【中外時評】 若い企業が主役の経済に――宝埋もらせぬ土壌つくれ

芽はあちこちに出てきた。花もちらほらと咲いている。ただ、殆どは小振りで、一気に大きな木に育ちそうなものは見当たらない――。新しい企業が日本という土壌にどれだけ育っているかどうかを観察すれば、そんな姿が浮かび上がるだろう。ベンチャー企業の育成は日本の長年の課題であり、安倍政権も成長戦略の柱の1つに掲げる。低すぎる開業率の引き上げ等を目標にしているが、成果は今一つだ。もたもたしている間に、世界は前に動いている。IT(情報技術)の進歩等を背景に、小が大を呑むような下克上が進行中だ。イノベーションの主役となった新興企業が業界の垣根を崩しながら、既存の大企業に挑戦。大企業はこれに立ち向かいつつ、一方で新興勢力と積極的に提携する。そんな潮流の中で、どうすれば日本のベンチャー企業の影響力を高め、経済に活力を与えることができるのか。

「画期的な技術を持ったベンチャー企業が最初からグローバル市場を目指すよう促し、長い目で支えていくことだ」。11年前から技術系ベンチャー企業への投資・支援をしている『東京大学エッジキャピタル(UTEC)』の郷治友孝社長はこう強調する。海外企業と共同開発や市場開拓等で協力したり、海外投資家からの出資を受け入れたりすることで世界での認知度を高め、市場を一気に拡大することがカギだという。UTECもその橋渡しに力を入れている。60社を超える投資先の多くは海外企業と連携する。例えば、大阪大学発のベンチャー『マイクロ波化学』は最近、基礎化学品のポリマーを効率的に造る技術について、ドイツ化学大手の『BASF』と共同開発を始めた。郷治社長は、「日本の高い技術開発力に対する海外の関心は尚強い。日本発のベンチャーが世界で伸びる潜在的なチャンスは大きい」と言う。日本の新興企業が成長するグローバル市場を目掛けて事業を展開し、海外企業と繋がっていくのはいいことだ。それと同時に、大きな資本力と人材を抱えた日本の大企業とベンチャー企業が結びつきを強めれば、もっと大きな相乗効果が得られる筈だ。だが、そこには“見えない壁”もある。




ミドリムシの大量培養技術を武器に、食品からバイオ燃料まで事業を広げるバイオベンチャーの『ユーグレナ』。今でこそ内外の大企業と様々な提携関係を結ぶが、当初は売り込みをかけた日本企業に悉く断られ、潰れる寸前までいった。「技術の良さは理解してくれるのだが、判で押したように『実績が無いならウチはダメ』という答えだった」と出雲充社長。501社目の売り込み先だった『伊藤忠商事』との提携が決まらなければ、多様な潜在的用途を持つミドリムシの特性を活かしたイノベーションは世に出ず仕舞いだったかもしれない。出雲社長は、「ベンチャーの努力も重要だが、日本は1社目のハードルが高過ぎる」という。似たような話はあちこちで聞かれる。大企業とベンチャーの連携は、以前に比べれば高まっている。通信・メディア系企業を中心にベンチャー企業への投資が増加。装着型ロボットのベンチャー『サイバーダイン』と同社を創業期から支えた『大和ハウス工業』との連携など、成功例も生まれている。ただ、米欧に比べると動きはまだ鈍い。「失敗を許容してでも、破壊的なイノベーションの芽を早く外から取りこんでいかないと生き残れない。そんな意識がトップにどれだけあるかで違いがある」と富士通総研の湯川抗主任研究員は指摘する。大企業の間では、「日本発ベンチャーは未熟で、投資や提携の対象になり難い」という声もある。その意味では、ベンチャーの苗床となる大学等の研究開発力をもっと高めると共に、大企業や投資家に見い出されるまで、長い目で創業企業を育てる下支え機能を厚くすることも重要だ。

海外ベンチャーとの提携に積極的な『コマツ』の野路国夫会長は、「国主導の研究開発プロジェクト予算の多くが大企業に回っているが、大学の若い研究者やベンチャー企業にもっと向けるべきだ」と言う。“歴史ある大企業”という巨木に下請けがぶら下がって経済が支えられるモデルはもう限界だ。新しいタネを沢山蒔き、生き延びた若い木々が雇用や投資という果実を生み出し易い土壌を作る。古い木もそれに刺激を受けて若返る――。そんな新モデルへの転換が無ければ、高い成長を実現するのは難しいだろう。 (論説副委員長 実哲也)


≡日本経済新聞 2015年6月28日付掲載≡


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