マッサージチェアから高級時計・アダルトビデオまで――“爆買い”に走る中国人の正体

buying 01
反腐敗キャンペーンの嵐が未だ収まらぬ中国では、賄賂を貯め込んだ官僚の途方もない資産が明らかになって、人々を驚愕させている。昨年11月に河北省規律検査委員会が報告したケースでは、秦皇島市都市管理局の元副調査研究員で北載河供水総公司総経理であった馬超群の自宅から、現金1億2000万元(約23億5000万円)が見つかった。「家宅捜索では、銀行から現金を数える機械を16台借りたのですが、あまりに長期間放置されていた為に現金の表面に白いカビが浮き、“うどん粉病”のようになっていて、そのうち5台が壊れてしまったといいます。最早、ジョークのような話です。馬宅からは現金の他、37kgの金の延べ棒も見つかっています。また、馬名義の住宅が、北京や秦皇島市を中心に68戸あることも確認されました」(北京のメディア関係者)。地方の一課長クラスの資産がこれほどとは驚きだが、それが絶望的な貧困の上に築かれたものであることも中国の現実だ。外国人が中国を見る時、そのどちらが真実の中国かと考えがちだが、両極の間には分厚い中産階級が存在する。その中でも極めて富裕層に近い層が、個人の資格で日本に“爆買い”に来る人々である。彼らが一体どんな気持ちで日本を訪れ、そしてどんな印象を持って帰ったのか? 北京で話を聞いてみた。

「昨年8月、初めて日本に旅行に行ったんだけど、それまで何十年も持っていた日本の印象が根本から変わったよ。僕だけじゃなく、家族全員、定年退職したばかりの妻の両親まで日本の印象が良くなったんだ。今年は、会社の従業員の中から優秀な人材を選抜して連れて行こうと思っている」。こう語るのは、北京在住で、大連に魚の養殖場と加工工場を持つ陸暁(54)だ。陸の年収は約1800万元(約3億5300万円)。北京の都心に280㎡のマンションと320㎡の戸建て、大連には1000㎡の住宅兼貸店舗があり、海南島とヨーロッパに別荘を持つ。保有する6台の車が全てヨーロッパの高級車というように、これまでは旅行と言えばヨーロッパばかりだった。今回は、妻の両親の定年退職祝いの為、4人の家族と一緒に比較的近い日本を初めて選んだという。「ツアーではなかったが、日本では通訳兼ガイドを雇ったよ。赤坂では鉄板焼きを食べて、家族6人で24万円。銀座ではカニ。15万円だったけど、どっちも値段以上の満足感を味わった。日本でのショッピングはサービスが良いから、思いのほか買ってしまった。覚えているのは、表参道で妻に買ったバーバリーのスプリングコートが約70万円。花火鑑賞の為に長女に買ってやった浴衣が約12万円。両親にプレゼントしたマッサージチェアが42万円。そして、健康食品や男性用サプリメント(強壮剤)が半年分で約25万円だった。それから、最新型の浄水器も買ったよ。55万円だったかな。旅行中の最も大きな買い物は、自宅用の温泉セット。値段は1500万円だった。熱海で入った温泉が忘れられなくて、どうしても欲しくなったんだ。通訳の人に探してもらって買うことにしたんだけど、勿論持って帰れない。マッサージチェアや炊飯器(3台)と一緒に船便で送った。それが送料だけで22万円にもなったんだ」。通訳兼ガイドと別れた後、「家族だけでもう一度、高級和牛を食べたい」と大阪の梅田を歩き回っていたら、間違えて新地のクラブに入ってしまったというハプニングもあったが、皆が熱心に筆談でレストランを紹介してくれ、そこでも日本社会の細やかさに感動したという。「会社を経営している立場から言えば、日本社会に備わっているサービスの質の高さは、中国とは大きな差がある。そのことを痛感させられたね。商売をする者の間では、『細やかさはビジネスの勝敗のカギ』という言葉があるが、まさにその見本のように感じられた。だから、次回は従業員たちを連れて行きたいと考えたんだ」。初めて日本を旅行した中国人が、それまで国内で想像していたのと全く逆の印象を持って帰国し、リピーターとなるケースは少なくない。それは、アンケート等で明らかになる日本人の対中感情の悪化と、日本を訪れる外国人を持て成す行為とをきちんと切り離す、日本人の“大人な部分”のなせる業なのかもしれない。




buying 02
既に日本へのリピーターとなっている陳世建(39)の目に、日本人はこんな風に映っているようだ。「香港にも時々買い物に行っていたんだけど、敵意剥き出しの態度には嫌気が差した。その点、日本人は賢いよ。心の中で色んな感情があることは感じるが、街中では笑顔とサービスを忘れない。だから、ついつい買い過ぎちゃうんだよね。香港人にもこの賢さが欲しいものだ。どの国・どの地域であっても、今の中国人と真っ向から対立するべきじゃない。そんなことをしても損するだけだよ。少なくとも、今はね……」。自制の利いた日本人の行いを称賛するのは、陸も同じだ。「家族をホテルに残し、日本にいる中国人の友人たちと六本木のキャバクラに行ったんだ。そこでわかったことは、中国の女も日本の女もどっちもポケットのカネを狙っているが、日本の女は笑顔とサービスでお金を使いたくなるように仕向ける技術がある。それに比べると中国の女は露骨で、全ての行動に値札がついているように思えてしまうんだ」。陳は現在、北京で自動車販売の会社を経営する。年収は約1200万元(約2億3500万円)。北京オリンピック開会式会場の『鳥の巣』近くにある400㎡の高級マンション(約3000万元)に住んでいるが、子供を重点小学校(進学校)に通わせる為に、態々その学区内に180㎡のマンションを750万元で購入したという。日本には3年間有効のビジネスビザでしょっちゅう来ているから、1回の滞在日数は比較的短い。今回は夫婦で4泊5日、主に東京で買い物する為の旅であったが、中でも、娘の通学の為に買ったマンションに、30㎡の畳部屋を作る為の下見と買い出しがメインだったという。

陳本人は、高級時計の収集とAV(アダルトビデオ)鑑賞が趣味ということで、渋谷の時計専門店でカルティエの男性用腕時計を310万円で、オメガの女性用腕時計を250万円で、ロレックスの女性用腕時計を200万円で購入し、その後に夫人をエステに行かせている間に、池袋の中国人が経営するインターネットカフェで海賊版AVの入ったHD(ハードディスク)を2つ(1つに200本の作品が入っている)買ったという。「AVの品質は飛び抜けて良いが、日本のものなら大抵は好きだ。この国の空気・食事・環境・文化の全てが好きと言っても良い。将来、若し日本がもっと開かれた国になれば、もっともっとお金を貯めて日本に行き、日本人になって議員を目指したい。また、息子には大きくなったら日本の女性と結婚してほしい。ただ、娘は日本人の男とは結婚してほしくない。深く付き合ったことは無いが、あまり良い印象を持っていない。どことなく気難しい性格の男が多いように感じるんだ。日本の男性は、何かしょんぼりしているように見えるよ。年功序列の社会で、皆が周囲の顔色を窺っているようだからね。才能を評価する社会でも無さそうだから、一生懸命働いたとしても大した金は稼げない。そりゃ、気難しい性格になるよって感じかな。そんなところに嫁いでも生活は単調になるし、退屈なんじゃないのかな」。陳は結局、畳部屋を作る為の材料を合計600万円分買い込んで帰国したという。陸も陳も、中国社会ではプチ富裕層に入るのだろうが、2人とも都会の生活が身に付き、神士然とした雰囲気を纏う。だが、中国の金持ちは金持ち然とした者ばかりではない。典型的なのが、株や不動産への投資で儲けている温滔(32)である。温は、2012年の訪日以来“日本贔屓”になってしまい、もう30回以上も日本を訪れている。

buying 03
陸と陳が日本の航空会社のビジネスクラスを使用し、滞在は最高級のホテルに泊まるのに対し、温は金があっても移動と宿泊にはお金をかけない主義だ。「飛行機はいつもエコノミークラス。ホテルは東京なら新宿のビジネスホテル。大阪なら梅田のビジネスホテルに決めている。日本なら、それで何の不満もないよ。3年前に離婚して1人で泊まるだけだしね。少し日本語もできるようになったから、動き易いほうが良いんだ。日本には楽しみに来ているけど、中国国内でレストランを経営している友人から頼まれ、買い出しもさせられるんだ。頼まれるのは大抵、青森県と岩手県産の干し鮑と香川県産の海鼠。それに、神戸牛や松阪牛といった高級ブランド牛肉が殆どだね。えっ、密輸じゃないかって? そう言われればそうだね。まあ、見つからないようにしているから大丈夫だよ。今、中国行きの飛行機は大体荷物2個、1つが23kgを越えなければOK。だからやり易い。このアルバイトは儲けが7割だから、リターンが大きい。旅行代ぐらいはあっという間に浮いてしまう。見つかって没収されたとしても、自分は痛くないしね」。温は2007年に株取引で成功し、560万元(約1億1000万円)の利益を得た。次に、それを元手に上海中心部の3LDKのマンション4戸を購入。それが4年後の不動産バブルで全て5倍に値上がりしたことで、大きな財産を築いたのだった。失敗すれば自殺するしかないような大きな賭けに出て成功を収めた人物だけに、個性が強く、言葉に遠慮が無い。日本に来る楽しみは、吉原の高級ソープランドに通うこと。「日本を知らない中国の男が持っているような日本女性に対する幻想は、もう俺にはない。日本の女性が素晴らしかったのは昔のことさ。俺は、間違っても今の日本の女とは結婚したいと思わない。でも、吉原のソープは最高だ」と、独特の日本観を披露する。

温は3月にも日本を訪れているが、この時に買ったものも非常に個性的だ。「今回は、先ずA5クラスの高級牛肉を約90万円分。それから、新宿の百貨店でミキモトのパールジュエリーセット約98万円。これは友人の結婚式に使うもの。更に、日本製の高級釣具を3セット。合計約36万円だった」。こんな温は、今の日中関係をどのように捉えているのだろうか? 率直に訊ねると、こんな答えが返ってきた。「俺は、今の中日関係をとても憂慮している。そして、中国の指導者も日本の政治家も嫌いだ。俺は若いから、中日戦争のことは知らない。戦争の知識は本やテレビドラマから得ているが、そういうものが殆ど嘘だってことも知っている。戦争が終わって既に70年も過ぎているのだから、それは歴史だ。歴史は語るもので、次の世代に恨みや仇を教えて復讐を煽るものではない。今更、70年前に起きたことをどうこう言うのではなく、現在をどうしたらよいか考えてもらわなくちゃ。習近平には、もう少し大人になってもらいたい。14億の大国のボスなんだから、一々日本の馬鹿な政治家の言動に反応する必要はない。日本も日本だ。ずっと70年前の重荷を背負い続けて疲れないのか? これまでの流れを見ていれば、歴史認識で挑戦して得をした政治家はいない。国内外の人々から尊敬された政治家も見たことはない。俺は中国のやる大閲兵式のどこに意味があるのかわからないが、安倍晋三も所詮小物だと思ったよ。大物だったら秋の北京で閲兵式に出席して、黙って笑って天安門で軍事パレードの列に手を振ったって良いじゃないか。あと、日本のマスコミのレベルの低さには驚かされる。どれも粗、ヌードと中国・韓国批判しかない。俺は年を取ったらお台場にマンションを買って住みたいと思っているくらい日本が好きだけど、今のような日本は好きになれない」

buying 04
“爆買い”に来る中国人の姿を見て、「実は中国人は日本が好きなんだ」と安直に考える日本人もいるようだが、そんな単純なものではない。抑々、日本に買い物に来られるような人々は元々反日ではない。反日デモが花盛りの時は、家にいて静かにしている人々だ。その微妙な感覚を語ってくれたのは、ネイルアートや美容関連の会社を複数経営する邱艶玲(36)である。「私は日本に反感を覚えないし、反日活動にも興味は無い。私の周りも、反日家なんて1人もいない。でも、日本に対し親近感も持っていない。よく日本には行くけどね。今の中国人の殆どはそう感じているんじゃないかな? だって、買い物が楽しいのと対日感情は別の話でしょ? 中国で“反日”とかいってインターネットで騒いでいるのは、殆どが田舎の若い貧乏人か幸せじゃない人たちね。そんなの相手にしなくてもいいじゃない。ただ、私は日本人も何だか独善的だなあって思うんだよね。だから、友達にはなれないなって印象」。邱は昨年、故郷の両親に200万元で家をプレゼントしたばかりなので、9月の旅行時にはあまりお金は使えなかったと言うが、それでも2週間の日本滞在中に整形手術(脂肪吸引・フェイスリフト・小顔等)に約280万円、それから美容関係の薬剤(コラーゲン・プラセンタ等)を130万円分も買っている。彼女が日本に通うのは主に美容の為だが、それは「圧倒的に日本のクオリティーが高いから」だと言う。「今まで韓国やシンガポール・スイス等にも行って、エステや整形手術を試してきたけれど、やっぱり日本の技術が優れているし、効果もあったのね。そして、スタッフのサービスも良い。でも、時々サーッと来て美味しい食事をして楽しんで帰るのはいいけど、日本で長く暮らしたいとは思わないわ。だって、人間関係が窮屈で生活は楽しくなさそうだし、疲れそうだもの。例えば、私の通う整形外科は、その9割が日本人なのに、日本の男は『日本人の女性は整形していない』と信じているでしょう。だから、日本人の女性も決して整形手術をしていることを明かそうとしない。中国の女性は寧ろ整形することを楽しんでいて、互いに情報を共有し、良い病院を紹介し合うのに…。美しくなれるのなら手段は問わない。人様の目なんて、はっきり言ってどうでもいい」

日本のエステや健康食品・薬品に対する強い信頼を口にするのは、中国の富裕層の1つの特徴のようだ。「私は子供が生まれる少し前から、日用品は全て日本製にしているんです」。こう語るのは、周娟娜(25)である。周の父親は、大型の石油プラント関連の設備製造会社の社長で、典型的な“富二代(大金持ちの2世)”である。彼女は、父親の出身地である湖北省に貸店舗を持ち、更に父親の会社から給料が支払われている為、夫の収入が無くても十二分に余裕のある暮らしができる身分なのだ。北京で使っている超高級マンションも、父親が結婚の際に買い与えてくれたものだという。日本には頻繁に来ているが、直近では今年の春節休み。ママ友4人と連れ立ち、5人の為の専用のツアーを組んでもらった。所謂、VIP団体旅行だ。「4泊5日のコースだったけど、行くところはエステやレストラン、それからデパートや専門店のショッピングだけ。キッチン・トイレ用品・消臭剤・生理用品といったものは日本では買わないで、“楽天市場”の中国語版を使っている。1週間もかからず商品が届くから、不自由はしていない。若し、どうしても早く欲しい時は“代購公司”に頼めばいい。代購公司は、要するに個人輸入代行なんだけど、かなり身近よ。だから、大きな荷物を抱えて帰国する必要は無いの。今回、日本で買ったのは、1.5カラットのダイヤモンドの指輪(120万円)とミキハウスの子供服26万円分。それと、SK-Ⅱの化粧品が36万円。シャネルの洋服・アクセサリー等で420万円。セラミックの包丁等が50万円。それから、主人へのプレゼントでバーバリーのコートが約95万円だった」。彼女の話に依ると、今、中国の代購公司で働く中国人は2万から3万人いるとも言われている。日本への注文もバラエティーに富むようになり、整形手術等で使われる注射用の薬品等にも人気が集まる。

日常生活で日本製品への依存をこれほど高めていることに驚かされるが、若し日本と中国の関係が再び悪化した時、彼女はもう一度、中国の国産品に戻ることができるのだろうか? 「中国政府には、もう反日はやらないでもらいたい。中日関係が今以上に悪くなって、日本製品が入って来なくなったら大変でしょう。釣魚島問題? もうどうでもいい話ね。だって、あそこは何もないんでしょう? そんなところの為に争っても建設的ではない。習大大(習近平のこと。“ボス”の意)は時期とタイミングを見て、格好良く日本にあげちゃえばいいんじゃないかなあ。それとも、中国が大金を払って買うべきなのかな? どっちでも良いけど、兎に角仲良くしてほしい」。“爆買い”する中国人を如何に満足させ、その心を掴むか? それが日中友好の1つの鍵となることは、知っておくべきだろう。 《敬称略》 (ジャーナリスト 富坂聰)


キャプチャ  2015年7月号掲載


スポンサーサイト

テーマ : 中国のニュース
ジャンル : ニュース

Categories
Profile

KNDIC

Author:KNDIC
Welcome to my blog.

Latest articles
Archives
Counter
I'm participating in the ranking.

FC2Blog Ranking

information
Search
RSS Links
Link
QR Code
QR