【ドローンの時代】(03) ドローン操縦士を待ち受ける後遺症――遂に戦争映画でも無人機が主題に…遠隔操作で人を殺し捲る兵士も戦場の兵士と同様に心に傷を負うのか

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名作の誉れ高い映画『パットン大戦車軍団』(1970年公開)冒頭、第2次世界大戦の英雄・パットン将軍が前線の兵士に気合いを入れる。「国の為に死んでも戦争には勝てん。別な奴を国の為に死なせてこそ勝てるのだ」。先頃、アメリカで封切られた新作映画『グッド・キル』にも似たような激励シーンがある。教官役の将校が、戦闘前の新兵たちに熱く語る場面だ。「諸君の飛行機は戦争の未来ではない。今ここにある戦争なのだ」。アンドリュー・ニコルが脚本と監督を担当したこの映画では、ドローン(無人攻撃機)操縦士のトム・イーガン(イーサン・ホーク)の目を通して戦争の悲惨さが語られる。主人公は戦場から遠く離れたネバダ州の冷房の効いた建物でコンピューターに向かい、過激派組織と戦っている。1日2時間の勤務を終えるとラスベガスの自宅に戻り、家族と過ごす。いつの時代にも、戦争映画は兵士の人間としての苦悩を描いてきた。その点は『グッド・キル』も同じだ。しかし、遠隔操作で人を殺す兵士の気持ちをどこまでリアルに描けたのだろうか? 本誌は、元ドローン操縦士のブランドン・ブライアントに話を聞いた。彼は、映画製作の初期段階でプロデューサーから意見を求められたという。そこで脚本を読み、意見を述べ、体験を語り、質問にも答えた。だが、暫くすると連絡が途絶えたという。映画業界では珍しいことではないらしい。だがブライアントは、「連絡が切れたのは、脚本に欠けている要素を指摘したせいだ」と考えている。「遠隔操作で戦うドローン操縦士の心理的な負担が描かれていない」と彼は言う。「心理的側面の描写は、この手の映画では最も重要だ」。なぜなら、「ドローンは兵士を戦場から引き離し、孤独にさせたのだから」。

10年前のことだ。モンタナ大学の苦学生だったブライアントは、友人を陸軍の新兵採用事務所に車で送り届けたことがきっかけで、数週間後には自らも空軍に入る決心をした。テキサス州で数ヵ月の訓練を受けた後に配属されたのは、映画の主人公の勤務先と同じような、ラスベガス近郊の窓の無い建物だった。彼の任務は、ミサイルをレーザーで攻撃目標に誘導すること。勿論、気が滅入る仕事だったが、やり続けるしかなかった。2007年には半年の間に4発で13人を殺したという。その中には巻き込まれて死んだ民間人も含まれる。彼は人生初の一撃を細部まで鮮明に覚えている。アフガニスタンのどこかの道を、自動小銃を抱えた男が3人歩いていた。前の2人は何かでもめている様子で、もう1人は少し後ろを歩いていた。彼らが誰なのか、ブライアントには知る由もなかった。上官が彼に下した命令は、「何でもいいから前の2人を攻撃しろ」というもの。「1人より2人のほうがいい」からだ。土煙が収まると、目の前の画面には大きく抉れた地面が表示されていた。2人の肉体の断片が散らばり、後ろにいた男も右脚の一部を失って地面に倒れていた。「男は血を流し、死にかけていた」。赤外線カメラの映像に白っぽく映る血糊は地面に広がり、冷えていった。「男は軈て動かなくなり、地面と同じ色になった」




恐怖は彼の心の奥底に染み付いた。「眠れなくてね。目を閉じると、瞼にあの画面が浮かぶんだ」。映画でも、主人公のイーガンは心を病み、酒に救いを求め、軈て妻に暴力を振るうようになる。現実のブライアントは、入隊して6年近くが過ぎた2011年に、10万9000ドルのボーナスを棒に振って退役した。その時に見せられた成績評価書には、「合計1626人の殺害に関与」とあった。「吐き気がした。民間人が犠牲になっても、上官たちは意に介さない。兎に角、点数を稼げば昇進できるから」。彼は罪悪感に苛まれた。退役した年、ビデオゲームを買う為に家電量販店のレジで軍人身分証明書を提示したところ、後ろに並んでいた若者がそれを見て話し掛けてきた。「俺の兄弟も軍隊にいた。海兵隊員で30人くらい殺した。貴方は何人殺したのか?」。ブライアントは、買い物客が居並ぶ店先でこう答えた。「また人の命を奪うことを軽んじる言い方をしたら、お前の家族の目の前でお前を殺す」。その後、ブライアントは仕方無くセラピストにこの出来事を話し、遂に『心的外傷後ストレス障害(PTSD)』という診断を受け入れた。

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ドローン操縦士にもPTSDはあるのか? 「戦場で肉体的に闘う兵士と、コンピューター上で闘う兵士の間には一線を画すべきだ」という意見もある。だが、人の抱く罪悪感や悔悟の念に違いがあるだろうか? 所謂“血塗られた手”の意識は、リアルに実感する場合とバーチャルな場合で違うのだろうか? 『サウスイーストルイジアナ退役軍人医療機関』でPTSD臨床チームを率いる心理学者のマデリン・ウッドに依ると、PTSDの診断に用いる『精神疾患診断・統計マニュアル(DSM)』第5版には、ドローン操縦士の体験する類の症状も含まれているようだ。2013年の国防総省に依る調査でも、「PTSDを含むストレス障害の発生率は、ドローン操縦士も通常の戦闘機乗りも変わりない」とされている。監督のニコルに言わせれば、架空の兵士・イーガンも現実のブライアントも、軍隊から“誰も経験したことのない”任務に就かされた被験者に等しい。実際、作中のホークは限りなくPTSDに近い症状を見せている。但し、製作者の1人であるゼブ・フォアマンは、「映画では、敢えてイーガンにPTSDの診断を下さなかった」と言う。「具体的に何かの主張をするつもりはない。議論のきっかけは提供するけれど」。しかしブライアントは、「ドローン戦の映画を作るなら、その操縦士の抱く悔悟の念を描くべきだ」と考える。生憎、『グッド・キル』にはそれが欠けている。「単なる娯楽性を超えたパワフルな作品にしてほしかった」と彼は言う。「製作側は、無人機版の“トップ・ガン”を狙ったのだろう。世の中一般の人と同じで、心的外傷の影響を軽く見ている」。仮令、物理的な戦場から1万km以上離れた場所にいても、兵士の身の安全が守られる訳ではない。ドローンは世界の果てまでも飛んで行って任務を遂行するだろうが、遠隔操作のバーチャル戦が密室の兵士に及ぼす心理的な影響について、私たちは“視界ゼロ”で飛んでいるに等しい。因みに、ブライアントは今、PTSDで入院中だ。 (ローレン・ウォーカー)


キャプチャ  2015年6月16日号掲載


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