元外務省主任分析官・佐藤優の特別講座――イスラム国もウクライナも、今の国際情勢はVシネを見れば全部わかる!

アメリカ対イスラム国・ウクライナ対ロシア……。複雑に絡み合う国際情勢を読み解くために佐藤優先生が用意した教材はなんと日本のVシネマ。闇金業者とヤクザのやりとりを見れば、オバマやプーチンの本音もスッキリわかってしまうのだ! (取材・構成 小峯隆生)

佐藤先生! 世界中がややこしいことになっています。特に、アメリカがシリア北部でイスラム国への空爆を開始した“対テロ戦争”は、いったいどうなるんでしょうか? 「最近、国際情勢やインテリジェンスを理解するのに、すごくいいVシネ作品を見つけたんですよ。2007年の作品ですが、まるで今の混沌とした世界を予見していたかのような“名言”がたくさん出てくる。世の中のカラクリが勉強できます」。佐藤先生のiPadに映し出されたのは、『闇金の帝王』というVシネ作品。小沢仁志演じる闇金融業者の南無玄之介が、ヤクザ組織が跋扈する新宿・歌舞伎町で、ギリギリの勝負を仕掛けていくストーリーだ。「まずは、このシーンからいきましょうか」




南無が、貸した金を取り立てにヤクザ組織へ出向く。
組幹部「俺がこんだけ頼んでも、聞き入れてくれないのか」
南無「私も慈善事業で金貸しをやっているわけじゃありませんから」
幹部「でけえ口を叩くようになったな。誰のおかげで商売できると思ってるんだ?」
南無「おしゃべりがすぎると、男を下げますよ」
幹部「食えねえ野郎だ」

カネの貸し借りの話を、シリアでの空爆をやる・やらないの話に置き換えてみるわけですね。「南無がアメリカのオバマ大統領、組幹部がロシアのプーチン大統領。米ロのやりとりです」。つまり、シリアのバックについているロシアは、シリア領内でのアメリカの空爆開始を、なんとかやめさせたかったと。「ええ。続けて見てみましょう」

組幹部は、ブリーフケースから借りた3000万円に利息1000万円、そこへさらに1000万円を加えた札束を取り出す。
南無「少し多いですよ」
【中略】
幹部「口止め料だ」
南無「怖い、怖い」

「このように、ロシアはアメリカに裏で『手を引け』と言っています。プーチン大統領は、アメリカのシリア空爆に対して非常に批判的です。なぜなら、アメリカがイスラム国だけではなく、これを機にシリアのアサド政権まで“整理”しようとするのではないかと危惧しているからです」

v-cinema 02

それでも結局、アメリカはロシアの反対を振り切って、シリアで空爆を開始しました。「そうです。しかし、他国で何かをやるときはちゃんと“あいさつ”をしなければならない。アメリカもその手順を踏みました。次のシーンにいきましょう」

南無は歌舞伎町をシメている組織へあいさつに行く。
地元組幹部「なんの商売をやりてえ?」
【中略】
南無「金貸しです。そのために筋を通しに来ました」
【中略】
幹部「筋を通しに来たということは、やるのはまともな金貸しじゃねえということだな?
南無「まともでないときもあるということです」

地元組幹部がシリアですね。「ええ。アメリカは空爆を開始する前に、シリアとその背後にいるイランに“事前通告”をしました。だから両国は、表立って反対をしなかった」

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現在、シリアは内戦状態で、アサド独裁政権と、反政府の過激組織が激しく戦っています。「それでもアサド政権が成立していれば、まだ最低限の秩序は保たれる。しかし、アサド政権が倒れて“力の空白”ができたら、アルカイダやイスラム国のような“半グレ”がもっと流れ込み、いよいよ混沌としてくる。ロシアとしては、そこでチェチェンのテロリストが養成されることを危惧しているわけです。だから、いくら非道な独裁政権であっても、あの“シマ”はアサドに仕切ってもらっていたほうが都合がいい」。なるほど! これも歌舞伎町の雑居ビルと同じですね。全部を仕切っている組があるうちは安定しているけど、そこが弱くなると、1階と3階は地元の組(アサド政権)、2階と4階は中国マフィア(アルカイダ系)、5階と6階は関西から進出してきた組織(イスラム国)……と、グチャグチャになる。「いったん空白ができると、そこは“力の均衡”になる。だから、この局面では手を握るけど、今度は握らない、というような複雑なゲームになるわけです」

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じゃあ、アメリカはきちんとイスラム国だけを狙い撃ちしないといけないわけですね。それは可能なんでしょうか? 「空爆だけでは厳しいでしょう。いくら頭上から爆弾を落としても、地場を張っている連中のほうが強い。関係のない一般人も犠牲になってしまいます」。となると、歌舞伎町に入って歩き回った『闇金の帝王』の南無のように、本来なら地上戦をやらないといけない。「そうです。ピンポイントで、イスラム国の小隊長クラスを狙い撃ちしないと終わらない。実は、それに最も適任なのが、イランのイスラム革命防衛隊の特殊部隊なんです。ベドウィン・イスラム国の戦士・イスラム聖職者など、いろいろな役に化けられますから」。おお! ならば、“反イスラム国”でアメリカとイランが手を組むなんてことも? 「しかし、まあ、次の会話を見てください。さっきのあいさつのシーンの続きです。今度は南無がアメリカ、地元組幹部がロシア・イラン連合だと思ってください」

地元組幹部「もし、おまえがトラブっても、必ずケツを持つとは限らねえぞ」
南無「けっこうです。ただ、きっちり筋を通しておけば、この先何かと仕事がやりやすいかと思いまして」
幹部「商売を長続きさせるためのコツは、てめえ自身でゴタを起こさねえように気をつけることだ。わかってるな?」

お互いに全然、手を組む気なんかないじゃないですか! 「イランには『イスラエルを国家として認めない』という国是があり、現況ではアメリカと組めない。ロシアも、シリア空爆に踏み切ったアメリカにそうそう手は貸せない。もし手を貸してほしければ……という話を、Vシネ風に構成してみましょう」

プーチン「イランの鉄砲玉(革命防衛隊)はあちこちで活躍してるぜ。オバマさん、ひとつ取引しよう。イスラム国退治に協力する代わり、イランに“いい武器”を持たせてやってくれ」
オバマ「核兵器? それはダメだ」
プーチン「それから、おまえんとこの舎弟のイスラエルな、イランとしては認められねえんだ。どかしてくれねえか」
オバマ「……おまえのところとは組めん。ウクライナの件、ただでは済まさんぞ」
プーチン「どうぞ(半笑い)」

イスラム国を倒す代わり、イランは核保有国になり、イスラエルも消滅。アメリカとしてはのめるわけがないですね。「ええ。だからイランの手を借りることはできず、イスラム国との戦争はかなり長引きます。次のセリフを見てください」

南無「俺は、誰にも止められないレールの上を走り始めていた。すでにクルマのブレーキは壊れていて、目の前に見えるのは、天国と地獄を仕切る1本の水平線だ。そして、その行きつく先にあるものは、いずれにせよ人の生き死にだけのような気がしていた」

「このセリフが、アメリカとイスラム国の戦争の本質をよく表しています。イスラム国の戦士たちの思想としては、地上(現世)で勝利したらもちろん勝利。逆に地上で負けて殺されても、“聖戦”での殉教ですから、天国に行って救われる。すなわち、どちらにしても勝利なんです」。歌舞伎町の戦いは“死んだら負け”ですが、イスラム国は死すら怖くない。「だから“殲滅戦”になる。30年くらいは覚悟したほうがいいかもしれません」。イスラム国は現在、トルコの国境地帯まで進撃しています。トルコが米軍の空爆のために基地を貸すかどうかの話がなかなか決まらないようですが……。「では、次の映画を見ましょう。2006年にトルコで大ヒットした“イラク 狼の谷”という反米映画です。これを見ると、中東の雰囲気がわかると思います」

【あらすじ】
フセイン政権が倒れた後のイラク北部で、アメリカの元軍人のサム(現在はCIAの工作員)が率いる白人傭兵軍団が“テロリスト狩り”と称する殺戮行為を続けていた。生け捕りにされたイラク人はバグダッドの西にあるアブグレイブ刑務所に送られる。そこでは医師に解体されて臓器売買が行なわれていた。サムは、ユダヤ人の医師にこう言う。「クルド・トルコ・アラブを(わざと)対立させて、おまえ(イスラエル)を守っているんだ」。こうしたアメリカの暴挙に怒るトルコの元秘密諜報員が、イラク北部に潜入。サム暗殺を計画する――。

イスラム世界が、いかにアメリカを憎んでいるか。アメリカの言う“正義”も、イスラム世界ではまったく逆にとらえられているってことですね。「はい。トルコはNATO(北大西洋条約機構)加盟国ですが、それでもアメリカからひどい扱いを受けているわけです」。アメリカから見ればテロリストでも、イスラム世界から見れば英雄の場合もある、と……。

ところで、アメリカとロシアといえば、ウクライナ問題はどうなったんですか? 「ウクライナは、もうカタがついてしまったようです。9月5日、ベラルーシのミンスクで、ウクライナ政府と親ロシア派の代表が会い、停戦の議定書が交わされました。しかし、その内容は明かされていません」。“手打ち”の内容が非公開とは、いかにも裏がありそうな……。「9月16日、ウクライナ最高会議は、親ロシア派の本拠地であるドネツクとルガンスクを“特別地域”に設定しました。この地域ではロシア語を尊重し、独自の警察を持つ。警察・裁判所の人事には地元が関与する……。いわば、事実上の“準国家”。ウクライナは連邦制を認めたも同然です。ロシアは、そこをNATOとの緩衝地域にできる。取りたいものは全部取ったといえます」
しかし、アメリカがバックにいるにもかかわらず、ウクライナはよくそこまでのみましたね。プーチン大統領は、いったいどうやったんでしょうか? 「キエフにいるウクライナのポロシェンコ大統領に、何回か電話した。そうしたら、すっかりビビり上がって何もしなくなってしまった、ということです」。ひええ……。ドン・プーチンは怖いですね、やっぱり。「誰を相手にケンカしてるかわかってるんだろうな、という感じでしょうね」

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ということは、ロシアとしてはもう、中東情勢も黙って見ていればいい。アメリカもヨーロッパも、対イスラム国で勝手に消耗していってくれる、と。「ええ。ロシアは身の程を知っているから、手を広げすぎていない。線引きをはっきりしているから生き残る。アメリカは手を広げすぎたと思います」。そんな複雑な国際社会を、日本の安倍政権はどう泳いでいったらいいんでしょうか? 「鈍感力でしょうね。日本としては、難しいことはわかりません、という立ち位置を貫く。『オバマさんに怒られるのも怖いです』と言いながら、ロシアとの対話のドアを閉ざさない。一方、アメリカに対しては『空爆には参加できませんが、カネならあります』と、従順にしておく」

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ドンならぬ、鈍・安倍。「“闇金の帝王”で、南無さんがこう言います。『細かく生きるか、大きく跳ねるか。おまえ次第だ』。日本は、今は跳ねないことです。鈍感に、しかし細かく生きる」。なんだかなあ。

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キャプチャ  2014年11月3日号掲載


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