【中国経済はどこまで重症か】(01) 世界が怯える中国の失速――成長一辺倒の国から成熟した国に脱皮する為に、習近平体制が迫られる透明性確保という新たな選択

china risk 29
アメリカがくしゃみをすれば世界が風邪を引く――嘗て、世界経済とその屋台骨としてのアメリカ経済の関係を語る時、そんな表現がよく使われた。それは今も強ち的外れではない。約17兆ドルの規模を誇るアメリカ経済は依然として世界最大であり、アメリカの個人消費支出は年間11兆ドル超と、中国の実質GDPを上回る。2008年のアメリカ発の金融危機は、冒頭の格言が今も本当かどうかを試す機会となった。だが、世界経済への影響がはっきりする前に、アメリカ当局は大規模な景気対策と劇的な利下げという強烈なカンフル剤を打った。それが無かったら、アメリカ経済は風邪どころか悪質な熱病に魘され、その症状はもっと多くの地域に広がっていただろう。幸いなことに、この時のアメリカ以外にも世界経済を牽引する成長のエンジンが見つかった。中国だ。中国政府は世界の度肝を抜く4兆元(約57兆円)の景気対策を打ち出して、原材料と商品の需要を維持し、蹌踉めく世界経済を支えた。長期的に見れば、それが自らの首を絞めたのかもしれないが。何れにせよ、当時、アメリカと中国という2大経済が歳出の蛇口を全開にして(それに依って国の借金を大幅に増やして)、危機の拡大を食い止めたのは間違いない。ケインズ経済学のお手本のような対応だった。問題は、中国はアメリカと違い、こうした政策を支える基盤が無いことだ。アメリカには型破りな政策措置を取って財政赤字が続いても、それに耐える体力がある。それは世界一強い通貨と、世界一潤沢で流動性が高い資本市場、そして世界一独創的な企業の数々があるからだ。また、アメリカの国債は世界のどの国の国債よりも需要がある。投資先としても、アメリカの魅力は群を抜いている。だからアメリカは、社会と経済のバランスを取りながら、年2~3%の成長でやっていける。中国は違う。もっと力強い成長が必要だ。実際、中国指導部は、何より高成長の維持に躍起になってきた。しかし、それ以上に重要なことに、世界経済も中国の力強い成長を必要としている。新興国の原材料生産業にとっても、先進国の製造業にとっても、中国は大事なお得意さまだ。だから、最近の中国の成長鈍化は、アメリカの製造業等の主要産業の業績を圧迫している。

アジア諸国も、中国の成長から大いに恩恵を受けてきた。日本にとって中国は第2位の輸出相手国であり、他のアジア諸国にとっても1位か2位だ。中国がくしゃみをすれば、アジアの輸出産業に悪寒が走るのは間違いない。鉄鋼・セメント・農産物・家電製品等、中国の需要の影響を受けない商品は殆ど無い。中国の巨大製造拠点は、アジアのサプライチェーンを強化する役割も果たしてきた。だから、現在の中国の不透明な状況は大きな問題だ。そう、ポイントは“不透明性”だ。世界は景気の波や定期的な株価の急落、更には財政赤字の拡大に伴う成長鈍化等、一定の危機にはどうにか対応できる。だが、中国の政治・経済には透明性が欠けている為、問題の正体を掴めない。だから、有効な対策を講じることもできない。例えば、中国は本当のところ、どのくらいのペースで成長しているのか? 政府指導部が言うように、年7%の勢いなのか? それとも、これは誇張された数字なのか? 嘗てリークされたアメリカ国務省の外交公電に依れば、中国の政府高官さえ統計の操作を認めている。経済が好調なら、こうしたデータのブラックホールと呼ぶべき状況は大きな問題にならない。しかし、成長が鈍化すると、その不透明性が政府・企業・投資家の過剰反応を招き、実体経済を傷つける恐れがある。中国におけるデータのブラックホールの好例は、失業率だろう。2002年以降、中国都市部の失業率は一貫して4%前後を維持している。同じ時期の四半期成長率が6~14%の間を揺れ動いているのと比べると、驚くべき安定度だ。上海財経大学の馮帥章教授と、ジョンズ・ホプキンズ大学のロバート・モフィット教授らが執筆し、『全米経済研究所(NBER)』が8月に発表した報告書は、“失業率4%神話”を否定している。少なくとも2000年以降、ピーク時には12%を記録する等、中国の失業率は殆どの高所得国よりも高いというのだ。ある意味で、中国経済は昔の交易の中心地・バザールに似ている。一見したところ、隅から隅まで活気に満ちているが、迷路のように入り組んだ市場にはどす黒い秘密が隠されている。習近平国家主席が始めた腐敗撲滅運動は、一党独裁の膿を出す正しい措置かもしれないが、新たな不正が明らかになる度に「氷山の一角なのでは?」という疑念が強くなる。




大型の新興国が登場すると、企業や投資家、それにメディアは期待感から過大評価する傾向がある。この10年間の中国の成長も過大評価されて、深刻な問題が見落とされてきた可能性が高い。同様に、現在の「中国経済崩壊!」という論調も誇張の可能性がある。何しろ中国には、今も約3兆5000億ドルの外貨準備と、企業の業績を左右するほどの購買力を持つ中間層、そして巨大な製造拠点がある。但し、今回の危機を乗り越える為に必要なのは、新たな景気対策ではない。もっと大事なもの、即ち透明性に基づく信頼感を中国経済に齎すことだ。金融市場に気紛れは付き物だが、それを抑え込む一番いい方法は、正直な会計処理と透明性を確保することだ。中国は砂上の楼閣ではない。30年以上に亘る高成長は、紆余曲折を経て実現してきた本物の成長だ。僅か55年前、この国では大躍進政策という破滅的な産業育成策が取られた結果、約4000万人が餓死した事実を忘れてはならない。それは大躍進どころか、悪夢のような後退を齎した。そんな中国に本物の大躍進を齎したのは、1979年、鄧小平が慎重に導入した改革開放政策だった。だが現在の中国は、どん底から一心不乱に高成長を追い求める経済モデルから、イノベーションと透明性、そして内需の拡大が成長を牽引する、より成熟した経済モデルへの転換を図る必要がある。大躍進政策の失敗により、中国で数多くの人命が失われた時、世界はそれに少しばかり瞬きをした程度だった。だが今、中国がくしゃみをしたら、世界中でパニックが起きるだろう。その違いを考えただけでも、中国が如何に大きな進歩を遂げてきたかがよくわかる。そして今、この国は更なる進歩を必要としている。中国は最早、1年で何も身長が伸びるような成長期の子供ではない。成熟した大人として、落ち着いた進歩を遂げる必要がある。その為には、習を始めとする政治指導者が、成熟した大人の選択をしなければならない。先ずはデータのブラックホールに光を当てて、経済の透明性を高めること。そこから始めたらどうだろう。 (本誌コラムニスト アフシン・モラビ)


キャプチャ  2015年9月1日号掲載


スポンサーサイト

テーマ : 中国問題
ジャンル : 政治・経済

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR