【大阪に未来はあるか】(下) デマゴーグ『大阪維新』、跳梁跋扈す――大阪市解体の住民投票で繰り広げられたのは、『大阪維新』の面々に依るウソだらけの説明と政治宣伝だった

1960年7月、『ウソつき缶詰事件(にせ牛缶事件)』が発生した。牛の絵や“Beef”という意匠文字を付して売られている缶詰の大半が、実際には鯨肉や馬肉を使用している事実が発覚したのである。この事件は世間の注目を集め、同年9月10日には主婦連合会が『ウソつき缶詰追放対策懇談会』を開催し、缶詰業界や関係省庁等の責任を追及する事態にまで発展した。しかし、当時の法律ではこの種の行為を規制することができなかった。馬肉や鯨肉の販売自体は違法ではなく、自社商品に付す意匠や図案は表現の自由に属するからである。それでも、この『ウソつき缶詰事件』が契機となり、1962年には『不当景品類及び不当表示防止法(景表法)』が制定された。同法に依って、「一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者に依る自主的且つ合理的な選択を阻害する恐れがあると認められるもの」が規制の対象となったのである。これ以後、鯨肉入りの缶詰に牛の絵を描くような行為は禁止された。そのような行為は表現の自由の行使等ではなく、人々を騙すことを目的にした“不当誘因行為”だという訳である。勿論、日本国憲法第21条が規定する通り、表現の自由や検閲の禁止は最大限に守られなければならない。特に、政治的な領域においては言論の自由の保障が極めて重要であろう。権力に依る言論弾圧と一方的な政治宣伝は、独裁支配の常套手段だからである。その意味では、国政選挙や知事選挙の際にNHKが行う政見放送が(公職選挙法第150条に則り)候補者や政党の意見を“そのまま”伝えているのも、正当な態度だと言えるであろう。しかしながら、「租税の廃止はできる」(打出党)といった怪しげな言辞まで“そのまま”垂れ流して放送することが、真の意味で表現の自由を守ることになるのであろうか? 更に言えば、政見放送に限らず、政治的な言論には票欲しさの“不当誘因行為”が成立しないのであろうか?

こうした疑問を抱くのは、今日の大阪では『ウソつき缶詰事件』ならぬ、言いたい放題の『ウソつき政策事件』が頻発しているからである。即ち、自民党の谷垣幹事長が「“大阪都構想”という立派な名前で呼んでいるが、要は羊頭狗肉だ。大阪市を解体して弱くするだけだ」(4月15日)と指摘するような事態である。鯨肉入りの缶詰に牛の絵を描くことは許されないのに、なぜ“大阪市を解体して弱くするだけ”の政策に“大阪都構想という立派な名前”を表示する行為は許されるのであろうか? この点が大いに疑問なのである。大阪市では、5月17日に実施される『特別区設置住民投票』を前にして、市民の間に戸惑いが広がっている。有権者の多くが、“自主的且つ合理的な選択を阻害”された状況に置かれているからである。事実、日本経済新聞社とテレビ大阪が4月末に実施した世論調査でも、“関係者の説明が不十分”と感じている人は70%に達しているのだ。そうした中、ある市民団体の主宰で大阪維新の会・大阪市議団政調会長の守島正市議を招き、大阪市民の1人として私が発した質問に答えてもらうという“勉強会”が催された(http://iwj.co.jp/wj/open/archives/243689/)。この会において私は、大阪維新の会が頒布しているビラについての質問を投げかけた。そのビラには、「大阪都構想で税金は上がりません!」「市民税が区民税へと名称が変わるだけです」「世間でささやかれている根拠のないデマにご注意ください!」等と記されているのだ。言うまでもなく、市が特別区になるという理由で住民税が上がる筈がないし、そんな主張をしている反対派など聞いたことがない。そこで私は、「如何にも反対派がデマを流しているように書かれているが、一体誰が『税金が上がる』等と言っているのだ?」と問うたのである。この私の質問に対して、守島市議は「後で言います」と繰り返すばかりで、結局は何の根拠も示さなかった。更に、奇しくも勉強会の当日、大阪維新の会の本田リエ市議は自身のツイッターに、
と書き込み、件のビラへのリンクを張ったのだ。つまり、全く根拠を示すこと無く、恰も反対派がデマを流しているかのような“政治宣伝”を一方的に行っているのである。




抑々、大阪市を解体するか否かという問題に対して根拠無く増税の話を喧伝しているのは、大阪維新の会の側であろう。例えば、萩田ゆかり市議(当時)は4月18日に自身のツイッターにおいて、
等と公言していたのだ。現職の府議会議員が一片の根拠も示さず、「住民投票で反対多数になれば消費税率が30%になる」と匂わせたのである。このような行為が、“言論の自由”という名の下に許されても良いのだろうか? また、先の勉強会において私は、2011年の府知事市長W選挙の際に大阪維新の会が頒布した政治活動用ビラに関しても、質問を提起した。そのビラには「だまされないで下さい!!」という訴えの下、「大阪市をバラバラにはしません」「大阪市は潰しません」「24区、24色の鮮やかな大阪市に変えます」という文言が並べられていたからである。これらの文言は、公職選挙法第201条に基づく政治活動用ビラに記されたものである以上、公約として非常な重みを持つことは言うまでもあるまい。だが、件のビラが頒布される10日くらい前に同会が発表した『大阪都構想推進大綱』の中には、次のように明記されていたので ある。「大阪市を特別自治区に再編することに対し、『大阪市をバラバラにする』という極めて感情的・非論理的な反論が存在する。……基礎自治体はむしろバラバラになるべきであり、これが地方分権、住民自治である」。要するに、自分たちの主張内容と政治活動用ビラの表示が全く逆なのだ。

そこで、私は単刀直入に「騙しているのは大阪維新の会ではないか?」という質間をぶつけたのである。これに対して、正常な精神の持ち主である守島市議は、流石にビラの文言を「ウソではない」と強弁することはできず、聞き取れない程の小声で呟くように「大阪市は無くなります」と認めたのだ。そこで私が、「じゃあ、これはウソですね?」と確認すると、これまた呟きのような小さな声で「まあ……」という答えを返してきた。要するに、大阪維新の会の大阪市議団政調会長が、自分たちの公約を「ウソだ」と認めたということである。それでも、現状では公職選挙法に基づく政治活動用ビラに明らかなウソを書こうとも、“不当誘因行為”にはならないのだ。更に、守島市議は地下鉄の延伸問題について、私が“東区マニフェスト”に記された内容を指摘すると、「知りません」と公言した。自分たちの政党が公表したマニフェストの内容について「知りません」という発言が許されるのなら、勝手なことを書き放題だということになる。その一方で、鯨肉の入った缶詰に牛の絵がある場合、何を描いたか「知りません」では済まされないだろう。橋下市長や松井知事等に依る“説明”にしても、「一般常識から逸脱したものだ」と言わざるを得ない。橋下氏は、所謂『大阪都構想』について、自著『体制維新-大阪都』の中で「結果はやってみなければわからないところもある」と認めているし、昨年10月の市議会では「大阪都構想にも問題点はある」と明言していた。それにも関わらず、4月24日には「制度上のデメリットは無い」と言い、松井知事に至っては3月15日、「大阪都構想にはデメリットが無いことをしっかり伝えたい」と発言しているのである。これでは、危険性に関する情報が大いに不足することになり、“説明が不十分”と感じている人は70%に達しているのも当然であろう。

因みに、『金融商品販売法』の場合、「不確実な事項について断定的判断を提供し、又は確実であると誤認させる恐れのあることを告げる行為を行ってはならない」と規定している。具体的には、「絶対に損はさせない」や「必ず儲かります」という断定的な説明は同法に抵触することになるのである。だが、なぜか「大阪都構想にはデメリットが無い」と喧伝することは認められてしまっているのだ。更に言えば、『特別区設置協定書』には“都構想”や“大阪都”といった語は一度たりとも登場しない。市民に対する説明にそんな用語を使うこと自体、契約書に書かれていない言葉で金融商品のセールスをするような行為だと言われても仕方あるまい。景表法が“自主的且つ合理的な選択を阻害する恐れがある”表示を禁じ、金融商品販売法が“断定的判断”の提供を禁じる一方で、大阪維新の会に依る根拠の無い一方的な政治宣伝は野放しになっている。しかも、同会は他人に対しては“言論の自由”を認めないのだ。とりわけ、藤井聡氏に対する言論弾圧は記憶に新しいところであろう。同会は『維新の党』を通す形で、2月12日付では“放送局各位”宛に「藤井氏が各メディアに出演することは、放送法4条における放送の中立・公平性に反する」、2月16日付では“在阪放送局各位”宛に「藤井氏を出演させる放送局の責任は重大である」と記した文書を送っているのである。このような行為を許すことは、他人の主張を制限することを目的とした言論まで“言論の自由”の名の下に認めるようなものだろう。大阪で起きている事態が看過されてしまえば、この国全体の言論状況を破壊してしまうことにもなる。勿論、表現の自由、とりわけ政治的な領域での言論の自由は、最大限に尊重されなければならない。だからこそ我々に求められているのは、言論の自由を悪用する者たちを有権者の投票に依って、政治の舞台から追放することなのである。


薬師院仁志(やくしいん・ひとし) 社会学者・帝塚山学院大学教授。1961年、大阪府生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程中退。京都大学教育学部助手等を経て、2007年より現職。専門は社会学理論・現代社会論・教育社会学。著書に『民主主義という錯覚 日本人の誤解を正そう』(PHP研究所)・『社会主義の誤解を解く』『日本語の宿命 なぜ日本人は社会科学を理解できないのか』(共に光文社新書)等。


キャプチャ  2015年6月号掲載


スポンサーサイト

テーマ : 橋下徹
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR