【特別対談】 AIIB、“中国の企み”に気をつけろ 慶應義塾大学教授・竹中平蔵×大和総研副理事長・川村雄介

川村「私が“アジアインフラ投資銀行(AIIB)”の話を最初に聞いたのは2年前の丁度今頃、尖閣問題が拗れ、日中間が冷え切っている時でした。中国社会科学院のトップと『円と元の双方を国際化し、決済をスムーズにするにはどうすべきか?』と話している時に、『実はこういう構想がある』と相手が打ち明けたのです。『これは中国の覇権主義ではない。アジアの為なんだ』と熱心に話していたのを憶えています。その年の10月に習近平(国家主席)がぶち上げた時、参加するのは15ヵ国と言われていました。それが今回、蓋を開ければイギリス・ドイツ・フランス等のヨーロッパ勢を加えて57ヵ国、その4倍です。中国にとっても望外でしょう。日米が主導する“アジア開発銀行(ADB)”の67ヵ国・地域に迫る勢いです」
竹中「ヨーロッパ勢が一斉に参加表明したので、日本の意見も割れましたね。メディアや学識者の論調を見ていると、『参加するか、しないか』という単純な話になっています。でも、この問題は経済と内政・外交、そしてビジネスという様々な論点が含まれている。其々について議論せずして、事の本質を理解することはできないと思います」
川村「そこには、中国という国の複雑さが絡むので厄介です。中国に改めて言われるまでもなく、アジア新興国を中心にインフラ整備の資金需要が高まることは間違いありません。その需要に応えるには、既存のADBや世界銀行だけでは足りないので、『新しい国際機関が必要だ』と中国は表向き説明しています。しかしそれは、アメリカを中心とする国際秩序への挑戦でもあります」
竹中「この組織の大きな特徴は、『1000億ドルと見込まれる資本金の40~50%を中国が出資する』と言われていることです。この点、“日米中心”と批判されて来たADBは、日本もアメリカも出資比率は10%台に抑えられている。歴代総裁は日本人ですが、本部はマニラで、組織の分散もある程度図られています。今のところ、AIIB総裁には元国務院財政部次官の金立群が就任するとされていますし、抑々中国は中央銀行が国務院の中にあるような国ですから、AIIBも中国政府の意思が色濃く影響するのは間違いないでしょう」

川村「隠れた問題の1つが、現在の中国の国内経済です。明らかに供給過剰で、金融面もバブルに近い状態にあり、相当難しい状況になっています。過剰に生産されたモノや生産設備を国内では捌き切れないので、外に活路を見出さざるを得なくなっている」
竹中「近年の日本経済研究センターの報告書では、『中国は早晩“中所得国の罠”に陥り、成長率を大きく低下させる』という厳しい見方が紹介されていました。“中所得国の罠”とは、1人当たりGDPが1万ドルに近づき、中所得国になった段階でインドやミャンマーのような発展途上国の経済的な追い上げに依って競争力を失う一方で、日米のような先進国と競争するにはイノベーションの力が不足している為に、成長が停滞する現象を指します。こうした状態に、中国が陥る可能性はあると思うのです。そういった視点で見ると、AIIBはやはり“中国の国内対策”という面はある。中国は国防費を増やして批判されましたけれど、その国防費よりも実は国内の治安対策費に寧ろ多額のカネを使っています。経済格差が広がって国民の不満を抑えるのに、相当苦労しているのです。だから、中国政府としては不満の捌け口として、リーダーシップを発揮して海外のインフラ整備に乗り出していく姿を国民に見せておきたい」
川村「中国が強力に推進しているのは、陸と海の“シルクロード経済圏”構想、所謂“一帯一路”と呼ばれる経済圏の拡大戦略ですね。中国を起点に、中央アジアからヨーロッパに延びる内陸の“シルクロード経済ベルト”と、東南アジアからインド・中東へと海岸諸国に沿って広がる“21世紀海のシルクロード”。そこには、中国企業がユーラシアからアフリカまで各地の鉄道や道路・パイプライン・都市開発等のインフラ需要を取って行こうという狙いがある。一帯一路沿線の国としては、インフラ整備が進むことは有難い。タダで作ってくれるものは何だって彼らは欲しいですから。でも、中国にとってはヨーロッパに繋がる導管を作るのが目的であって、正直なところ、この中央アジア地域にどのくらいインフラ需要があるのかは私にもわかりません」
竹中「インフラ需要は、それらの国がどういう経済政策を採るかに依っても変わってきますからね」
川村「中華思想丸出しの政治的な野望とか、外交的な夢を下手に追い求めると中国も大損する。それに、中央アジア以上に東南アジアの場合は近年の領土領海進出もあり、中国に対してかなり警戒感があります。対中関係は歴史的にも複雑です。その為、中国も最近はハードコア路線を変えてきた節がある。昨年まで、習近平はアメリカとの“新大国関係”だとか”中国夢”の実現等、覇権主義的な発言を繰り返していましたが、最近は李克強首相等が“朋友圏の構築”とか“新国際関係”と柔軟路線をアピールするようになりました」




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竹中「インフラ整備には、地政学を変えるインパクトがあります。例えば、中国が力を入れているインドシナ半島は、東部のベトナムと西部のミャンマーが陸路で結ばれると、ダナン(ベトナム)からバンコクを経てダウェー(ミャンマー)に抜けることができる。時間短縮になるだけでなく、マラッカ海峡を通る必要が無くなり、シンガポールを使う必要が無くなる。シンガポールの戦略的な位置付けが大きく変わってくるのです」
川村「ミャンマーで言えば、中国の昆明からヤンゴンまで南北に抜けるルートの開発にも、中国は深く関わっていますね。これは、歴史的には第2次世界大戦中、連合国軍が蒋介石に援軍を送る為に開発した“援蒋ルート”の丁度逆です。これが開通すれば、中国がマラッカ海峡を経ずにインド洋に出る為の重要なルートになる。先日、中国とパキスタンは“シルクロード経済圏”構築を目論んで、5兆円規模の巨額投資に合意しました。AIIBとは別口です。中国とパキスタンを結ぶ“中国・パキスタン経済回廊”と呼ばれる輸送路が整備されると、中国西部からアラビア海に面したグワダルの港に出ることが可能となる。ここが“真珠の首飾り”と称される、インド大陸を巡る海上交易路の拠点となります。国土の東側しか海に面していない中国は、海に出るルートを複数確保したい。AIIBのカネを、本当のところ何に使うかについて、参加国は非常に警戒心を持って見ないといけないですよね」
竹中「抑々、『中国に国際金融機関をガバナンスする能力があるのか?』という問題もある。あまり指摘されませんが、中国の投資効率は極端に低い。日本の高度成長期、GDPに対する投資の比率は約20%。公共投資を入れたとしても15%でした。それで年10%の経済成長を達成していた。ところが、中国は固定資産投資は平均約42%、2009年には67%にまで達した。にも関わらず、1995~2010年までの成長率は年平均約10%。これは先進国ではあり得ない数値です。日本の2倍以上を投資して成長率が同じということは、膨大な不良資産の山が築かれているとも言える訳です。“金融”という中国最大の弱点を隠し、経済成長を続ける為には、更に物的投入を行わないといけない。GDPを増やす方法は2通りあって、インプットを増やすか、インプットの効率性を高めるかしかない。中国は、効率性を高めるマーケットと自由が十分に機能していない以上、どんどん投資を続けて行くしかないのですね。『成長は全ての矛盾を覆い隠す』というチャーチルの名言がありますが、AIIBの登場はその発想の延長線上にあると考えていい」

川村「中国の対外投資は赤字です。厳しくリターンを求める投資というよりも、資金のやり切り。回収が真面にできていない。その代わり、中国企業が進出して現地に工場を建て、中国人の労働者が働きに行く。結果として、中国人の定住が進む。これは、おカネの投資ではなく“ドネーション(援助)”です。だが、中国色は確実に浸潤していく。だから、世界中から警戒されてしまうのです」
竹中「何れにせよ、国内の膨大な不良資産を抱えながらの対外進出は、海外にまで不良な資産を作る恐れがある。これは、中国にとって1つの賭けです。参加見送りの理由に“ガバナンスの不透明さ”を挙げた日本政府の判断は、ある意味正しいと思います。『各国に出資を募る』とは言っても、結局は“ボンド(債券)”を発行して資金調達する訳でしょう? AIIBの格付けは、良くてシングルA。もっと低いですか?」
川村「このままで真面に審査したら、“投資不適格”になりかねない」
竹中「それは厳しい(笑)。そうなると、資金調達はADBよりずっと高くつく」
川村「結局、AIIBの最大の問題は、投融資をする金融機関なのか、それとも援助機関なのか、現状では薄然として明確でないことです。“投資銀行”という名前こそあれ、資本の過半を中国が取って、中国のお金を入れガバナンスも無いという、当初言われていた無茶な構想から推測するに、これは投資でも融資でもない。これまでの投資の失敗は国内問題で済んだけど、57ヵ国もが参加する国際機関ではそうはいかない。ポートフォリオもよくわからないし、リスクリターンもきっちり分析されていないから、怖いところはある」
竹中「抑々、インフラ投資は国内でも難しいのに、海外ではもっと大変です。例えば、ADBが絡んでいる案件でも、ジャワ島東部の発電所建設で20年間も用地買収ができていない例がある。資金とトータルな制度整備とが一体化しないと、インフラの整備は完了しません。そういったノウハウの面でも、日本とアメリカの経験と技術が無いと難しいでしょうね」
川村「それはその通りですが、私は敢えてリスクを承知した上でも日本は参加すべきだと考えています。それは、アジアのインフラ需要が途轍もなく大きいということもありますが、何より損得勘定からいって、今後も成長が見込める中国との経済的な連携は保っておいたほうが得だからです。しかも、AIIBの活動に伴う人民元の国際化が無視できない。その中で円と元の決済が進めば、日本に大きなメリットがあるのです。出資金も数千億円程度で済むのなら、対ミャンマーの借款の棒引き額よりも少ないレベル。失敗しても許容できる金額です。6月末が最後の出資の期限というのなら、手を挙げておいたほうがいい。それに、出資をしておかないと中国は絶対に外野の言うことなんか聞きませんよ」

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竹中「私も、将来的には何れ参加することになるだろうと見ていますが、ここは川村さんと意見が違って、そんなに焦る必要は無いと思いますね。少なくとも、アメリカが入らないのに日本だけ参加するのは止めたほうがいい。日米両方のノウハウと資金力が無い限り、AIIBは真面な機関にならないからです」
川村「今回、日本が参加を見送ったのはアメリカの意向に従った訳ですが、イギリス・ドイツが参加表明したことで安倍政権の判断に批判が出ていますね。ある政府関係者に聞いた話では、安倍(晋三)総理は流石にイギリスの動向を気に掛けていたのに、霞が関幹部は『絶対にそれは無い』と否定していたらしい。ところが、イギリスの参加が判明した途端、『情報が錯綜していた。現地からも聞かされていない』等と逃げを打った。今度は責任転嫁を始めたというのです」
竹中「私もそう聞いています。財務省と外務省の縦割りが災いした面は明らかにあった」
川村「これを見て、今度は官邸の事務方が怒り心頭だったそうですね」
竹中「政府や霞が関の高官の国際感覚は、決して十分に高くない。去年の秋、ある会合で私はAIIBのことが気になっていたので、態と話題に出したことがあるのですが、その場にいた外務省の高官は『そんなものはあり得ない』という態度でした。尤も、恥ずかしながら私もその時は、中国がこれほど力を持つとは思ってもみませんでしたが」
川村「財務省は、人民元にも前向きにきっちり対応していたのですがね。財務省も外務省も、アメリカを過信したのでしょう。アメリカも、まさかヨーロッパがひっくり返るとは思わなかった。口火を切ったイギリスの参加には、日本と同様驚いたようですね。日本経済新聞に依れば、アメリカのジェイコブ・ルー財務長官がイギリスのオズボーン財務相に対して、『こんな抜け駆けが許されるのか!』と怒りを露わにしたとのことですが、本気で怒ったとしたら相当抜かっています」

竹中「これが、オバマ外交の限界なのかもしれませんね。シリアへの軍事介入やクリミア編入を強行したロシアへの制裁等、大事な場面で米英の歩調に乱れが見られるのも、両国の距離を表している気がします。私が象徴的だと感じるのは、ホワイトハウスの執務室にあったチャーチルの胸像の話です。これはブレア首相がブッシュ大統領に贈ったもので、暫く大統領執務室に置かれていたそうですが、オバマが撤去させたらしい。『植民地政策を進めたチャーチルの胸像など置けない』ということらしいですが、こうした話が囁かれるほど米英間の隙間風はあった。その間隙を、中国は突いてきているんですね」
川村「中国の巧妙な根回しの前に、アメリカが完全に遅れを取った」
竹中「ローレンス・サマーズ元財務長官は、『アメリカが世界の経済システムの保証人としての役割を失った時として記憶されるかもしれない』とオバマ政権を批判しました」
川村「しかし、イギリスやヨーロッパに対する抜け駆け批判は見当外れです。先程の“シルクロード経済圏”はヨーロッパまで続いています。既に、数年前から中国へは輸出超過状態が続き、ヨーロッパはかなり儲けている。どの国も、中国との結びつきは強めたくて仕様が無い訳です。金融面でもイギリスは先行していて、2010年頃から次々と中国との連携を進めました。ポンドと人民元のスワップ取引開始や人民元の“クリアリングバンク(手形交換組合銀行)”の設立、昨年は人民元建ての英国国債の発行までやりました。こうしたイギリスの動きに、他のヨーロッパ諸国も負けじと追随している。この動きを見過ごしていたとしたら、余程の能天気です(笑)」
竹中「3月末にワシントンで講演をした際、ピーターソン国際経済研究所のフレッド・バーグステン前所長が聴きに来て、『アメリカは今回のAIIBで外交に失敗した』と言う。『“中国が孤立する”と想定していたけれど、見事に外れた。最初から参加して、出資比率や人事・本部の場所について意見を言うべきだった』と。そして、『日本に関しては、まだ同情の余地がある』と言う。これは私の手前もあってのことだと思いますが、『日本はアメリカを信用した訳だし、ADB総裁は日本人だから、参加に慎重にならざるを得ない事情はわかる』と」
川村「ヨーロッパ勢がこんなに参加するとわかっていたら、日米が最初から参加するという選択肢はあったかもしれませんね」

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竹中「AIIBに依って日本が被る実害は何かを考えると、今の時点では特に無い。問題は、今後どうするかです。私はAIIBへの参加云々より、日本にとってのベストシナリオは別にあると思っているんです。今から6年前の2009年、河合正弘さんが所長だった当時のアジア開発銀行研究所が重要なレポートを出しています。今後10年間のアジアのインフラ需要を約8兆ドルと予測し、『若しその8兆ドルを投資すれば、アジア開発途上国の実質所得が13兆ドル増える』という内容でした。つまり、“良い投資”だという評価でした。レポートは、『これを実現する為に“アジアインフラファンド”を作るべきだ』と提言しています。これは、国が中心になるのではなく、民間のお金を使う。AIIBのように国が主体となると、政治的バイアスがかかって不良債権の山を作る恐れがあり、その負担は全て国民に返ってくるからです。『民間のお金は資源配分を最適化する効果がある訳だから、民間のお金こそ使う仕組みを作るべき』という訳ですね」
川村「仰る通りです」
竹中「これが実現していれば、今中国にこうしてやられる隙を与えてなかった筈なんです」
川村「恐らく、1997年のアジア金融危機後、日本が提唱して失敗した“アジア通貨基金(AMF)”構想の体験が尾を引いていたのでしょうね。『AMF構想はアメリカと中国に依って潰されたから、似たようなことをやっても無駄』という空気があったのではないですか?」
竹中「この研究所は東京にあって、所長は日本人なんですからね。この点、日本は反省すべきです。今からでも遅くないから、このレポートの内容をもう一度検討するべきです。私にとって、アメリカと一緒にAIIBに参加するというシナリオは飽く迄もセカンドベスト。ファーストベストは、アメリカと協力してADBを強化しながら、この“アジアインフラファンド”を作る。民間機関は大歓迎しますよ。寧ろ、AIIBに参加するのならそういう方向に取り込んでいく戦略のほうが、外交上は賢いと思います」

川村「中国は今後、インフラ投資を通じて世界各地に中国の勢力を伸ばすと共に、人民元を国際通貨にする為のツールとしてAIIBを前面に出してくると思います。なぜ人民元の国際化を目指すかと言えば、その先に中国の政治的な野望があるからですね。例えば、中国人民大学国際通貨研究所が一昨年纏めた“人民元国際化の意義”という論文には、『中国の政治的影響力の増強』『東アジアの一体化推進』とはっきりと謳われている」
竹中「ただ、結論から言えば、現在の共産党一党独裁体制では資本取引の自由化や金融政策の自主性等が無いから、絶対に国際通貨になれませんね。何より、資産を貯蔵するのに使える程の信頼性がまだ無い。どの通貨で自分の資産を蓄えておくかと考えた時に、人民元を選ぶ資産家は殆どいないでしょう」
川村「仰る通りで、ドルと肩を並べるようになるのは、少なくともあと20~30年は先です。しかし、今年の春節で見られた中国人の“爆買い”の例を見ただけでも、将来的な利用の拡大は明らかですから、隣国の日本がそれを無視してしまうのはあまり賢い選択とは言えません。その意味で、イギリスがロンドンのシティに人民元ビジネスの中核センターを作って儲けようとしていることには、もう少し学んでいい気がします。東京が人民元の直接取り引きを認められたのは2012年。ロンドンより1年早かったんですからね。当時、イギリスは日本が先に認められたので地団駄を踏んだんですよ」
竹中「2012年というのは面白いですね。ロンドンはその年のオリンピックを目指して、ヒースロー空港の整備等の様々な都市開発をやったおかげで、都市総合力ランキングでニューヨークを抜きました。元々、シティは国内にお金がある訳ではなく、場所貸しな訳です。国際弁護士を揃え、ビザを発給して使い勝手の良い場所を提供することでアピールしました。その点は、日本も学ばなくてはいけない」
川村「そうした戦略が、まさに今回のAIIB参加に直結していますね。老獪な外交国家の面目躍如と言ったところです(笑)」

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竹中「地域通貨に過ぎない人民元が世界中の市場で求められ始めていることは、どういうことを意味するのか? それはつまり、中国のGDPがどんどん膨らむにつれて資産が増えた為に、資産交換の需要が高まっているということに他なりません」
川村「日本ではここ30年ほど、東京を“国際金融センター”にする構想が議論されていますが、そのメニューには人民元が不可欠です。なのに、2012年に始まった円と人民元の直接取引が中々増えていません。これは、日本の金融機関が円・人民元のクリアリングバンクを持っていないことも影響している。国際金融センターの看板を掲げる以上、人民元建ての資金決済ができるのは当然のことながら、人民元建ての債券や金融商品・サービスの販売まで目指さなければいけないのに、まだこれからという感じです」
竹中「私は、それには手っ取り早い方法はあると思いますよ。ロンドンが活性化したのはブリティッシュペトロリアムやブリティッシュテレコム・ブリティッシュエアウェイズ等、国営企業を民営化したことが大きかったんです。つまり、国営企業という非効率な資産を市場で売却した。日本も、政府や地方が保有している資産が沢山あります。それを徐々に市場に売却していけば海外からお金が入ってきて、資産市場は大いに活性化していきますよ」
川村「日本が努力すべきは、中国に国際秩序作りを主導させるのではなく、市場経済・自由貿易の世界に中国をゆっくりと誘導して取り込んでいくことではないかと思います。中国は社会主義市場経済になってから、確実に豊かになりました。市場経済が如何に重要か、改革開放以来の30数年間で骨身に染みて実感している。共産党一党独裁という矛盾を孕んだ大命題があるにせよ、少しずつ様子を見ながら自由経済への道へと歩んでいる訳です。中国政府関係者と話していると、TPPに対する関心が高いことに驚かされます。現段階では自由化のレベルが低く、とても交渉に参加することはできないでしょうが、『何れはTPPに参加したい』、そういう意思を強く持っているのを感じます」
竹中「2001年にWTOに加入するまで中国には輸出権が無く、輸出するには許可が必要でした。その頃に比べて今の中国はモノが溢れ、別世界になっている。将来的には、中国も自由貿易体制に入りたいだろうし、入るべきです」

川村「中国の進める“シルクロード経済圏”構想では日本は無視されていますが、アジアから太平洋に目を転じ、“東アジア地域包括的経済連携(RCEP)”と“環太平洋経済連携協定(TPP)”を重ね合わせてみると、面白いことがわかります。つまり、RCEPには中国・インドが入っていますが、アメリカは入っていない。それに対して、TPPには中国とインドが入っていない。日本だけが両方に入っている訳です。4月21日、オバマ大統領はテレビ番組のインタビューにこう答えました。『我々がTPP交渉を完結しなければ、成長しているアジア太平洋地域で中国がルールを作り、アメリカが締め出される』。つまり、『AIIBに次いでTPP交渉でも失敗すれば、アジア・太平洋地域での貿易や投資のルール作りを中国に独占されてしまい、国際社会での指導力も失墜する』とアメリカは焦っているのです。この鬩ぎ合いは当面続くでしょう」
竹中「私は日米のTPP交渉については楽観的に見ていて、どれほどコメと自動車で揉めようが、最後には必ず妥結すると思います。理由は簡単で、TPPに参加する12ヵ国の中で日本とアメリカは最大の受益者だからです。最近、中国政府は『核心的利益を守る』とよく言っていますが、中国の核心的利益とは突き詰めれば“共産党体制の維持”です。でも、経済が発展すればするほど現体制の維持は難しくなっていく」
川村「共産党体制が緩んだら終わりだから、少しずつ様子を見ながらですが、長いスパンで日本が中国を上手く取り込んでいく戦略を持つことが大事になってきますね。それが、日中相互のウィンウィンへの唯一の道だと思います」




“歴史的転換点”との論評も飛び交う中国主導の『アジアインフラ投資銀行(AIIB)』創設について、私たちが今知りたいことは2つある。1つは、「日本はなぜ情勢判断を間違えたか?」。もう1つは、「中国の本当の狙いは何か?」。この根本的な疑問に、新聞はどう応えたのか?

中国が構想を発表したのは1年半前。昨年から出資の勧誘が始まり、主要7ヵ国(G7)は様子見を申し合わせたのに、3月12日にイギリスが「抜け駆け」(アメリカのルー財務長官)、5日後にはドイツ・フランス・イタリアも追随して世界中に雪崩現象が起き、日米が孤立した。この失敗の検証無くして、次への戦略はあり得ない。そして、それこそがメディアの仕事である。読むに足る検証記事だったのは、読売の『“欧州参加”官邸に届かず/政府、情報収集に課題』(4月7日政治面)、朝日の『検証 AIIBショック』(同12日2面)、日経の連載『アジア投資銀の衝撃』(同14~18日)。3紙とも、新聞ならではの取材力を発揮した。逆に言えば、それ以外の新聞は「こんな重大局面で、政府内の深層も記事にできないのか?」と、その実力を問わざるを得ない。朝日に依ると、政府は当初“イギリスショック”にも反応が鈍かった。日経に依ると、その3日前に来日したドイツのメルケル首相から素振りも嗅ぎ取れなかった。読売と日経に依ると、イギリスの“異変”は2月下旬に始まったという。だが、その異変が何かは書いていない。是非知りたい。異彩を放ったのは、4月4日付の東京『大誤算/感情的外交のツケ』。検証ではなく、安倍政権の対米追従・反中外交姿勢が情勢を客観的に把握できなくしたという見立てだが、同じ洞察は4月12日付朝日でも編集委員がコラムで紹介した。メディアや官界に広がる言論委縮の空気が、結果的に国益を損ねているのではないかという貴重な指摘である。だが、強かな中国の構想が綺麗事である筈もない。銀行とセットで打ち上げた“一帯一路”(陸と海のシルクロード経済圏)構想は、外交・軍事上の覇権主義を予感させて不気味である。その点を力説するのは産経だ。ベテラン編集委員がコラムで『参加論を斬る』(3月29日)・『甘い幻想を斬る/中国主導ではアジアが荒れる』(4月12日)と斬りまくり、「平和なインフラ融資話は表看板で、本質は外交・安全保障」だと説く。具体的で本質を突き、納得できる。4月8~12日同紙の4回に亘る連載『竜の野望』も、海外特派員総動員の力作。だが、日米の孤立については、アメリカ政府・議会の準備不足や責任を挙げても日本の誤算や失敗は言わず、政府内のお粗末ぶりも検証しない。いくら政権擁護とはいえ、贔屓の引き倒しではないのか? 時には“愛のムチ”も必要だろう。

編集委員のコラム頼みは毎日も同じ。4月2日付『大欧亜共栄圈』や4月4日付『西を向く中国の経済戦略』は、この問題の裏側と奥行きを元中国特派員がわかりやすく解説した。しかし、単発のコラムばかりでは新聞として如何にも物足りない。同紙は、目立った検証記事も無く、一線記者たちの記事は「透明・公平性に不安」「焦る必要はない」といった論調一色。情報収集・情勢判断に失敗した財務・外務官僚の主張(言い訳)を鵜呑みにしているかのような印象で、どこまで自覚的なのかわからないが、実は内容的に酷く“偏向”している。と思ったら、社説は違った。早くから『積極関与を考える時だ』(3月24日)『関与へ作戦立て直しを』(4月1日)と勇ましい。つまり、ベテランと中堅と社論がバラバラなのだ。味はあるが、読者にとっていいのか、悪いのか。実は読売も、よく読むと社説と記事の見出しは必ずしも合致していない。社説は『中国の支配力が強すぎないか』(3月26日)『日米孤立の批判は的外れだ』(4月3日)『運営の透明性が確保できるか』(同19日)と一貫して政府支持だが、記事では先に紹介したような政府内の体たらくも指弾し、時に辛口である。これは、ある意味健全な役割分担だろう。社論の是非はともあれ、編集全体の統制が取れているのである。


キャプチャ  2015年6月号掲載


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テーマ : 中国問題
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