【ゆうちょ銀行&郵便局の株式上場が必ず失敗する理由】(02) ターニングポイントは2017年、国債価格と株価下落のダブルパンチで再国有化からの分割民営化!?――須田慎一郎×龍野和雄

経済の裏の裏まで知り尽くした経済ジャーナリストの須田氏と龍野氏が、日本郵政グループの体質と親子上場の行く末を徹底議論。「2017年が日本経済のターニングポイント」と語る2人の大胆予測。

編集部(司会)「今年の秋に予定されている日本郵政グループの上場については、色々と指摘が出ていますが、先ずは持ち株会社と子会社2社の“親子上場”の問題があります」
龍野「利益相反になるので、本来なら上場は認められません。ただ、郵政民営化法では政府保有の日本郵政株式と、日本郵政が持つゆうちょ銀行株とかんぽ生命株の売り出し・上場が定められていて、親子上場自体は予め想定されていた。それを押し通すということです」
須田「売り出すと言っても、抑々誰が買うんだという問題があります。だって、国は当面の間は日本郵政の株を50%も持ち続ける訳だし、同じく日本郵政も子会社の株を持ち続ける。国が大株主になっているのといないのとでは、企業の性格が全く違ってくるんです。しかも、何れその株を手放すのかどうかもわからない。それでは適正な株価を見極められません」
龍野「国が株を持ち続けるのは、安倍政権が“株価依存内閣”だからでしょう。『株価は上がっている。だから、政権のやっていることは正しいんだ』と言えて初めて、色々な政策を推進できる。だから、株価の上昇基調を支える為に、ゆうちょマネーとかんぽマネーをマーケットに流し込まなければならない。両社に言うことを聞かせる為にも、国が大株主である必要があるんです」
須田「所謂、アベノミクスの“5頭のクジラ”というやつですね。安倍政権は日銀のETF買いに、“年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)”の運用比率の見直し、そして共済年金マネーに依って株価を持ち上げてきた。そして、ゆうちょマネーとかんぽマネーが株価上昇の切り札になる訳です」
龍野「そうですね。しかし、それも須田さんが言う通り、『郵政株なんか誰が買うんだ』という問題をクリアしてこその話です。国が大株主であり続けることも問題ですが、より根本的な問題がある。3社とも、成長戦略が全く無いということです」




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司会「日本郵政傘下の日本郵便がこの2月、オーストラリアの物流大手“トールHD”を6200億円で買収すると発表しています。今後は、海外展開に賭けるということではないのでしょうか?」
龍野「アピールしたかったのは、そういうことでしょう。しかし、あれは上場を前にしての所謂“化粧”というやつですよ。ゆうちょとかんぽの預け入れ限度額の引き上げ論議も同様です。如何にも“成長シナリオ”を持っているように見せかけているんだけど、内実はお寒いものです。マーケットがどの程度まで評価するか、怪しいものですね」
須田「抑々、少子高齢化で人口が減っているのだから、個人の預貯金だって縮小している訳です。そうした環境の中、『ゆうちょの預け入れ限度額を1000万円から2000万円に増やしたからといって、一体誰が預けるんですか?』という疑問が出てくる」
龍野「若者よりはおカネを持っているとされる高齢者の預貯金だって、貯えを取り崩して生活している訳ですから、増える性格のものじゃありません」
須田「かんぽについても同じことが言えます。生命保険のビジネスモデルというのは、死ぬ人よりも生まれてくる人のほうが多いということを前提に成り立っている訳ですから」
龍野「基本的には、かんぽこそアメリカの保険会社を買収するなどして、海外展開に活路を見出すしかないのじゃないですか。郵政と同じく、国の事業から民営化した例のひとつに“JT(日本たばこ産業)”がありますが、ここは海外展開で成功しています。喫煙者人口は海外でも減っているのだけれども、アメリカの“RJRナビスコ”社の海外たばこ事業の買収等で、商売の土俵を大きく広げることができた。既に、国内の2倍の利益を海外で稼いでいます」

須田「日本郵便が株価対策の“化粧”としてオーストラリアの物流大手を買ったのも、一応、そういう前例に倣おうという考えからなのでしょう。因みに、日本郵政の西室泰三社長は、この買収の狙いについて『“時間を買う”ことにある』と言っています。日本郵便の場合、これから物流業で伸びていこうとしても、国内には強力なライバルが多過ぎる。だから海外に出ようということなんだけれども、今のところ、海外で勝負する為のノウハウも無ければ営業基盤も無い。海外でゼロから立ち上げても、それが芽を出し実を結ぶのがいつになるのかわからない」
龍野「それで、ノウハウから営業基盤からそっくり丸ごと買ってこようということなのでしょうけど、しかし、果たして6200億円を投じるほどの価値があったかどうか。フタを開けてみなければわからないけど、もっと他にカネの使い道はあった筈なんです。抑々、日本郵政は超ドメステイックな企業で国際感覚も無い。海外企業と融合できるとは思えませんね。ノウハウが無いのはゆうちょ銀行も同じで、生き残りの為には海外の投資銀行を買収するしかないでしょうね。折角、巨額の貯金を預かっていても、それで買うのは国債だけ。貸し出しなんか殆ど無いから、焦げ付きの心配も無い。リスク管理なんか考えたことすらないのだから、真面な金融機関としてやっていけるかどうか」
須田「実は、住友銀行出身の西川善文氏が日本郵政の社長だった時、本人の口から『投資銀行を買おうと思う』という話を聞いたことがあるんです。龍野さんの言う通り、ゆうちょ銀行はリスク管理とか焦げ付きの処理とか、そういう厳しいビジネスをしてこなかった。だから当然、人材なんかいない訳で、一般的な金融機関としてやっていくよりも、“日本郵政グループ”として巨大な投資ファンドになるほうが合理的なんです。その為の実動部隊として、投資銀行の買収が必要になる」
龍野「例えば、ゆうちょ銀行が国債に充てている資金の2割ぐらいを株式に振り向けただけで、40兆円がマーケットに流れ込むことになります。これはとてつもない巨大ファンドですよ」
司会「それなのに、その実動部隊を連れてくるのに使うべきお金で、物流会社を買ってしまったという訳ですね」
須田「ええ。これは大きな戦略ミスだと思いますね」

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司会「上場後、全国の郵便局なんかはどうなるのでしょうか?」
龍野「現状、日本郵便は基本的には赤字体質で、今後も安定的な黒字化は難しいでしょう。何といっても、非効率なお役所体質が抜けていない。これまでは、ゆうちょとかんぽの黒字で埋め合わせていたのですが、今後はそうもいかなくなる」
須田「小泉内閣時代に郵政民営化の話が持ち上がった時、反対論の中に『そんなことをしたら、山間僻地の郵便局が消滅してしまう』という声がありました。ところが今、郵便局の数は寧ろ増えているんです。民営化で郵便局の数が減ると危惧されたのは、郵便事業が経済合理性に適っていないことを誰もが理解していたからでしょう」
龍野「それにも関わらず数が増えているというのは、放っておくと野放図に肥大化する官僚組織の悪い体質をそのまま引き摺っているということです」
須田「そして本来、上場というのはそういったものを断ち切る為の絶好の機会になる筈なんです。しかし、今回に限ってはどうもそうはなりそうにない」
龍野「国の思惑に沿った上場ですからね。国が親子上場をゴリ押しするのも、親会社を先に上場させて成長性の無いことがバレてしまったら、子会社を上場させられなくなるからです。そうなったら、国に入る筈のキャピタルゲインが減ってしまうじゃないですか」
須田「そういうお上の意向を受け入れながら、いつまでも半官半民的な体質から抜け出せない訳です」
龍野「というよりも、日本郵政は完全に“先祖返り”していて、“民”よりも“官”に寄ってしまっている。2007年に民営化した時、日本郵政グループには代表権を持つ役員が9人いて、そのうち6人が民間出身でした。ところが、今では12人のうち8人が官僚出身なんですよ」

須田「日本郵政を巡っては、西川元社長が政治絡みのすったもんだの中で退任させられ、大赤字の“かんぽの宿”を買収しようとしたオリックスが散々叩かれたじゃないですか。背景には、郵政民営化を巡っての“小泉憎し”“竹中(平蔵)憎し”のポピュリズム的な空気があった訳ですが、そういう理由で商売が壊れるのは、利益の極大化を目指すことが自己目的となっている民間企業にとっては、極めて厄介な話なんです。日本郵政絡みのビジネスはあれ以来、寧ろ民間の側にとってはノーサン キューな存在になってしまった」
龍野「それで、一層“官”に寄り添うようになっている訳です。しかし、長期的に見れば、それは絶対に日本郵政の為にはならない」
須田「同感です。その端的な例が、ヤマト運輸が“クロネコメール便”からの撤退を余儀無くされた問題です。詳しく説明すると大変煩雑になってしまうんだけれども、要するにあの種のサービスを合法的に行うには、全国に約10万本の郵便ポストを設置し、長期に亘って維持管理しなければならないということです」
龍野「そんな条件をクリアできるのは、国の事業としてやってきた日本郵便だけです。民営化しても法的な規制が残っている限り、独占が守られてしまう」
須田「逆の言い方をすると、法律に依って独占を守れている以上、その事業を維持する責任が生じます。その為に、日本郵便は採算度外視の巨大な装置産業になってしまった。そんなものを抱えていては、コストが重い負担になるのは勿論のこと、自由なビジネス展開などできません」
龍野「日本郵便は、2010年にヤマトや佐川に大きく水を開けられていた日本通運のペリカン便と事業統合しているじゃないですか。あの時は大量の遅配が出て大混乱になったんですが、もう1つ、経営上の問題が出ていた。『これを機に効率化しなければ』と言いながら、統合後の給料を高いほうに合わせてしまったんですよ。本来、弱者連合が効率化を図る場合には、給料の安いほうに合わせてコストを減らすものです。しかし、今後はそんなことはできなくなる。赤字企業が給料を上げるなんて、株主が承知しませんから」

司会「そんな現状だと、日本郵政は上場をハイライトに、その後は沈んでいくだけになるのでしょうか?」
須田「上場がハイライトになるというよりも、それに依って“Xデー”に向けてのスケジュールが見えてくるかもしれない」
龍野「カウントダウンが始まるということですね。行きつく先は“再国有化”じゃないでしょうか。その後に分割され、民間が引き受けるという展開もあり得る」
司会「カウントダウンということは、“Xデー”のタイミングは見えている?」
龍野「日本経済は、7年に大きなターニングポイントを迎えると見られているんです。今は一応、『景気がいい』ということになっているじゃないですか。それでも、景気にはサイクルがあるから、何れ必ず下がる。これが、2017年辺りにやってくる可能性が高いです」
須田「2017年の春には、消費税率を10%に上げるスケジュールも組まれている」
龍野「それから、日銀が金融緩和をこのまま続けると、年末にはマネタリーベースが510兆円を上回り、日本の国内総生産(GDP)を超えてしまうんです。アメリカはあれだけ金融緩和をやっても、まだGDPの4分の1に留まっている。日本は既に300兆円を超えている。ここからGDP超えまで行ってしまうことのインパクトは大きいですよ。流石に、日銀もそれまでに出口戦略を見つけてテーパリングを始めなければヤバいでしょう」
須田「そうなると、株価も国債価格も、今のような極めて高い水準を維持していくことは不可能でしょう。最初に話したように、ゆうちょ銀行とかんぽ生命は、これまで国債に振り向けてきた資金の相当部分を、株式投資に切り替えることになる。ということはつまり、国債価格と株価の下落というダブルパンチを受けることになる」

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龍野「その前に、バーゼル銀行監督委員会が国債のリスク見直しを議論しているじゃないですか。最終的な結論は2016年以降になる予定ですが、銀行が保有する長期国債について、将来金利が上昇して損失を被るリスクを、より厳しく見積もるよう求める方向です。日本の長期国債の最大のホルダーであるゆうちょ銀行は、諸に影響を受けます」
須田「現行のバーゼル規制(BIS規制)では、長期国債のリスクはゼロとされている訳ですから、ルールが変更されると、国債を大量に持っている銀行は自己資本比率が変わってきてしまう。因みに、海外で業務を行っていないゆうちょ銀行の場合、BIS規制に準ずる形で4%以上の自己資本比率を求められることになると思うのですが、これは言い方を変えると、自己資本の25倍まで融資債権や株式等の資産に投資できるということになります」
龍野「極単純に言うと、自己資本比率は金融商品等のリスク資産を分母に、自己資本を分子に算出されるので、そういうことになりますね」
須田「そして現状、日本郵政グループの自己資本の大半を占めるゆうちょ銀行の自己資本比率は、46.4%(10兆2000億円)もあるんです。極論すると、ゆうちょ銀行は将来的に国債価格や株価の下落に直面することになっても、自己資本比率で4%を上回る分までは含み損に耐えることができるということになる」
龍野「よく言えば、ゆうちょマネーが日本株下落の“リスクバッファー”になるということですね。悪く言えば“掃き溜め”ということになりますが」

司会「ということは、それで日本経済は助かる?」
須田「まさか(笑)。寧ろ、日本郵政グループの損失は広くマーケット全体に行き渡って、皆がツケを払わされる形になる。何故なら、親子3社の株が大型である溜めに、上場すればあらゆるインデックスに組み込まれていくからです」
龍野「そして、2017年頃から株価下落の局面が始まれば、日本郵政グループの体力が無くなり、郵便事業の赤字等のネガティブ要素が一気に噴き出してきて、それがまた株価全体に影響を与える」
須田「上場さえしなければグループの範囲内で収まるものが、上場することで破壊力がメガトン級になり、マーケット全体を揺さぶるということです」
龍野「そんな危険性があっても、政権は今さえ乗り切れれば構わないのでしょう。国は上場で得られるキャピタルゲインで、財政赤字の穴埋めをして、政権はゆうちょマネーとかんぽマネーで秩価を持ち上げておいて、来年に衆参ダブル選挙を仕掛ける。そこで勝ったら、日本経済が本格的に悪くなる前に総理は勇退――。そんなシナリオで動いていくんじゃないでしょうか」


キャプチャ  2015年7月号掲載


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テーマ : 郵政民営化
ジャンル : 政治・経済

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