【カオスを飲み干せ!挑発的ニッポン革命計画】(28) 悪のアメリカ帝国を追い出したら今度は中国に食い尽くされたエクアドルの悲劇

Rafael Correa 01
憎っくきアメリカを追い出したはいいけれど、代わりに来たのもやっぱり酷いヤツだった――そんな笑えないお話があります。南米大陸北西部、赤道直下に位置する人口1600万人のエクアドル共和国。アマゾンの豊かな自然に恵まれ、古代文明が栄えた土地でもありますが、その歴史は血と涙そのもの。大航海時代にスペインの植民地となり、その後の紆余曲折を経て、20世紀以降はアメリカに搾り取られ続けることになります。エクアドルに限らず、アメリカは20世紀を通じ、中南米の人々を蹂躙し続けてきました。特に、1950年代から1980年代はキューバの影響力を削ぐ為に、中南米各国で親米の軍事独裁政権を支援し、スペイン植民地時代からの地主を優先し、庶民を苦しめてきました。一方、旧ソ連等の東側勢力は各国で革命を促し、農村部で武装民兵が蜂起することも屡々でしたが、それに対して、独裁政権はアメリカが提供した兵器で空爆。殺された人々の生首が地べたに並べられることもあったそうです。また、アメリカのグローバル企業のやり方も苛烈でした。石油メジャーは中南米の油田を掘り尽くし、世界最大級の建設会社『ベクテル』はボリビアの水資源まで押さえた。ネオコン(新保守主義者)と組んだグローバル企業と言えば中東での悪行が有名ですが、実は中南米地域も集中的に搾取されていたのです。

冷戦後も“対麻薬戦争”の名の下に、アメリカは中南米の国家主権に介入し続けましたが、21世紀に入る頃、漸くその手を緩めます。それと前後して、中南米各国で民主選挙が行われると、アメリカに対する長年の鬱憤から、次々と反米の左派政権が誕生しました(アメリカ人の僕ですら、彼らの怒りは尤もだと思わざるを得ません)。代表的なのはベネズエラのチャベス政権ですが、そのモデルを踏襲しようとしたのが、現在も続くエクアドルのコレア政権でした。ラファエル・コレアは、1963年にエクアドル最大の港湾都市であるグアヤキルの貧しい家に生まれました。父は麻薬の運び屋として、アメリカへコカイン等を売りに行く仕事をしていましたが、アメリカで当局に捕まり、収監。出所後に自殺します。「アメリカに父を殺された」という個人的感情もあり、コレアは強烈な反米意識を持つようになります。彼は“敵地”であるアメリカの大学で、流行の新自由主義とは反対の“左派の経済学”を学んで経済学博士となり、エクアドルに帰国。大学で経済学を教えていましたが、2006年に遂に大統領選に出馬します。コレアは選挙戦で国民の反米感情を煽り捲りました。例えば当時、ベネズエラのチャベス大統領が国連総会の演説で、アメリカのブッシュ大統領(当時)を「悪魔」と呼んだことを受け、「悪魔に失礼だ。悪魔は邪悪だが、少なくとも知性はある」と語る等、その弁舌で民衆の大きな支持を集め、文句無しに当選したのです。




彼は大統領に就任すると、アメリカがコロンビアの麻薬カルテルとの戦いに使用していたエクアドルのマンタ空軍基地からアメリカ軍を追い出しました。「何故、他人同士の揉め事に基地を提供しなきゃいけないんだ? 抑々、麻薬カルテルの主な顧客はアメリカ人だろう」と。更に、エクアドルの資源を散々食い尽くした欧米資本も追い出して、遂に“脱米”を実現。コレアの支持基盤である反米感情の強い庶民たちは、大いに溜飲を下げました。しかし驚くことに、コレアは“脱米”した後に国を立て直す政策を全く持ち合わせていませんでした。特に、博士号まで取った筈の経済政策は、荒唐無稽そのものでした。彼は貧困層へ徹底的にカネをばら撒きつつ、欧米の債権者からの債務取り立てに対しては、「元はと言えば違法な債務だ。エクアドルはIMF(国際通貨基金)や世界銀行を中心とする国際金融システムに苦しめられてきた」等と言って、返済の約束を反故にしたのです。最近では、ギリシャがEUから債務返済を迫られ、苦し紛れにナチスドイツの侵略に対する戦後賠償の話を持ち出しましたが、あれは誰が見ても“ブラフ”。ところが、コレアの場合はどうやら本気でした。IMFや世銀との付き合いを絶ち、出口無き暴走モードに入ります。「現存の国際金融システムから抜け、石油で食っていく」と大見得を切ったコレアでしたが、あろうことか、その後に訪れたのはリーマンショック。原油価格が暴落し、愈々首が回らなくなります。

Rafael Correa 02
そこに唯一、助け舟を出したのが…そう、中国でした。2009年、中国は対エクアドル借款10億ドルを決定します。但し、金利は7.25%という高利。エクアドルは石油で返すしかなく、近年は産油高の約9割が中国に渡っています。更にレアアース等、貴重な資源も根こそぎ中国に搾り取られていますが、原油価格が低値で推移し続けていることもあり、返済の目途すら立っていません。また、中国は借款の交換条件として、ダム建設党のインフラ整備を丸ごと請け負っています。現地の人々の真面な雇用に繋がればいいのですが、実際は大量の中国人労働者が派遣されており、エクアドル人に宛がわれるのは最も危険でキツい末端仕事のみ。民衆は貧しいままです(中国は世界各地で同じことをやっています)。工事のやり方も“中国式”で、アマゾンの大自然の中にダムを造り、世界中の観光客に人気の名瀑を枯渇させたり、水力発電施設の建設予定地が活火山の麓だったり…。最近では、新たに石油を発掘する為、アマゾンに突然、道路を建設。その道路を地元農民が牛を引き連れて移動し、手付かずの自然を牛が食い散らかす“2次被害”まで発生しています。そして今、自国経済が躓き始めた中国は、エクアドル国内の大規模工事をあちこちで中断。陥穽することなく、雨曝しになっている現場が少なくないようです。

“アメリカ憎し”までは正しかったかもしれない。しかし、その国民感情を利用し、中身の無いポピュリズム政治家が政権を握り続けた結果、エクアドルは前よりも酷くなってしまったように見えます。最近では庶民の反中感情も強まっていますが、中国に莫大な借金をしている“サラ金地獄”のような状態ではどうにもなりません。日本にも「アメリカ軍を無くしたい」とか「原発を無くしたい」と願う人々が沢山いますが、その純粋さとは別に、後々までのビジョンを冷静に描いてみる必要があるでしょう。特に、国際社会は善意だけで動いている訳ではないというリアリティーを持つこと――これがエクアドルから学べる教訓ではないでしょうか。


Morley Robertson 1963年、ニューヨーク生まれ。父はアメリカ人、母は日本人。東京大学理科一類に日本語受験で現役合格するも3ヵ月で中退し、ハーバード大学で電子音楽を学ぶ。卒業後はミュージシャン・国際ジャーナリスト・ラジオDJとして活動。現在、『NEWSザップ!』(BSスカパー!)・『モーリー・ロバートソンチャンネル』(ニコニコ生放送)・『Morley Robertson Show』(Block.FM)・『所さん!大変ですよ』(NHK総合テレビ)・『チャージ730!』(テレビ東京系・不定期)等に出演中。


キャプチャ  2015年8月31日号掲載


スポンサーサイト

テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR