尖閣に上陸して占拠してもアメリカは動くとは思えないし、況して共同戦闘が得られない国の為にアメリカ兵は血を流す訳がない。日本自身で初動の防衛や奪還も行い、国際世論を味方にしてアメリカの援助や圧力を仰ぐしかない」(広島・男・59)。ところが、「安倍首相は丁寧に説明していると思いますか?」との質問に対しては、「思わない」が59.8%に達した。安保政策の“方向”は支持しつつも、安倍首相の“姿勢”は支持できないとする“捻じれ”が生じているのだ。読者の代表的意見は次のようなものだ。「質問に対して上から目線で、且つ漠然とした説明で、明確な回答にはなっていない。『決めたのだからやる』という姿勢であり、『国民に理解してほしい』というスタンスではない」(福岡・男・70)。「安倍首相の意見には賛成だが、高い支持率の為か、最近非常に強気な発言が多いと思う」(神奈川・男・48)。「具体的なリスク――例えば、海外派遣に際して自衛隊が攻撃されそうになった場合、『すぐさま退避する』と述べているが、安全に退避できると言える根拠についての説明が足りていない」(滋賀・女・63)。「説明は上手に見えるが、答えをはぐらかす局面が多々あり、国民を馬鹿にしているという心の底が透けて見えてしまう」(東京・男・55)。

実は、こうした声は安倍首相の防衛外交方針に賛同を示してきた有識者からも上がっている。中でも、安倍首相の私的諮問機関『安保法制懇』メンバーだった防衛大学校名誉教授の佐瀬昌盛氏の言葉は重い。佐瀬氏は、集団的自衛権の行使容認を長年訴え続けてきた安全保障政策の権威である。その佐瀬氏は、「今回の安保法制審議における最大の問題点は、『国民に理解してもらおう』という配慮が感じられないことだ」と語る。「先日、厚さ3cmはあろうかという今回の法律案の要綱を官邸から受け取りました。早速、中身を読みましたが、法律改正案の為に『○○の一文を削除し、△△を加える』等とあり、現行法と逐一照合しないとどういう条文になっているか把握できないのです。専門家でも理解するのに気力・体力を必要とする代物なのです。実務に当たった官僚・弁護士出身の議員以外には、理解することは難しいでしょう。概要を記したペーパーも公表されていますが、逆にこちらは簡略化され過ぎています。こうしたもの以外、安倍政権は国民に対して説明する資料を用意していない。これで国民に対して『国会審議を理解しろ』というのは無謀で、国民の困惑を買うのは当然の成り行きです」。安保政策が転換されれば大きな影響を受ける自衛隊関係者も疑問を呈する。元海上自衛隊自衛艦隊司令官の香田洋二氏は、「集団的自衛権は認めるべきだ」とする立場だが、「政府の説明は不親切だ」と語る。「集団的自衛権を認める最大の目的は、尖閣沖や東シナ海で大暴れする中国に歯止めをかけることです。それと同時に、アメリカが窮地に陥った時に自らの国益判断で加勢できるようにする為です。これは従来の自衛隊任務と変わりません。こうした真意が全く国民に伝わっていない」

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安保政策の転換に賛同する、本来なら安倍首相の“支持者”と言っていい人々からも批判の声が上がるのはなぜか? それは、安倍首相が批判を躱そうとするあまり、子供騙しの答弁に終始し、真正面から国民を説得しようとしていないからではないか。その象徴が、自衛隊員のリスク論争だ。国会で、「自衛隊の活動範囲が広まり、自衛隊員のリスクが高まるのではないか?」という質問に対して、安倍首相や中谷元防衛大臣は「リスクが増大する訳ではない」と答えている。だが、海上自衛隊OBの伊藤祐靖氏はそうした答弁を一蹴する。「野球選手がデッドボールを受ける回数は、打席に立つ回数が増えれば自ずと高まる。確率論の問題です。自衛官の派遣が増えればリスクが増すのは当然です。本来はリスクが増えても、それでも自衛官に『行け』と言うだけの理由があるのが筋道の筈です。それをきちんと説明しないで、『リスクが無い』と言うのは可笑しな話です。抑々、自衛隊の出動は国家権力の究極の発動です。それなのに、法案審議で国家の理念が見えないのはなぜなのか? 国家として、『なぜ必要なのか』という説明をされないまま『戦地に赴け』と言うのでは、命を賭す自衛官もやりきれません」。実際、運用面での不安は尽きないという。現役の海上自衛隊隊員が語る。「若し実際に海外で武器を使用する事態となれば、国会で大騒ぎになるのは目に見えています。そうした戦争行為について、政府が殆ど議論していないことが恐ろしい。例えば、邦人保護を行う場合、現場に向かう部隊は連隊ではなく、中隊や小隊単位となる。その際、中隊長の1尉・2尉が相手を撃つべきかどうかの判断を迫られる。2尉なんて防衛大学校を卒業して数年の若手であり、そうした隊員が重い判断を迫られるのです。創設以来、60年に亘って“軍隊”としての教育が無かった自衛隊において、こうした認識をどのように改革するのかという問題が残されています」。現役の航空自衛隊幹部は、更に具体的に「戦死の問題を議論すべき」だと指摘する。「安倍首相は、戦死のリスクについてきちんと語るべきです。今後、自衛隊の派遣は否が応でも外交の道具の1つになる訳ですから、避けて通れないテーマです。また現在、国葬の規則では自衛官の戦死は想定されておらず、国家の命令に因って命を落とした際の処遇をどうするかも規定すべきです」

前出の佐瀬氏は、現在の日本と同じような状況下にあったドイツの例を引き合いに、「安倍政権には胆力が足らない」と喝破する。「1995年、それまで憲法解釈からNATO領域外に派兵できなかったドイツで、ボスニア紛争に派兵するかどうか大激論となったことがあります。野党の女性議員が、『若し兵士の棺が戻る事態になったらどうするのか?』と議会で質問したのですが、キンケル外相は、『そういうケースはあり得るでしょう。ただ、その時は国防大臣と共に、棺の傍らに一晩立ち続け、殉死者を悼み続ける』と毅然と答えたのです。その結果、野党から造反者が出て、派兵は可決された。今回、安倍首相や中谷大臣は『自衛隊のリスクは高まらない』等と、のらりくらり躱しています。このキンケル外相のように、毅然と国民に自国の置かれた現実を語れる人材が安倍政権にいないのは残念です」。佐瀬氏は、安保政策の転換に賛成だからこそ、今のまま審議が進めば却って反対の声が増えることを危惧している。「安保法制は今国会で採決されると思いますが、世論調査の数字を見ても、決して国民から承認された訳ではありません。その為、法案が成立したとしても、 国民に因るヒステリーのような反発は当分収まらないでしょう。国民の理解を得るまで、最低5~6年はかかると思います」

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「国民の理解が得られないまま法案の成立を強行することは、安保政策に褐根を残す」と語るのは、民主党衆議院議員の長島昭久氏だ。「私個人としては集団的自衛権は認めるべきだと思っているし、我が国の平和と安全に直結する部分はしっかり整備しないといけないと思っています。ただ、今回の改定は安全保障における戦後最大の大改革であり、一国会・二国会は跨ぐくらいの気概で、腰をしっかり据えて臨むべきだと思います。当初、『危険だな』と思っている国民が、丁寧な議論を見ているうちに、『多少リスクが高くても国益に繋がる』と理解できるようにしなければならないのです。政府がそういう議論を面倒臭がったり、自ら説明を端折って進めていこうとする姿勢を見せることは、結果として安倍首相が目指していることを成就させ難くすると思います。安倍首相は5月の訪米時の演説で『夏までに成立させる』と口にしたので、焦っているのでしょう。衆議院・参議院で与党は過半数を持っていますから、法案成立を一気にやろうと思えばできる。しかし、国民の信頼を失った日米同盟・自衛隊の活動は、意味を持たないものになってしまいます」

1990年代のPKO協力法も、当初は「軍国主義の再来」との批判に曝されたが、三度の国会を跨ぎ、計190時間の審議時間をかけた結果、国民の理解も進み、採決の際には一部の野党が賛成に回って可決された。だが今回、官邸はこうした“慎重審議”は想定していない。「与党は、審議時間を80数時間と見越しています。1日7時間、これを週3回審議すれば、国民の目にはきちんと議論しているように映るし、7月までに衆議院通過を果たせると踏んでいるのです」(自民党関係者)。外務次官経験者は、「こうした『時間数だけ稼げばいい』という姿勢が、安倍首相の乱暴な答弁に繋がっている」と指摘する。「これは、日本の民主主義の根幹に関わる問題です。安保法制の改定は正しいと考えていますが、夏までに強行採決しようという安倍首相の手法は国民と民主主義を軽視しています。安倍首相は、祖父の岸信介首相の日米安保改定について、『批判を浴びて首相を辞することになったが、安保改定が正しかったことは歴史が証明している』と、よく主張されます。しかし、岸氏が辞任に追い込まれたのは条約改定の中身ではなく、強行採決を行って国民の間に渦巻く異論を排除した姿勢・手法が反発を受けたからです。そうした経緯を、安倍首相は全く理解しておられず、岸氏の二の舞にならないか懸念しています」。自民党内からも安倍首相の姿勢に疑問の声が上がるが、その声は広がっていない。そうした“一強体制”が、安倍首相の更なる強気を後押ししている。

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「オレの外遊中に、若手は何をやっているんだ!」。GWの外遊から帰国した安倍首相は、周囲にこう怒りをぶち撒けたという。5月7日、『過去を学び“分厚い保守政治”を目指す若手議員の会』という若手リベラル派の勉強会が発足。初会合には、衆参の1~2年生議員約30名が集まった。9月の総裁選を見越した“反安倍”とも言える活動――と、首相は受け止めたのだ。「そこで菅義偉官房長官が、この会合の出席者に対して、『どうだ、勉強になったか?』と個別に電話をかけています。『単に集まるのはいいが、政局に繋がるような言動があれば絶対に許さん』という牽制の意味が込められているのです」(前出・自民党関係者)。この勉強会の発起人である当選2回の石崎徹衆議院議員は、次のように説明する。「1年ほど前から、『歴史問題や保守政治を勉強する会ができないか?』と話し合っており、このタイミングになったのは偶然です。総理が発表する“戦後70年談話”にケチをつけるようなことはしませんが、若手議員なりに戦後70年を総括したいと考えています。今回の安保法制の審議を見ていて、与野党の議論が噛み合っておらず、残念です。ただ、地元に帰ると、『共産党が一番真面なことを言っている』という声が多いのも事実ですね。安倍総理を批判する訳ではありませんが、野党の質問に対して感情論で付き合うのもどうかと思います」。だが、こうした声は少数派だ。寧ろ、自民党内は今秋の総裁選・内閣改造を睨んで、首相の機嫌を損ねたくない議員たちが右往左往しているという。「首相周辺が、前出の若手議員の会に対抗する会の立ち上げを呼びかけたところ、多くの議員が参加希望を出したそうです。特別委員会の理事には今津寛・岩屋毅氏等、当選7回で未入閣の“待望組”が名前を連ね、首相へのアピールに懸命です」(政治部記者)。前出の自民党国対関係者が語る。「総理は飽く迄も正面突破です。確かに、各社の世論調査で安保法制についての数字は厳しい。しかし、内閣支持率は数ポイントしか下がっておらず、あまり気にしていない。それが総理の強気を支えている。総理から、国会スケジュールの先延ばしを指示する話は来ていません。飽く迄も、今国会で法案成立させるつもりです」

時事通信社解説委員の田崎史郎氏が分析する。「安倍政権にとって、法案成立は至上命題です。両院で自公が過半数を占めている為、法案成立に至るのは間違いないでしょう。ただ、強行採決になるかどうかは“維新の党”の出方次第であり、現在のところ、見通しはまだ立っていません。若し強行採決となれば、一昨年の特定秘密保護法の成立時のように、内閣支持率を10ポイント下げる事態となる可能性があります」。鍵を握る『維新の党』の松野頼久代表は、小誌の取材にこう語った。「首相は無関係なことまで言及し、だらだらと長時間答弁する等、こちらの質問時間を潰そうという魂胆がミエミエです。国民に説明を尽くそうとせず、こうした始息な国会戦術を繰り返す態度からは、驕りしか感じられません。もっと議論を尽くすべきです」。ノンフィクション作家の保阪正康氏は、安保法制に関する安倍首相の姿勢にこう苦言を呈する。「今回の安保法制における安倍首相の答弁・法案提出・議会運営の仕方を見るにつけ、誠実さに欠ける態度だと思っています」。そして、「こうした姿勢は安保法制に限らず、他の国論を二分する問題にも共通している」とした上で、こう断じた。「国民の生命・身体・財産を守ることは、為政者にとって最も重要な仕事です。国の最高権力者である総理大臣は、国論を二分するテーマであればあるほど、国民の理解・納得を得る努力を怠ってはなりません。しかも、それが国の安全保障・自衛隊員の生き死にに関わるのであれば、尚更のことです。今の安倍首相は、その真摯な姿勢が欠けているのではないでしょうか」。安倍首相の祖父・岸信介元首相は、安保闘争の最中、国会周辺を囲む学生のデモ隊にこう余裕を覗かせた。「これが国民の全てではない。国民の“声無き声”に私は耳を傾ける。今日も後楽園球場は満員だったそうじゃないか」。しかし、新安保条約が批准された日に、混乱の責任を取って岸内閣は総辞職に追い込まれた。安倍首相は、一強体制に驕ることなく、“声無き声”に耳を澄ますことが求められている。


キャプチャ  2015年6月11日号掲載


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