【どうなってるの?TPP】(下) TPPで変わるビジネス――食料品・自動車はメリット享受、農業・医療分野に訪れる試練

TPP 07
コメ等の聖域5品目を中心とした農産物の関税撤廃・引き下げに依る農業へのデメリットが注目されがちなTPP。関税の引き下げとなれば、コメ・牛肉等で国産と輸入物との競争が激しくなるのは避けられない。価格差だけで消費者が輸入物を購入するとは限らないが、国産の農産物の需要にマイナスの影響を及ぼすのは間違いない。だが、農産物の関税撤廃・引き下げはデメリットばかりではない。(上)編の図で示したように、輸入小麦は高率の関税がかけられている上に、政府が全量を買い取り、国産小麦への補助金財源分を上乗せした公定価格で売り渡している。その為、購入量の多寡に関わらず、価格は同じだ。TPPが発効し、価格が自由化されれば、購入規模に依る価格差が生じるだろう。「そうなれば、購入量の少ない製パン・製麺等の中小企業は苦しくなる。逆に、規模に勝る同業の大企業は価格低下のメリットを享受できる」(『SBI証券』シニアマーケットアナリストの藤本誠之氏)。乳製品の関税率も高い。脱脂粉乳は25%、チーズは30~40%前後である。関税引き下げは、チーズ等を輸入販売する企業や、脱脂粉乳を原料として製品を作る会社の原価を下げる。豚肉や牛肉を加工し、ハムやソーセージ等を生産する会社もメリットがある。コメも、今でも輸入米を原料として味噌や日本酒が生産されている。こうした製品の製造コストが低下する。衣服にも、輸入に際して10%前後の関税がかかっているものがある。この関税が撤廃されれば、海外工場で生産した製品を輸入しているアパレルは有利だ。輸出産業はTPPのメリットを最も享受すると見られているが、その中でもメリットが大きいと目されるのが商用車(トラック)である。ビッグスリーにとっての主力車種であるピックアップトラックを保護する為、アメリカでは25%の関税がかかっている。アメリカの乗用車の関税は2.5%。他の加盟国も多くの国で関税がある。これらが引き下げられれば、日本メーカーの価格競争力を向上させる。TPPが発効すれば、貿易量が増えるのは粗確実。そうなれば、総合商社・倉庫会社の業容を拡大させる方向に働く。商社の場合、「日本以外の加盟国間の貿易量増加のメリットも享受できる」(『SMBC日興証券』株式ストラテジストの圷正嗣氏)だろう。

TPP 08
一方、農業以外にもデメリットを被ると見られる分野がある。それは医療分野だ。保険外診療である先進医療を拡大する形で、既に(保険診療と全額自己負担である自山診療を組み合わせて受診できる)混合診療の実質的拡大が進んでいる。規制・基準の統一を旨とするTPPを契機に、混合診療が更に拡大する可能性がある。そうした場合、先進技術等が必要とされる自由診療の提供で、開業医等の小規模な医療事業者は不利な立場に立たされることになるだろう。産業や企業の動向を映す鏡である株式市場は、TPPをプラスと捉えている。「アベノミクスの“第三の矢”である成長戦略の一環の貿易自由化の進展として、外国人投資家等が評価する」(『マネックス証券』チーフストラテジストの広木隆氏)からだ。メリットを受ける産業・企業は、TPPが発効したからといって直ぐに収益が拡大する訳ではない。関税の撤廃・引き下げは、一定の期間を置いて進められることになるからだ。ただ、中長期的にはメリットを享受する。そうした銘柄を挙げてみたのが右表だ。市場平均を下回る予想PER(株価収益率)15倍以下の銘柄、予想配当利回り2%以上の銘柄には、当該指標の文字の色を変えて掲載した。同様に、予想期の経常利益の増加率が20%以上の銘柄も、指標の文字の色を変えてある。長期投資の視点での銘柄選別に役立ててほしい。




TPP 09
TPPのメリットであまり知られていないのが、“原産地規則の累積”だ。日本とマレーシアと中国で自動車の部品を生産し、メキシコに輸出して完成車を組み立て、アメリカに輸出する事例で説明する(左図参照)。各国の生産工程の付加価値(利益)の完成車全体に占める比率は、日本30%・マレーシア10%・中国30%・メキシコ30%とする。アメリカとメキシコはNAFTA(北米自由貿易協定)を結んでいる。NAFTAでは、自動車の原産性基準(一定の付加価値比率を満たせば圏内原産と認定される基準)が62.5%を満たすと優遇税率が適用される。現状では日本・マレーシア・中国は圏外の為、付加価値比率としてカウントされず、基準を満たさない。従って、メキシコからアメリカへ輸出する際、通常の高い関税率が適用される。優遇税率の適用を受けるには、部品生産の多くの工程をNAFTA圏内に移す必要がある。ところが、TPPが発効すると状況が一変する。TPP圏内の日本・マレーシア・メキシコの付加価値比率を累積することが可能となり、合計で70%となる。TPPにおける原産性基準の付加価値比率は明らかになっていないが、NAFTA並みであれば低関税のメリットを享受できる。そうなれば、部品の生産工程をNAFTA園内に移さなくて済む。「TPP圏内での原産性基準を満たすことで、日本国内に中核部品の開発・生産拠点を残すことが容易になる」(『デロイトトーマツコンサルティング』パートナーの羽生田慶介氏)のである。完成品メーカーの海外への生産シフトに伴って、止むを得ず海外に生産を移してきた部品メーカーや、海外展開についていけなかった中小企業にとっては朗報だ。TPPは、新たなサプライチェーン構築のきっかけとなるだろう。

TPP 10
最後に、大詰めと言われて2年が経過したTPP交渉に関してだが、現在、あらゆる意味で最終局面を迎えている。アメリカ議会のTPA法案審議の遅延に関しては、完全に「梯子を外された」としか言い様が無い。最終権限を持たない交渉相手と最後の詰めを行える筈もなく、TPPの大筋合意は先送りされた。今や、TPPの命運を握るのはアメリカ議会のTPA法案の審議だと言っても過言ではない。その行方については、楽観・悲観の2つのシナリオがある。楽観シナリオは、「独立記念日(7月4日)の休会前の6月26日までに、下院でもTPA法案が可決される」という見方。そうなれば、7月末の大筋合意も見えてくる。一方の悲観シナリオは、「7月中に下院でTPA法案を可決することはできない」という見方だ。下院では反TPP派の勢力が強く、現時点で可決に必要な票数を確保できていないと見られる。そうなると、夏期休会明けに審議が持ち越されることになるが、その頃から2016年の大統領選挙に向けた動きが本格化し、与野党の協力が難しくなる為、TPA法案の審議は事実上ストップする可能性が高い。最悪の場合、TPAを得られないTPP交渉は“空中分解”する。「楽観と悲観の中間辺りが落としどころ」(『みずほ総合研究所』上席主任研究員の菅原淳一氏)と見られる。果たして、TPP参加各国は夏までに大筋合意し、実りの秋を迎えられるだろうか?


キャプチャ  2015年6月6日号掲載


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テーマ : TPP問題
ジャンル : 政治・経済

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