【働きかたNext】第7部・女性が創る(05) 脱“優しい会社”――甘えなくせ、挑む資生堂

「保育園のお迎え、どうしよう」――2013年秋、『資生堂』で接客や販売を担う美容部員(BC)の百崎ゆかり(35)は途方に暮れた。会社から働き方改革の方針ビデオを見せられた為だ。2014年春から1万人のBCを対象に、育児中でも夜間までの遅番や土日勤務に入ってもらうという。20年以上前から育児休業や短時間勤務制度を導入し、“女性に優しい会社”の評判を築いてきた資生堂。何故、ここに来て厳しい態度に転じたのか? 「忙しい夕方、同僚に感謝の言葉も無く帰る等、育児中の優遇が既得権益化し、摩擦が生まれた」。BC出身の執行役員常務・関根近子(61)は、改革の理由を話す。育児中で短時間勤務のBCは午後5時頃に帰宅する。客でごった返す夕方から夜等の繁忙時間は、若手やベテランが肩代わりしてきた。いつしか、BCの時短勤務者は1200人に増え、「このままでは回らない」と通常勤務の社員から悲鳴が上がり始めた。充実した筈の制度が、逆に士気後退に繋がる――その危機感が、資生堂を“優しさの次”へと向かわせた。改革から1年余り。子供を持ち、東京都内の化粧品店で働く広嶋由紀子(40)は、土日や遅番にも意識的に入る。そのほうが周囲の協力が得易いからだ。実家の協力を得て遅番に入るようになった百崎も、「販売増に貢献できる」と前向きだ。勿論、全ての社員が納得した訳ではない。「『リストラ宣告だ』と呆然とした」と会社を去ったBCもいる。ただ、関根は「育児中の人にはプロ意識が、他の社員は配慮や協力の意識が増した」と分析する。

国内約2万人の女性従業員を抱え、“女性に優しい制度”充実に励んできた資生堂。同社が抱える悩みは、女性支援に動き出した多くの日本企業が今後直面し得る課題でもある。単なる優しさを超え、性別を殊更特別視しない風土や仕組みは築けるのか? 幹部登用でも模索が続く。「管理職試験を受けてほしい」――2014年秋、産休中だった資生堂グローバル事業本部の長谷直子(38)は、上司の言葉に驚いた。長男はまだ生後1ヵ月。悩んだが、「子供を産んでもキャリアに傷は付かないと後輩に示せたら…」と勉強を開始。今春、管理職として復帰した。資生堂は2004年、「2013年までに女性管理職比率を30%にする」という目標を掲げた。しかし、2013年は25.6%と届かず、目標を2016年に延期した。達成を急がなかったのは、「力の付いていない女性を無理に引き上げないという宣言」だ。女性の意識も様々だ。上を目指す女性も多い半面、「子供を抱え、責任の重い管理職は難しい」(40代総合職女性)、「普通の時間に帰りたい」(20代同)との声も少なくない。同社は女性のロールモデルも1つに限定せず、幅広い働き方を選んでもらう考えだ。「経営の意思決定に関わる女性の数はまだ少ない」。社長の魚谷雅彦(61)は語る。子育て中でも貪欲に仕事に挑戦できる環境を整える。その上で、本人の自覚とやる気を後押しする。制度や仕組みを作るだけでは進まない。トップの意志と社員1人ひとりの覚悟が、日本の働き方を変える原動力となる。 《敬称略》




「資生堂のダイバーシティーは、まだ道半ばだ」――2014年4月から社長を務める魚谷雅彦氏は、こう指摘する。他社に先んじて女性活用を進めてきた資生堂。ダイバーシティー経営の課題や今後に向けた方策について、どう取り組んでいくのか。魚谷社長に聞いた。

――資生堂は以前から女性の活躍支援に積極的です。
「お客様が女性だけに、女性営業職が多いのは必然だ。接客や販売を行うビューティーコンサルタント(BC)の働き方を見直したが、上手くいきつつあると聞いている。其々家庭の事情は異なるが、互いにコミュニケーションを充実させて、協力する体制を築くことが重要になる。最近はBCの正社員化も進めている。長く深い付き合いにすることで、1人ひとりの成長を後押ししたい」
「一方、意思決定に関わる重要なポジションはまだ男性が殆ど。経営に携わる女性がもっと必要だ。『商品企画の会議で、おじさんたちが新商品を判断できるのか?』ということだ。勿論、男性も消費者調査や商品開発は経験しているし、チェックはできる。ただ、『肌馴染みの良いファンデーションを』と言われた際、女性のほうが確信を持って判断できるのは間違いない」

――資生堂の女性リーダー比率は27%で、2016年に30%を掲げています。
「『地位が人を作る』ではないが、若しある地位にいる人が有望と思えたら、育成の意味も込めて2段・3段跳びでも昇進してもらう。組織なので向かい風もあるだろう。しかし、それが会社の価値を高めるという説明をしっかりして理解してもらうことが必要だ」
「部下にとって、自分の上司が会社の経営層からどれだけ信頼されているかは重要だ。我々が(女性リーダーを)サポートすることも大切だと思う」

――女性は管理職への意欲が低いという指摘もありますが。
「『影響力のある立場になりたい』と、キャリア志向で仕事を頑張る女性もいる。一方で、家庭と仕事の両立を目指す中、『管理職になると大変そうだ』と思う人もいるだろう」
「女性が管理職を『大変そうだ』と思う理由の1つには、『労働時間が長そうだから』という認識がある。確かに、労働時間は非常に重要な課題だ。働いた時間ではなく、アウトプットで評価していく必要がある。課題はあるが乗り越えて、世界で活躍する女性が大いに出てきてほしいと願っている」

――女性に留まらないダイバーシティーを掲げています。
「お客様の多様化に対応する必要があるからだ。東京では今、中国や台湾の人達が沢山買い物をしている。グローバル化が進む中、多様な組織体・人材が必要なのは疑いのない事実だ」
「今、グローバル経営の体制見直しを進めている。人事やファイナンスは、全世界を見た仕事をするようになる。そうすると、日本国内に執着しない発想が大事になっていく。日本の本社で考えていることは海外に適用できるか。海外の女性リーダー比率は半分を超えている。こういう人達の発想をどう日本に取り込むのか。資生堂は進んでいるほうだと思うが、まだ足りないところはある」

――多様化や変化を嫌う抵抗はありませんか?
「変革に必要なのは2つだ。ヒエラルキー(階層)をどれだけフラットにできるか。その為には、経営層が社員の話を聞く姿勢を見せることが必要だ。『若い新入社員であっても、意見を言える機会を作りたい』と、今年の入社式は大胆に変えた。新入社員も役員も全員私服で出席し、新入社員には1人ひとり壇上に上がって、夢を語ってもらった」
「もう1点は評価だ。海外企業以上に、日本企業(に務める従業員)は評価を気にするように見える。企業の規律や評価制度が行き過ぎた面もある。失敗を恐れずに社員其々が良さを出せるよう、減点主義を変える必要がある。挑戦して失敗しても、価値ある挑戦なら評価するポジティブ主義が大切だ」

――資生堂のダイバーシティーに点数をつけるとしたら何点ですか?
「100点をどこに置くかにも依るが、『女性が働き易い』ということなら90点くらいか。ただ、会社の経営に関与していく女性を作ることを考えれば、まだ50~60点くらい。勿論、世の中の変化で100点の内容も変わっていく。じっとしていたら、あっという間に30点~20点に下がってしまうだろう」 (聞き手は松本史)

               ◇

急速に進む女性管理職の登用。女性の間からは「ロールモデルがいない」「自信がない」等、戸惑いの声が聞こえてくる。そんな状況を打開しようと、大学や企業が独自のキャリア支援に乗り出した。

「専門知識を身につけてキャリアアップしたい」「もうすぐ入社10年目だが、能力不足を痛感している。自分を鍛えたい」「同じような立場の人と情報交換したい」――6月上旬、関西学院大学大阪梅田キャンパス(大阪市)に約20人の女性が集まった。全員が社会人だ。自己紹介の席上、口々に思いを語った。同大学の専門職大学院が開講する『ハッピーキャリアプログラム 女性リーダー育成コース』。今年で2期目を迎えるこのコースでは、週末と夜間を使って10ヵ月間、組織マネジメントや論理的思考・プレゼン技術等を学ぶ。運輸会社で働く山本裕紀子さん(32)は、14人の部下がいる係長だ。「年上の部下がいて、上手くコミュニケーションが取れていない。これから管理職になる為にも、スキルを身につけたい」。今は独身だが、ライフイベントを見据えている。「結婚して子供がいても、女性管理職は務まる。長時間労働はしない。自分が会社の中でロールモデルになりたい」。目指すは新たな女性リーダー像だ。担当する大内章子准教授は、「女性社員は男性に比べて成長の機会が乏しい。講座で機会を提供できたら」と語る。“男性は営業・女性は内勤”等、配属面で“配慮”されたり、異動や転勤が少なかったり…。大内さんらの調査では、女性のほうが男性より異動回数が少ないという結果が出た。「女性には、もっと経験の場が必要だ」。講座では、リーダーシップの在り方についても考察する。「『俺についてこい』的なやり方だけがリーダーシップではない。部下を支援しながら方向付けする“サーバント型リーダー”なら女性に向いている」。議論を重ねながら、受講者に自信を持たせるのも狙いだ。

女性の場合、30歳前後で結婚や出産等を迎える可能性がある。ライフステージの変化に対応するには、早めの対処が必要だ。人材サービスの『ビースタイル』(東京都新宿区)は、4月に新会社『シフト』を設立。27歳の女性を対象にしたキャリア支援を行う。何故27歳か? 三原邦彦社長は、「一人前として活躍できるスキルを身につけ、ライフイベントを前に今後のキャリアを考える時期。だからこそ、10年後を見据えたキャリア戦略が必要だ」と力説する。同社は出産・育児後も働き続けられる企業を紹介し、更にはマネジメント等のキャリア構築に必要なスキルも研修プログラムとして提供する。サービス開始に当たり、同社は首都圏に住む30歳前後の女性に対して、出産後にどのような働き方を望むか調査した。その結果、「(1)産前と同じように働き、成果も追求する」と答えた人が19%。「(2)産前とは働き方を変えるが、成果は追求する」が22%、「(3)産後は仕事の優先度を下げる」が38%となった。(1)を“バリキャリパート1”、(2)を“バリキャリパート2”と名付けた。三原社長が注目したのは(3)だ。「この層の中には、環境さえ整えば(2)に移りたいと考える人が結構いる。彼女たちを支援したい」と言う。“残業はしないが成果は出す”女性を育て、それを受け入れる企業に紹介するのが狙いだ。

大手企業も早めのキャリア支援に動く。『伊藤忠商事』は、4年目までに経験する海外での語学研修(英語以外)を、女性については早めに行う。ライフイベントを迎える前に経験値を高め、復帰後のキャリアを支援する狙いだ。これまで認めてこなかった子供連れでの海外駐在も、ニューヨーク等の一部の大都市で解禁した。「300人いれば300通りの悩みがある。個別の悩みに対応することで、働き続けられる環境を整えたい」(人事・総務部長代行の垣見俊之氏)。仕事優先で猛烈に働く“バリキャリパート1”から、残業せずにバリバリ働く“バリキャリパート2”へ――求められるのは、働き手の意識改革と職場環境の変革だ。女性管理職を増やすには、その両輪が必要となる。 (河尻定)




諸外国と比較すると、日本の働き方の特徴が浮き彫りになる。子育てと両立できずに30歳代で落ち込む女性の就労率・残業が多く、長時間労働が常態化している職場環境。薄れつつあるものの、年功序列・終身雇用の慣行も残る。

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女性の就業率を年齢別に見ると、日本は20歳代後半から30歳代にかけて落ち込む。出産・子育て期の女性の就業率が下がる“M字カーブ”と呼ばれる現象だ。子育てが落ち着くと再びパート等で働く女性は多いが、女性が管理職に占める比率はフィリピンの4分の1以下だ。家事にかける時間は女性が男性の6倍。「家事は女性が担う」という構造が顕著だ。終身雇用という日本特有の働き方も尚残る。平均勤続年数は11.9年で、アメリカの2.6倍。勤続が長いほど賃金が高い傾向が強く、年功序列も残っている。ただ、若い人たちの転職への考え方はアメリカに近い。1人当たりの平均労働時間は年1735時間と、高度成長期に比べて減っているものの、ドイツやフランスよりも1~2割多い。週49時間以上働く長時間労働者は21.6%と、主要国で最多。有休付与日数は18.5日で、ドイツやフランス(30日)よりも4割近く少ない。経済のグローバル化に対応しつつ、人口減に依る働き手の目減りを抑える必要がある日本。国際標準から離れて“ガラパゴス化”した働き方を見直し、女性や外国人・シニア等の多様な人が活躍できる新しい職場を創る必要がある。 =おわり

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【データの出所】 日本分は(1)(2)(3)(8)は厚生労働省『賃金構造基本統計』、(4)は内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』、(5)(6)(11)は総務省『労働力調査』、(7)(12)は連合総合生活開発研究所『生活時間の国際比較』、(9)は経済協力開発機構(OECD)、(10)は厚労省『就労条件総合調査』。原則2013年。海外分はOECDや国際労働機関(ILO)のデータベースから入手できる最新の数値を使った。

■1人ひとりの成果・能力で評価  慶應義塾大学教授・樋口美雄氏
――日本人の長時間労働が問題になっています。
「年間労働時間は1990年代と比べて減ったが、正社員はまだ長い。長時間働くことが可能な人だけが正社員になり、それ以外の人は非正規になる状況だ。若い世代では管理職を希望している人が少ないと言われるが、長時間労働が前提となっていると魅力的には映らないのだろう」
「ライフステージに依って仕事に求めることは変わるが、正規・非正規の乗り換えが難しい。正社員に一度なった人は、辞める代償が非常に大きい。正規から非正規になると一時的に賃金の格差が生まれるだけでなく、低賃金に固定されてしまう問題がある」

――評価制度も変えていく必要があります。
「同じ会社で働き続けて評価を長期で積み上げるのが日本企業の特徴だが、優秀な外国人や女性等は20~30年後の出世を待っていられない。留学生らを採用する企業も増えてきたが、日本の正社員の考え方に馴染む人が中心だ。優秀な人を採用する機会を逃している。勤続年数等ではなく、社員1人ひとりの仕事の成果や能力を見て評価する仕組みが必要だ」

――働く女性の為に何が必要ですか?
「女性の就労を妨げる要因の1つは通勤だ。満員電車での通勤が必要な大都市近郊では、出産・育児期の30歳代に就業率が落ち込む“M字カーブ”の下げ幅が特に大きい。職場が近い地方では、育児中でも働く女性が多い。通勤まで含めたワークライフバランスを考える必要がある」


ひぐち・よしお 1980年(昭和55年)、慶應義塾大学院博士課程修了。1991年から同大教授。62歳。

■日本&欧米のハイブリッド型雇用を  『日本総研』調査部長・山田久氏
――何故今、働き方改革が必要なのでしょうか?
「人口が減る中、男性が同じ会社で長時間働き、女性は家庭を守るというモデルだけでは多様な人材を生かせないという課題が強く意識されるようになった。政府も人材が成長産業にスムーズに移動し、女性や高齢者ら多くの人に働いてもらいたいだろう」

――子育て期の女性の就業率が下がる“M字カーブ”の解消が課題です。
「勤務する地域や時間を限定した正社員の普及が必要だ。働く人を正社員と限定正社員に固定するのではなく、出産や子育て期の女性が一旦限定正社員になり、落ち着いたら正社員に戻るような制度であるべきだ」
「限定正社員は雇用保証では正社員に劣る。転職市場が広がることが普及の条件で、業界横断的な取り組みや人材育成の共通化が欠かせない。そうしなければ雇用不安が高まって、マイナスに働く恐れがある。全国の地方銀行が、夫の転勤で退職する女性行員を転居先の地銀で働けるようにする試みは面白い」

――日本企業はどのように雇用を変えるべきだと考えますか?
「単純に欧米型の働き方を導入すると、日本の強みである品質の良さやきめ細かさが失われてしまう。長期雇用は、ノウハウの蓄積や従業員のモチベーションを保つ為にも必要だ。20~30歳代は日本型雇用で働き、それ以降は欧米のような職務を定めた働き方を増やすという“ハイブリッド型”に変えるのがいいのではないか」


やまだ・ひさし 1987年(昭和62年)に京都大学経済学部卒業後、『住友銀行』(現在の『三井住友銀行』)に入行。2011年から現職。51歳。

               ◇

宮東治彦・柳瀬和央・銀木晃・田村明彦・河尻定・岩村高信・北西厚一・中山修志・藤野逸郎・阿曽村雄太・松本史・小川望・江里直哉・奥田宏二・木寺もも子・木村慧・学頭貴子・諸富聡・植出勇輝が担当しました。


≡日本経済新聞 2015年6月29日付掲載≡
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