日本リード、家電や鉄道で普及――パワー半導体、省エネの切り札…新材料の実用化焦点

最近、『パワー半導体』という言葉を耳にするようになった。半導体といえばコンピューターで情報を記憶したり計算したりする小さな部品を思い浮かべるだろうが、パワー半導体は力を制御するためのもの。電気の電圧や周波数を調整しながら、電車のモーターを効率よく回したり、エアコンの温度をきめ細かく変えたりする。省エネ効果は大きく、電力消費量の削減につながると期待される。日本の半導体産業が衰退するなか、この技術では世界の先頭集団にいる。

パワー半導体の身近な用途がエアコンの温度調整に使うインバーターだ。初期のエアコンはコンプレッサー用モーターの回転速度を一定にして電源のオン・オフで温度を調整した。インバーターは回転速度を連続的に調整しながら室内温度を一定に保つ。年間の電気使用量を50%近く削減できるという試算もある。東芝が1980年に世界で初めて業務用を発売、今では家庭用を含むほとんどのエアコンはインバーター制御になった。現在、インバーターはエアコン以外に冷蔵庫や電子レンジなどの家電製品・エレベーター・鉄道・産業機械など、電気を使う様々な機器に組み込まれる。日本は家電製品や産業機械に強かったため、それに伴ってパワー半導体の開発と実用化も進められてきた。




パワー半導体のほとんどは今もコンピューターの大規模集積回路(LSI)と同じシリコンで作られているが、1990年代後半からは炭化ケイ素という新材料も登場してきた。厚みが同じなら炭化ケイ素はオフ時にシリコンより10倍高い電圧に耐える力がある。逆にこの耐える力を同じに設計すると、厚さを10分の1にできる。電気抵抗が下がり、オン・オフの切り替え時とオン状態の電力損失が減る。三菱電機は2010年にこの新材料で作ったパワー半導体を内蔵したインバーターを使うエアコンを世界に先駆けて発売した。シリコン製に比べて冷房時の消費電力を約6%減らすことに成功した。

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炭化ケイ素製インバーターを組み込んだ電車も実用化が進んだ。三菱電機が2012年に東京メトロの銀座線の旧型車両で実証試験を始め、ブレーキシステムとの併用で全体の消費電力を40%近く減らした。2013年には銀座線新型車両の空調や照明に電力を供給する補助電源、2014年には小田急電鉄新車両の主電源に次々と採用が決まった。東芝も2012年から試験を開始し、2014年には東京メトロに銀座線新型車両の主電源用インバーターを納品した。鉄道に続いて炭化ケイ素製インバーターの出番を待つのが電気自動車やハイブリッド車用の小型モーターだ。シリコン製に比べて、全体の体積が半分になる。「狭いスペースに組み込む」「冷却しやすくする」「民生用のため安価にする」といったいくつもの制約をどうクリアするかが製品化へのカギを握る。

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今年のノーベル物理学賞に決まった青色発光ダイオード(LED)の材料として一躍有名になった窒化ガリウムも、パワー半導体の新材料として注目される。電圧に耐える力は炭化ケイ素より少し上回る。パナソニックは炭化ケイ素製と並行して窒化ガリウム製パワー半導体の開発に注力しており、2013年にはサンプル出荷を始めた。自社では現在、これを使ったサーバー用電源の事業化に向けた研究開発を進める。シリコン・炭化ケイ素・窒化ガリウムに比べると基礎的な研究段階だが、ダイヤモンドもパワー半導体の有力な候補だ。産業技術総合研究所や早稲田大学、東京工業大学が研究に取り組む。政府もパワー半導体を日本の一大産業に育てようと今年度から動き出した。環境省は窒化ガリウム製の早期事業化を目指す研究、内閣府は炭化ケイ素製と窒化ガリウム製の15年先までの実用化を見据えた総合的な研究を支援する。

シリコン製パワー半導体では海外に先行した日本だが、現在は炭化ケイ素製の一部で欧米企業がリードしているという。窒化ガリウム製では、中国や韓国・台湾でも国家プロジェクトが立ち上がった。日本の半導体産業は低電力の電子部品や機器向けでアジア諸国・地域に比べて勢いを失った。一方で高電力の機器とそれに使うパワー半導体はまだ優位性を保つ。矢野経済研究所の予測によると、現在のパワー半導体の世界市場は約150億ドルで、2020年には約300億ドルに倍増する。この成長が期待できる市場で踏ん張るには、鉄道や発電設備などのインフラ輸出と併せパワー半導体を売り込む戦略が必要になってくる。 (黒川卓)


▼インバーター 直流電力を交流電力に変換する電気回路を指す。逆に交流を直流に変換する回路をコンバーターと呼ぶ。両者を組み合わせて交流で入力して電圧と周波数を変換して交流で出力する回路を広義にインバーターと呼ぶこともある。エアコンや電車・産業機械のモーターの回転数を状況に応じて自在に変えることができる。回転数を一定にしたまま、オン・オフで装置の動作を調整するのに比べると、大幅な省エネにつながる。国内で販売されるエアコンのほぼ全てはインバーター内蔵になった。ハイブリッド車や電気自動車にも用いる。


キャプチャ  2014年10月31日付掲載


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