【ドローンの時代】(01) 人類に迫り来るドローンの時代――相次ぐ事件で注目度が高まる無人機は“空の産業革命”の切り札か、それともプライバシーを脅かす危険な道具か

ミツバチの羽音のような「ブーン」という低音を響かせ、空中を自在に飛び回る『ドローン(無人飛行機)』。その見た目からして、何十年も前から玩具として親しまれてきたラジコンヘリと大差ないこの小さな飛行物体が、今年に入って俄かに世界中の注目を集めている。理由の1つは最近、ドローン絡みの事件や事故が世界各地で頻発していることだ。今年2月には、風刺週刊紙『シャルリーエブド』襲撃事件で揺れていたパリに、正体不明のドローンが連日出没して人々を不安に陥れた。アメリカでも1月、ホワイトハウスの前庭にドローンが誤って墜落して大きな騒ぎになった。ドローン騒動は日本国内にも及んでいる。4月に首相官邸の屋上で微量の放射性物質を積んだドローンが発見された事件は、空からの脅威に何の備えもしていないお粗末な警備体制を露呈した。先月には、15歳の少年が東京・浅草の三社祭でドローンを飛ばそうとしたとして逮捕された。但し、ドローンがこれほど関心を集めるのは、相次ぐ事件のせいだけではない。根底にあるのは、私たちの生活を激変させる可能性を秘めたテクノロジーへの興味と不安。現時点では、ドローンが空からピザを届けるような未来はまだ先の話だが、軍事用ドローンの登場で戦争の形が変わったように、安全且つ高性能な商業用ドローンの普及に依って、物流の常識や農業・漁業の姿が一変する時代は刻一刻と迫っている。革新的なテクノロジーの登場は、期待と同時に不安を掻き立てる。コントロールを失ったドローンがいきなり地上に落ちてくるという直接的な危険から、空からプライバシーを覗かれたり、ドローンを使ったテロが起きる懸念まで不安材料は幾つもある。その多くは既存のルールでは対応し切れない問題だが、法整備等の議論はまだ始まったばかりだ。

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ドローンとは、一言で言えば遠隔で操作できる小型の無人飛行体。友人航空機と同じ固定翼を持つ機種もあるが、標準的なのは複数のプロペラを回転させ、垂直に離着陸するタイプだ。基本的な仕組みはラジコンヘリと同じ。但し、ラジコンが“飛ばす”こと事態を楽しむものなのに対し、ドローンは飛行中に何らかの作業を行うことを主目的としている。GPS等で目標地点を登録しておくだけで、自力で目的地まで飛行できる点もラジコンより高度だ。近年は専用コントローラーではなく、iPhoneやiPadにアプリをインストールして操作する機種もあり、空撮等の趣味用を中心に世界で月3万台以上のペースで増えているとの試算もある(ホワイトハウスや首相官邸で騒ぎを起こしたドローンも趣味用のマシンだった)。ドローンの開発は当初、軍事目的から始まった。対テロ戦争に乗り出したアメリカのブッシュ前政権は、無人機をアフガニスタンに送り込んで戦闘に使用した。オバマ政権になると、アメリカ軍の無人機への依存度は飛躍的に高まり、今やアメリカ空軍の機体の3割がドローン。「今後、アメリカで新規で開発される戦闘機はドローンになる」との見方もある。一方、ビジネスにドローンを活用しようという動きも2000年前後から高まっている。「農場で作物の生育状況を調べる」「暗視カメラを搭載したドローンで危険地帯をパトロールする」「スキー競技の様子を上空から撮影する」といった利用法は、既に広がっている。更に、「難民に食料を投下する」「ネパール大地震の山岳部の被害状況を調査する」といった人道目的の作業でも、ドローンは強みを発揮している。




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今のところ、目的を果たして帰還できるほど長時間バッテリーが持たなかったり、重い荷物を遠方まで運ぶパワーが無い等の課題は幾つもある。しかし、ドローン技術は加速度的に進化しており、あと数年もすればそうしたハードルは粗クリアされそうだ。既に、マイナス30℃の過酷な環境で稼働するモデルがあるし、試作機レベルでは最高時速150kmを出せる機種もある。技術革新の波に乗ってドローンの商用利用が本格化すれば、その市場規模は2025年までにアメリカ国内で820億ドルに達し、10万人の雇用を創出すると国際無人機協会(AUVSI)は試算している。当然、企業はドローン市場という未開の宝の山に先鞭をつけようと凌ぎを削っている。『アマゾンドットコム』は2013年、注文を受けて30分以内にドローンで商品を配達する計画を発表して話題を集めた。『グーグル』もドローン開発企業を買収し、空路の配達テストを重ねている。こうしたビジネスが広がれば物流の世界は激変し、配送トラックの排出ガスに依る大気汚染や交通渋滞も解消するかもしれない。農業や漁業・建設業等への応用が進めば、ドローンが少子高齢化社会の新たな“労働者”として重宝される可能性もある。

とはいえ、ドローンが齎す未来は明るい面ばかりではない。革新的なテクノロジーは新たなリスクと表裏一体。自動車も原子力も携帯電話もインターネットも、黎明期には“負の側面”への不安が声高に叫ばれたものだ。ドローンに関しても同様に、安全面やプライバシー問題から、テロのリスク・軍事利用の是非まで課題が噴出している。先ず、ドローンには落下のリスクが付き纏う。地上100m前後から落ちてくる機体の直撃を受ければ、ただでは済まない。最新の機種でさえ、事故率は1%を下らない。「鳥だって落ちることはある。ドローンなら尚更だ」と、民間用ドローンの世界シェア7割以上を占める中国の『DLL社日本法人』社長の呉韜は言う(但し、アメリカ軍が導入している固定翼タイプのドローンは、既にF15戦闘機と同程度の低い事故率に収まっている)。事故原因の凡そ半数は機体トラブルだ。例えば、複数のプロペラを持つタイプの場合、プロペラを回転させるモーター部分が故障して、墜落等のトラブルに繋がり易い。ドローンの操縦に無線LANと近い周波数が使われる為、大勢の人が集まる場所ほど、混線に依って制御不能に陥り易いという問題もある。機体の安全性が高まったとしても、テロ等に悪用されるリスクは避けられない。フランスでは昨年、原子力発電所の上空にドローンが侵入する事件が相次いで発生。アメリカとメキシコの国境では、ドローンに麻薬を運ばせる例が続出している。更に、空からプライバシーを侵害される不安が追い打ちをかける。ドローンを使った盗撮事件は、既に各国で問題になっている。当局が個人の生活を空から時間監視したり攻撃を加えることも、理論上は可能だ。実際、アメリカ軍はアフガニスタンやイラク・パキスタン等にドローンを送り込み、“テロリスト”を探し出しては暗殺してきた。だが、民間人が巻き添えになるケースも多く、「“戦争ロボット”が倫理的に、また国際法上許されるのか?」という議論に決着はついていない。

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こうした課題を置き去りにしたまま技術革新ばかりが先行すれば、大混乱を招きかねない。20世紀初頭に『T型フォード』が登場した当初も自動車の交通ルールさえ無く、トラブルが多発した。その後、交通規則を見直し、運転免許や車検・自動車損害保険等の制度を整えた結果、自動車は欠かすことのできない社会インフラに成長した。ドローンについても、社会に役立つ形での発展を促す為に、「どこまでのリスクを許容し、何を禁止するのか?」というルール作りが急務だ。ドローン関連の事件が相次ぐ中、国際機関や各国政府は慌てて法整備に乗り出している。航空の世界的なルールを定める国連の専門機関である『国際民間航空機関(ICAO)』は、ドローンと有人航空機が共に世界の空を飛び交う将来に備えて、空港利用等に関する新たな運用案を審議し始めた。アメリカは、これまで個人のドローン使用を認める一方、商用利用については一律に禁止してきた。だが、産業界からの強い要請を受けて、『アメリカ連邦航空局(FAA)』は今年2月、飛行時間帯や高度等に一定の条件を付けた上で、商用利用に道を開く草案を公開。3月には『アマゾンドットコム』に対し、長らく認めてこなかった国内での試験飛行申請を制限付きで承認する決定を出した。日本でも首相官邸の事件を機に、俄かにドローン規制の議論が巻き起こっている。政府は今月初め、夜間の飛行や住宅密集地等での飛行を原則として禁止する法改正の骨子を発表。だが、過剰な規制はドローン産業の成長の足を引っ張りかねず、産業界からは反発の声も上がっている。好むと好まざるとに関わらず、人類は近い将来“ドローンの時代”に突入する。適切なルール作りに依って正しい発展を遂げることができれば、ドローンは“空の産業革命”の切り札になるだろう。だが、今までのような野放し状態が続けば、ドローンが人々を傷つけ、社会を不安に陥れるSF映画のような悪夢が現実になるかもしれない。 (安藤智彦)


キャプチャ  2015年6月16日号掲載


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