【日曜に想う】 安保、“脳漿”絞って考え抜く夏

経済同友会代表幹事である『三菱ケミカルホールディングス』の小林喜光会長は、とてもユニークな経営者だ。イスラエルのヘブライ大学で化学を学び、博士号を持つ技術者。“成長優先”を唱える財界人が多い中で、「成長に期待するだけではいけない。社会保障や環境といった分野で、持続可能な制度を設計しなければならない」と説く。4月の代表幹事就任挨拶も個性的だった。政策課題等について、「脳漿を絞って議論し、解決策を導こう」と語った。「“脳漿”とは脳内の液体のことらしいが、今時そんな言葉を使う企業人は珍しい」と事務方も驚いた。小林氏の言葉を引いたのは、他でもない。国会で議論されている安全保障法制について、政治家たち、とりわけ政権を担っている自民党の国会議員たちは“脳漿を絞って”いるかと思ったからだ。元自民党幹事長の古賀誠氏を訪ねた。2012年に政界を引退した後も、若手議員の指南役を続けている。「海外の大学で法律や経済等を学んで、政策の知識が豊富な若手は多いけれど、本当に大事な知恵を持っているのかどうか。政治家に必要なのは判断力と度胸。国の行方を左右する安保法制だというのに、勉強不足だ。考え抜いた議員は殆どいない。そして、発信する度胸もない。この10年で自民党は可笑しくなったね」

確かに、安保法制を巡って自民党は全党的な論議を繰り広げることはなかった。安倍晋三首相が先頭に立って法整備の旗を振ってきたのに対し、党の総務会で元行革担当相の村上誠一郎議員が異論を唱えた程度だ。中堅議員からこんなボヤキを聞いた。「党の会議に出ると、安保法制に最も詳しく、弁護士でもある高村正彦副総裁が中央にドンと座っている。可笑しな意見を言ったら、直ぐに論破されそうだから黙っている。すると、あっという間に『了承』となってしまう」。その昔、消費税導入や衆議院の選挙制度改正等では、怒鳴り合いや掴み合いが珍しくなかった。あの頃に比べると様変わりだ。安保法制について自民党内で活発な論議が欠けているから、メディアも伝えない。その結果、世論の理解は深まらず、“よくわからない”人が多くなっているのだ。“この10年”といえば、自民党は2つの苦い経験をしている。先ず、郵政民営化。2005年、小泉純一郎首相は「郵政を民営化すれば、社会保障も外交も全て良くなる」と叫び、反対派を徹底的に追い詰めた。党を除名し、解散・総選挙では“刺客”と呼ばれる対抗馬を擁立。これを見ていた自民党の政治家たちは、総裁・首相に盾突くと如何に厳しい仕打ちが待っているかを思い知った。もう1つは野党への転落だ。2009年、自民党内の混乱が深まり、衆院選で民主党が圧勝。自民党は3年3ヵ月の野党暮らしを強いられた。自民党本部には中央省庁の幹部も財界の首脳も顔を見せなくなり、政治資金も激減。「『党内で対立すると選挙に響くのではないか』と心配している。野党になることへの恐怖心が強すぎる」(古賀氏)という見方は的を射ている。




そして、安倍首相を応援する議員による勉強会である。「沖縄の2つの新聞社は潰さなあかん」と語る作家に抗議する声は無く、「マスコミを懲らしめるには広告収入が無くなるのが一番」と公言する議員がいた。安保法制をしっかり学び、有権者に粘り強く説明すべき大事な時期。妄言を重ねている暇は無い筈だ。自民党の“劣化”を端的に示す光景だと思う。通常国会は95日間延長された。安保法制は憲法違反の疑いが強く、日本が国際社会で生きる為の構想も欠けている。作り直すのが筋だろう。それでも、会期延長で時間ができた。政治家たちが“脳漿を絞って”考え抜いているのか、それとも真剣な論争を進めないまま“数”で押し切っていくのか。じっくりと見極める夏である。 (特別編集委員 星浩)


≡朝日新聞 2015年6月28日付掲載≡


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テーマ : 軍事・安全保障・国防・戦争
ジャンル : 政治・経済

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