【中外時評】 再浮上する“ドイツ問題”――“半覇権”が周辺国に不安

ギリシャの債務問題が混迷を深めている。ヨーロッパ連合(EU)との交渉が行き詰まり、出口が見い出せない。「節約努力は嫌だ」「借金は返さない」という借り手の責任は大きいが、ここまで協議が難航している背景には、大国・ドイツがリーダーシップを十分に発揮できていないことがあるとの指摘も出てきている。ギリシャは先進国で初めて事実上の債務不履行(デフォルト)に陥り、5日にはEUが提示した財政緊縮策の受け入れを問う国民投票を実施する。結果に関わらず、更なる曲折が予想され、ユーロ圏に留まれるかどうかも懸念されている。預金の引き出しや送金の制限等が実施され、国民が食品の買い溜めに走る等、苦境に陥っている。EUに対する反発は強く、とりわけ抗議の矛先は厳しい緊縮財政を求めてきたドイツに向けられている。それだけ、同国の存在が大きいからだ。

ドイツの存在が一際大きくなってきたのは、ギリシャの財政危機が表面化した2009年以降。この時の金融危機で、ギリシャの他にスペイン等の南欧の債務国も、高失業・銀行の不良債権等で緊縮財政を強いられて、苦境に陥った。一方で、労働市場と税・社会保障制度の一体改革を進め価格競争力が向上したドイツは、新たにユーロ圏に入った東欧諸国等への輸出を急速に伸ばして、巨額の経常黒字を稼ぎ出した。その結果、高失業や財政赤字に苦しむフランスを尻目に“1人勝ち”の状態が続き、各国に強い経済的な影響力を及ぼす“盟主”ドイツの立場がはっきりしてきた。この状況について、フランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏は近著『“ドイツ帝国”が世界を破滅させる』の中で、「ここ5年ほどの間に“ドイツ圏”が形成された」と指摘している。東欧・南欧各国等ドイツへの経済依存度が高まった国々も含めると、その影響力は粗ヨーロッパ全土に及んでいるという。




“ヨーロッパの盟主”となり“ドイツ圏”を形成したことで、「“ドイツ問題”が再び浮上してきた」との見方が出てきている。民間シンクタンク『ヨーロッパ外交評議会』のハンス・クンドナーニ調査部長は著書『大国ドイツの逆説』等で、「19世紀のドイツ帝国(第2帝国)が当時、抱えていた問題とよく似ている」と主張している。小国が分立していたドイツは1871年、鉄血宰相・ビスマルク率いるプロイセンを中心に普仏戦争に勝利して統一国家になった。ヨーロッパの真ん中に大国が出現したことで周りの各国は動揺し、厳しい目を向けた為、国際情勢が不安定になった。安定を求めたドイツは、フランス以外の国と次々に友好関係を結んで、平和外交を展開し、勢力均衡に依る緊張緩和に努めた。しかし、ビスマルクの引退後はロシア・英国等との関係が冷え込み、忽ち“ドイツ包囲網”が出来上がり、孤立してしまう。同盟に残ったオーストリアを通じて、バルカン半島での紛争に関わることになる。この問題は、後に第1次世界大戦の開戦に繋がっていく。“ドイツ問題”と言われるのは、帝国がヨーロッパのどの国よりも大きいが、一国で覇権を求めるには小さすぎる“半覇権”国家だったことだ。政治・軍事・経済等あらゆる面で他の国を上回っていたが、何でも強制できる程の覇権は無かった。それが孤立とヨーロッパの不安定とを招いてしまったと言われる。「現在も似た構図がある」というのがクンドナーニ氏等の見方だ。東西再統合・ユーロ導入を経て輸出大国・経済大国として復活、ヨーロッパの実質的な盟主となったが、影響力はあっても金融危機等に際して強い政治力・調整力を発揮できてはいないというのだ。

“半覇権国”ドイツはジレンマ(二律背反)を抱える。輸出大国として成長を続けるにはユーロの安定が不可欠だ。その為には、ギリシャ等の債務国に痛みを伴う緊縮策を求めざるを得ない。ドイツのアンゲラ・メルケル首相には、国内政治を考えれば債務国に甘い顔ができる余裕は無い。だが、反発が強すぎるとユーロ離脱等の動きに繋がり、通貨の安定が揺らぎかねない。それは輸出大国の土台にも響いてくる。ギリシャ問題に道筋がついたとしても、“ドイツ問題”の影は残る。今後も指導力不足が続けば、不安定さの悪影響はヨーロッパだけでなく世界経済にも及ぶ。ジレンマを柔軟に乗り越え、大国に相応しい貢献と指導力を発揮できるかが問われている。 (論説委員 玉利伸吾)


≡日本経済新聞 2015年7月5日付掲載≡


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テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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