後藤健二さん、ISIS未公開写真と謎の警備会社――フジテレビがスクープ入手した2枚の写真、約2ヵ月に亘って精査した末に判明した衝撃の事実とは…

『ISIS』(別名:イスラム国)を名乗る過激派集団に依って、湯川遥菜さん・後藤健二さんが殺害されてから半年余りが過ぎた。多くの謎に包まれる事件を巡って、未だに不可解な動きが続いている。そして、本紙が入手した2枚の写真。そこには、知られざる後藤さんの姿があったのだが……。

ここに2枚の写真がある。何れも、ISISに殺害されたジャーナリストの後藤健二さんの姿が映っている。1枚目は、黒い目出し帽の戦闘員に依って連行される瞬間を捉えたものである。2枚目では、後藤さんは銃を手にする戦闘員の前で跪いている。モノクロなのでわかり難いが、2枚とも後藤さんの頬には痣のような暴行の跡が見える。これまで、拘束された後の後藤さんの姿と言えば、オレンジ色の囚人服を着用させられたものしか確認されていなかった。事件から半年経った今、突然出現した2枚の写真。未だ多くの謎に包まれるISIS人質事件。本誌取材班は改めて真相に迫った。

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後藤さんは、昨年10月22日に日本を発った。トルコを経由し、24日にシリアへ入国。その直後、ISISに拘束されたと見られる。そして今年1月20日にISISは、「2億ドルを72時間以内に支払わなければ、後藤さんと、昨年8月に拘束されていた湯川遥菜さんを殺害する」という予告映像を公開。ヨルダンを巻き込んだ解放交渉も空しく、2人は殺害されるに至ったのだ。何故、豊富な中東取材経験を持つ後藤さんが、極めて危険なシリアへ、湯川さんを救出する為に向かったのか? 当初から、その理由は大きな謎だった。その謎を解くヒントが、業界紙に掲載された広告にある。「リスクマネジメント、現地事情を踏まえた訓練 安全な護衛“あなたの仕事をより安全に」。昨年6月9日、海運・造船等のニュースを扱う専門紙『日本海事新聞』に、『アイピーリスクディフェンスサービス』(以下『IP社』)なる会社の広告が掲載された。「日本人だけでなく、アジア人が世界各地で事件に巻き込まれる事態が頻発しております。もはや“Asian Advantage”は当てはまらない時代となりました。私どもは“クライアント・ファースト”。世界基準のリスクマネジメントを日本人ならではの“きめ細やかな対応”をもってご提供いたします」。広告掲載に当たり、海事新聞と交渉していた人物が後藤さんだった。このIP社は後藤さんの会社だった。同社の業務内容は、テロや技致等に巻き込まれた際の邦人保護、またそうしたリスクを回避する講習を行うこと等だ。IP社の内情を知る海運業界の人物が語る。「2013年の年末頃に、後藤さんはIP社を立ち上げています。過去に後藤さんは、『中東で拘束された邦人の身代金交渉を請け負い、救出した』と話していた。海運会社に営業をかけたり、昨年の4月には東京ビッグサイトで開かれた“シージャパン”という展示会にも足を運んでいました。IP社には、後藤さんの奥さんや湯川さんも関わっていたそうです」。だが、後藤さんのジャーナリスト仲間の殆どが、IP社の立ち上げを知らされてはいない。「海事新聞に出した広告では、連絡先は後藤さん自身の携帯番号になっていますが、担当者欄は奥さんの名字を記しています。『後藤という名前を出すのは拙い』と説明したそうです。『ジャーナリストとして培った人脈をビジネスに結び付けている』と批判されるのを恐れたのでしょう」(同前)




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IP社の広告には、イギリスの大手警備コンサルタントのA社・T社と提携していると記載されている。「後藤さんがISISに拘束された後、奥さんはA社に交渉をどのようにすればいいか、相談しています。どうして奥さんがそんな人脈を持っているのか、周囲は不思議がっていましたが、実はIP社を通じた人間関係だったのです」(同前)。湯川さんも、後藤さんと同様に、昨年1月に民間軍事会社『ピーエムシー』(以下『PMC』)を設立している。同社顧問で元茨城県議会議員の木本信男氏が語る。「PMCを立ち上げる際、湯川君は『船舶を警備する会社にしたい』と話していました。去年の4月にも湯川君はシリアで拘束されており、その際、後藤さんに助けてもらっています。帰国後、『(湯川君がやっている仕事を)後藤さんが助けてくれる』と話していました」。事件当時、ISISとの交渉に関わった政府関係者は次のように語った。「これまで戦場経験の少ない湯川さんが、ベテラン記者である後藤さんを頼る関係だと報じられてきたが、2人はビジネスパートナーだったのではないか? そうであれば、情勢が悪化するシリア行きを後藤さんが強行したことも合点がいく」。後藤さんの日程は8日間の予定であり、ISISの“首都”であるラッカで滞在できるのは2日程度となる。余程、短期間で救出を終える自信があったのだろう。誤算だったのは、後藤さんが雇った通訳兼ガイドだ。彼は後藤さんのシリア入りを手配したが、「ISISに後藤さんを引き渡したのではないか?」と言われる等、曰く付きの人物だ。「後藤さんはそのガイドから更に別のガイドを紹介され、ラッカへ向かっています。その後、後藤さんは『ガイドに裏切られた』とトルコにいる仕事仲間に電話し、それ以降、音信が途絶えたのです」(外信部記者)。そのガイドは、事件直後に不可解な行動を取っていた。2月中旬に、極秘で来日したのだ。「日本滞在は僅か数日で、目的もはっきりしませんでした。日本テレビのインタビューを受けていますが、彼から売り込んできたそうです。ただ、警視庁の聴取を恐れ、東京に一歩も入ることなく、日本滞在中はずっと成田市内にいたのです」(警視庁関係者)

この頃から、「後藤さんの写真やや遺品がある」と売り込む人物が蠢き始めていた。湯川さんの遺品が、父・正一さんの下に届いたのは3月上旬のことだった。「息子は大量の荷物を持参していましたが、戻ってきたのはバッグ1個だけです。中身はパスポートや名刺入れ、それに歯ブラシ・下着等でした。ノートやカメラ等は戻ってこなかった。シリアの反政府組織『自由シリア軍』の人が難民キャンプに渡して、それを在トルコ日本大使館の職員が取りに行って下さったと聞きました」(正一さん)。同じ頃、フジテレビに特命チームが結成された。女性ディレクターを中心に、外信部・政治部の外務省担当、社会部の警視庁担当等の精鋭が極秘裏に集められた。前述した後藤さんの“拘束写真”が、あるアラブ人の手に依ってフジテレビに齎されたのだ。更に、ISISに拘束される直前に後藤さんが撮影したという“最後の映像”まであった。「ISIS支配地域を車から隠し撮った映像でした。SDカード4枚に収録され、何れも1分半から2分程度でした。後藤さんは映っておらず、音声も入っていなかった。石油施設らしき建物が映っているのですが、中東諸国では精製所等の石油関連施設を撮影することはご法度です。また、ISISにとって石油は重要な収入源です。撮影内容がISISの逆鱗に触れ、拘束されたと説明がありました」(フジテレビ社員)。それだけではない。後藤さんが巻いていたマフラー・ジャンパー・ブレスレット等の遺品の写真もあったという。売り込みはフジテレビだけではなく、警視庁や別のテレビ局に対しても行われていた。他局のプロデューサーが語る。「『500万円で買わないか?』と提示されましたが、いくらなんでもそんな金額は出せない(※フジテレビも支払いを否定)。フジは報道局だけでなく、ワイドショー等を制作する情報制作局からも制作費用を捻出したと聞いています。『大々的に特別番組を作る』と言われていました」

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フジテレビ社内では、日本政府がISIS人質事件の検証結果を発表する直前の5月のゴールデンウィークにオンエアするべく、準備が進められた。「先ず、夕方の“みんなのニュース”でスクープとして放映、更に日曜夜10時からの宮根誠司が司会を務める“Mr.サンデー”でも特集で放映することが決まっていました。オンエアに向けて、特命チームの面々は約1ヵ月間に亘って写真や映像を精査し、後藤さんの奥さんや官邸・警視庁にアプローチを図ったのです」(前出・フジテレビ社員)。しかし――未だ放映に至っていない。その理由は何か? 「後藤さんの奥さんには、手紙・メール等の様々な形で接触を図ったものの、面会は叶わなかった。最終的には、『100%本物という確信が得られなかった為、放映を見送った』という説明でした。ただ、写真については見る限り、私は間違いなく後藤さんだと思う。映像に関して言えば、後藤さんは自分でレポートしながらカメラを回すことが多いのに、音声が入っていないのがちょっと不自然な気もしましたが」(別のフジテレビ社員)。果たして、この写真や映像は本物なのか? 本誌取材班は、日本在住のシリア人や海外メディアの日本を担当するアラブ人記者、NPO法人のトルコ人スタッフ等に取材を重ねた。3週間後、遂に取材班は「写真をメディアに売り歩いていた」と言うアラブ人男性のX氏に辿り着いた。

7月15日、夕刻の銀座。取材班は、X氏とテーブル越しに向き合っていた。指定されたレストランでは、日本人は殆ど見当たらない。欧米・アジア・アフリカから日本にやってきた老若男女が集まる多国籍な空間だった。ぶ厚い胸板の上に、カラフルなチェックのシャツを羽織ったX氏は、2人のアラブ人を伴っていた。X氏は中東企業の日本支社に勤務しているが、メディアの仕事に携わった経験もあり、日本のマスコミとのパイプもある。後藤さんとも仕事を通じて面識があったという。「イラク戦争の頃に、後藤さんと仕事をしたことがあります。当時から、後藤さんは無謀な行動を取らないジャーナリストでした。だから、ISISに拘束されたと聞いて本当に驚きました」。彼の出身国・勤務先の話等について一頻り雑談した後、本誌記者は「後藤さんの写真や映像等がテレビ局に持ち込まれているのだが…」と切り出した。すると、X氏はアイスコーヒーを一口啜り、「記事にするつもりなのか?」と尋ねてきた。「そうだ」と頷くと、観念したのか、堰を切ったように語り出した。きっかけは、シリアに住む知人からの情報提供だったという。「後藤さんが亡くなった10日後、『彼が撮影した映像が残されていないか、(シリア在住のジャーナリストに)調べてほしい』と連絡したのです。その2~3週間後、拘束された時の画像や残された映像が送られてきたのです。そのジャーナリストとは長年、家族ぐるみで付き合っており、完全に信用していました。そのジャーナリストが言うには、『ISISから逃げてきた人物から譲ってもらった』そうです。その人物は、『住んでいた地域をISISに支配されたが、仕事も無かった為、ISISの手伝いをしていた』と言うのです」。最初に画像や映像を目の当たりにした時、彼は「物凄いスクープと思い、興奮した」と言う。「写真はあまり鮮明でなかった為、理由を問うと、『後藤さんのパソコンに残された画像を古い携帯電話で接写したのだ』と説明されました。『これは紛れもない大スクープだ』と確信し、有頂天になりました。直ぐに、『その元ISISの人をインタビューしてください』とお願いしました」

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X氏は写真以外に、映像や遺品の写真、そしてISISの取材許可証等も入手した。「『映像は、後藤さんがSDカードに保存していたデータを復元した為、音声が3倍ほど早送りされており、聞き取れない』という説明を受けました。これまで、私は膨大なシリアの映像を見てきましたが、石油工場が映っている映像はそれまで見たことがなく、『貴重なものだ』と感じました。また、取材許可証には後藤さんがISIS支配地域に入った日付が書いてありましたが、昨年10月の筈が12月となっていました。『何かの手違いだろう』と思っていたのです」。だが――入手から2ヵ月後の5月、衝撃的な事実がX氏に告げられた。「テレビ局が精査した結果、『写真はフェイクだった』と判明したのです」。頬を紅潮させたX氏は、天を仰ぎながら話し続けた。「『合成された写真だ』と言われたのです。元になった写真を突き付けられ、私は頷くことしかできなかった」。だが、既に取材協力者に多額の謝礼を支払った後のことだった。「金額は言えませんが、莫大な損失です。勿論、テレビ局からは1円も受け取っていません。写真がフェイクだと判明してから、次々に彼らの嘘が明らかになりました。元ISISと名乗る人物は、『その写真を撮ったのは私だ』と言っていましたが、写真自体フェイクなので、映像や遺品の写真等も全て虚偽だと思います。決定的だったのは、『(その人物と)直接話したい』と連絡先を聞きましたが、一向に繋がらなかったことです。皆がグルになって私を騙したのです」。ディナーを楽しむ他の客の笑い声がレストラン中に響く中、涙を目に浮かべたX氏は「私が甘かったのです」と繰り返した。「一番ショックだったのは、長年の友人に騙されたことです。何故、彼が嘘を吐いたのか? やはりお金だったのでしょう。私は、『フェイクだからお金を返せ』とは言いません。騙されたほうが馬鹿なんですから。ただ、戦争に依って国土だけでなく、国民の心まで破壊していることに大きな衝撃を受けています。唯一の救いは、事実として報道されなかったことです。若しそのまま放映されていたら、私は自殺する他ありませんでした」

1人の男性を苦境へ陥らせ、テレビ局を翻弄した後藤さんの“最期の写真”。取材班は、後藤さんの実兄・純一氏にも見てもらった。「悲壮な顔ですね」と沈痛な面持ちで写真に見入っていた純一氏。だが、暫く経つと、「どこかで見たことある気がする……あっ、あの写真と表情が同じだ!」と合成を見破った。取材の最後に純一氏は、こう語った。「事件終結後に、政府から私のところに連絡はありません。遺品が手元に戻ってくることは、もう諦めています。ただ、健二の写真を偽造して商売する人間は真面じゃないし、兄としては許したくないですね」。ISIS人質殺害事件は未だ終わっていない。


キャプチャ  2015年8月13日・20日号掲載


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