“ゆるトク”機能性表示食品、出足振るわぬ4つの誤算――2ヵ月半で僅か36品目、健康食品大手も二の足を踏む…“企業連合”で参入目指す、販売員の教育も必要

「内臓脂肪を減少させる」「おなかの調子を整える」──。トクホ並みに食品の機能を謳える『機能性表示食品制度』が2015年4月に始まった。届け出だけで表示できる“ゆるトク”への期待は高かったが、緩い出足に留まっている。 (河野紀子・中尚子)

「制度が始まって2ヵ月以上経つが、一体どうなっているのか…」。大手食品メーカー『マルハニチロ』商品技術開発部長の小梶聡氏は、困惑した表情を見せながらこう語る。制度が始まった2015年4月1日に、主力商品の一部を『機能性表示食品』として消費者庁に届け出たが、未だに受理されていない。「小売りから問い合わせが続いていて、『どんな商品をいつごろ出すのか?』と聞かれるが、確実なことを言える状況じゃない」。2015年4月、『機能性表示食品制度』がスタートした。この制度では、「内臓脂肪を減少させる」「おなかの調子を整える」等の食品に含まれる機能性について、身体の部位と併せてメーカーの責任で自主的に商品に記載できるようになった。対象には健康食品やサプリメントだけでなく、トマト等の生鮮食品も含まれる。制度開始から3ヵ月が経とうとしている今、漸く機能性を謳った商品が店頭に並び始めた。だが、食品メーカーや小売り等、ビジネスチャンスが広がると期待していた業界全体が、思わぬ4つの誤算に見舞われている。

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【誤算1】迅速に出せる筈が、受理までに数ヵ月も
ある食品メーカーの広報担当者は最近、消費者庁のウェブサイトをクリックするのが日課となっている。機能性表示食品の受理状況を確認する為だ。4月に消費者庁に書類を送ったが、届け出が受理されず、一向にアップロードされない。「受理までにどのくらいかかるのか教えてもらえず、只管サイトをチェックしている」と困り顔だ。機能性表示食品は、「特定保健用食品(トクホ)」と違い、消費者庁の審査を受ける手間がかからないのが最大の特徴。その代わり、企業は自社の責任で、成分の機能を裏付ける科学論文などを消費者庁に提出し、同庁がその書類をウェブサイトで公開する。審査が無い分、新商品を迅速に出せるようになり、新たな健康市場が生まれるはずだった。消費者庁食品表示企画課の担当者も、「今回の制度は飽く迄も届け出制なので、審査はしない。書類に不備がないかだけを確認している」と説明する。だが、6月18日時点で消費者庁には約200品目分の書類が届いているにも関わらず、受理した品目数は僅か36品目に留まる。「消費者庁ではたった数人で書類を細かくチェックしているようで、殆ど手が回っていない」とある業界関係者は明かす。審査が無いとはいえ、複数の企業が届け出書類を差し戻されている。消費者庁はその件数を明らかにしていないが、それも受理が遅れている理由の1つだ。消費者庁は差し戻した書類が再び届いても優先的には確認せず、届いた順に書類を確認するようにしている。更に、受理後も直ぐに商品を発売できる訳ではない。届け出番号を印刷しなくてはならない為、パッケージを前もって作ることができないからだ。大手サプリメントメーカーの『ファンケル』は、「パッケージの印刷を乾かすだけで1ヵ月もかかるのに」と訴える。




【誤算2】“先導役”と見られた大手企業が尻込み
この6月、『キリンホールディングス』傘下の企業が機能性表示食品として相次いで発売するノンアルコール飲料『パーフェクトフリー』と緑茶飲料『食事の生茶』。其々、「脂肪の吸収を抑える」「糖の吸収を穏やかにする」等と機能を謳うが、それを裏付けるのは『難消化性デキストリン』という同一成分。キリンビバレッジはトクホの『メッツコーラ』で使用してきたこの成分を、機能性表示食品にも使用することを決めた。機能性表示食品の制度が当初の予定通りに運用されるようになれば、時間とカネを膨大に要するトクホよりも柔軟に商品を開発・発売できる。キリンで健康機能食品を担当する真下淳子氏は、「トクホは申請している間に世の中の志向が変わってしまうこともあるが、機能性表示食品ならスピーディーに対応できる」と届け出た狙いを話す。実際、キリンはトクホで痛い目に遭った経験がある。2004年にキリンビバレッジが発売したキノコエキスを使ったトクホ飲料『ビーフラット』。小瓶入りで開発・申請したが、発売するまでに飲料業界の主流はペットボトルに移っていた。「容量が変われば申請し直さなければならず、小瓶のまま発売せざるを得なかった」(真下氏)。今回、機能性表示の届け出をするに当たり、真下氏は、「トクホを出した時に蓄積したデータの見方や効果の表現等が有利に働いた」と話す。キリンのように、これまでトクホを発売し健康分野に積極的だった企業は、機能性表示食品の“先導役”になると目されていた。しかし、トクホを手掛ける大企業の中には尻込みしている企業も少なくない。トクホで先行している『花王』は、「今後もしっかりと科学的根拠を示すトクホを中心に開発していく」(澤田道隆社長)と様子見を決め込む。ある業界関係者は、「キリンが機能性表示に積極的に取り組むのは、トクホで後発組だから。既に億単位の金をトクホに投じている企業は積極的には動き難い」と見る。ただ、機能性表示食品の市場が今後大きく拡大していけば、開発にカネも時間もかかるトクホだけに固執している意味は無くなる。結局、「消費者のトクホ信仰が続くのかどうかを見極めたい」(大手食品メーカー)というのが本音だろう。

今回の制度導入で、最も市場拡大が期待されている健康食品やサプリメントの業界でも、実は二の足を踏む大手企業が少なくない。健康食品として幅広く売られているロイヤルゼリーや青汁・にんにく卵黄等は、機能性関与成分が分析し難いものが多い。こうした商品は科学的な根拠を示して機能性表示を届け出ることが難しい。更に、機能性を表示することのデメリットを指摘する声もある。現在、健康食品の販路の内、約7割が通信販売。テレビ通販のコマーシャルでは「個人の感想です」と注記した上で、「体が楽になった」「動き易くなった」等と消費者の感想を流し、イメージで販売している商品も多い。健康食品に関するコンサルティングを手掛ける『グローバルニュートリショングループ』の武田猛代表は、「どんな部位にどう効くかを明確に示せば対象が限定されて、却って売り上げが減ってしまうものも出てくるだろう」と話す。約170アイテムのサプリメントを販売する『小林製薬』は、全ての商品について一律に機能性表示を届け出ることは考えていない。消費者から見た分かり易さや市場拡大の可能性を考慮して、商品に依っては従来通りの“幅広い”表示にしておくこともあるという。例えば、納豆菌培養エキスや青魚に含まれる成分等を含む『ナットウキナーゼEX』は、「サラサラ成分で長く健康に」の表示を継続する方針だ。

【誤算3】人材も知見も足らず…中小、参入できず
2015年3月、消費者庁は福岡県で4月から始まる機能性表示制度についての説明会を開催した。九州中の企業が集まった会場は、始まる前から熱気に包まれていた。トクホと違い、機能性表示はコストも時間もかからない。中小も参画できる制度になる──。制度導入の目的をこのように聞いていた大麦加工会社『伊東精麦所』(長崎県諫早市)の伊東清一郎社長も、期待に胸を膨らませていた1人。同社は従業員11人の中小企業だが、機能性表示なら参入できる筈。「血中コレステロールの正常化」といった機能を消費者に訴え、押し麦の販売を今より伸ばそうと目論んだ。しかし、説明会の内容は伊東社長の期待を裏切るものだった。届け出の為には機能を裏付ける国内外の論文を探すか、自ら機能を立証する為の試験をしなければならない。人材も知見も足りない中小企業が一体どうやったら届け出できるのか。長崎県からは届け出までを代行する『日本健康・栄養食品協会』という財団法人を紹介されたが、300万円も費用がかかるという。「関心はあるが、どれだけ消費者から受け入れられるかわからない制度の為に、そんなコストをかけられる訳がない」(伊東社長)。戸惑っているのは、他の中小企業も同じだ。論文の提出ではなく、臨床試験を選んだとしてもハードルは高い。「健常者の中から、機能を立証できるような“病気予備群”の人を集めるのは難しい。20人のサンプルを集めるのに、数百万円はかかる」(食品メーカー)。こうした事情から、6月時点で届け出を受理されたのは大手食品メーカーやトクホ等で実績のある原料メーカーばかり。中小企業は殆ど見当たらない。

自社での届け出に限界を感じた伊東精麦所は2015年3月、精麦メーカーが多く加入する大麦食品推進協議会への加盟を決めた。同協議会では、大麦に含まれる『β-グルカン』について機能性表示の届け出ができるよう論文を精査し、ガイドラインを作成している。4月1日には協議会で作成したガイドラインを基に、加盟社の『大塚製薬』と『はくばく』(山梨県富士川町)がβ-グルカンを使用した食品を消費者庁に届け出た。だが、大塚はまだ消費者庁に受理されず、はくばくもこれまでに2度差し戻されており、順調とは言えない。書類の不備等は直ぐに修正できるが、最も苦労しているのはβ-グルカンが持つ機能についての記述。はくばくは3つ届け出た機能の内の1つに「満腹感を持続させる」と書いたが、消費者庁は「消費者に説明できるかご確認ください」と差し戻してきたという。「満腹感の持続で食べ過ぎを防ぐ」と修正して届け出し直したものの、再び突き返された。はくばくの市場戦略部で製品開発を担当している小林敏樹氏は、「機能自体を問題視しているのか、書き方を変えろということなのかわからない」と困惑する。いつ受理されるか分からない状況では、秋冬商戦に向けた商談も進められない。「いつまでも待っている余裕はない。満腹感については悔しいけれど取り下げる」(小林氏)と決断した。大塚製薬やはくばく等、先行企業と消費者庁とのこうしたやりとりを反映した上で、大麦食品推進協議会はガイドラインを書き換える。7月にはその内容を加盟各社に公開する予定だ。大麦食品推進協議会の取り組みが成功すれば中小企業参入の1つのモデルとなり得るが、その先行きは不透明だ。

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【誤算4】小売りは当て外れ…店舗に商品が届かず
機能性表示食品を集客のツールにしようと皮算用していた小売りも、途方に暮れている。「大手ドラッグストアの中には、昨年中に既に棚の並べ方のイメージまで考える等、前のめりだったところが何社もあった」(大手サプリメントメーカーの担当者)。ある食品大手の開発担当者も、「制度の詳細も決まっていなかった昨年の暮れに、大手小売りから『機能性表示食品でプライベートブランドを作ってほしい』と言われた」と明かす。しかし、現状では届け出を受理された商品は僅か。「1000品目程度あれば、目や関節等の部位や機能別の棚を作れたり、消費者が選び易くなったりするだろう。だが、今のペースならそうなるまでに1年はかかりそうだ」。『日本チェーンドラッグストア協会』の宗像守事務総長はこう話す。また、機能性表示食品が増えたとしても小売りが求めるような魅力的な商品を扱えない可能性もある。例えば、『サントリーウエルネス』の『セサミンEX』。累計180万人の顧客が購入しているヒット商品だ。サントリーウエルネスはセサミンEXで機能性表示を4月1日に届け出て、受理を待っている。機能性表示ができるようになれば、小売りにとっては目玉商品になり得る。だが、サントリーは現在、通信販売専用としているこの商品について、受理後も販路を変える予定はないという。黙っていてはいつまで経っても商品が揃わないと、小売り自身が商品開発に取り組む動きも出てきた。宗像事務総長らは『健康食品市場創造研究会』を2014年秋に立ち上げた。ドラッグストアやスーパーといった小売りや原料メーカー等の約160社が参加し、食品やサプリメントメーカーに頼らずに自前で商品開発に着手した。

小売りが直面している問題は商品不足だけではない。トクホや大衆薬との違い等、消費者の疑問に的確に答えられる販売員の教育も必要となる。便利さや安さを追求する中で、業界全体でこうした投資が後手に回っていたという現状もある。「これまでは、健康食品やサプリメントについて推奨販売はしてこなかった。だがこれを機に、パートのスタッフにもカウンセリングの知識等を身に付けさせていく」。ドラッグストア大手『ウエルシア薬局』執行役員商品部部長の桐澤英明氏はこう強調する。同社は全店舗の7割で調剤機能を併設しており、薬剤師や登録販売者への教育を充実させてきた。だが、「健康食品やサプリメントを薦めるに当たっては、消費者に身近な地元のパートたちの力が大きい」と桐澤氏は話す。機能性表示食品制度は、安倍内閣が目指す規制緩和の目玉の1つだ。サプリメント先進国であるアメリカ並みの制度が整えば、新たに創造される市場は10兆円規模にも及ぶと言われる。だが、既に浮かび上がっている課題を早急に解決する必要がある。それができなければ新規に参入する企業はおろか、既存のプレーヤーも二の足を踏み、市場拡大は絵に描いた餅になりかねない。


キャプチャ  2015年6月29日号掲載


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