【1億総貧困時代】(01) 統計データからは見えてこない――中高年・高齢者に急増している“隠れ貧困層”の悲惨な実態

若い女性の貧困が頻繁にメディアで取り上げられている。しかし、貧困に蝕まれているのは何も若い女性だけではない。鬱病や親の介護に依る離職で貧困に陥る中高年層は増加し、住宅ローンが原因で破産する高齢者も後を絶たない。経済の右肩上がりの成長は終焉、賃金は低空飛行を続け、物価の上昇は止まらない。今後、益々高齢化する日本の人口構成を考えれば、誰もが“貧困”とは無縁でいられない時代が到来したと言える。我々は既に、貧困という釜の中で“茹で蛙”の状態にあるのか――。 (取材・文 新郷由起)

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「私たちが接する生活困窮・貧困の相談者は、6割以上が50~70代の中高年男性です。しかも、殆どが決して無鉄砲・無計画に生きてきた人たちではありません。相応に人生設計をして、極普通に真面目に働いてきた人たちが、中年期以降に貧困に曝されている。相談者の誰もが異口同音に口にするのは、『想定外』の一言です」。こう話すのは、12年に亘り生活困窮者支援を続けるNPO法人『ほっとプラス』代表理事の藤田孝典氏だ。女性や子供の貧困は、様々な実態が報じられるようになって久しい。しかし藤田氏は、「可視化が極めて困難で深刻なのは中高年男性の貧困層だ」と指摘する。「中高年男性は、何らかの問題を契機に生活が立ち行かないレベルにまで困窮してしまう例が多い。しかし、この世代は人に相談することが少ない為、中々表面化しない。中高年の貧困層は年々増加し続けており、『自分だけは大丈夫』の思い込みこそ非常に危険です」(藤田氏)。最も多いのは、自身の病気や事故、家族の介護に依る離職・退職に加え、医療費や介護費用が嵩み、瞬く間に貧困へ転じるケースだ。中でも近年、増加しているのが鬱病に依る離職・退職だ。

誰もが知る有名菓子メーカーに勤務していた田所勇一さん(仮名・57歳)は46歳の時、上司との折り合いが悪くて鬱病を発症した。休職と時短勤務を繰り返す中で給与の大幅カットが続き、51歳で自主退社を余儀なくされる。通院しながら自宅療養を続けていた3年後に、生活費の為にパート勤務中だった妻に乳癌が発覚。勇一さんは鬱病を隠し再就職を試みるが、完治していない為に1ヵ月も続かず退職する。その後も再就職と退職を繰り返すが仕事は続かず、病状をより悪化させてしまう。退職金はとうに消え、貯金もみるみるうちに底をつき、9万3000円の家賃の支払い日に怯える状態となった。「実家に泣きつこうにも、認知症の母の介護で父も憔悴しきっており、『いっそ死ねたらラクなのに』と毎日自殺ばかり考えていました」(勇一さん)。結局、妻の姉夫婦が妻子を引き取り別居。勇一さんは家賃4万1000円のアパートで1人暮らしをしながら、現在は内職や不定期のアルバイトで細々と食い繋いでいる。「人気企業に就職して出世街道まっしぐらだった自分は、大学の同期から常に羨ましがられる存在でした。こんな未来になるとは、露ほども思っていなかった。老後も恐いけど、今は1日を死なないで生きるのに精一杯です」(勇一さん)。また、自助努力では抗い切れない問題から貧困に陥る例も多い。「子供がワーキングプアや引きこもりで成人以降も扶養し続ける中高年層も多く、本人が認知症と気付かないまま悪徳業者に騙されて、蓄えを失う事例もある」(前出・藤田氏)




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また藤田氏は、「昨今急激に増えているのが、熟年離婚に依る男性の貧困化だ」と言う。高額の年金受給者でも、離婚後は半分の支給額で別世帯で暮らさねばならない。しかし、調理や節約術を始め、家事全般を妻に任せきりだった男性ほど生活能力に乏しく、途端に暮らしは破綻していく。実際、中高年向けの結婚相談所では、年金収入250万円未満の高齢単身男性が少なからず集う。「女性の年金と合わせて一緒に住めば生活費も節約できる」と救いを求めて臨むが、女性側からは見向きもされないのが現状だ。本来、憲法でも保障されている“健康で文化的な最低限度の生活”は国民の権利であり、それに満たない収入であれば『生活保護』というセーフティーネットが設けられている。但し、中高年層においては「生活保護受給は恥」といった意識も根強く、申請を拒んで極限まで自身を追い詰める傾向が顕著だ。東京都内在住の二見芳蔵さん(仮名・76歳)は現在、月7万円の年金で暮らしている。月額3万円の風呂無しアパートに住み、冬でも乾布摩擦で体を鍛え、銭湯へ行くのは週1回のみ。5kgで898円の激安米を炊いて朝は納豆、昼はお茶だけ。夜は豆腐で食事を済ませ、日中は冷暖房の効いた公共施設か公園で過ごす。シルバー人材センターに登録しているが、日給6500円の仕事が回ってくるのは半年に一度。時折、腹部に激痛が走るが、医療費が捻出できない為、病院には行けずにいる。芳蔵さんは、「年金額が少ないのは、何度も転職を繰り返したせいで自己責任だから。お上を頼れる筋合いじゃない。親類縁者とはとっくに縁が切れており、結婚せずに家族を持たなかったのも自分の選択だから、苦しくても、辛くても、自分で何とかしなくちゃね」と頬のこけた顔で苦笑する。

こうした最低限度以下の生活でも“我慢は美徳”の認識の下、美談として捉えがちな世風に、前出の藤田氏は警鐘を鳴らす。「生活保護受給を“我慢できなかった人”と批判の対象にもされる世の中です。貧困から医療機関にかかれず、生活習慣病が悪化してひっそり亡くなっていく人は後を絶たず、野草を食べて飢えを凌ぐ低額年金受給者もいます。貧困は決して本人だけの責任ではなく、社会が生み出すもの。地縁・社縁・血縁が希薄化するばかりの現代では、家族や地域社会の“支え合い”も期待できずに、当事者のみの自助努力で解決できる問題ではないのです」。加えて、「“最低限度の生活”の維持費用が上がり続けているのも、貧困化の一因だ」と同氏は付言する。「例えば、今やパソコンやケータイは一種の生活必需品で、これだけで毎月5000~1万円の維持費がかかります。更に、地方ではクルマがないと生活が成り立ちません。その他、普通に暮らす為の費用が上がり続ける中で、抑制可能な出費は限られており、生きる為の条件は厳しくなる一方なのです。非正規雇用の割合は増加の一途を辿っており、このままでは今の若い世代の7~8割が生活保護基準でしょう。一億総中流社会は既に幻想であり、本人の努力とは無関係に、我々は全員が緩やかな総貧困化への道を突き進んでいるのです」。既に“茹で蛙”状態でいる隠れ貧困層の裾野は広い。

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■バブル直後に購入した世代を直撃!…住宅ローンで“老後破産”、終の棲家で地獄を見る人々
「月額18万円の年金生活で、毎月11万円の住宅ローンがあと2年も残っている」(67歳男性)、「既に返済の見通しは立たないが、売っても買値の半値。2000万円近い債務超過で八方塞がり」(65歳男性)。退職後も住宅口ーンが完済できずに、“負”動産となって暮らしを圧迫――生活困窮・老後破産に端ぐ高齢者が続出している。『住宅ローン問題支援ネット』代表の高橋愛子氏が言う。「年金収入しかない為、住宅ローンが払えなくなる人は増えています。その多くが“団塊の世代”の人たち。共通するのは、先々の返済を漠然と『何とかなる』と思って購入したのが、病気やケガ・リストラ・事業不振・離婚・介護等で計画が狂い、先延ばしにしても払い切れずに生活が成り立たなくなること。抑々、自己資金ゼロ・頭金無しのフルローンをパンパンに組む等、不慮の事態に備えていない時点で無理な返済計画なことも多いのですが……」。彼らが働き盛りの時分には、昨今とは比較にならないほど“家を買って一人前”の世風が根強かった。そこへ、「やっと自分たちにも買えるようになった」とバブル崩壊後(平成4~10年)に導入された“ゆとり口ーン”に飛びついた層が、次々と資金繰りに窮する事態に陥っているのだ。

「真面目な人ほど道を外れるのを恐れ、『ローンは何があっても払わねば』と生活を犠牲にし、カードローンの多重債務者になりながらも無理を続けてしまうのです。自己破産や生活保護は“この世の終わり”の感覚でいる為、電気やガス・電話も止められ、何の食べ物も無く、ローンを滞納したまま餓死寸前で真っ暗な自宅に引きこもっていた60代男性もいました」(高橋氏)。助けを求めようにも当てが無く、インターネットも活用できずに情報が得られない。何とか相談先を見つけても、交通費の100~200円が工面できない。「『このままでは明らかに死ぬな』という生活レベルのまま、夜逃げや自殺にまで思い詰める人が後を絶ちません。また、リーマンショック以降に生活が激変した中高年も多く、特に外資系やIT系企業の会社員には、30代の高収入時に住宅ローンを組んだものの、その後の収入減や失業等で焦げ付くケースも相次いでいます」(高橋氏)。何れも、向こう見ずな一部の低所得者が破綻している訳ではない。住宅ローンが組めるほど定期収入も信用も見込めた“普通の人”が、一気に破産へ追い込まれるのが不動産の恐い点だ。「住宅ローンは、多くの人にとって一番大きな“借金”です。債務超過を防ぐ為にも、購入価格の2割は頭金として入れておくことが必須です。『この低金利時代に買わなきゃ損』と煽られて、背伸びして買った人たちが、この先10年後くらいに返済不能者としてどんどん表出してくる筈です」。“終の棲処”は斯くも儚い。


キャプチャ  2015年8月号掲載


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