【ドローンの時代】(02) 進化系ドローンの潜在力――ビジネス面での活用から人道支援まで…未来の民間用ドローンはここまで便利になる

drone 04
「これが“ドローン効果”ってやつか」――。先月、千葉市の幕張メッセで開催された『国際ドローン展』の会場で、坂本修は自分の目を疑った。ヤマハ発動機で20年来、農薬散布用の無人機を手掛けてきた坂本の目の前で、彼の講演を聴きに来た人々が長蛇の列を作っていたのだ。『ドローン』という呼び名さえ無かった1983年に開発が始まったヤマハの農薬散布用無人機は、謂わば民間用ドローンの先駆け的存在。今では日本国内だけで2500台以上稼働しており、国産米の3分の1以上が“ドローン農薬”の産物だ。全世界のドローン企業が一堂に会する見本市の会場とはいえ、農薬散布というニッチな用途の、しかも1000万円以上する高額なマシンにこれほど注目が集まるのは、民間用ドローンへの期待の大きさの表れだ。日本では4月に首相官邸で不審なドローンが発見されて以来、治安を脅かす“悪役”のイメージが強調されがちだが、ドローンにはビジネスや人道支援に役立つ“善玉”の顔もある。今後、機能が更に向上すれば、今は想像もできない活用法が生まれ、生活の隅々にまでドローンが浸透するかもしれない。「ドローン産業は始まったばかり。日本でも世界でも本当に盛り上がるのはこれからだ」と、東京大学大学院の鈴木真二教授(航空工学)は言う。

ドローンの民間利用として、真っ先に思い浮かぶのは物流ビジネスだろう。『アマゾンドットコム』が2013年末、ドローンで30分以内に荷物を届ける新サービス『プライムエア』計画を発表して以来、世界各地で“ドローン配送”の実験が始まっている。スイスとフランスの郵政事業会社は、早ければ年内の実用化を目指して試験飛行を重ね、ドイツの『DHL』は北部離島への医薬品輸送に挑んでいる。日本でも、香川県高松市で港から瀬戸内海の離島に向けて医薬品を運ぶ試みが始まっている。従来のフェリーの半分の時間で済み、コストも抑えられる。但し、物を運ぶのはドローンが担える仕事の極一部に過ぎない。カメラや熱赤外線センサー・放射能測定器等の搭載機器と融合することで、ドローンの果たせる役割は劇的に広がり、計り知れない経済効果を生み出す。ワイン農家が畑をドローンで監視してブドウを摘むタイミングを見極めたり、海で魚の群れを探知して、従来は経験頼りだった漁場探しを効率化したり。フランス『バロット社』の小型ドローン『eBee』は、700gという軽量を生かして45分間連続飛行することで、数百haの畑を一気に観測できる。




drone 05
送電線の点検のような危険な作業も、高性能カメラ搭載のドローンならお手のもの。「停電の際の点検が1時間で終わり、通常よりも1日早く復旧できた」と、エリヨン社(カナダ)のチャールズ・ロウニー副社長は胸を張る。「数mmの罅割れも見逃さない」。超高濃度の放射能に汚染された福島第1原子力発電所では、放射線量のモニタリング機器を積んだ『自律制御システム研究所』(千葉県)のドローンが、5号機の建屋内部への侵入に成功。放射線量等を測定しながら、撮影映像を送ることができた。長時間の連続稼働に向けて、バッテリーの自動交換機の開発も進んでいる。“空からのアクセス”というドローンの特徴は、人道支援や人命救助にも大いに役立つ。4月に発生したネパール大地震では『ドローン先行隊』が大活躍。ドローンで被災地を空撮してマッピングし、被災状況と周辺環境を把握できたため、救助隊を送り込むべき地点をピンポイントで選定できた。トルコ国境地帯では、1台1500ドル程度のドローン約50機が、隣国シリアに向けて飛び立っていく。長引く内戦とテロ組織『ISIS(自称:イスラム国)』の台頭に苦しむ24万人以上の難民に、空から医薬品と食料を届ける為だ。「コストとリスクを減らせるのが大きい」と、難民支援プロジェクトを主宰するマーク・ヤコブセンは言う。「撃墜されない限り、機体を再利用できる」。一方、オランダのデルフト大学が取り組むのは、心臓に電気ショックを与えて救命する『自動体外式除細動器(AED)』を積んだ“救急ドローン”だ。 駅やオフィスビル等ではAEDの設置が進んでいるが、広い公園や山中等では近くに見当たらないことも多い。心停止から数分で死亡率が5割を超えるという緊急事態に、空から救急ドローンが駆け付ければ、救われる命が格段に増えるかもしれない。

尤も、ドローン技術の進歩は日進月歩で、次世代機の開発競争は激しさを増す一方だ。現段階でできることをべースに、ドローン社会の未来を論じても、直ぐに時代遅れになりかねない。50kg以上の荷物を持って数時間連続で飛行できる強力なバッテリー、最高時速150kmの高速飛行、着水できる水陸両用モデル……。ほんの少し前まで不可能とされてきたことが次々に実現しており、技術的なハードルが解消するのは時間の問題だ。ハード面の進化とドローンの“脳”である情報処理能力の向上が相まれば、ドローンの可能性は果てしなく広がっていく。今の技術では、飛行中の機体がカメラやセンサーで周囲の状況を把握しても、その情報はドローン本体に記録されるか、操縦者に送信されるだけ。しかし今後、ドローン自体の処理能力が更に高まれば、ドローンが情報を即座に解析し、障害物を避けて安全に飛行できる日が来るだろう。その延長線上にあるのは、空路で人間を送迎する“ドローンタクシー”かもしれない。実際に開発は始まっており、30秒ほどとはいえ人を乗せて宙に浮かぶことに成功している。ドローンに“チームプレー”を教え込んで、共同作業をさせる試みもある。人間がリーダー格のドローンに指示を出すと、“リーダー”は“部下”に命令を出し、互いに連動して動く。複数のマシンが協力して大量の荷物を運ぶ場面や、雪山の捜索のようにスピードが必要な局面で威力を発揮するだろう。何れは高度な人工知能を搭載し、鳥のように自在に空を舞う完全自律型の“飛行ロボット”が登場する可能性もある。しかも、それは遠い未来の話ではなさそうだ。「あと10年もしたら、現在のスーパーコンピューター並みの処理性能をドローンに搭載できるだろう」と、国産ドローン開発を進める千葉大学の野波健蔵特別教授は言う。そうなれば、ドローン警備員が子供の通学を空から見守り、レストランでドローンウェイターに接客される日が来るのも夢物語ではないかもしれない。

drone 06
その一方で、ドローンの高性能化は盗撮やテロ等の犯罪に使われるリスクも高めてしまう。既に、小型の趣味用ドローンでさえ十分なテロ遂行能力がある。一般の人がドローンを組み立てて無差別テロを行うのは「背筋が寒くなるほど簡単だ」と、アメリカ空軍でドローン操縦士を務めたある2等空佐は『ハーバードナショナルセキュリティージャーナル』に語っている。「必要な部品の大半はインターネットか家電量販店で安く調達できる」。テロだけではない。超小型ドローンをライバル企業の社屋に送り込んで機密情報を盗み出すスパイ行為や、頭上からターゲットに襲い掛かる“ドローン強盗”といった新手の犯罪が登場しても不思議ではない。「悪用を完全に防ぐのは無理だ」と、民間用ドローンで世界シェア7割を誇る中国企業『DJI』社長の呉韜は言う。「最新技術は悪用されるものだから、可能な限り対策を積み重ねるしかない」。尤も、ドローン絡みの犯罪対策にビジネスチャンスを見い出す企業もある。セキュリティー大手の『綜合警備保障(ALSOK)』は先月、ドローン特有の「ブーン」というプロペラ音を検知するシステムの開発を発表。顧客の倉庫や店舗内に侵入するドローンを逸早く検知して対応するサービスを始める。フランスでは、不審なドローンを網で生け捕りにする“ドローン捕獲用ドローン”も登場している。警察当局も、ドローンをパトロールや捜査に活用することに前向きだ。アメリカでは、ニューヨークを始め多くの都市の警察が、ドローンを使った監視体制の強化を目指している。日本の警察庁も既にドローンを購入しているが、用途については明かしていない。何れは顔認識ソフトを搭載した当局のドローンがターゲットをどこまでも追跡したり、犯罪多発地域の上空にドローンが常駐して町を監視するのが当たり前になるのだろうか? そんな究極のドローン社会で必要になるのは、技術的に“できること”と実際にドローンに“させること”の明確な線引きだ。結局のところ、どれほど高度なドローンが誕生しても、それを操るのは人間であってドローン自身ではないのだから。 (安藤智彦)

               ◇

様々な現場で既に実用化されているドローンだが、その飛行体としての完成度はまだ発展途上で、有人航空機には遠く及ばない。「最新の機種でさえ、100回に1回は墜落するレベルだ」と、国産ドローン開発を進める千葉大学の野波健蔵特別教授は言う。「事故率1%では、人間の頭上を飛ばす訳にはいかない」。現在、ドローンを飛ばせる場所が農地や山間部・海上等の基本的に人っ気の無い場所に限定されるのは、その事故率の高さ故だ。重さ20kgにもなるドローンが突然、頭の上に落ちてきたら、ヘルメットを被っていても無傷ではいられない。事故原因の大部分は、プロペラを動かすモーターの故障。消耗品の為、飛行を繰り返す内に突然、機能不全に陥り易い。製品の大半を占める中国製の不良品発生率も決して低くない。パックアップ用モーターを予めセットすることで墜落リスクを回避する機体もあるが、モーターとプロペラが4つある最も一般的な『クアドコプター』と呼ばれるタイプの場合、モーターが1個停止しただけでバランスが崩れ、墜落する。自律飛行時には『GPS(衛生利用測位システム)を利用する機種が大半だが、これも万能ではない。スマートフォンにも当たり前のように搭載され、価格の低さが強みのGPSだが、屋内やビルの壁際・高層建築物の密集地帯等では通信衛星からの信号を上手く受け取れず、墜落する可能性がある。ドローンに搭載したカメラやセンサーで周辺情報を収集、リアルタイムで処理し、機体の現状把握に繋げることもできる。ただ、それには最新のスーパーコンピューター並みの処理能力が必要だ。「最新機種の“ホビー用ドローン”は、初代iPadと同等の処理能力でしかない」と、『ルネサスエレクトロニクス』の主管技師長である清水洋治は言う。但し、「あと10年すればスパコン搭載ドローンが実現する」と予測する専門家もいる。

ドローンに潜むリスクは墜落だけではない。“空飛ぶコンピューター”でもあるドローンには、Wi-Fi等の無線通信を経由してハッキングや乗っ取りの危険が常にある。複数の機体を乗っ取り、狙った場所へ一斉に墜落させる――。そんなSFのようなテロも技術的には可能だ。小さなドローンに潜む大きなリスクの解決無しには、“21世紀の産業革命”が普及するのは難しいだろう。 (安藤智彦)


キャプチャ  2015年6月16日号掲載


スポンサーサイト

テーマ : テクノロジー・科学ニュース
ジャンル : ニュース

Categories
Profile

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR