【2030年の“電力ベストミックス”国民の選択】(04) CO2削減は“火力から再生エネルギー”だけでは解決しない――世界排出量を13億トン減らす日本発の最先端技術とは?

「日本の温室効果ガスを2030年度までに2013年度比で26%削減する」。安倍政権がドイツ・エルマウでのG7サミットで宣言する“国際公約”を固めたのは、約1ヵ月前のことだった。世界に向けて発信した以上、達成に向けた取り組みは今後、国民生活や企業活動に有形無形で大きな影響を及ぼすことになる。本シリーズ最終回は、将来の電力像を考える上で不可欠な“環境対策=地球温暖化問題”との関係を検証する。

前回までのまとめ
【2020年の“日本の電力”大検証】(01) シェールガスは本当に“革命”を起こせるのか…火力コスト“3.7兆円負担増”の現実
【2020年の“日本の電力”大検証】(02) 消費者はすでに“年3000円”の負担増…太陽光発電ブームの光と影
【2020年の“日本の電力”大検証】(03) 地熱・水力・風力ほか…再生エネルギー“本当の実力”比較
【2020年の“日本の電力”大検証】(04) 原発の“本当のコストとリスク”、そして“事故対策”という難題
【2030年の“電力ベストミックス”国民の選択】(01) 政治的思惑・イデオロギーを捨て、“未来の電力”を決める連立方程式に立ち向かう
【2030年の“電力ベストミックス”国民の選択】(02) 本当に安い電力とは――政府試算に含まれなかった“再生エネルギーの隠れコスト”
【2030年の“電力ベストミックス”国民の選択】(03) “世界一高品質な電力安定供給”を支える『同時同量』を維持する条件


将来の電源構成を考える際、“環境対策”の重要性は年々増しつつある。日本の温室効果ガスの約4割は発電所から排出されている為、削減目標と「どの発電方法をどれだけ使うか」という電源構成の議論は、不可分の関係にある。その際に重要な指標となるのが、温室効果ガスの代表であるCO2の各電源別排出量だ(単位は全て1kWhの電気を作る際に出るCO2質量を表わす g-CO2/kWh)。

●石炭火力 943
●石油火力 738
●LNG火力 599
●太陽光 38
●風力 25
●原子力 20
●地熱 13

ここで示した排出量とは、燃料の採掘から輸送・発電施設の建設や保守・施設解体や廃棄物処分といった発電に関わる全過程(ライフサイクル)での排出を合わせたものである。そうでなければ、電源別の正確な環境負荷は測れない。火力の排出量が桁違いに多いことは一目でわかる。一般に「CO2を出さない」と考えられている太陽光・風力や原子力も、ライフサイクルで見ればCO2を排出する。東日本大震災以降、反原発派からは「原発は建設や燃料採掘等の際にCO2が排出されている。科なら自紙も環境に優しくない」という主張があったが、科学的・合理的に言えば、再生可能エネルギーと原子力は現在主力となっている火力と比べれば、どちらが優れているかを論じる程の差は無く、若し「原発もCO2を出すからダメ」と言うなら、それより排出量の多い太陽光も風力も同じ論理で使えなくなる。

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一方で、再生可能エネルギーに固有の課題も次第に見えてきた。産業技術総合研究所太陽光発電研究センター主任研究員の櫻井啓一郎氏は指摘する。「現在は、技術革新や量産規模の拡大で太陽光のCO2排出量が低下し、他の再生エネルギーと大きな差は無くなっていると見られます。但し、太陽光がCO2削減に資することは確かなものの、パネルを敷き詰める為に無闇に森林を伐採することにより、大気中のCO2を吸収する森林固有の機能を喪失させる等、新たな問題も起きています」。メガソーラー建設を巡る森林伐採トラブルは頻発している。昨年9月には、長崎県佐世保市の太陽光発電事業者が、パネル設置目的で同県平戸市の国立公園内の森林約800㎡を無許可で伐採・造成。環境省が「自然公園法に違反する」として、工事の中止と原状回復を求めた。同時期、山梨県身延町でもパネル設置の為、山林3万9000㎡が無届けで伐採されていたことが発覚した。福島県相馬市でも、メガソーラーの建設を計画する事業者が森林所有者の同意を得ずに山林約8700㎡を伐採する等、各地で同様の問題が起きている。“環境に優しい電源”と思われている太陽光も、“影”を持っているのが現実なのだ。




一方、火力発電の柱の1つとなっている石炭火力は、各電源の中で最大のCO2発生源でもある。だからといって、「石炭火力を止めて再生可能エネルギーにすればいい」という主張は短絡的だ。本シリーズで見てきたように、“コスト”“安定供給”という面から考えると、発電コストが比較的安くて安定的な発電が可能な石炭火力をゼロにすることは現実的ではない。だからこそ、石炭火力のCO2排出量を削減することは、低コスト・安定供給と環境対策を両立させる為に必須の取り組みとなる。エネルギーと環境保全が専門の東京工業大学特命教授の岡崎健氏が解説する。「環境負荷を低減する為に石炭を効率的に利用するCCT(クリーンコールテクノロジー)は、日本が世界でも群を抜いています。kWh当たりでは、NO2(窒素酸化物)やSO2(硫黄酸化物)・微粒子(煤塵)の排出量は他の先進国より1桁以上も低い」。石炭の燃焼効率を上げ、CO2排出を抑える『石炭ガス化複合発電(IGCC)』を用いた商用運転は、既に常磐共同火力勿来発電所10号機(出力25万kW)で2013年から始まっている。また、中国電力と電源開発が共同出資する『大崎クールジェン』は、広島県の大崎上島町で2017年3月の実証試験開始を目指し、最先端のクリーンコール技術の1つである『酸素吹石炭ガス化複合発電』という方式に依る火力発電所を建設中だ(本誌2015年1月30日号既報)。同方式は、石炭をガスに変えてガスタービンを回した後(1度目の発電)、そのガスの排熱で蒸気タービンを回して2度目の発電を行う最先端技術で、現在主流の石炭火力よりCO2排出量を約15%低減させることができるとされる。

コストの安さと可採年数の長さ(石炭109年、石油53年年、天然ガス56年)から、今後も暫く石炭火力が世界の発電方法の主流にあることは確実だ。その分、日本が世界に貢献できる余地は非常に大きい。「仮に、日本の最高効率の石炭火力技術で、アメリカや中国・インドにある全ての石炭火力を置き換えると、日本の年間CO2排出量に相当する13億トンもの削減効果が見込まれるとの試算もあります。日本の温室効果ガスの排出量は世界シェアで見れば4%以下に過ぎず、地球温暖化を防止するには日本一国の努力では意味がありません。地球規模で対策を講じる必要があるのです。日本が圧倒的にリードしている石炭火力の高効率&クリーン化技術を世界に輸出すれば、世界のCO2削減に多大な貢献ができます。更に、最新技術を他国に移転した分を日本のCO2削減量にカウントできるような新たな仕組みを構築すれば、削減目標が達成できるばかりか、地球環境問題で世界を牽引する存在となり得ます」(前出・岡崎氏)。長期的に再生可能エネルギーにシフトすることも重要だが、それだけが環境対策ではないことが見えてくる。

今年11~12月には、フランス・パリで『COP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)』が開催される。同会議では、1997年に定められた『京都議定書』に代わる2020年以降の温暖化対策の国際的な枠組み合意が目指され、各国の温暖化ガス削減目標はその核を成すものだ。既に、ヨーロッパは「1990年比で40%減」、アメリカは「2005年比で26~28%減」の削減目標を公表しており、日本の「2013年比で26%削減」は欧米と比べても“遜色無い”ものと報じられている。果たしてそうか。各国の削減目標をアメリカの2005年を基準にして比べてみると、「ヨーロッパ35%減」「アメリカ26~28%減」「日本25.4%減」と日本は最も低くなる。一方、2013年を基準にすれば「ヨーロッパ24%減」「アメリカ18~21%減」で日本が一番多くなる。これは、2013年の日本の排出量が福島第1原発事故に伴う原発停止に依る火力の焚き増し等で大きく増えた為、同年を基準にすれば削減幅が大きく見えるというトリックが隠されている為だ。“ゲタを履かせた”にも関わらず、早くも政府目標の達成には疑問の声が噴出している。目標実現のカギを握るのが、政府が試算の中に取り入れた“徹底した省エネ”だ。政府は、「電源構成に換算すれば、総発電量の2割近くも“省エネ”する」という目標を立てている。応用計量経済学が専門である慶應義塾大学産業研究所の野村浩二准教授が指摘する。「政府案は、年率1.7%という高い経済成長率を前提に計算しています。それに依って、『2030年には多くのエネルギーが必要になる筈だが、徹底的な省エネ で抑える』という論理です。その結果、省エネ目標は極めて過大に積算されています。その水準は、オイルショック後に齎された省エネの黄金期に匹敵するものです」

実際に政府資料を検証すると、省エネ目標が如何に過大な積算かがよくわかる。例えば、2012年度で9%の導入実績しかないLEDや有機EL等の照明器具を、2030年には全てのオフィスビルや家庭に“粗100%”普及させるという。クールビズやウォームビズも、2030年に“粗100%”達成予定。未だに3%(2012年度)の導入実績しかないハイブリッドや電気自動車・燃料電池自動車等の普及率も2030年に“50%”へ引き上げる等、国民のライフスタイルが大変革することを前提にしているのだ。一方で、照明やクルマの買い替え費用といった目標達成にかかる国民負担は、全く考慮されていない。そんな出鱈目な数字が出てきたのも、最初から数字ありきで議論が進められたからだ。本シリーズ1回目で、経産省関係者が「“26%減”の数字を捻出する為、電源構成の中でもCO2排出量の多い石炭火力の比率を下げ、省エネ目標を上積みした」と明かしたように、政治的思惑に依って決められただけなのである。しかし、今求められているのは現実的な解だ。繰り返し指摘してきたように、エネルギー政策は“安全性”を前提とした上で、“コスト”“安定供給”“環境対策”の4条件をバランス良く満たす複雑な連立方程式を解くことが必要だ。そこに政治的な思惑や打算・利権、更には主に原発を巡るイデオロギー対立が介入してくると、電源構成の議論は歪み、国民生活や日本経済に負の影響を与える。「定見無き日本のエネルギー政策」(作家・堺屋太一氏)を一刻も早く脱する為、客観的・冷静且つ幅広い国民的論議が必要だ。 =おわり


キャプチャ  2015年6月19日号掲載


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テーマ : 環境・資源・エネルギー
ジャンル : 政治・経済

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