【空転する沖縄の“未来”】(下) 沖縄経済はアメリカ軍基地に依存しているのか?

第2次世界大戦後の27年間に亘りアメリカ軍施政下に置かれ、本土とは別の歴史を歩んできた沖縄は、本土の高度経済成長下における経済発展から切り離され、長期的な産業施策が欠如すると同時に、民有地の強制接収等に依りアメリカ軍基地が形成されたことな等に依って、本土に比べ社会資本整備や産業振興等の面で大きな格差を生じた。1972年の本土復婦以降、“歴史的”“地理的”“自然的”、そして“社会的”な沖縄の諸事情に鑑み、国の責務としての三次に亘る『沖縄振興開発計画』と、続く『沖縄振興計画』に依る各種振興施策に依って格差の縮小が図られてきたが、自立型経済の構築、基地の整理・縮小等の問題は依然大きく横たわる。復帰後、2011年度までの累計で9兆2144億円に上る沖縄振興開発事業費に依って、各種社会インフラ充実等の点では改善が図られ、本土との格差は縮小したが、県民所得や完全失業率に関しての格差は残ったままであった為、2012年の『沖縄振興特別措置法』改正に依り、県の自主性がより尊重される枠組みへと移行した。自由度の高い『沖縄振興一括交付金』や、事業者が税制優遇措置等を受けられる『経済金融活性化特別地区』等各種の特区制度、観光リゾート整備やイノべーション拠点形成の為の各種法令等の特例の対象となる『国家戦略特区』への指定――等の政策ツールに依り、知事の策定した『沖縄21世紀ビジョン基本計画』が推進されている。尚、近時、沖縄振興と基地負担との関係を殊更強調する風潮も見られる(所謂“リンク論”)が、国は前述の特殊な諸事情等に鑑み、責務として振興策を講じてきているという点には留意が必要である。

沖縄県は、2014年3月末時点で32のアメリカ軍専用施設を抱えるが、これは県土面積の10.1%を占めるものであり、面積では全国のアメリカ軍専用施設の73.7%が沖縄県内に立地していることになる。整理・縮小の取組もあり、本土復帰時の83施設(県土面積の12.8%)からは漸次返還されてきてはいるが、沖縄本島では面積の18.2%を占める等、依然として都市計画や公共交通システム作りの上での大きな阻害要因となっている。加えて、騒音やアメリカ軍人らに依る事件・事故等が住民生活に与える影響は大きく、最近だけでも、飛行中のオスプレイ輸送機に依る部品落下を始め、キャンプ桑江(北谷町)内でのM16ライフルを所持する海兵隊員の立てこもり事件や、酒に酔った空軍の1等軍曹に依るアパート侵入、原付運転中の67歳の男性が転倒し重体となった事故が、海兵隊の少佐に依るひき逃げと断定された事案等が起きている。県企画部の『第8回県民意識調査』(2012年10月)では、「沖縄にアメリカ軍専用施設の約74%が存在することが差別的な状況だと思うか?」との設問に対し、49.6%が「そう思う」と回答。「どちらかと言えばそう思う」の24.3%を加えると、73.9%が「差別的状況だ」と考えていることになる。また、アメリカ軍基地から派生する様々な課題について、県や国に対し特に力を入れてほしいことを順位を付け3つ選択する設問では、「基地を返還させる」が20.1%、「日米地位協定を改定する」が19.5%、「アメリカ軍人等の犯罪や事故を無くす」が15.2%という結果となった。




基地の整理・統合・縮小は、1995年のアメリカ海兵隊員に依る少女暴行事件等を契機に設置された『沖縄に関する特別行動委員会(SACO)』の最終報告等に基づき進められてきたが、2013年4月に日米両国政府から『沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画』(=嘉手納飛行場以南の土地の返還計画)が発表され、施設・区域の返還時期(見込み)が示された。これに依り、同年8月には『牧港補給地区(北側進入路)』(浦添市・1ha)、今年3月には『キャンプ瑞慶覧(西普天間住宅地区)』(宜野湾市・51ha)が其々返還された他、日米合同委員会において『牧港補給地区(第5ゲート付近の区域)』(浦添市・2ha)、『キャンプ瑞慶覧(倉庫地区の一部及び白比川沿岸区域)』(北谷町・11ha)の返還が合意されている。 この内の『キャンプ瑞慶覧(西普天間住宅地区)』に関しては、返還に先立ち、2014年1月には政府により『跡地利用特別措置法』に基づく拠点返還地に指定された。県及び宜野湾市は、同地において重粒子線治療施設の整備や、琉球大学医学部・同付属病院の移設等に依る国際医療拠点形成を計画し、宜野湾市等が土地の先行取得を進めているが、政府の今年度予算にも、国際医療拠点形成に向けた取組を始めとする跡地利用推進の為の経費3.6億円が盛り込まれた。また、同地区の土地は従来の先行取得の面積要件(100㎡)未満のものが多く、今通常国会での法改正に依り、先行取得期間の延長及び面積要件の緩和が行われた。尚、在沖海兵隊のグアム移転については、普天間飛行場の辺野古移設に目途がつかないことや、アメリカ国防総省の予算見積りが杜撰であること等から、アメリカ議会は予算の大部分の執行を凍結してきたが、2014年12月12日の上院本会議において、予算凍結措置を解除する内容を盛り込んだ2015会計年度の国防権限法案が可決された。グアム移転計画進展と、沖縄の負担軽減に繋がることが期待される。

アメリカ軍基地の存在に伴う多くの問題の一方で、「沖縄県の経済は、基地経済に大きく依存している構造ではないか」との指摘もある。即ち、「軍用地料(総額798億円・2011年度)、軍雇用者所得(同505億円・同)、アメリカ軍等への財・サービスの提供(同590億円・同)等、基地関連収入に依り基地の存在が地域経済に貢献している」というものである。これに対しては、三次に亘る沖縄振興開発計画では社会資本整備中心の格差是正が、その後の沖縄振興計画では民間主導の自立型経済構築が、其々基本方向の1つとして位置付けられ、社会資本整備に加え、就業者数増や観光・情報通信産業等の成長等、県経済の着実な発展の結果、基地関連収入の割合は、県に依れば、1972年度の15.5%から2011年度には4.9%へと大幅に低下したとされる。また、前述の通り、基地の存在が地域の振興開発への大きな制約となっている側面もあり、アメリカ軍再編・グアム移転等に依る大幅な兵力削減や相当規模の基地返還が進めば、基地経済への依存度は更に低下するとされる。実際に返還された『牧港住宅地区』(那覇市・192ha)は『那覇新都心』として官庁・金融機関・住宅・大型商業施設等へ、『ハンビー飛行場』(北谷町・42.5ha)は『アメリカンビレッジ』として、大型商業・娯楽施設やビーチ等へと其々大きく姿を変えた。この春には、『泡瀬ゴルフ場地区跡地』(北中城村)に巨大な『イオンモール沖縄ライカム』がオープンを迎えた(『ライカム』はアメリカ軍の琉球司令部[Ryukyu Command headquarters]に由来する名称)。2015年1月には、県企画部に依り『駐留軍用地跡地利用に伴う経済波及効果等に関する検討調査』として、新たな試算が公表された。今後返還予定の5施設(『キャンプ桑江』『キャンプ瑞慶覽』『普天間飛行場』『牧港補給地区』『那覇港湾施設』)が返還された場合の直接経済効果として、返還後の施設・基盤整備(投資)に依る効果を1兆1770億円と推計する他、基地関連収入や基地周辺整備費等、返還前の軍関係の各種経済効果が返還後に民間経済活動に依るものへと代わることで、18倍になると見込んでいる。また、産業連関表に依り推計された経済波及効果として、誘発雇用人数・税収が何れも18倍になるとしている。

他方で、基地返還に依る経済効果について懐疑的に捉える見方も存在する。その代表的なものは、行政に依る各種検討・試算の手法への疑問であり、沖縄に限らず、公共事業を計画するに先立つ費用便益比計算な等では、屡々議論となる類のものである。とりわけ、これまでの跡地利用に当たっては大型商業施設の建設が多く、既に限られたパイの奪い合いが指摘されており、今後の跡地利用計画策定では工夫が求められる。また、従来、基地所在の自治体が1人当たり県民所得の上位を占めてきた実態等に照らし、“基地返還=経済効果”という論に異を唱えるものもある。加えて、基地の存在に反対する論者からも、「基地返還に経済効果を期待すべきではない」という意見があることも注目される。基地返還に経済効果を期待する立場は、裏返せば「経済発展が見込めないならば基地の存在を是とする」論理ともなり、先に引用した県民意識調査の結果等に照らせば、基地返還の経済効果を論じる際には配慮が必要であろう。最後に、基地返還の経済効果に関しては、巨視的な視点からの考察のみならず、軍用地料収入のみで暮らす軍用地主の生活に係る問題を始め、9000人(2013年時点)近くに上る駐留軍従業員の雇用の問題、アメリカ軍人・軍属相手の飲食・サービス業や基地内のテナント等の事業者の存続の問題等々、微視的視点で真剣に考えなくてはならない問題が数多く存在する事実にも、十分な注意を払っていく必要があることを指摘しておきたい。

※本文中、意見に亘る部分は筆者個人の見解である。


清野和彦(せいの・かずひこ) 参議院第1特別調査室首席調査員。1966年、青森県生まれ。東北大学法学部卒業。参議院に採用後、鳥取県議会事務局議事調査課長・国土交通委員会調査室次席調査員等を経て現職。沖縄・北方問題、政府開発援助の両特別委員会と、国際経済・外交調査会の調査事務を担当。


キャプチャ  2015年6月号掲載


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テーマ : 沖縄米軍基地問題
ジャンル : 政治・経済

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