【日本型雇用システム大解剖】第3部・ニッポンの労働時間(03) インターネット通販活況の裏で――今ここにある“残業代未払い”

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佐川急便の首都圏の営業所でセールスドライバーとして働く神田省一(仮名・50代)の毎月の給与明細には、50~80時間の残業時間が記載されている。しかし、実際には明細に記載がない40~70時間のサービス残業がある。神田の1日は、毎朝7時前の出社から始まる。貨物を仕分けして、トラックに積み込んでいく。貨物数は50~100個。凡そ1時間で仕分けと積み込み作業を終えて、営業所を出発するのは午前8時頃だ。佐川急便のセールスドライバーは、1日に同じ配送ルートを3回回る。午前中は配達が中心だ。正午からは1時間の休憩を取り、一旦営業所に戻って午後の配達分を積み込んで、再び担当エリアを回る。午後は配達をしながら集荷もして、4~6時頃に再度営業所に戻る。集荷した貨物を降ろした後、夜間帯指定の配達に出掛ける。1日の全集配業務を終えて営業所に戻り、書類整理や入金処理等の残務を熟すと、時計の針は午後9時を回っている。神田の残業時間は1日平均で6時間。月120時間を超える。神田の時間外手当の額は1時間当たり2500円超。サービス残業が月40時間なら10万円超、70時間なら17万円超が未払いになっていることになる。「IDカードで出勤を打刻するのは午前8時の出発直前。つまり、午前7時からの1時間は出勤していない扱いになっている。夜も、実際より1時間程度前倒しで退勤を打刻している。更に、貨物量の多い日には、1時間ある筈の昼休みも殆ど取れない。体感では、1日当たり2~3時間のサービス残業をしている」。神田の所属する営業所は、ドライバー1人当たりの月間残業時間を60時間以内に抑えることを目標に掲げている。その為、ドライバーはこの数字を大きく超える残業を強いられても、会社側に超過分を申告することが難しい。なぜサービス残業になってしまうのか? 「上司からの無言のプレッシャーや、営業所内の暗黙のルールがある」と神田は話す。神田の年収は約750万円だが、これにサービス残業分を加えれば、100万円以上が上乗せとなる。

首都圏で佐川急便の別の営業所で働くセールスドライバーの三木隆(仮名・30代)も、「月間20~30時間のサービス残業をしている」と語る。残業を記録に残さない方法は、神田と同じやり方だ。三木の残業時間手当は1時間当たり2200円前後なので、1ヵ月4万~6万円の未払い賃金がある。年間に換算すれば、50~70万円分がタダ働きだ。佐川急便の関係者に依ると、個人宅への配達が多い住宅地エリアの担当営業所ほど、労働環境は悪いという。宅配貨物は商業貨物に比べ、配達業務の効率が低い。個人宅は不在のことが多く、その場合はもう一度出直さないといけないからだ。佐川急便は、1990年代後半から個人宅向けの宅配貨物の取り扱い個数を増やしてきた。この為、商業貨物に特化していた時代よりも作業量が増え、ドライバーに負荷がかかり易くなっている。全社的な残業時間が増えても、それを上回る収益を確保できていれば、サービス残業は発生し難いかもしれない。ところが、佐川急便の収益力は年々低下傾向にあった。収益悪化への危機感から、この2年程は取り扱い個数を減らしても単価を上げる方針になったが、それまでは傾向的に単価は下がっていた。単価上昇は、ドライバーの負担軽減には繋がっていないようだ。佐川急便は非上場で労働組合も無い為、これまでサービス残業の実態が外部に漏れ難かった。しかし、未払い賃金の支払いを求めていた裁判からはサービス残業の一端が窺える。今年2月に東京地方裁判所は、佐川急便の元ドライバー2人が「残業代の一部が未払いだ」として割増賃金等の支払いを求めた訴訟の判決で、会社側に計215万円の支払いを命じた。2人は、2009年11月から2012年11月まで東京都内の営業所に勤務し、その間はIDカードで出退勤の時刻を管理していたが、「記録上の時間よりも早く出勤する日や遅く退勤する日があった」と主張。判決は、「ID出勤時刻は、必ずしも実際の勤務時刻を正しく反映したものではないと見るのが相当」として、原告の主張を大筋で認めている。佐川急便は控訴を見送り、判決が確定した。




宅配便の国内取扱総数は年間約36億個。インターネット通販の普及に依って、宅配市場の拡大が続いている。利益率改善の為、宅配便トップのヤマト運輸も佐川急便と同じように2014年に値上げに踏み切った。それに対して、値上げをしなかった日本郵便は取り扱い個数が前期比20%増と伸びている。しかし、取り扱い個数の急増で、日本郵便の『ゆうパック』の配達現場には大きな歪みが生じている。昨年10月、大阪府の吹田千里郵便局では、長年ゆうパックの配達業務を請け負っていた下請けの運送会社が撤退した。その為、年末繁忙期のゆうパックの配送は郵便配達員が担当することになった。同郵便局に勤める中井幸生(46)は勤続28年のベテラン配達員だが、昨年末の配達現場の異常ぶりをこう振り返る。「昨年12月は、午前9時から午後10時まで軽4輪のハンドルを握って配達し続けた。8時間労働プラス4時間の残業が毎日のように続いた。基本は週休2日だが、2週間連続での勤務もあった。サービス残業は無かったものの、1ヵ月の残業時間は100時間を超えた」。同じ郵便局で働く山下伸生(56)は、昨年11~12月にゆうパックの配達を担当したが、2ヵ月の残業時間が約100時間となった。「年度末に、36協定の上限である年間360時間の残業時間を超えそうだった為、特別条項の対象となって労使で協議した。こんなことは30年以上働いて初めて」と言う。残業代は全額支払われた。

こうした宅配業者におけるサービス残業や長時間労働の恒常化は、将来の宅配市場の成長に暗い影を落とす。『賃金構造基本統計調査』に依れば、全産業平均の年間労働時間は2124時間、年収は469万円であるのに対し、宅配便等を扱う中小型トラックドライバーの労働時間は2592時間、年収は385万円となっている。インターネット通販が隆盛を極める中で、ドライバーの労働条件は厳しいままである。 《敬称略》


刈屋大輔(かりや・だいすけ) ジャーナリスト・『青山ロジスティクス総合研究所』代表取締役。1973年、岩手県生まれ。青山学院大学大学院経営学研究科博士前期課程修了後、輸送経済新聞社に入社。物流業界紙『輸送経済』記者、月刊誌『流通設計』副編集長、月刊誌『ロジスティクスビジネス』編集記者・副編集長、メールマガジン『ロジラボ通信』編集長等を経て現職。


キャプチャ  2015年5月30日号掲載


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