【日曜に想う】 沖縄が問う、日本人の洞察力

戦後70年のこの夏、沖縄について考えることが多かった。翁長雄志知事の話を聞いた。「東京等で講演すると、私たちがアメリカ軍普天間飛行場の辺野古移設に反対しているから、『日米安保に反対なのか?』と聞かれることが多い。始めのうちは『そうではない』と説明していたのだが、最近は『貴方は自宅近くにアメリカ軍基地ができるとしたら、受け入れますか?』と逆に質問することにしている。大抵は『受け入れない』という答えだ。そこで私が、『では、貴方は日米安保に反対なのですか?』と聞くと、相手は黙ってしまう。多くの日本人と同じように、沖縄県民の大半は日米安保に反対している訳ではない。国土の0.6%に過ぎない沖縄県に、在日アメリカ軍基地の74%が集中するという過重な負担に異議を唱えているのだ。それは、極常識的な主張ではないか」――翁長氏は訴える。沖縄の基地問題を考える時、“抑止力の維持”という現状の安全保障論と共に、沖縄の歴史を踏まえなければならない。太平洋戦争の地上戦で、県民の4人に1人が命を落としたという悲劇だけではない。7月、安全保障関連法案を審議していた衆議院特別委員会の地方参考人質疑が那覇市内で開かれた。大田昌秀元知事の証言が耳に残る。「戦後、沖縄は日本から切り離されてアメリカ軍の軍政下に置かれた。27年間、沖縄は日本の憲法の適用が受けられなかった。憲法には人権等が細かく規定されているが、それが適用されない沖縄は他人の目的を達成する為の手段として、モノ扱いされて、人間扱いされてこなかった訳です」

永田町を見渡すと、沖縄の問題に真剣に向き合う政治家が少なくなったことに気づく。嘗ては橋本龍太郎・小渕恵三・梶山静六・野中広務各氏らがいた。彼らの先輩格に山中貞則氏がいる。1970年から総理府総務長官・沖縄開発庁長官等を務め、沖縄の基地問題や経済振興策に取り組んだ。鹿児島の選挙地盤を引き継いだ森山裕衆議院議員に依ると、ある時、山中氏は支持者から「先生、沖縄に注ぐエネルギーの10分の1でもいいから、地元のことにも力を入れてください」と言われた。山中氏は「何を言うか!」と一喝。「沖縄の人たちが地上戦で踏ん張ったから、アメリカ軍は鹿児島に上陸できなかった。沖縄の人々が戦わなかったら、君らは海に沈んでいた。沖縄の為に働くのは政治家の責任だ」と力説したという。この6月、自民党本部で開かれた若手勉強会では、「沖縄の歪んだ世論を正しい方向に持っていく」といった発言が続いた。山中氏の時代との“落差”は、あまりにも大きい。




最近、沖縄の人たちがよく口にする言葉に「イデオロギーよりアイデンティティー」がある。難しい発音だが、年配の人もすらすらと語る。「主義主張の違いを乗り越え、沖縄県民としての一体感を持ちたい」という意味だろう。保守系から共産党までが一致して“辺野古反対”を掲げ、翁長知事を誕生させた昨年の知事選頃から合言葉のように使われている。政府は、8月10日から9月9日まで辺野古への移設作業を一時中断し、沖縄県との話し合いを進めている。「辺野古が唯一の選択肢」という菅義偉官房長官と、「辺野古に新基地は作れない」と主張する翁長知事との接点を見い出すのは、容易ではないだろう。ただ、この協議は私たちに沖縄問題を立ち止まって考える時間と材料を与えてくれる。沖縄が歩んできた歴史と、東南アジアや中国との懸け橋になり得る将来性という時間軸。「日米安保に伴う基地負担を、日本全体で分け合うことはできないか?」という現実の課題。そして、沖縄のアイデンティティーをどう受け止めるべきか? 重いテーマをじっくりと洞察し、解決策を練っていく。その力を日本人は持つことができるのだろうか? “沖縄”が、そこを厳しく問うている。 (特別編集委員 星浩)


≡朝日新聞 2015年8月30日付掲載≡


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テーマ : 沖縄米軍基地問題
ジャンル : 政治・経済

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