新・地方豪族“ニッポンの虎”、地元を守るのは俺たちだ――全国で跋扈し始めた“虎”たち、社長や新卒がいない会社も

戦後70年。大企業の工場や支店と共に日本の地方を支えたのは、戦国武将さながらに全国各地に点在した有力地場企業グループだった。だが、急速に進む地方衰退の前に、破綻に至る嘗ての名士すら出てきた。そんな中、全く新たな地域経済の担い手が出現し、注目を集めている。人呼んで、新・地方豪族“虎”。知られざるその素顔と、破天荒で独自の経営手法を明かそう。 (宇賀神宰司・西雄大・中尚子)

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「こんなふざけた話があるか。とことんやりあえ」――。2014年夏、福井市に本社を置く『エル・ローズ』の前川長慶社長は、社員にこう檄を飛ばした。怒りの理由は、『ガリバーインターナショナル』の出店攻勢だった。エル・ローズグループは、それまでガリバーのFC(フランチャイズチェーン)店を福井県内で展開し、「売上高は全国のFCの中で1~2位だった」(前川社長)。ところが、ガリバーはエル・ローズグループが運営するガリバー福井大和田店から3kmの場所に、直営店をオープンすることを決めた。同じ看板を掲げた店が近所にできれば、既存店への影響は避けられない。「しっかりロイヤルティーを納めている限り、事前の相談も無しに本体が競合する場所に乗り込んでくることはない」。そう信じていた同社にとって、ガリバーの襲来は“裏切り”“宣戦布告”以外の何物でもなかった。ガリバーの“挑戦”を受け、前川社長は即座にFC契約の打ち切りを決める。そして、翌月には自社の自動車販売店として『売ッチャリ買ッチャリしろぼし福井大和田店』という看板を掲げた。その後、社員一丸となって地元ネットワークを最大限に活用した猛烈営業を展開し、看板掛け替えから1年近くたった2015年5月の粗利は、FC店だった前年同月の1割増。今も、ガリバーの直営店に真っ向から立ち向かっている。前川社長が1979年に創業し、今年36年目を迎えるエル・ローズ。その信条は単純明快。「生き残る為なら、何でもやる」だ。自社の営業地域に競合相手が進出してくれば、相手が東京の大企業であろうと徹底抗戦する。合言葉は、「売られた喧嘩はとことん買う」。県内限定ながら、圧倒的営業力は中古車販売に留まらず、例えば中核事業の1つである酒類販売でも、ウイスキーで31%・ワインで27%と県内トップシェアを持つ。また、顧客の要望があれば、どんなに不慣れな事業にも挑戦するのもエル・ローズ流だ。創業当初は補整下着の製造販売が主力だったが、顧客のニーズに応えているうちに事業領域はどんどん拡大。中古車販売や酒類販売以外にも、物流・スポーツクラブ・テーマパーク・カルチャーセンター・介護まで手掛けるようになり、今では年商235億円、福井県民の生活に欠かせぬコングロマリットとなった。

東京の大企業の中には、“集中と選択”“成長ストーリーに沿った効率投資”等を掲げ、寧ろ事業領域の絞り込みを進める動きが目立つ。だが前川社長は、「机上の経営理論より目の前の顧客の声に耳を傾けたほうが、生き残る確率は遥かに高まる」と考える。「事業が拡大する中で、福井以外での事業展開を検討した時期もあったし、事業の数も昔はもっと少なかった」。そう話す前川社長の経営スタイルが今の形になった背景には、バブル崩壊から2000年代にかけて進んだ福井経済の地盤沈下がある。繊維や眼鏡・伝統工芸品等、地域の雇用を支えていた地場産業が衰退。公共事業頼みだった建設業も縮小し、1996年度に約296万円あった1人当たりの県民所得は、2009年度には約266万円まで落ち込んだ。人口も着実に減少し、1990年代初頭、最盛期の約83万人が2015年3月には79万人を切った。市場縮小が進む中、大企業は益々都心に回帰し、娯楽施設どころか場所に依っては日常の買い物すらままならない。そんな現実を前に、前川社長やエル・ローズの社員たちは次第に「地元の経済を守れるのは自分たちしかいない」という覚悟を固めていく。実際に、地域の生活インフラと自分たちの雇用を守る為、多角化戦略を本格化させたのは2000年代中盤から。地域経済の衰退で売りに出される地場の中小企業は多く、買収先には事欠かなかった。「兎に角、生き残ること」を最優先するエル・ローズの経営には、営業スタイルや事業領域以外でも、東京の大企業では先ず見られない様々な工夫が見受けられる。その1つが、社員を辞めさせない仕組みだ。様々な業態をグループ企業に抱えるエル・ローズでは、若い社員が辞意を表明すると“グループ内企業への転職”を斡旋する。一部を除いて給与体系を統一している為、例えば、自動車販売部門に入社し営業文化に馴染めなかった者が、衣料品製造部門に異動することができてしまう。また、人材確保策の一環で、給料は“県内同規模企業の平均の1.2倍”で原則固定されている。何れも、2015年5月の有効求人倍率が1.57倍(全国平均は1.19倍)と一際“人手不足”が深刻な福井だからこそ生まれた知恵と言えるだろう。

エル・ローズが覇権を握る前、福井には『小野グループ』という“地方豪族企業”があった。最盛期の年商は200億円超。空調機器メーカーの『ローヤル電機』を核に、日本最大のアルミ鍛造メーカー『ワシ興産』等14社を抱える、北陸有数の地場コングロマリットだった。が、そんな小野グループも、不正経理の発覚等から2012年に中核3社が破綻。嘗て危機に陥った地場企業を次々と再建し、“北陸の駆け込み寺”と呼ばれた面影はない。今の福井では、間違いなくエル・ローズこそが地域経済を支える“新・地方豪族”と言っていい。徳島の『大塚グループ』・岡山の『林原』・北海道の『加森観光』……。戦後70年、大企業の工場や支店と共に日本の地方を支えたのは、紛れもなく戦国武将さながらに全国各地に点在した有力地場企業グループだった。だが、「そんな“現代の地方豪族”とは別の全く新しい地域経済の担い手がここ数年、全国的に出現している」と主張する専門家がいる。資産運用会社『レオス・キャピタルワークス』CIO(最高運用責任者)の藤野英人氏だ。藤野氏に依ると、そうした新勢力には幾つかの共通項があるという。1つは事業形態。「多くの場合、建設業など地場産業を母体に、コンビニ経営や介護・中古車販売・飲食等の異分野へ進出し、小さなコングロマリットを形成している」(藤野氏)という。また、「経営方針もよく似ている」と藤野氏は指摘する。衰退した地元中小企業を矢継ぎ早に買収し、地元が求める業態なら何でも手掛け、生き残る為には東京の大企業相手にも一歩も引かない――。そんなアグレッシブな経営姿勢を見て藤野氏は、彼らを“ヤンキーの虎”と呼んでいるという。

本誌は今回、藤野氏の助言の下、独自のネットワークを活用し、全国の“虎”を調査した。注目すべきは、そんな虎たちの多くが“越前の虎”エル・ローズ同様、厳しい経営環境に適応する過程で独自の進化を遂げ、極めてユニークな経営を展開していることだ。何れも、“虎”という異名に相応しく、過激で破天荒な仕組みが並ぶ。例えば、携帯電話ショップや飲食店を運営する“石狩の虎”『ネオコーポレーション』(北海道札幌市)は、「北海道に無い事業なら何でもやる」という超積極性が持ち味。建設業を中心に事業を展開する“丹波の虎”『ヨネダ』(京都府福知山市)は、「完成寸前でも顧客が不満なら建て直しも辞さず」という捨て身の超顧客主義がモットーだ。同じく建設業の“陸前の虎”『ナスキー』(宮城県仙台市)も、「顧客が望むなら草刈りでも家事でも請け負う」と便利屋になることも辞さない。更に、外食や住宅販売を手掛ける“安芸の虎”『A&C』(広島県廿日市市)は、「社員を転勤させたくないから、飲食店の出店は廿日市市から車で行ける範囲」という超従業員第一主義を掲げる。そんな各地の虎たちの素顔と独自の経営手法を、更に詳らかにする。




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【虎たちの人事組織】 大事なのは結果のみ、組織の形なんてどうでもいい
多くの大企業は膨大な費用と人材を投じて、人事制度や組織の形を変え続けている。だが、“虎”は形には一切拘らず、変幻自在の会社運営を展開している。愛媛県松山市に、“社員ゼロ”を目指す会社がある。事業を止める訳ではない。社員の大半を役員にしようというのだ。具体的には今後、現在展開している事業を本体から切り離して子会社化し、既存社員をその子会社の役員として配置する。子会社の経営は、送り込まれた役員たちに全面的に委任され、利益が出れば内部留保しようが自らの報酬にしようが、本人たちの自由。子会社内での人事も、経営方針も、残業代も、休みも決めるのは自分たちだ。「これ以上に、良い組織の形は存在しないと思う」。前代未聞の人事制度の確立を図る、“伊予の虎”『エイトワン』(愛媛県松山市)の大籔崇社長は、こう話す。創業は2006年。大籔社長は、愛媛大学在学中はパチンコで小遣いを稼ぎ、卒業後も株式投資で生計を立て、「ニート同然の生活」(大籔社長)を送っていた。それが心機一転、2006年に株式投資で得た資金を元手に、道後温泉の老舗旅館を買収。その後は急速に事業を拡大し、現在は旅館・ホテル運営の他、今治タオルや愛媛産ミカンを使った食品の販売等も展開する。年商は約20億円。規模はまだ小さいが、“自称ニート出身”という大籔社長のユニークな経歴もあって、最近はメディアへの露出が急増。大王製紙事件以降、地場産業の衰退に拍車のかかった感のある愛媛にあって、新しい地域の星になりつつある。

大籔社長が構想する“全社員役員制”は、ブラック企業批判を浴びる危険性もある。役員になれば労働基準法の保護から外れ、労働時間の上限等が無くなるからだ。大企業から見れば、ブラック批判が喧しい昨今、冗談でも口に出せない驚天動地の戦略だ。それでも、大籔社長は気に留める様子はない。「どんな人も、社員という立場でいる限り、幸せに働くことはできない。リスクは無いが夢もない。周囲に対する不満や愚痴だけが増えていく。それならば、1人ひとりが自らリスクを背負い、自分の裁量で仕事ができる組織の方が余程健全で、良い組織と言えると思う」(大籔社長)。2015年4月には、ミカンを使った食品の販売事業を子会社化。エイトワンの社員2人を同社の取締役にする等、既に構想は着実に動き出している。「2人とも役員になった途端、アイデアが格段に出てくるようになった」と大籔社長。今後も子会社化と事業の多角化を推し進め、可能な限り社員を役員にしていく。“全社員役員登用制度”は採用時にも説明しており、「今後は、入社と同時に役員になるケースも出てくる予定」(大籔社長)だ。

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組織としての成果を最大化する為、破天荒な組織作りを進める“虎”は、エイトワンだけではない。様々なジャンルの飲食店を運営する“豊後の虎”『めいじん』(大分県大分市)もその1つ。同社の木須信浩社長は今、徹底した“見えない化”に取り組んでいる。同社の創業は1979年。木須社長は2代目で、九州では珍しかった1皿100円均一という値段設定を回転寿司店に導入したことを機に、事業拡大に弾みを付け、今では外食だけで10業態以上、その他にも温浴施設の運営等も手掛ける。エイトワンの大籔社長もユニークだったが、木須社長も負けてはいない。大学時代はビジュアル系バンドの『X JAPAN』に憧れて髪を赤く染め、今は「坊主頭にかりゆしにサンダル」という如何にも“虎”らしい豪快なスタイルで出社する。そんな木須社長は何故、東京の大企業の多くが“効率化・業績向上の切り札”として挙って進める“見える化”を否定するのか。実は、以前は同社でも、運営する全て支店の売り上げ等を店長同士が互いに見られる仕組みを導入していた。売り上げや費用等の数字を社内で共有すれば一体感も醸成されるし、競争原理が働くことで切磋琢磨し合うと思っていたからだ。だが木須社長は、「そんなものは全くの嘘っぱちだった」と笑う。「見える化すれば競争するなんてのは幻想で、現実には皆が下に合わせるようになるだけ。自分たちより成績が悪い部署を見て安心するから、組織としてのパフォーマンスは却って下がる」(木須社長)。そう考える根拠もある。ある時、「システム障害が起こった」と嘘を吐き、他店の売り上げが見えないようにした。すると、他店の状況がわからず、不安に陥り奮闘する結果、各店の売り上げが揃って伸びたのだという。「今は、全店の売上高を見られるのは、自分と外食事業を統括するマネジャーの2人だけ」と話す木須社長。今後も見えない化に限らず、常識に囚われない仕組みを模索していく考えだ。

ここで紹介した2社以外にも、成長を続ける虎の中には独自の組織形態・人事戦略を確立しているところが多い。寿司店・コーヒーチェーン等を手掛ける“日向の虎”『一平』(宮崎県宮崎市)は、“社長がいない会社”だ。2代目の村岡浩司社長は、現業は全て社員に委任。自らは、次の商売の種を探すスタイルをもう7年続けている。カラオケボックスやインターネットカフェ・レストラン等を展開する“北見の虎”『タカハシグループ』(北海道網走市)は創業以来、新卒採用をしたことがない。社員も役員も、全員アルバイト上がりだからだ。3代目である高橋洋一社長も例外ではない。大学時代にアルバイトで入社し、現場修行を経て2013年に社長になった。虎たちの組織作りにタブーは無い。方針はただ1つ。“結果が出るなら何でもあり”だ。

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【虎たちの社内活性化】 頑張ったヤツがいい思いをする、そうすりゃ組織は自ずと活気付く
飲み会・運動会・社員旅行・合宿……。大企業は組織活性化の為に、様々な工夫を重ねている。だが、虎たちの社内活性化は極めてシンプルだ。住宅販売や建設を主力とする“上総の虎”『ネクストワンインターナショナル』(千葉県千葉市)。毎朝、出社時刻になるとメルセデス・ベンツやアウディ等、社員が乗る高級外車が優雅に駐車場に滑り込んでくる。何れも、創業者である遠藤一平社長が、成果を上げた社員に褒美として“プレゼント”したものだ。ネクストワンは2010年の設立。不動産仲介に住宅建設も手掛け、2013年度には新興企業にも関わらず、千葉県袖ケ浦市と市原市で新築着工件数がトップになった。年商は40億円に上る。急成長の原動力は、徹底した信賞必罰だ。「組織を活性化することなど、全く難しくない。頑張った奴にいい思いをさせて、『自分もああなりたい』と周りが思うようになれば、組織は自ずと盛り上がる」。遠藤社長はこう話す。特徴的なのは、必ずしも給与で報いる訳ではないこと。「給料で意欲を引き出そうとする企業は、家族を抱える男性社員の厳しい現実を全くわかっていない。給料を増やしても、喜ぶのは嫁や子供たちだけ。本人の小遣いなど、先ず増えない。だから、ウチはなるべく現金では報いないようにしている」。遠藤社長はこう話す。高級外車は、同社が活躍した社員に与える褒美のほんの一例だ。成果を上げた社員を引き連れ、六本木のキャバクラを豪遊することも少なくないという。3人で数十万円クラスのクラブに行くこともあるというが、遠藤社長は「連れていくメンバーはその何倍も会社に利益を齎してくれる。それを考えれば安いもの。周りの人間が羨ましがるレベルの褒美でないと意味はない」と意に介さない。

読者の中には、「極端な“飴と鞭”は組織の人間関係をギクシャクさせる」と考える人もいるだろう。実際、大企業の中には成果主義を導入しながら、不協和音を恐れて極端な差を付けないケースも少なくない。だが、ネクストワンに限らず、虎たちの多くは「職場の雰囲気が良くなっても、成果が上がらなければ何の意味もない」「頑張った奴もサボっている奴も平等に扱えば、組織は成り立たない」と考える。また、大企業の中では、飲み会や運動会・社員旅行等で交流を深め、チームワークを高めることで、組織の活力を上げようとする試みも一般的だ。それに対し、虎たちの多くはそうした取り組みを「子供騙し」(ある虎の関係者)だとして、あまり関心がない。大企業に勤める読者の中には、「信賞必罰ができるのは、成果が数字ではっきり捉えられる営業職場だから」と思う人もいるかもしれない。だが現実には、虎たちの多くは営業職場以外にも同様の制度を導入している。全国の“虎事情”に詳しい『トーマツベンチャーサポート』の前田亮斗氏は、「多くの虎は、本当に頑張っている人間と頑張っているふりをしている人間を見抜く術を持っている」と指摘する。ネクストワンにはもう1つ、組織活性化の為に心掛けていることがある。それは、社員を“差別”しないことだ。成果を上げた社員も褒美を貰った次の日には、再び他の社員と同じスタートラインに戻る。新入社員でも、結果さえ出せばベテラン社員同様の褒美を与える。採用に年齢制限も無く、「約束を守れる人なら何歳でも構わない」(遠藤社長)。学歴も拘らない。大企業の多くは、口先では平等を謳いながら、実際には新卒での就職に失敗した者への門戸を狭める“年齢差別”や、育児中の女性等の重用を避ける“性差別”を続行。日本人と外国人、正社員と派遣社員で其々給与体系を変える“国籍・身分差別”も止めようとしない。そんな大企業とは対照的な姿勢と言える。

ネクストワンが社員をとことん平等に扱うのは、「どんな者にもやる気さえあればチャンスはあるという空気を醸成しないと、信賞必罰は機能せず、社内の雰囲気も悪化する」と考えるからだ。採用段階から徹底的な平等主義を貫く結果、ネクストワンの社員はバラエティーに富んでいる。「中には、若い頃に相当“やんちゃ”をしていた社員も1人や2人ではないが、そうした社員の方が大卒社員より成果を上げることも多い」と遠藤社長は笑う。


キャプチャ  2015年8月10日号掲載


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