【中外時評】 韓国社会の多様な対日観、関係改善望む風潮も

「漸く長いトンネルを抜けそうだったのに、予期せぬ爆弾が落ちてしまった」。韓国北東部の原州。2月にソウルから移転してきたばかりという真新しい高層ビルの一室で、『韓国観光公社』の林用黙(イム・ヨンムク)日本チーム長は溜め息をついた。“爆弾”というのは、韓国で感染が広がる中東呼吸器症候群(MERS)の影響だ。外国人観光客の予約キャンセルが相次いでいるが、「これが無ければ予約状況や団体客の動きから、今月には日本からの観光客数が前年同期比でプラスに転じるのが目に見えていた」と言う。2013年は前年比で22%減、2014年は17%減――。嘗て最多だった韓国を訪れる日本人観光客はここ数年、急減した。まさに長いトンネルが続く中、日本人専門の韓国の旅行業者は廃業や社員の大量解雇を余儀無くされた。

日韓関係は2012年夏、当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領が竹島(韓国名は独島)に上陸して以降、急速に悪化した。朴槿恵(パク・クネ)政権発足後も慰安婦問題等の“歴史”を巡る対立から、2国間の首脳会談を一度も開いていない。政治的な冷え込みが観光を直撃した訳だ。それを如実に示すのが、訪韓する日本人観光客のリピーター率の上昇だ。2012年は64.3%だったが、2014年は71.7%に跳ね上がった。「よく韓国に来る人は反日の雰囲気が殆ど無く、街中で日本人が非難の目で見られることも無いことを知っている。1回も来たことの無い人はそれを知らないから来ない」。一方で、日本を訪れる韓国人観光客は増えている。「韓国人の多くは、『歴史は歴史、旅行は旅行』と分けて考える。互いに交流しあってこそ、問題の解決も近づけるのではないか」と林チーム長は力説した。韓国社会の多面性は文化にも垣間見られる。ソウルにある大手書店の『教保文庫』。店内には、日本の小説の翻訳本がずらりと並ぶ。ブランド管理チームの陳英均(チン・ヨンギュン)代理は、「村上春樹や東野圭吾は特に人気が高い」と語る。では、日本の嫌韓本のように、韓国でも“反日”本は売れているのか? 「そんな本は殆ど目にしないし、反日を特集した特設コーナーも全く無い」と言う。韓国の世論調査会社『リアルメーター』の李澤秀(イ・テクス)代表理事は、「韓国人の多くは経済や文化・スポーツ等の政治分野を除けば、日本に友好的な感情や健全なライバル意識を持っている」と指摘。「今は歴史問題で政治が上手くいっていないから対日観が悪く、友好的な感情も抑えられている」と分析する。




政治が齎す負の連鎖を食い止められないか――。そんな思いで独自の取り組みを始めた民間人もいる。日本の小説の翻訳本も多数出版する大手出版社『RHK』(旧社名『ランダムハウスコリア』)の梁元錫(ヤン・ウォンソク)社長だ。日韓関係の冷え込みを憂慮し、韓国初という日本文化コンテンツ専門誌『Boon』を昨年創刊した。2ヵ月毎の発行で、小説の翻訳等の他、宮崎駿や日本の妖怪文化・日本の古典といった特集を組んできた。今年は日韓国交正常化50年に纏わる特集も連載していく予定だ。「日本の酒・焼酎・蕎麦等、直ぐに触れるものの裏にも歴史があり、それを作る地域がある。韓国の若い人たちが日本の文化を多面的に理解し、少しでも“知日”に繋がってくれればと思う」と梁社長は話す。一方で、政府に対しては「両国の政治指導者はこれ以上、国民を利用しないでほしい」と手厳しい。日韓関係の軋みに対処すべく、韓国政府も漸く重い腰を上げたように見える。「韓国外交の重要性では、今は日本がトップ、2番目が北朝鮮ではないか」と、韓国国立外交院の尹徳敏(ユン・ドクミン)院長は言う。その意味で、韓国政府が打ち出した“ツートラック”と呼ばれる対日戦略は、関係改善を模索する切り札なのかもしれない。韓国外務省の趙太庸(チョ・テヨン)第1次官はこの戦略について、「韓日には北朝鮮問題や経済・社会・文化等、協力する余地が多い。歴史問題では確固たる原則を保ちつつ、互いに利益を得られる分野は協力するという政策だ」と言明。同時に、「歴史問題に進展が無いのに、他の分野で協力するのは簡単ではなく、勇気が必要だ」と語る。韓国側が譲歩姿勢を示したということなのだろう。

国交正常化50年の節目を迎え、長らく続いた冷たい関係の潮目が変わりつつあるのではないか――。そんな印象を持つ昨今の韓国社会である。 (論説副委員長 池田元博)


≡日本経済新聞 2015年6月21日付掲載≡


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テーマ : 韓国について
ジャンル : 政治・経済

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