【戦後70年・漂流する日本】(05) 日本人よ、目を覚ませ!

安保法制論議を考える際に忘れてはならないのは、戦後70年がどのような体制で維持されてきたのかという問題です。その中での日米安保条約であり、俗に言う“平和憲法”なのですから。戦後70年を簡単に眺めると、大東亜戦争が終わり、アメリカが主導する『GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)』が日本を占領しました。戦後の日本は、ある国を別の国が占領して改革することに成功した、史上初にして最後の事例だと思います。それほど改革は上手くいきました。最高司令官のダグラス・マッカーサーが武器を持たない丸腰で厚木基地に降り立ったのが、1945年の8月30日。先ず、ソ連の共産主義を牽制する為、貧富の格差を無くす政策、農地解放を行いました。そして、進駐軍の移動を赴任地より25km以内に制限しました。全進駐軍にアメリカ軍と同じ規制をかけることで、ソ連が田舎で共産主義を広めるのを防いだのです。また、検閲・報道規制を始めとする『ウォーギルトインフォーメーションプログラム(WGIP)』を実施しました。これは、情報操作に依って日本人をマインドコントロールしようとするものです。例えば、NHKラジオに「真相はこうだ」という番組を製作させる等して、日本軍を徹底的に貶める報道を続けさせ、国民を洗脳しました。他にも、財閥解体や労働組合に一定の制限を加える等の政策を行っています。こうしたGHQの戦後政策の中の1つが、所謂“平和憲法”の制定です。

GHQは1945年10月に、日本側に「憲法を改正しなさい」と命じましたが、日本側からの憲法草案は明治憲法に少し手を加えただけのものでした。例えば、女性の権利は書かれていません。1946年2月にその憲法草案が毎日新聞にスクープされ、それを読んだマッカーサーは「これでは現状維持だ」と激怒し、直ぐにGHQ民政局長だったコートニー・ホイットニーに草案作りを命じています。そして、GHQに依る憲法草案が提示されたのが2月13日でした。この憲法は、翌1947年5月3日より施行されました。急拵えの割には、極普通の憲法です。書くべきことはきちんと書かれています。しかし、大きな問題点が2つあります。1つは、日本に元首がいないことです。元首を指定しない憲法は見たことがありません。もう1つが、第9条の“戦力の放棄”です。これは、日本が再び強い軍隊を持つことを恐れたアメリカに依るペナルティーでした。日本国憲法も、GHQの戦後政策の一環なのです。ところが、戦後の世界は益々共産主義の脅威が増していきます。マッカーサーは逸早くそれに気づき、「日本を共産主義拡大の防波堤にする必要がある」と理解しました。だからといって、日本を直ぐ再軍備する訳にはいかず、アメリカが日本を守る代わりに、アメリカの政策に日本を協力させることにしました。最優先課題は日本の経済復興です。先ず、日米の安全保障体制を作っておいて、「日本は経済に専念しろ」ということになったのです。アメリカの市場を開放して、貿易を促進させました。つまり、「貴方たち日本は軍事力を放棄した。その代わり、アメリカは日本を守り、日本が豊かな国になるように経済協力を惜しまない」というのが戦後体制の大黒柱なのです。1980年代には日本はかなり豊かになり、経済指標の計算の仕方に依ってはアメリカと対等なところまで来ました。アメリカの姿勢も「だったら、もう一方的な市場開放は止めます。今後は対等にやりましょう」へと変わり、日本に牛肉やオレンジの市場開放を迫ります。日米が対等な経済関係になる中でソ連が崩壊して、1990年代には共産主義の脅威は去りました。しかし、今度は中華人民共和国(中共政府・PRC)が経済力と軍事力で台頭し、アジア情勢が変わってきます。




1992年に、フィリピンからアメリカ軍が撤退しました。フィリピンが反米感情から「帰れ」と要求したせいもありますが、最大の理由は1991年のピナツボ火山の噴火でした。火山灰でクラーク空軍基地は全滅。復旧には膨大な費用がかかる為、フィリピンに返還し、序でにスービック海軍基地も返還しました。アメリカ軍がフィリピンから去った後、PRCは南沙諸島に進出しています。ウイグルやチベットの問題に関しても、PRC――つまり中共政府の横暴ぶりは誰も止められない状態です。最近はいい気になって、尖閣諸島にも手を出しています。こうした情勢の中で、アメリカとしては「日本を守る」とは言ったけれど、「日本は経済的に強くなり、最早アメリカに守ってもらわなければいけないほど弱い存在ではない」と考えています。「自衛隊のレべルも悪くない。兵器的に見れば中共軍より上だし、アメリカ軍と常に一緒に訓練をしているから練度も高い。そろそろ、日本にも自国の安全保障に関して、もっと責任を持ってもらいたい」というのがアメリカの望みです。ただ、日本が正式に十分な軍隊を持つとなると、中共政府が黙っていない。日本の予算的にも無理です。だから日米同盟を維持して、日本にアメリカ軍が残る必要もある訳です。「戦後70年経って、いつまでも同じ体制ではいられません。経済に関しては、TPPで貿易を対等にやっていきましょう。そして、安全保障に関しては日本が集団的自衛権を行使することで、日米同盟も対等な関係にしていきましょう」と。安倍首相は、それらをアメリカで約束しました。アメリカ以外の国との軍事同盟も視野に入れていると思います。

国会の安保法制の審議を見ているとイライラします。もっとはっきり、「人民解放軍の脅威が増しているから、これが必要だ」と言ってしまえばいいのに。国会議員は中共の脅威を皆わかっています。それでいて、野党議員が「アメリカの戦争に引き摺り込まれる」等と言うのは、時間稼ぎのパフォーマンスです。国民をバカにしているとしか思えません。「貴方たちは中共の手先か?」と言いたくなります。PRCが今一番狙っているのは、日米安保体制を弱体化させることです。自衛隊員のリスクのことも質疑に上りますが、そんなに自衛隊員の生命が心配ならば、先ずはPKO活動における自衛隊の武器使用条件を他国並みに緩めるべきです。武器の使用を極端に制限された状態でのPKOがどんなに危険か。マスコミにしても、恐怖を武器にして商売をし過ぎです。直ぐに「貴方の息子が徴兵されたらどうしますか?」等と街頭インタビューをする。徴兵制度は韓国やスイスにもあります。アメリカも徴兵登録制度は残っていて、私や息子3人も登録しています。アメリカ人が徴兵登録を拒否すれば、連邦政府の仕事には就けません。今は志願兵で十分なので登録だけですが、いつでも徴兵できる体制です。現実には、兵器の高度化に依って1~2年訓練した程度の新兵では使い物にならず、徴兵は最早無意味とも言われています。日本のマスコミは、世界のそうした情報は伝えずに、“戦争法案”というレッテル貼りを通して、集団的自衛権が徴兵や戦争に直結するかのように印象操作をします。日米同盟の強化は、中共政府により強い姿勢を見せることができます。インタビューするならば、「これで貴方の息子さんの徴兵の可能性は減りますが、どう思いますか?」と聞くべきです。

ともあれ、憲法も日米安保も戦後体制の中、必要に応じて作られたものです。その前提になっていた世界情勢が大幅に変わっているのですから、全体のシステムを見直す必要がある。全体のシステムを構成する要素の1つひとつも見直さないといけない。憲法も安保も、システムの中の1つのパーツです。それを理解していないと、今何故、安保法制審議を行う必要があるのかがわからなくなります。野党やマスコミが直ぐに「違憲だ」と騒ぐのにも呆れます。その癖、中共の脅威が増している事実については、殆ど問題にしない。因みに、“平和憲法”という言葉も印象操作の1つです。憲法第9条は1つの理想として、歴史的ワンシーンを作ったという意味では価値があったと考えています。中共や北朝鮮・韓国がその価値を評価してくれれば本当に良かった。しかし、現実にはそうではありません。寧ろ、日本に9条があるのをいいことに、好き放題やって挑発しています。小笠原諸島周辺海域での珊瑚密漁がいい例です。尖閣諸島にも、PRCの公船が毎日のようにうろついています。中共がそこまで横暴なことをするのも、9条が日本を縛っているからです。憲法9条が誰の為にあるのかと言ったら、今や中共政府と北朝鮮、そして韓国の為にあるようなものです。憲法第9条の理想論を全否定するつもりはありません。日本が掲げた理想をアジア諸国が認めて、アジア全体が平和になれば、それに越したことはありません。中共政府も「日本はもう再軍備化しないのだから」と経済のみに専念して、アジアの他の国と共存共栄を図れば良かった。アメリカもそれを望んでいましたが、現実の世界は理想とは大きくかけ離れています。中共政府は共存共栄どころか、中華思想が益々先行しているような状況です。国境を接する全ての国とトラブルを起こしています。

日本こそは戦後、「共存共栄していこう」とODAを始めとする様々な援助で、周辺の国を豊かにしてきました。平和なアジア圏を作ろうとしてきました。ところが、中共政府は日本のODAで国内のインフラを整備する一方、余った予算で軍備を強化してきました。それどころか、「日本はアジア侵略の過去を反省していない」とまで言うのだから、「この恩知らず!」と言いたくなります。私は、憲法9条を歴史上の1つの実験としては評価していましたが、もう25年くらい前から危機感も持っていました。当時は、今以上に憲法改正には触れてはいけない雰囲気がありました。憲法に対する講演会に呼ばれて、「9条は本当にこのままでいいの?」という疑問を聴衆に投げかけると、会場がシーンとなって凍りついたものでした。安保関連法案が憲法違反かどうかを憲法学者に聞けば、「違憲」と言うのは当然です。憲法9条を条文通りに読めば、自衛隊の存在すら違憲です。「自衛隊は合憲だが、集団的自衛権は違憲」というのは、条文解釈だけでは辻褄が合いません。国際法に照らせば自衛隊は勿論問題無く、国家は戦争する権利も有しています。日本は憲法の条文上、戦争する権利を放棄していますが、これは「アメリカに放棄させられた」というほうが正確です。しかし、憲法なんて解釈次第でどうにでもなります。アメリカの憲法に“プライバシーの権利”という言葉はどこにも書かれていませんが、憲法の趣旨から認められています。憲法は、条文が全てではありません。例えば、イギリスは条文化された憲法典を持っていません。集団的自衛権は、「日本の平和を保つ」という憲法の精神に照らせば、日本国憲法の条文に何と書かれていようとも合憲です。尤も、あまりに無理な解釈が必要なら、改憲を視野にいれたほうがいいでしょう。憲法草案を押し付けた当のアメリカの憲法も、過去に何回も改正されています。日本人は、“改憲しないリスク”にもっと目を向けるべきです。


Kent Gilbert(ケント・ギルバート) カリフォルニア州弁護士・タレント・俳優・著作家。1952年、アメリカ合衆国アイダホ州生まれ。ブリガム・ヤング大学在学中にモルモン教の宣教師として、1971年に初来日。1980年に同大学大学院を卒業後、国際法務事務所に就職。法律コンサルタントとして再来日。『ケント・ギルバートの素朴な疑問 不思議な国ニッポン』(素朴社)・『国際化途上国ニッポン』(近代文芸社)等著書多数。近著に『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』(PHP研究所)。


キャプチャ  2015年8月号掲載


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テーマ : 軍事・安全保障・国防・戦争
ジャンル : 政治・経済

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