【変見自在】 強い日本が好き

「ペルシャはペルセウスとアンドロメダの子が建国した国だ」と、ヘロドトスが書いている。“ペルシャ”の名もそこから来ているが、この国は本家筋のギリシャとしょっちゅう戦ってきた。スパルタと戦ったテルモピレーの戦いは映画『300』でも描かれたが、そこではペルシャ人は“魔物”として扱われている。理由は多分、ペルシャ人がギリシャの神々を捨て、善悪二元論に立つゾロアスター教に走った、異教徒になったことへの嫌悪があったからではないか。更に、ペルシャ自身も後にアラブの宗教・イスラムに呑み込まれ、本家との乖離は益々広がった。それが動機だったか。20世紀初めに立ったパーレビ朝皇帝のレザ・シャーは、中東で初めてイスラムを捨てて、ヨーロッパに追いつくべく近代化に取り組んでいる。彼はイスラム法に依る裁判を止め、女からチャドルを脱がせ、旅券を制限することでメッカへの巡礼も止めさせた。インフラを整備し、国内に鉄道網を敷き、学校を増やして識字率を高めた。その上で皇帝は1935年、国名を“ペルシャ”から“イラン”に変えた。西欧先進国と同じ、“アーリアンの国”という意味だ。

しかし、西欧側はそう簡単に偏見は捨てなかった。石油利権を握るイギリスの『アングロイラニアン石油』では、「イギリス人の直ぐ下はインド人。イラン人はその下の扱い」(同志社大学の富田健次教授)だった。そんな差別の中、モハメド皇太子とエジプトのフォージャ王女の結婚式が執り行われた。ドイツ・イタリア等が自国機で祝賀使節を送ったのに混じって、日本からは三菱双発輸送機『そよかぜ』が昭和天皇の名代を乗せてテヘランに飛んだ。その2年後にイギリスの戦艦『プリンス・オブ・ウェールズ』を撃沈する96式陸攻をベースにした旅客機だ。イランは、ロシアにも散々煮え湯を飲まされてきた。そのロシアをやっつけた日本が、欧米に負けない自前の機で飛んできたことに、皇帝は甚く感激した。皇帝は日本からの祝賀使節の為に儀仗兵を並ばせ、更に結婚式当日のイラン空軍機に依る分裂祝賀飛行にも、『そよかぜ』の特別参加を要請した。皇太子もその思いは同じで、後に白色革命に臨む時に、「アジアの西の日本たれ」と号令している。この結婚式の数ヵ月後に、ドイツ軍がポーランドへ侵攻し、大戦が始まった。ヒトラーがソ連に侵攻すると、イギリスが「ソ連支援物資をイランの鉄道で運びたい」と要求してきた。皇帝は中立を宣言して申し出を断ると、イギリス・ソ連は直ぐに軍事侵攻してイランを占領し、皇帝を流刑にした。彼らにはイランは昔と同じ、蹂躙勝手のアジアの国の1つでしかなかった。




侮られ、父を奪われたモハメドは戦後、父にも増して強いイランを目指し、石油を武器に白人国家を牽制しようとした。しかし、欧米は強いイランなどいらないから、直ぐ潰した。潰しに使った武器は、彼の父が終生をかけて排除しようとしたホメイニ師等のイスラム勢力だった。1980年代、イラクとの戦争に燃えるホメイニ師の親衛隊『パスダラン』と何度か戦場に行ったことがある。彼らは、「神は偉大なり」と書かれた布を額に巻く。「日本の鉢巻きみたいだ」と言うと、「その通りだ。強い日本に肖っている」と答えた。「アメリカが来たら突っ込んでみせる」とも。時代を超え、体制を超えて、ペルシャ人の中に“強い日本”への憧憬を感じた。安保法制について、鳥越俊太郎が「イランでは“平和を築いた国”として日本は尊敬されていた」と衆議院特別委員会で答えていた。粗同じ時期にテヘラン特派員だった経験から言えば、それは全くの嘘だ。大方のイラン人は、日本が負けたことも知らない。彼はイラクの空襲に怯えて逃げ回り、戦場取材には1回しか行っていない。臆病なくせに、時流に合わせた嘘だけは巧い。


高山正之(たかやま・まさゆき) ジャーナリスト・コラムニスト・元産経新聞記者・元帝京大学教授。1942年、東京都生まれ。東京都立大学法経学部法学科卒業後、産経新聞社に入社。警視庁クラブ・羽田クラブ詰・夕刊フジ記者を経て、産経新聞社会部次長(デスク)。1985~1987年までテヘラン支局長。1992~1996年までロサンゼルス支局長。産経新聞社を定年退職後、2001~2007年3月まで帝京大学教授を務める。『高山正之が米国・支那・韓国・朝日を斬る 日本人をますます元気にする本』(テーミス)・『アジアの解放、本当は日本軍のお陰だった!』(ワック)等著書多数。


キャプチャ  2015年7月23日号掲載


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