【2030年の“電力ベストミックス”国民の選択】(03) “世界一高品質な電力安定供給”を支える『同時同量』を維持する条件

“日本の電力”の将来像を考える際、外れない論点が“電気の安定供給”問題である。「1年を通じて24時間いつでも使える」――世界でもトップクラスにある電力供給体制を維持していくことは、日本経済を支える必須条件だ。

前回までのまとめ
【2020年の“日本の電力”大検証】(01) シェールガスは本当に“革命”を起こせるのか…火力コスト“3.7兆円負担増”の現実
【2020年の“日本の電力”大検証】(02) 消費者はすでに“年3000円”の負担増…太陽光発電ブームの光と影
【2020年の“日本の電力”大検証】(03) 地熱・水力・風力ほか…再生エネルギー“本当の実力”比較
【2020年の“日本の電力”大検証】(04) 原発の“本当のコストとリスク”、そして“事故対策”という難題
【2030年の“電力ベストミックス”国民の選択】(01) 政治的思惑・イデオロギーを捨て、“未来の電力”を決める連立方程式に立ち向かう
【2030年の“電力ベストミックス”国民の選択】(02) 本当に安い電力とは――政府試算に含まれなかった“再生エネルギーの隠れコスト”


東日本大震災直後の“計画停電”や台風等の自然災害以外、日本では停電が殆ど起きていない。海外電力調査会の調査等に依ると、自然災害に起因するものを除いた『需要家1軒当たりの年間平均停電時間』は、

●日本 37分
●アメリカ(カリフォルニア北部) 138分
●フランス 60分
●イギリス 55分
●中国(都市部平均) 404分

となっている(全て2012年の数字。因みに、日本の2013年は16分)。日本は、先進国の中でも抜きんでた“高品質”な電力が供給されているのだ。スイッチを入れればいつでも安定した電力が手に入る状況は、決して容易く作れるものではない。余っても貯められない電気は、生産(供給)と消費(需要)が粗同時に行なわれる、特殊な社会インフラだ。一般には殆ど知られていないが、電力会社は現時点の需要や気温の変化を見ながら数分先の需要を予測し、発電所の出力を調整して瞬間瞬間の需要と供給を一致させている。それを、専門用語で『同時同量』と呼ぶ。需給バランスが崩れると、電圧や周波数の変動を招く。微小な電圧変動でも、半導体を始めとした精密機器の工場では製造機器の誤動作や停止を引き起こし、不良品の発生確率が高まる。また、周波数の変動はモーターの回転数の変動に繋がり、やはり工場等に影響を与えることがある。電力システムが専門の東京電機大学・加藤政一教授が解説する。「必要とする電気を送れない供給不足状態になると、例えば火力発電の蒸気タービン(『翼』と呼ばれる)の回転速度が低下し、共振現象(振幅が大きくなる)が発生してタービン損傷の可能性が高くなります。タービンが損傷すれば発電所の機能がストップし、更なる供給不足・周波数変動に繋がります。最悪のケースでは、周波数変動の影響が発電所周辺から他のエリアにも波及し、大規模な停電が起こる可能性もあります」。同時同量の維持は、工業生産や経済活動を支える重要な技術なのだ。それが日本の製造業の高い品質を齎していることは、考慮すべき視点である。需要と供給を常に一致させるには、臨機応変に出力調整できる石油火力等の存在が必要になる(石油火力は燃料代が嵩む為、コストは高いが出力調整が容易)。一方で、太陽光や風力等は安定供給に支障を招く存在となる。天候に依り瞬間的に出力が上昇(または降下)するような電源の割合が送電網の中で増えていくと、需給バランスのマッチングが非常に困難になるからである。「晴れている時(風が吹いている時)だけ自然の恵みを享受すればいい」という単純な話ではなく、それらの割合を増やすことは様々なリスクを伴う。日本より再生エネルギーの割合の高いヨーロッパ等では、既に起きている問題である。




安定供給を議論する上で、『ベースロード』という考え方がある。『ベースロード電源』とは、発電コストが低廉で安定的に発電することが出来て、昼夜を問わず継続的に稼働できる電源(経済産業省『長期エネルギー需給見通し小委員会』資料より)を言い、具体的には石炭火力・原子力・水力・地熱の4電源を指す。原発は一度動かすと止めたり、石油火力のように出力を臨機応変に調整したりすることは難しいが、安定して一定量を供給できる発電方法である。地熱発電も安定的なことはイメージし易いだろう。政府の“2030年時点の電源構成”原案では、『ベースロード電源』の比率を現在の約4割から56%程度へ増やすとしている。石炭火力や水力は既に粗フル稼働状態で、地熱もあと15年で大きく増える見込みが無いから、増える分の多くは当然ながら原発だ。それだけに、反原発団体からは『ベースロード電源』の考え方に異論が出ている。「ヨーロッパもアメリカも現在はベースロード電源の比率は6割程度だが、2030年には5割を切り、2040年には4割に低下する。政府原案は世界に逆行する原発温存政策だ」というものだ。『国際エネルギー機関』の資料(World Energy Outlook 2014)に依れば、2012年時点で66%となっているヨーロッパのベースロード比率は、2030年に49%、2040年に42%に低下するとされる。アメリカも同64%(2012年)→51%(2030年)→47%(2040年)となる見込みだ。日本も、欧米と同じようにベースロード電源を減らせるのか? 公益財団法人『地球環境産業技術研究機構(RITE)』の主席研究員・秋元圭吾氏が解説する。「元々、ベースロード電源には出力調整し難い“融通の利かない電源”といった意味もあり、政府原案にあるような“優れた電源”といったイメージだけで語られるのが誤りであるのは事実です。しかし、『電力コストを抑制する為には一定程度、ベースロード比率を高めなければならない』と言えます。我々の試算では、2030年にベースロード電源比率が50%になれば年間1.4兆円、同60%で年間2.4兆円、現在より電力コストを低下できることが見込まれます。東日本大震災以降は高くなる一方だった電力コストを抑制して安定供給を続ける観点からは、『一定程度ベースロードを確保することには合理的な根拠がある』と言えます」

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前出の資料に依れば、ヨーロッパの再生エネルギー比率は2012年の14%から2040年には34%に上昇するとされる。が、この数字はEU諸国間で電力網が繋がり、需要に応じて電力融通が可能なヨーロッパ特有の事情がある。簡単に言えば、太陽光の発電が足りない時には“原発大国”のフランスから電力が供給される仕組みがある。また、“再生エネルギー大国”と言われるドイツでは家庭用電気料金が約5年で30%上昇し、その原因である『固定価格買取制度(FIT)』が原則廃止される等、再生エネルギー政策は寧ろ後退しつつある(本誌2015年2月6日号既報)。況してや、他国から電力融通することができない日本が、ヨーロッパのように太陽光や風力の比率を上げてベースロードの比率を下げると、前回指摘したように発電コストがアップするだけで供給白体が不安定化し、停電リスクが増してしまう。再生エネルギー推進派が言う「再生エネルギーこそベースロードだ」という主張は“言葉遊び”に過ぎない。勿論、長期的には再生エネルギー比率を増やしていく方向は“世界の潮流”と言っていい。但し、現状では(或いは15年後の見込みでも)それを大量導入できる技術はまだ確立されていない。“安定供給”という視点から見ると、天候や気象条件に左右される太陽光や風力ではなく、安定的な『水力発電』『地熱発電』や『バイオマス発電(木屑や燃えるゴミ等を燃焼する際の熱を利用する発電)』を増やすことが有力だが、政府が手を尽くしているとは言い難い。特に、水力や地熱を開発するには国立公園や中小河川・農業用水等が関わるため、『自然公園法』や『河川法』『農地法』等の制約が障壁となっている。国が主導して法整備等を後押しすれば一歩進んだ再生エネルギー拡大の議論ができる筈だが、“縦割り行政”や“役所の利権”に阻まれている。

電力需要を安定して支える為には、瞬間毎の同時同量だけではなく、“長期的なエネルギー確保”の問題も考えなくてはならない。前々回で指摘した通り、日本のエネルギー自給率は6.0%。アメリカ85.0%・ドイツ40.1%等、他の先進国と比べて極めて低い水準だ(『国際エネルギー機関』資料・2012年)。現在、発電量に占める火力発電の割合は88%(2013年度)に達する。その発電用化石燃料の殆ど全ては海外に依存している。原油は、サウジアラビアやアラブ首長国連邦を中心に83.2%(2014年)を中東に依存。LNGの中東依存度も29.7%(同)と、震災前の22.5%(2010年度)から大幅に上昇した。エネルギー政策に詳しい、元通産官僚で作家の堺屋太一氏が指摘する。「日本の電気は非常に高品質で安定していますが、最大の供給不安要素は化石燃料を過度に中東に依存している地政学的リスクです。不安定な中東情勢に左右されるような供給体制を続けていては、安定供給など“砂上の楼閣”に過ぎません。供給源の多様化と共に、火力頼みの現状を変えていく必要があります」。その点、再生エネルギーは(コストが高いことや発電が不安定という側面はあるが)国産エネルギーであり、長期的には重要な電源となる。同時に、原発は燃料調達が途絶しても、数年に亘って国内の燃料だけで発電が維持できる“準国産”エネルギーで、やはり中東依存脱却を考える上では無視できない。堺屋氏は、「燃料備蓄の問題も考慮されるべき」とする。備蓄可能容量は現在、石油で約半年分、貯蔵が難しいLNGは約1ヵ月分しかないとされる。石炭も1~2ヵ月分程度だ。石油備蓄タンクの老朽化といった安全性の問題や、天然ガスをマイナス162℃まで冷却して保管するLNGタンクの建設・維持にかかる多額のコストも考慮すべきだろう。

「エネルギーの安定供給は日本にとって死活問題である筈なのに、供給断絶のリスクが全く無視されている。官僚主導の日本ではエネルギー問題を前例踏襲主義で片づけ、多角的な視点から真剣に向き合ってこなかったからです。最早“お上任せ”にせず、安定したエネルギー供給がどうすれば実現できるか、国民1人ひとりが考えるべき時に来ています」(堺屋氏)。電力供給の背景を見ていくと、今の日本で繰り広げられている“原発推進vs反対”等のイデオロギー的な議論が一面的なものであることが浮き彫りになる。次回は“環境対策”を掘り下げる。


キャプチャ  2015年6月12日号掲載


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テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済

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