【日本型雇用システム大解剖】第2部・ニッポンの賃金制度(05) タブー無しでメッタ斬り! 有名企業の人事評価と社風

私は、インターネットメディア『My News Japan』の責任者として、2004年より毎年70~80人のペースで有名企業の社員を取材し、これまで1000人近くに会ってきた。人事・評価制度の建前と実態、キャリアパスや社風について、企業の広報を通さずにアポを取り、記事を書き続けてきた。この分野で、私より詳しい者はいないと自負している。社員に対する人事評価の実態的運用に、その企業の本質が露骨に表れる――。11年に亘る取材でそう実感している。自分はどのようなタイプで、どう評価され、処遇されたいのか。そこを理解していないと、入社後に建前や噂と実態とのギャップに悩み、早期離職の一因となる。子供の就職先をアドバイスする際や、自分の転職を考える際にも、人事評価等の知識は役に立つ筈だ。そこで、有名企業が実際にどんな人事評価をしているか、各社の特徴を視覚的に理解する為、マッピングを試みた。横軸は、「入社10年未満の若手社員に対して、個人の自由裁量をどれだけ期待しているか」である。左に行くほど裁量が大きく、右に行くほど裁量が小さい。縦軸には、「結果で待遇に差をつけるか否か」をとった。上へ行くほど差をつけており、下へ行くほど差が無い。縦軸は人事処遇における成果主義の度合いで、要は同期入社間での報酬格差の度合いだと言える。本来の成果主義は、チャレンジするチャンスが社員各人に豊富にあって(チャンスの平等)、チャレンジした結果に応じて報酬が決まること(結果の不平等)を指す。これに依り、4つのタイプゾーンに分類できるが、“共産主義タイ”“スーパーアンドロイドタイプ”“レガシー活用タイプ”“個人商店タイプ”と名付けた(読者の記憶に残るように、敢えて挑戦的なネーミングにしている)。では、順に説明しよう。

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●共産主義タイプ
この十数年で、成果主義が日本でも浸透した。その一方で、「決まったことを決まった通りに正確に遂行すればよく、それが出来ている限りは処遇に差はつけない」という会社も沢山ある。交通・インフラ系の現業職がその典型だ。例えば、『全日空』のパイロットは明確に“競争は悪”と教えられる。これは安全上の理由からだ。「和を大事にする教育が、訓練生時代から徹底されます。『仲間を蹴落としてでも』という競争は弊害が多く、安全に関わる。助け合い、情報を共有するということを訓練されます」(中堅パイロット)。評価指標としては、乗った回数・距離・在籍年数・担当機種で報酬が決まる。平均年収は2000万円超と高いが、競争を好む人がこういう環境で働くとストレスになるだろう。『JR東日本』の駅員も同じだ。安全運行の為には社内で競っても意味が無く、基本は減点主義。「遅刻や寝坊で時間を守れなかった人は、最低3年間は昇進しません。各ランクの昇進では筆記試験が課されます」(中堅駅助役)。真面目に働き、知識を身につけ、ルール通りに動けることが重要な評価対象となる。実は、監査法人の仕事もこれに似ている。『新日本有限責任監査法人』で大半の社員が就く監査業務は、法律やマニュアル通りにやることが最重要で、創造性の発揮は厳禁。個人裁量で解釈されては決算書の信用に関わり、株式市場にも混乱を齎す。正確に迅速に、ミスせず処理していくことが高い人事評価に繋がる。「教科書を読むのが好きな人、優等生タイプ、どうでもいいことに拘る人に向いている職業です」(元社員)

『日本郵便』で、入社前後のギャップに悩んだ末に辞めたばかりの若手社員も、似たようなことを言っていた。総合職でも、1年目は10ヵ月に及ぶ研修で現場業務に就き、若手の間は現場を知る為に相応の時間を費やす。「1週間ハンコを押すだけの仕事や、座っているだけで1ヵ月。兎に角ツラくて、トイレで泣きました」(元社員)。郵便局とは抑々そういうもの。定型的な仕事をしてもらわないと届くものも届かない。だが、学生にとっては中々理解できない。「物凄く単調な仕事ですが、『昨日と何が違うんだっけ?』と疑問を持つ人はダメです」(一般職社員)。このエリアに属する企業は、自分の頭で考えることが嫌いで、言われたことだけやって、且つ同期間で報酬格差が小さいことを望む人に向いている。仕事上の理由からではなく労働組合が強いという理由から、『NTT』各社や地方公務員もここだ。『トヨタ自動車』や『ホンダ』を始めとした自動車業界の多くも、更に別の理由からこのエリアに属する。年功序列終身雇用に依る長期的で和を重視する雇用慣行が、競争力の源泉になっているのだ。これは、何万点もの部品の集合体である自動車の場合、それを束ねるチームワークと、長期的なノウハウの蓄積・伝承が生産性を向上させるからだ。過度な社内競争は無いほうがチームワークは保ち易い。こうした競争を否定する会社群は年功序列的な人事処遇となり、同期入社の間で差はあまり開かない。独自性を発揮してはいけないのだから、結果も平等にしないと理屈が合わないのだ。よって、“我の強い人”には向いていない。名付けるなら、“共産主義タイプ”と呼べるだろう。




●スーパーアンドロイドタイプ
近年、「独自性を発揮してはならないが、結果については個人で責任を取ってもらう(給料で差をつける)」という、一見して社員から見ると割に合わない企業が急速に業績を伸ばしている。上図の右上のエリアである。その代表格が、『ユニクロ』を展開する『ファーストリテイリング』だ。ユニクロは、全世界で画一的に店舗展開をする。5月上旬に私がマニラのユニクロを訪れたところ、東京と粗同じ商品が同じレイアウトで並んでいた。店員の動きも、圧倒的に他店より迅速で優秀だった。ユニクロとGUは、徹底したマニュァル主義で社員を縛る。「お辞儀の角度や、レジで客を捌く秒数まで決め、“店長テスト”でマニュアル習熟度をテストし、本部員が店舗の陳列や清掃等を点検する監査では、棚の上に指を滑らせホコリがついただけで減点」(元社員)。悪い評価を受けた店長は降格となり、その上司であるエリアマネジャーが本社で吊るし上げられるという。やるべきことはマニュアルで決められ、ヒラの店長クラスだと裁量権は粗無い。では、何で差がつくかというと“処理能力”だ。会社は、一部の超人的なベテラン社員にしかできない大量の業務量を、1年目の新人にも課す。その結果、よく言えば能力がストレッチされ急成長する。悪く言えば、「泳げない者は沈め」の理屈だ。私は、休職に追い込まれた元社員を5人取材している。効率を最大限追求する仕組みは経営的には優れており、株主と消費者にとっては最高だ。労働環境はキツいが、消費者にとっては世界中どこでも高品質な商品とサービスが約束され、超ホワイト。実際、ユニクロは過去最高益を挙げている。

同様の“金太郎飴商法”で圧倒的な利益率を誇るのが『セブンイレブンジャパン』だ。IT全盛の時代にあっても、2週間に1回は東京・麹町にある本部に全国から2000人超の社員を集め、午前中に直接、鈴木敏文会長が指令を出し、午後は約100人ずつの“ゾーン会議”に分かれ、ノルマ未達の社員を詰める。これらの会社は、社員にマニュアル通り動く手足となることを求め、それができる社員を高く評価する。店長如きに勝手に“経営”することなど、実は全く求めていないので注意が必要だ。高収益企業の代表である『キーエンス』も全く同じ。営業マンを分単位で管理し、会社の指示通りに動くことを厳格に求める。世間一般の“営業”のイメージとは異なり、営業マンに自由は無い。分単位で報告する営業日誌“外報”の正確さが重要で、ここに虚偽があると降格対象。逆に、営業数字が悪くても訪問件数や電話件数・その時間等、プロセスが指示通りならば平均以上の処遇が約束される。会社に従順で、マニュアル通り業務量を熟す処理能力があればOKだ。メガバンクもここだ。『三菱東京UFJ銀行』の若手社員は、「答えのあるテストで100点取りたいタイプに向いている」と強調していた。目的や意味は考えず、盲目的にルールに従えるタイプだ。人事評価は減点主義だ。このエリアに求められるのは、従順さと大量の業務量を正確に熟すスキル。自分で考える必要は無いが、強靭な体力と精神力は必要なので、つまりは“スーパーアンドロイドタイプ”である。

●レガシー活用タイプ
組織主義の企業に対し、反対のポジションにあるのが個人裁量が大きい企業だ。日々の仕事がマニュアルや細かい法律に縛られることなく、若い段階から自由度は高い。その中で結果に差をつけないのが上図左下の企業群で、これらは自由を望む人にとって、仕事内容は面白い割に結果で差もつかず安心できる為、上図内に示したような報酬水準が高めの会社はユートピアな労働環境と言える。但し、「会社の業績が良ければ」という条件がつく。具体的にはテレビ局や大手新聞社、旧来型の大手出版社といったマスコミや、メーカーだと『ソニー』だ。ただ、これまで安定が当たり前で危機感が乏しかっただけに、市場環境の変化に適応できない企業が続出している。『TBS』や『朝日新聞社』は不動産収益が経営の屋台骨。ソニーも、先人が作り上げたブランド力で何とか持ち堪えている。優秀な経営者がいてヒットを出し続けていれば最もハッピーな世界であるが、現状では過去の遺産に縋って生き延びている企業ばかりで、“レガシー活用タイプ”と言える。

●個人商店タイプ
個人裁量が大きく、結果に差をつけるという最も挑戦的な人事処遇を行っているのがこのエリア。企業人でありながら、個人プレーの得意な人が相応しい。代表格が『プルデンシャル生命』のような生保営業マンであり、日本生命の“ニッセイレディ”だ。コミッション制なので、同じ名刺で働いていても年俸100万~1億円超と、結果に応じて100倍の差がつくのも当たり前な世界だ。同じファッション業でも、ユニクロと正反対なのが『丸井』。誰がどのくらい売ったかが全て個人単位で記録され、コミッションが入る。「3ヵ月単位の個人売り+店の売り上げに応じて、給料が大きく変わりました。個人売りがつく仕組みはイジメがつきもので、『あの人は売ることしかしない』と言われ、人間関係がギスギスしていました」(元社員)。組織内で成果主義を徹底すると、“ギスギス問題”は避けられない。『日本IBM』もここだ。“ハイパフォーマンスカルチャー”を掲げ、成果が出ない社員を呼び出して「本日を以て解雇する」と当日に言い渡す“ロックアウト解雇”を連発し、解雇無効を求める訴訟が頻発している。私が会ったある若手SEは、「安心して働けない」と自ら辞めた。このエリアは、企業名の名義貸しとも言える。成果が出れば高報酬だが、成果が無いと雇用も覚束無い。時に、数字だけの殺伐とした世界になりがちである。

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『P&G』や『GE(ゼネラルエレクトリック)』といった超有力グローバル企業は、理念に基づいて評価軸を定めて運用する。マニュアルで一挙手一投足を縛るのではなく、明文化した理念や価値観に沿って個人の行動パターンを規定する。結果に対してはシビアに差をつけるので、上図では真ん中上方である。成熟企業の姿としては合理的で美しい。日本企業の“企業理念”の類いはお題目だけで終わるが、私が取材した限り、グローバル化に成功した企業の日本法人はそうではない。P&Gはグローバルでの明確なルールとして、マーケティング職は新卒も中途も新入社員と同じランクから始め、30代の中途入社でも新卒社員と給料まで同じだ。「特殊な社内向けのリーダーシップが求められる環境だからだと思う」(元社員)。“勝利への情熱”“リーダーシップ”等の5つの“P&Gバリュー”を記したカードを常に持ち歩き、日々、キーワードは社内で使われる。「これは浸透していて、『それで、花王にどう勝つの?』と聞かれたりします。負けることは許されないカルチャー。『貴方のリーダーシップスタイルは何?』等と聞かれるのも日常会話です」(同)。このバリューを体得した上で成果を出さない限り、昇格できないのだ。“GEバリュー”は、GEが社員行動指針として重視している8つの価値観で、全世界共通だ。社員は、常にこれが記されたカードを携帯する。人事評価は年に一度、“バリュー”と“実績”の2軸で行われ、3×3の9ブロックに分けて相対評価でプロットされる為、“9ブロック”と呼ばれる。下位10%がDでリストラ対象となり、上位10%がAだ。この評価結果に依り、ベースの年俸が上がるか据え置かれる。「実績よりもバリューを重視するのが特徴で、『実績は無いがバリューがある』と『実績はあるがバリューが無い』なら、『実績は無いがバリューがある』ほうが高い評価を得ます。確かに、その通りに運用されていました」(『日本GE』元社員)

こうした理念やビジョン・バリュー(価値観)はなぜ必要なのか? ソニーには、有名な「自由闘達にして倫快なる理想工場の建設」といった設立趣意書があるが、理想工場と関係の無い金融・音楽・映画業に進出し、そちらで利益が出たことから、社長も非本業部門から選出され、最早何の会社かわからなくなり、ヒット製品を出せずに迷走状態が続いている。『VAIO』(ノートPC)事業は業績不振から昨年売却。同時に転籍した社員は若手中心に約300人で、残り1000人弱は社内に留まったが退職者も続出した。本業だった筈が突然「不要」と言われた社員に、価値を創出するモチベーションを維持できる筈もなく、ソニーの価値観(バリュー)が問われている。以上、各タイプを解説してきたが、万人に合った評価制度というものは無いことがよくわかるだろう。合わない会社に入ればストレスが重なり早晩、退職に至る可能性大。自分に適した労働環境を選ぶ一助として戴きたい。 =第2部おわり


渡邉正裕(わたなべ・まさひろ) 『My News Japan』代表取締役兼編集長。1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、日本経済新聞社に入社。日本IBMを経て、2004年2月に『My News Japan』を創業し、代表取締役社長に就任。著書に『トヨタの闇』(ビジネス社)・『35歳までに読むキャリア(しごとえらび)の教科書』(ちくま新書)等。


キャプチャ  2015年5月30日号掲載


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