【中国・南シナ海での狙い】(04) それは“埋め立て”ではない――国際法に照らせば中国が行っているのは人工島の建設、あり得ない領有権を主張する法的錬金術が加速する

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中国が南シナ海で人工島を建設している――それを証拠立てる衛星写真が昨年に公開されて以来、ジャーナリストや安全保障専門家・各国の政府高官までが、この問題について論点を曖味にする用語を批判も自覚も無く使用している。その用語とは、“埋め立て”だ。日常的な文脈でも法律的な意味でも、今やこれほど乱用されている言葉はない。例えば、中国の外交政策アナリストで復旦大学教授の沈丁立はハフィントンポストに寄せた記事で、「国際法は海上の埋め立てを禁じていない」と述べた。「日本の関西国際空港、香港やドバイも埋め立てをしている」と。だが、その何れも南シナ海での問題とは別物だ。はっきりさせよう。中国が南シナ海で行っているのは、自然作用や人的使用で浸食された地形の改良を目的とする埋め立て工事ではない。中国が行っているのは、人工島の建設だ。中国側は「自らが領有権を持つ島を埋め立てている」と主張するが、これは事実と異なる。実際には、中国は『低潮高地(満潮時に水面下に没し、干潮時に水面上に現れる自然に形成された土地)』や岩礁に人工建築物を造っている。こうした存在は領有権の対象にならず、それを根拠とした領海や領空を主張することもできない。人工島については、国際法で明確に定められている。『国連海洋法条約(UNCLOS)』に依れば、沿岸国が人工島の管轄権を認められるのは、排他的経済水域(EEZ)内だけ。UNCLOS第56条は、「沿岸国はEEZにおいて“人工島・施設及び構築物の設置及び利用”の管轄権を有する」としている。中国が実効支配し、“埋め立て”をしているとする岩礁は8ヵ所だ。その粗全てが、南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンがハーグの仲裁裁判所に、UNCLOSに基づく仲裁を求めた問題の対象として含まれている。

要するに、中国はこうした礁を「法律上の“島”である」と言い張っている。その上で、“島”の領有権のみならず、それらを根拠とする領海やEEZ・大陸棚・領空も主張する。対するフィリピンは、「何れも国連海洋法条約が“島”と認めない暗礁や低潮高地であり、自国の大陸棚或いは公海底の一部だ」と訴えている。中国の人工島建設問題を不透明にしている点は、他にも3つある。第1の問題点は、人工島を根拠に領海や領空を主張する中国の態度だ。UNCLOSは、基線となる沿岸から12海里の水域を沿岸国の領海と規定する。ある海域の管轄権を主張するなら、それに先立って領海基線を公表しなければならない。だが、中国はこれまで西沙群島(パラセル)を除いて、南シナ海で実効支配する地点に関して基線を発表していない。注目すべきは、中国が南シナ海で建設する人工島は、どれもベトナムが実効支配する地点の近くに位置することだ。人工島から12海里水域も領海と認められるなら、中国とベトナムの領海が重なり合うことになる。つまり、中国の“埋め立て”箇所は何れも領有権争いの対象になっている。そして、UNCLOSは締約国に現状変更に繋がる行動を取ることを禁じている。中国が主張する管轄権は、中国の法的錬金術のいい証拠だ。彼らは、海中に沈んでいる地形や岩も“自然に形成された島”に変えてみせる。南シナ海では、問題の人工島付近を飛行するフィリピン軍やアメリカ軍の航空機に、中国側が“我々の軍事警戒ゾーン”から立ち去るように命じる事例が相次いでいる。「アメリカ軍は人工島の12海里以内に軍艦で立ち入らず、人工島の上空を飛ばないようにしている」とも報道されている。それが本当なら、意味するのは中国の法的錬金術の勝利だ。




第2の問題は、ベトナムやフィリピンも中国と似たような拡張工事をしてきたことだ。実際、中国は「これらの国は中国よりもずっと前に埋め立て工事を行っており、中国は同じことをしているだけだ」と主張している。フィリピンで問題とされているのは、パラワン島沿岸の埋め立てだ。だが、パラワン島は自然に形成された陸地で、国際法上も島の定義を満たす。この島はフィリピン領だから、フィリピン政府が沿岸部の埋め立てをすることは、目的に関わらず国際法上の問題は無い。ベトナムの場合はちょっと違う。アメリカのウェブサイト『アジア海洋透明性イニシアティブ(AMTI)』は、ベトナムが2010年以降にソンカ島とウェストロンドン礁を拡張してきたことを示す衛星写真を公表した。「いやいや、それでも中国の埋め立てに比べればちっぽけなもの」――専門家やメディアはそう言うだろう。それでも、アメリカのアシュトン・カーター国防長官はベトナム政府に対して、埋め立て工事を止めるよう求めた。だが、AMTIも各国政府も、南シナ海における“埋め立て”を間違って理解している。重要なのは人工造成の範囲ではなく、その意図だ。中国とASEAN(東南アジア諸国連合)は、南シナ海の領有権争いが悪化するのを防ぐ為、2002年に『南シナ海行動宣言』に調印した。法的拘束力は無いが、「紛争を複雑化または悪化させ、平和と安定を脅かす行動を自制する」という内容だった。フィリピンのパラワン島埋め立て工事も、ベトナムのソンカ島拡張工事も、紛争を複雑化または悪化させていないし、南シナ海における平和と安定を脅かしていない。これに対して、中国の活動は紛争を複雑化させてきた。人工島の建設はUNCLOSに明らかに抵触する行為であり、仲裁裁判所が何らかの決定を下す前に既成事実を作ってしまおうとする行為に他ならない。

既に、中国はこの海域における航行の自由と、上空を飛行する自由、及び漁獲の自由を覆そうとしてきた。最近も、中国が造成した人工島付近を航行していたフィリピンの漁船が、中国軍の艦船から警告射撃を受けたという。また、中国の人工島建設は明らかに地域の平和と安定を脅かしている。中国政府は「人工島建設が国防目的である」ことを表明してきたし、「南シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定する」と示唆した。6月半ばには、「近く“埋め立て”を完了して、港湾や関連施設の建設を進める」と発表した。しかし、ファイアリークロス礁とスービ礁に建設された(又は建設予定の)滑走路は、中国が保有するあらゆるタイプの軍用機に対応できる。ということは、今は民生用と主張している施設が、ある日突然、軍事用の前方基地に変更される可能性がある。中国の人工島建設を巡る第3の問題は、環境への影響だ。UNCLOSの締約国として、中国は海洋環境を保全する義務がある。中国政府は、「環境には十分配慮しており、環境破壊は一切無い」と言い張っている。だが、フィリピン政府と海洋学者の意見は違う。衛星写真も、人工島周辺のサンゴ礁に傷が付いていることを示している。もう一度、はっきり言おう。中国が南シナ海でやっているのは埋め立て工事ではない。人工島を建設して、前方基地を展開する工事だ。長距離レーダー等の軍事用インフラが完成すれば、漁船や海洋資源探査船が停泊する筈の埠頭に、軍艦や軍用機が姿を見せるのは時間の問題だろう。中国は独特の錬金術で、UNCLOSを中国に都合のいい国際法に変えてしまった。人工島という既成事実を作ったことで、南シナ海に“議論の余地の無い主権”を有するという中国の主張は一段と強まるだろう。中国は、東南アジアから国際海洋法の精神を抜き取ってしまった。 (オーストラリア国防大学名誉教授 カール・セイヤー) =おわり

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中国が南シナ海の領有権の根拠とする“九段線”は、その形ゆえ“牛の舌”とも呼ばれています。遠く離れた小島を領土とする国は他にもありますが、中国が領有権を主張する島は明らかにフィリピンやマレーシアの目と鼻の先。他の東南アジア諸国も島を埋め立てていますが、慌ただしい人工島造成は、中国がまるで“牛の舌”で南シナ海を呑み込もうとしているかの印象を、国際社会に与えています。その真意はどこにあるのか、考えました。 (本誌副編集長 長岡義博)


キャプチャ  2015年7月7日号掲載


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テーマ : 中国問題
ジャンル : 政治・経済

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