【墜ちた東芝】(01) 発端は1本の電話

7月21日午後5時。東芝社長の田中久雄(64、同日付で辞任)はやつれ切った表情で記者会見場に現れた。「創業140年の歴史で、最大限にブランドイメージを毀損した」。田中ら歴代社長3人が辞任し、日本企業全体の信頼を損ないかねない巨額の会計不祥事。半年前、これほどの問題になると予想した人がどれだけいただろうか。

発端は1月下旬、東芝の経理担当者宛てにかかってきた1本の電話だった。電話の向こうの声は、「証券取引等監視委員会の開示検査課」と名乗った。「インフラ事業の会計処理で、幾つか聞きたいことがあります。資料を用意してください」。調査は、東芝からの内部通報がきっかけだ。調査官が浜松町の東芝本社を訪れたのは2週間後。冬晴れの空が広がる2月12日のことだった。応接室での聞き取り調査は数時間に及んだ。監視委は、長期プロジェクトの採算を管理する“工事進行基準”と呼ぶ会計処理に疑問を呈した。進捗に応じて費用を年度毎に見積もり直し、損失が出たらその年度に計上するルールだ。「おかしな点がある」と指摘され、東芝の担当者は「直ぐ社内で調べます」と応じた。実は、監視委は当初から「インフラ以外の分野でも同じ問題があるのではないか?」と疑念を抱いていた。だが、単なるミスなのか、どこまで広がっているのか掴めない。「東芝ほどの企業なら自分で対処できるだろう」との声もあり、あまり重大視されていなかった。東芝は先ず、特別調査委員会を4月3日に立ち上げた。委員長は会長だった室町正志(65)で、社内の役員に社外の会計士や弁護士を加えた。社内には、この問題を飽く迄もインフラ会計処理の誤りに留めたいとする空気が強かった。「当社の一部の案件にかかる工事進行基準における見積もりの合理性という会計処理上の問題」。特別調査委の設置を発表した資料の文言にも、そうした思いが滲む。東芝の担当者も金融機関等を訪れ、「今回の問題は担当者の凡ミスなので、直ぐ解決します」と説明していた。「危機管理の対策委員会を設けるべきだ。責任者を置いて、外部の専門家も雇ったほうがよい」。取締役会で出た意見は見向きもされなかった。社外取締役の1人は、「今思えば出だしから対応が後手に回ってしまった」と唇を噛む。




東芝を土俵際へ追い詰める出来事が起きたのは、5月に入ってからだ。「筋の良くないメールが続々と出てきた」。特別調査委のメンバーから上がってきた報告に、委員長の室町は慌てた。見つかったメールには、損失や費用の計上先送りを示唆する内容が含まれていた。ミスでは済まされず、意図的な会計操作の可能性もある。本当に他部門でも問題が生じているなら、社内の役員が入っている特別調査委ではもたない。室町は、社外の弁護士と会計士だけで作る第三者委員会に調査を移管する腹を決めた。「『インフラ部門で出た問題に蓋をしよう』という動きと、『そうはさせまい』という動きが対立した。社内のゴタゴタが起き、第三者委でもっと調べることになった」と解説する関係者もいる。第三者委の設置や2015年3月期業績予想の撤回と、決算発表の延期を東芝が発表したのは5月8日。「急に発表を止めるのか」。直前に知らされた新日本監査法人の幹部は、唖然とした表情を見せた。東芝の株主は、約3割を保有する外国人を含めて30万人以上。週明け11日の東芝株はストップ安(制限値幅の下限)水準まで急落した。13日には、深夜11時45分になって「インフラ部門の不適切な会計処理で、2014年3月期決算までの3年間で営業利益500億円強の減額修正が見込まれる」と発表。自社の調べで判明した分を一先ず公表した。しかし、最終的に影響額は1562億円まで膨らむ。問題は始まったばかりだった。翌日、田中は東京証券取引所に呼び出され、釘を刺された。「これから報道合戦になるので、適切に対応するように」「有価証券報告書の提出が遅れるのも止むを得ない」「手を抜かず、徹底した調査を」――。外部組織に委ねられた全容解明の取り組み。この後、経営トップの関与が次第に明らかになり、東芝は更に追い込まれていく。 《敬称略》

               ◇

墜ちた東芝。会計不祥事の水面下で何が起きていたのか。


≡日本経済新聞 2015年7月28日付掲載≡


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