【中外時評】 理工系の女性にエールを――ロールモデルで活躍後押し

当初は男性のみだった帝国大学に、初めて女性が入学したのは1913年だった。東北帝国大学が女性に受験を認めたのだ。「頗ル重大ナル事件」。文部省が何事かと大学に文書で問い合わせたほどのニュースだった。入学した3人の専攻は化学が2人、数学が1人。日本初の女子大生は皆、理工系の女性だった。それから100年余りが過ぎた。女性の大学進学率は年々高まり、2014年度は粗2人に1人にまでなった。では理工系の女性の活躍は? 残念ながら、道はまだ途上だ。

理学部や工学部を選ぶ女性は、男性に比べて少ない。全学部に占める女性の割合は44%だ。だが、理学部では4人に1人、工学部では8人に1人しか女性がいない。専攻する学生の少なさは、将来の進路にも影響する。総務省の科学技術研究調査報告に依ると、企業や大学等で働く研究者のうち、女性は14.6%だ。イギリスの37.8%、アメリカの33.6%等、他の先進国に比べ著しく低い。とりわけ薄いのはトップ層だ。女性教授は理学部で5.2%、工学部で3.6%のみ。この傾向は、企業の管理職比率を見ても明らかだ。全体の平均が8.3%(100人以上の企業)なのに対し、技術系の社員が多い製造業では3%に留まる。少子高齢化が進む中、意欲と能力のある女性が活躍できるようにすることは、日本にとって欠かせない課題だ。とりわけ日本は科学技術立国を掲げている。このままでは国際的な競争でも後れを取りかねない。人材育成の必要性は、これまでも繰り返し指摘されてきた。これまで女性が少なかった重工業や建設等の企業からも、女性の人材を求める声は高まっている。政府は6月に纏めた『女性活躍加速のための重点方針』の中で、改めて“女性の理工系人材の育成”を打ち出した。今こそ、ギアをもう一段上げる時だ。その為には、2つの取り組みが要る。1つは、企業や大学が具体的な目標を持って、女性が力を発揮できるよう環境整備などに取り組むこと。もう1つは、活躍する女性をロールモデルとして、後進の女性たちに示すことだ。この2つが進むことで、目指す女性の裾野が広がる。そんな好循環を作りたい。




例えば、管理職の女性比率を8.2%まで高めた『日産自動車』。人材の多様化を経営方針に掲げ、積極的な採用や事業所内託児所の整備等を進めた。それに依り、社内の様々な層に女性が増え、若い社員や学生のロールモデルになっている。2015年4月入社では、技術系に占める女性比率は17%だ。目安としてきた15%を上回る。ロールモデルと身近に接することは、まだ将来の進路を決めていない子供たちにとっても大切だ。経団連はこの夏、内閣府と連携して、会員企業に理工系の職場見学等のイベントを開くよう呼びかけた。実際に働く姿を見ることで、子供たちが自分の選択肢を広げるきっかけになる。こうした試みはもっと広がっていい。「子供たちが興味を持てばそれでいい」というものではない。親への働きかけも欠かせない。『家族でナットク!理系最前線』。東京大学が理学部や工学部・農学部等への進学を増やそうと、女子中高生向けに開くイベントのキャッチフレーズだ。進路選択には親の考えも影響する。一緒に足を運んでもらい、大学の最新の状況や進路について知ってほしい。そんな願いが込められている。「どう育児と両立しているのか?」「親の反対はなかったか?」――7月のシンポジウムでは、大学教員や起業した女性らが様々な話題を語り、参加者は熱心に耳を傾けた。

日本ではまだ、「理工系の仕事は男性の仕事」「女子は文系」といったイメージが根強い。「理工系を目指す女性が増え、企業や大学で活躍する。このパイプラインを通す為には、親や教師に理解を深めてもらい、社会全体で性別役割分業意識を無くしていくことが不可欠だ」。『リコー』で常務執行役員を務め、今は芝浦工業大学で女性研究者の支援に力を入れる国井秀子学長補佐兼教授は話す。大事なのは、1人ひとりの個性や興味を生かし、その人ならではの可能性・能力を伸ばすことだ。それが日本の強さとなる。その為に、企業や大学・政府にできることは多くある筈だ。 (論説委員 辻本浩子)


≡日本経済新聞 2015年8月9日付掲載≡


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