「こんなに正義感の強いスカウトいませんけどね(笑)」――単行本全38巻の大ヒット漫画の作者に特別インタビュー! 『新宿スワン』制作現場を潜入レポート

石原都政の“歌舞伎町浄化作戦”が始まる前、様々なスカウト会社がシマ争いを繰り広げた。「全盛期の歌舞伎町を駆け抜けたスカウトこそが、一番ドラマチックなんです」と、作者・和久井健先生が初の週刊誌インタビューで作品の裏側を明かしてくれた。

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連載を開始した2005年から、歌舞伎町は大きく様変わりした。旧コマ劇場跡には映画館やホテル等の複合施設『新宿東宝ビル』がオープン。週末には家族連れが訪れている。金と女と暴力に塗れていた不夜城は、その面影を無くしたのか? 初めて週刊誌インタビューに応じてくれた作者・和久井健先生は、さぞかし寂しがっていると思いきや……。「かなり変わっちゃいましたよね。最早、何も歌舞いていない。僕は昔からこの街が寧ろ大っ嫌いなので、まぁそれはそれでいいというか」。何とも意外! あれだけ歌舞伎町を魅力的に描いた本人が「大嫌い」とは。「ただ、何か惹かれるんですよね。他の街には興味すら無いですよ。例えば、渋谷や六本木は楽しいけど、好き嫌いを感じない。そういう街だと、描いていても面白くないでしょ。元々、漫画家になろうと志したきっかけは、安野モヨコ先生の漫画“働きマン”を読んで。仕事に疲れた時、偶々入った西新宿のラーメン屋に置いてあった“週刊モーニング”に載っていた編集長が活躍する回なんですけど、凄い感動したんです。だから、『人を感動させる漫画を描くなら、やっぱり舞台は歌舞伎町しかない』って。この話、誰も信じてくれないんだけど(笑)」

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そんな街で、何故スカウトを題材に選んだのか? 「実は、連載前に編集さんからは『ホストを主人公にしよう』って言われていたんです。“夜王”とか、ホスト漫画が流行っていたので。でも、僕はスカウトが面白いと思った。彼らは街に出て、色んな職業と接点がある。でも、ホストが相手にするのは女かヤクザぐらい。それに、ホストが女のコを助けようとしたら『店に来るな』って言えば済む話でしょう(笑)。スカウトの場合は主人公の龍彦のように、『女のコを何とかして守りたい、助けてあげよう』と思ってもやっていける仕事だと思うんです。まぁ、そんなこと考えているスカウトなんていないんですけど(笑)、ヒーローとして描けるんですよ。僕は、無条件で弱い者を助ける正義感なんて持ち合わせていない。寧ろ、自分に無いものを描いてみたかったんです」。物語は、張り巡らせた伏線を見事に回収しながら、龍彦がスカウト業界を成り上がっていく様を描き出す。「伏線の回収なんて全然ノープラン(笑)。ストーリー作りって、女を口説く時と同じなんです。ガードが堅く難しい女は、色々なハッタリをかましていかないと落とせないじゃないですか。ストーリーを作るのも一緒。その場で考えたキャラやエピソードを後で繋ぎ合わせたら、いつの間にかいいものができちゃってる。難しい女を口説き落とした時と、伏線が全て繋がった時の快感は同じです」




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本物のスカウトは勿論、闇金等の裏社会の住人に取材を重ねた成果は、漫画にこれ以上ないリアリティを与えているが、どこまで現実を反映させているのか? 「取材して聞いた話をそのまま使うことは粗ありません。取材は飽く迄も、ぶっ飛んだ展開やウソっぽい設定になり過ぎてないかという不安を取り除き、ストーリーの裏付けを取る為です」。カネの内訳等の実情をバラし過ぎてトラブルに発展することもありそうだが、その心配は無用だったらしい。「裏社会系の人たちからは逆に、『よく描いてくれた、ありがとう!』って喜ばれましたよ。正直、取材しても基本は武勇伝とかの自慢話ばかりで、使える話は殆ど転がっていません(笑)。取材していると、『俺が原作をやってやるよ』とか『俺をモデルにしてくれ』というパターンが物凄く多かったですね。今も歌舞伎町には、『俺が主人公のモデルだ!』という自称・龍彦が20人くらいいるそうです(笑)」。本当の主人公のモデルは意外なキャラクターだった。「龍彦は漫画“疾風伝説 特攻の拓”の一条武丸という最凶ヤンキーがモデル。一重の三白眼が凄くカッコよく、『この目にしよう』と。愛されるキャラにしたかったので、おちゃらけたところや正義感のある性格を加えました」。片や、物語を盛り上げるスカウトされる側の女のコたちも印象深い。「男より女キャラのほうに思い入れがあります。特に、映画で沢尻さんが演じるアゲハが一番好き。キャスティングは彼女を希望していたんですけど、『ヤク中の風俗嬢の役なんて絶対通らないだろう』と別の役をオーダーしていたんです。すると原作を読んだ本人が、『私は絶対アゲハをやる』と言ってくれて、嬉しかったですね」

夢と絶望に翻弄され、不幸に堕ちる女たち。彼女たちにこそ、人間の面白さが詰まっているという。「歌舞伎町を歩いていると、スッピンで風俗店に出勤している女のコとかよく見かけるんです。確実に不幸な方向に向かっているけど、本人は気づかず、どこか希望を抱いているような表情をしている。たまんないですよ」。そこに声をかけるスカウト。「かわいいね。いいお店、紹介するよ?」。ドラマがまた生まれる。

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■「今のほうが稼ぎ易い」 元スカウトが語る
リアルを知る者の視点からだと、どう映るのだろうか? 元エリートスカウトマンのA氏が語った。「スカウトマンとして活動していたのは、“新宿スワン”連載と同時期ですね。所属していた会社は100~200人くらいいて、月1でカラオケ店に集合してミーティングしてました。当時は月に平均15人くらい女のコを紹介して、150万~300万円ほどの収入。会社に依って違いますが、キャバクラだと10日出勤で10万円、風俗だと買い取りで10万~30万円のスカウトバック。体験入店バックや顧問料もあって、会社と折半してもいい収入になりましたね。大体、漫画の通りです。でも、それは稼げるようになってからの話。私は中間管理職的ポジションにいたんですが、女をキャッチできず稼げないペーペーには『水を飲め』と言っていましたよ。月5人紹介すれば100万は堅いけど、ダメな奴はずっと儲からない」。ところが、今は当時(10年前)よりもスカウトは稼ぎ易いという。「お店のプレイ代も上がって、スカウトバックが以前よりも大分上がっています。10年前よりも、金額にして3倍くらい稼ぎ易い。捕まるリスクはありますけどね。インターネット等で女のコを集めるという手口もあるそうです」

作中では暴力を伴う展開も日常茶飯事だが、その辺りは如何に。「新宿駅ホーム・東口交番前・アルタ前・区役所通り・職安通り。スカウトだけじゃなくてエステ系や店の客引きのシマもあり、揉めるのはしょっちゅう。タイマン張ることもありました。ヤクザが出てくるのはそりゃ日常です。うちの会社も例に漏れず、月5万円のケツモチ代を払っていましたよ。『ヤクザにあそこの店長が攫われて消えた』とかいう話もあった」。ある意味、ヤクザより大変だったのはスカウトした女のコのケア。「『女のコに手を出すのはダサい』という感覚でした。色恋管理で店に紹介できるならまだいいけど、ただ食っちゃうだけのスカウトもいましたね。私は面倒見がいいほうだったので、ヤクザ直営の店から夜逃げさせたりしました。酷かったのは“ゴミ溜め女”。めちゃめちゃ稼いでいるAV女優だったんだけど、部屋にゴミが積もってて床がふやけるぐらい。何時間もかけて掃除してやったのが、一番キツい思い出だったなあ」


キャプチャ  2015年6月9日号掲載


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