国内販売激減、リコール続発…名門企業に今何が起きているのか――ホンダが新車を大量放置、埼玉県各所で野晒しの衝撃

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埼玉県熊谷市内、荒川土手にある在庫置き場。見渡す限り、真新しいホンダ車が並んでいる。

「お客様視点を大切にして、数(台数)を追うよりもお客様に夢を与える、ホンダらしい商品を造っていきたい」。全世界で600万台販売の旗を掲げて驀進した伊東孝紳前社長(61)の後を継ぎ、第8代ホンダ社長に就任した八郷隆弘氏(56)が7月6日、初の記者会見でそう抱負を語った。ホンダが今、苦境に立たされている。2015年1~6月の同社国内販売台数は、前年同期比17.9%の減少、落ち込み率は国内11社の中でも三菱自動車に次いで2番目に大きかった。造っても造っても売れない――。それを象徴するような“現場”が、熊谷市・深谷市・本庄市等の埼玉県北部に点在している。売れない新車を一時保管する『モータープール』だ。「私が把握しているたけで、置き場は6ヵ所あります。『全部で10ヵ所近くある』と地元では言われており、1ヵ所に3000~5000台は野晒しで置かれています」(ホンダ関係者)

筆者も、その内の4ヵ所を訪問した。先ず訪れたのが、熊谷市万吉地区。荒川右岸の堤防下の工場跡地に、ホンダの新車がズラリと並ぶ。ざっと数千台はあるだろう。車種は『フィット』『ヴェゼル』『ジェイド』『グレイス』等。ガードマンに「いつから置いているのか?」と聞くと、「答えられません」と取りつく島も無かった。付近の住民に依れば、「2013年にホンダが大規模リコールを起こした後から置かれ始め、近所でも話題になりました。今年の春頃が最も多く置かれていたと記憶しています」という。2ヵ所目は、熊谷市千代地区。雑木林に囲まれた“三本自治会里山保全地”の立て看板がある向かい側の空き地に、ホンダ車がぎっしり。ここにも数千台はあるだろう。近くの畑の地主は、「今春から車が置かれている。ここは遺跡があった場所で、古い壷も出てきた。発掘調査が終わったら工場ができると聞いていたが、いつの間にか新車置き場になった」と語る。入り口近くには、ガードマン用のプレハブ小屋も立っていた。その中には、ホンダ車を運搬している『日本梱包運輸倉庫』の従業員の姿も。そこにいた男性の1人は、「今年の2月から置いています」と話した後、冗談交じりで「1台どう?」と語った。3ヵ所目は、深谷市折之口地区。上越新幹線高架下一帯のコンクリート工場の空き地だ。ここは、4月にモデルチェンジしたばかりの『ステップワゴン』が目立つ。4ヵ所目は、本庄市にある『本庄サーキット』周辺。この土地の所有者で、群馬県高崎市内に本社がある企業の関係者は、「5~6年前にホンダと賃貸契約をしました。『輸出用の車を保管したい』と聞いています。最近は増えたり減ったりです」と説明する。ただ、筆者が見る限り、輸出用の海外向け車種は見当たらなかった。




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人気車種の『フィット』も、ゴムの劣化を避ける為に、ワイパーが上げられた状態で置かれている。

こうして一時保管されている場所は、何れもホンダの主力工場である狭山工場(埼玉県狭山市)と寄居工場(埼玉県大里郡寄居町)から車で1時間~1時間半以内のところに位置する。車種も両工場で生産しているものだ。中でも目立って多かったのが、『フィットハイブリッド』『グレイス』『ジェイド』だ。ホンダの主力車『フィットハイブリッド』は、2013年9月にフルモデルチェンジして以来、立て続けに5度の大量リコールを起こした。その内容は発進・停止できなくなる深刻なもので、新たに採用した燃費を高める部品の制御ソフトウェアが不具合を起こしたことが主な要因だ。ホンダ社内では、「このリコールは“人災”に近い」とも言われる。「規模拡大を急いだ伊東前社長が、技術が未完成の為に発売を渋った技術陣を無理やり押し切って、発売させた車」(ホンダ幹部)だという。相次ぐリコールの結果、ホンダのブランドイメージは地に堕ち、販売店への来店客数が激減。2014年度の国内販売計画は103万台だったのが、実績値は79万台にまで落ち込んだ。これが国内生産にも影響し、狭山工場では昨年10月と11月は金曜日の稼働が止まった。「現在は通常稼働に戻った」(ホンダ広報部)そうだが、国内販売の不振は、輸出が少ないホンダにとって在庫置き場に困るほどの事態に進展している。昨年12月に発売した『グレイス』は、インドで開発した車がベースで、日本向けの車と比べるとチープな印象が否めない。『日本自動車販売協会連合会(自販連)』が毎月発表する上位30位までの車名別ランキングでは、発売当月には10位に入ったものの、その後は低迷が続いている。『ジェイド』については、「中国で開発された車で、現地では人気ですが、3列目の後部座席が狭くて、インターネット上にはユーザーからのクレームが多く載っている。日本の顧客を軽視した車」(ホンダOB)だという。同車は今年2月の発売ながら、翌月には30位圏外に消えてしまった。

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インドやタイで人気の『シティ』をベースにした『グレイス』も、販売台数を落としている。

あるホンダ社員はこう話す。「今のホンダは、多くの従業員を抱える国内工場を止める訳にもいかず、売れない車を造り続けて在庫を増やしている状態。社内では、『グレイスとジェイドには、既に5年分の在庫がある』と囁かれています。何れ、社員や取引先に値引きして叩き売るつもりでしよう」。大量の新車を各地で保管していることについてホンダに問い合わせると、次のような回答だった。「その時々の販売状況に依り、一時的に在庫数が変化することはあるものの、日々適正在庫になるように管理されています。在庫の内訳や保管場所の具体的な数については、販売状況に依って左右されることがある為、申し上げられません。在庫車の場合、屋外保管が殆どの為、お客様が決まった場合には洗車・点検等を行い、納車させて戴いております。品質的な問題は出ておりません」。ホンダは国内に限らず、ドル箱だった北米でも、イメージ悪化と商品力低下から販売が落ち込む。そこに品質維持関連費用や、タ力タ製のエアバッグ問題が重く伸し掛かっている為、円安の恩恵を享受できないばかりか、2015年1~3月は四輪事業が営業赤字に転落してしまった。コスト削減の圧力も高まり、社内には暗いムードが漂う。開発部門では、依願退職する若い社員も増えたそうだ。新社長の八郷氏は記者会見で、世界販売600万台の目標を事実上撤回して“伊東路線”を否定。社員のやる気を引き出して商品力を強化しようと“チームホンダ”を強調したが、前途は多難だ。マツダやスバル等の格下の企業が目覚ましい業績を上げる中、大量在庫という“負の遺産”がホンダに重く伸し掛かっている。


井上久男(いのうえ・ひさお) フリージャーナリスト。1964年、福岡県生まれ。九州大学卒業後、NECを経て、1992年に朝日新聞社に転職。名古屋・東京・大阪の各本社の経済部で、トヨタ自動車や日産自動車・三菱重工業・パナソニック・シャープ等の自動車業界や電機業界を主に担当取材。また、NHKドラマ『メイドインジャパン』や企業を舞台にした社会派ドラマ『ダークスーツ』の脚本制作にも協力する等、幅広く活躍。2005年、大阪市立大学創造都市研究科(社会人大学院)修士課程修了。2010年、同大学院博士課程単位取得退学。著書に『メイドインジャパン 驕りの代償』(NHK出版)・『トヨタ 愚直なる人づくり』(ダイヤモンド社)、共著として『トヨタ・ショック』(講談社)等。


キャプチャ  2015年7月31日号掲載


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