【働きかたNext】第7部・女性が創る(01) “バリ”と“ゆる”の間――人生に応じ自ら選ぶ

採用戦線で新たな人材争奪が進む。理系女子(リケジョ)だ。東京都市大学の女子学生(21)には今春、企業から“女子限定セミナー”への参加依頼が相次いだ。重電大手の説明会には、女性ばかり100人。担当者は「女性管理職を増やしたい」と熱弁を振るった。既に大手から“内定”を得たが、今も就活中。品定めに余念がない。企業が狙うのは、将来の幹部候補だけではない。東京等の弁護士会が社外役員候補の女性弁護士計280人分の名簿を作ると、「全部欲しい」とコピーした企業も現れた。「2020年に女性管理職30%」――。政府目標を睨み、企業が人材確保に走る。達成するには、日本全体で非管理職の女性6人に1人の登用が必要。過去5年の5倍速だ。急激な登用は、“女性優遇”との不満を招きかねない。ある大手企業で今春、女性執行役員が誕生した。総務系でキャリアを重ね、40歳代で同期トップの昇格。調整能力や熱心さが買われたが、社内では「抜群の実績は無い。女性だから」との声も漏れる。本人は「早く結果を出す」と必死だ。経営に多様な視点を齎す為に、女性管理職の効果は大きい。重要なのは、数合わせに陥らず、其々の職場の実情に目を向けることだ。「他社に先駆けて数値目標を導入したが、問題が生じた為、撤廃した」。『伊藤忠商事』社長の岡藤正広(65)は、女性支援のイベントで経験談を話す。女性総合職の採用の目標を2008年から3割に高めたが、2011年に撤回。今では1割程度に減った。女性採用を急ぎ、必ずしも商社向きでない人材にまで手が伸びた。育休や時短勤務等の両立支援を厚くすると、制度を使う社員が急増。周囲の負荷が増し、本人のキャリアにもプラスにならなかった。今は人物本位の採用に戻し、支援も困っている人に重点を置く。

『労働政策研究・研修機構』に依ると、女性管理職の42%が独身。男性顔負けに必死に働く“バリキャリ”ばかりでは、管理職を敬遠する女性も増える。育児等の制約がある社員でも管理職が務まる、新たな働き方が必要だ。『コカ・コーライーストジャパン』常務執行役員の青山朝子(43)は、午後6時に退社。残業は週2日、午後7時半までにしている。子供は小学生2人。仕事に家庭、自分磨きにも気を配る。10年ほど前、アメリカの投資銀行からの転職を機に働き方を変えた。当初、女性管理職は1人だけ。バリキャリでも、仕事より自分の生活重視の“ゆるキャリ”でもない。バリバリ働き、早く帰る……第3の道を目指す青山の姿は、後輩たちに新鮮に映った。「“管理職=長時間労働”というイメージが変わった。道は1つじゃないと気づいた」。子供を抱え時短で働く伊藤祥子(35)も目を輝かせる。高まる女性登用の大号令。大切なのは、比率ではなく生かし方だ。価値観や家庭の事情に応じて、働き方やキャリアを選ぶ。その流れを太くすれば、自ずと女性リーダーは増えていく。 《敬称略》




出産や育児等、女性のキャリアには中断期間が入る可能性がある。女性管理職を増やすには、新たな発想が必要だ。『キリン』の長嶋亜美さん(32)は昨年4月、ブランド戦略部のインナーブランディング担当に就いた。社長室の向かいに座り、事業会社のトップや商品責任者の話を聞いて社内に発信、理念の浸透を図る。「責任ある立場で鍛えられていると感じる」と話す。同社は昨年、女性社員のキャリアを前倒しする仕組みを導入した。入社4年目以降の希望者にリーダー級の職務を与え、早く責任ある業務の経験を積ませる。産休や育休で離れる前に管理職の準備を行い、自信をつけて復職してもらう狙いだ。『明治安田生命保険』は、総合職・勤務地限定の総合職・事務職の3コースを4月に、全国型と地域型の総合職に集約。給与も統一した。転勤を伴う全国型には、別途手当を上積みする。地域型を選んでもキャリアに傷はつかず、実力があれば役員や社長にもなれる。ライフステージに合わせて働き方を選べる仕組みで、現在15.6%の女性管理職を2020年までに30%程度に上げる方針だ。『三菱商事』は4月、新たな在宅勤務制度を試験的に導入した。「時短でも、在宅勤務を合計すればフルタイム勤務に見做す」と言い、女性社員で適用したケースが出た。一本道ではない女性のキャリア。其々の事情に応じた支援策が求められる。

               ◇

「2020年に、指導的地位にある女性の比率を30%に引き上げる」という安倍政権の政策を睨み、大手企業が一斉に女性管理職の数値目標導入に動いている。では、そうした企業で実際に女性管理職は増えているのか? 社内で不満や悩みは無いのか? 導入企業で働く女性たちに、覆面座談会の形式で本音を語ってもらった。

Aさん メーカー・営業職・26歳
Bさん 金融・人事・39歳
Cさん 流通・事務・37歳
Dさん 金融・営業管理職・38歳
Eさん メーカー・企画職・32歳


――皆さんが働いている会社では、女性管理職の数値目標を導入しています。実際に女性管理職は増えましたか?
C「数値目標公表の前後に、一気に課長職の女性が増えました。ただ、それに依って男性が弾き出されるというよりは、役職のポストも増やしています」
D「数値目標は大々的に公表していませんが、5~6年前から積極的に女性を登用する会社の意思を感じました。ただ、総合職は女性の数自体が少ないので、役員をあえて据えたりしていますね」
E「目標設定前後で登用されたのは1人聞いただけで、本流ではない小さな部門の管理職です。あまり広まっているとは思えません。その女性自身は、『会社は目標を達成したいが、本流(部門)の管理職を女性に渡したくないから、自分をそのポストに登用したようだ』と話していました」

――数値目標に対する社内の反応はどうですか?
A「男女共にネガティブな反応は感じませんね。ただ、女性の管理職は独身や子供がいない人が多いので、『男と変わらない人が出世しているんじゃないか?』という声は聞こえます」
C「役職の数自体が増えたので、ポストを取り合う雰囲気は無く、『まあ頑張ってね』という感じです。ただ、(販売や営業等の)現場を経験せずに管理職になった女性もいます。『何であいつが…』とまではいかなくても、困ったことがあった時等、『彼女に話しても仕方がないしね…』という男性は多いですね」
B「飲み会等で女性管理職と一緒になると、『孤独で大変そうだな…』と思うことはあります。男女共通の管理職としての孤独に加え、気疲れというか…」
D「若い女性が管理職に就くと目立つので、色々な声があると思います。ただ、男性でも実力が無い人が管理職に就くことはありますよね。男女の問題ではないように思います。女性活用に関しては、会社が積極的に進めていることもあり、言うほうも言われるほうもネタとして割り切っているかもしれません」

――皆さん自身は自分や同僚女性の働き方、また数値目標の設定についてどう感じますか?
C「会社の中を見ると、女性は『バリバリ働いて出世したい』というより『結婚・出産後も長く働き続けたい』という希望が強いように感じます。でも、数値目標もそうですが、のんびり行くのはだんだん厳しくなってきています。私は長く気楽に働きたいですが…」
B「私自身は、あまり出世欲はありません。ただ、入社の頃から男性と同じように頑張ってきた総合職女性が出産等で後れを取るのは、出世欲の無い私でも見ていて悔しく感じるので、数値目標の設定は良かったと思っています」
D「私自身は管理職です。個人のスキルの問題もありますが、やり方次第でさっと帰宅することも可能です。時間的には、管理職の方が楽な面もあります。それに、管理職の立場にあれば、早帰り等で少しずつ(職場を)変えていくことができますよね。管理職は大変とは思わないし、そう思われてはいけないと感じています」
E「優秀な女性は、現場での先進的な挑戦をリードしていることが多いです。ただ、経営層にパイプが弱く、孤立無援になりがちで、会社の大きな意思決定に繋がっていないという印象があります」

――数値目標の設定は、会社の成長に繋がると感じますか?
E「私の働いている会社で言えば、中長期的には成長に繋がると思います。女性の顧客視点を持ったマネジャーが増えることは、事業機会を広げることになります。ただ、一般的に女性の目線は低く、事業活動をリードする意欲と能力があるとは言えません。短期的に(業績が)落ち込むことは必至ですが、教育を続け、環境を変え続け、幸せな女性マネジャーのロールモデルさえ作り出せば、次の世代の優秀な女性は意欲を持って頑張るように思います」
B「安倍政権が掲げる“2020年までに30%”というのは無理があると感じます。金融は歴史的に男性社会だったので、急に数を増やして支店等の業務が上手く回るのかは疑問です」
A「ダイバーシティーでは『先ずは女性から…』となるので、女性活用が何れ外国人や障害者に広がるならメリットはあると思います。ただ、あの数値目標の達成は厳しいかな…」
D「女性の活躍推進は、頭で理解するよりも、事実を重ねることで浸透していくと思います。“逆差別”という声もありますが、先ずは流れを作っていくことは大切だと思います。コマを最初に回す力のようなものでしょうか」

――貴女の会社の働き易さと女性活用を、100点満点で採点するとしたら何点ですか?
A「働き易さは、男性も女性も働き易いので85点。女性活用は…あと10年くらいは40点程度でしょうか」
B「辞める女性は殆どいないので、働き易さは80~90点。女性活用に関しては無理やり感が少しあるので50点かな」
C「働き易さはかなり高得点です。活用推進は、『本当にできるのかな…』と思うので30点」
D「ちょっと高過ぎるかもしれませんが、働き易さは100点ですね。女性活用も、あと5年くらい経ったら100点になると思います」
E「セクハラもパワハラも無く、休みも貰い易く、働き易さは100点です。女性活用は、まあ50点ぐらいかな」 (司会・構成は松本史)

               ◇

女性活躍を後押しする安倍晋三政権。第7部は、女性たちが創る日本の新しい働き方に迫る。


≡日本経済新聞 2015年6月21日付掲載≡
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