【貧困と隣り合わせで生きる】(下) 国民年金では足りない老後の備え、貧しさから身を守るのは福祉ではなく教育

サラリーマンが性に合わなかった父は、ずっと歩合制の仕事ばかりしていた為、ボーナスなんてものは手にしたことは無い。勿論、保険は国民健康保険、年金は国民年金だった。国民年金の受給額の低さがニュースになる度に思うことがある。56歳で亡くなった父が“高齢”と呼ばれる年齢まで生きていたとして、年金を満額受給しても約6万4000円。しかも未納や免除期間もあり、更に減額となることは確実だった。様々な生活費の他に、持ち家でなければ賃貸が必要となり、国民年金(老齢基礎年金)だけで理想とする老後を送ることはできなかっただろう。日本人の8割以上の人が「『年金だけで生活しよう』と考えている」という調査結果があるが、国民年金だけに加入している人は自覚しなければならないことがある。抑々、国民年金(老齢基礎年金)だけでは老後の備えは絶対的に足りないということだ。今年6月に起きた、71歳の男性が年金に不満を持ち新幹線で焼身自殺した事件は衝撃だった。仕事を選ばずに、身を粉にして一生懸命に働いていた父と重なった。飲みに行くのも年に一度あるかないか。洋服も着た切りで、贅沢は一切していなかった。「それでも“どうにもならない”ことがある」と、父親の背中を見て私は育った。一度、落ちた貧困から抜け出すのは容易なことではない。働きたくても働けず、年金だけで暮らす高齢者を取り巻く状況は厳しい。

先日、東京都内の地域包括支援センターの方に話を聞いた。オレオレ詐欺被害・ゴミ屋敷化・孤独死…。「私は大丈夫」で片付けられない身近で起きている現実だという。ある一人暮らしの70代の男性は、食事もせずお酒ばかり飲み、排泄さえままならずゴミの中で暮らすという、まさに“セルフネグレクト(自己放棄)”の状態に陥っていた。センターの人が介入しなければ、その男性は孤独死していたかもしれない。知り合いの70代の女性も、嫁姑の問題から、止むを得ず1人暮らしを強いられることになった。病気がちだったご主人は既に亡くなっていて、僅かな遺族年金だけで生活することに。「この年齢で本当に情けない」と涙を流していた。持ち家でなく、子供からの援助もあてにならない高齢者の貧困化は、これから益々大きな問題になる。最低限のセーフティーネットとして低家賃で安心して暮らせる住宅、そして安否確認をしてくれる第三者の確保が先決である。




“貧困”という落とし穴は突然、牙を剥くのではない。老いも若きも、常に貧困と隣り合わせに生きているのだ。だからこそ、貧困が次の貧困を産む前に手を打たなければならない。貧困から身を守るのは福祉ではなく、“教育”しかない。我が家は父という反面教師がいたおかげで、10代の頃から“備え”をするという極当たり前のことを学んだ。解約されていた妹の学資保険の話には続きがある。「そんな筈はない」と言い張る父。私は郵便局に何度も足を運ばされたが、解約の事実は変わらなかった。我が家のように病気になってから慌てても、“時既に遅し”である。生きていくのにも、そして病気になった時も、死んだ時もお金がかかる。年金受給者になっても、健康保険料・介護保険料・住民税等は払い続けなければならない。「将来貰えるかわからないから、国民年金は払いたくない」と言う若者も多い。前述した通り、国民年金はそれだけで生活できる金額ではないが、若し働き盛りの年齢で病気や事故で障害を負った時に国民年金を納めていないと、障害年金を貰うことはできない。実は、そのことを知らない人が多い。斯くいう私もその1人だった。残念ながら、日本は「年を取っても全て面倒を見ます」という“ゆりかごから墓場まで”の福祉国家ではないということを再認識しなければならない。そして、社会保障は恵みの雨のように空から降ってくるものではないということも。努力した人間が報われる社会であってほしいが、必ずしも現実はそうではない。だからこそ、「明日は我が身である」と全ての人が自覚し、“生きる力”を自ら学ぶ時が来ている。「学校でも教えてくれなかった」や「誰も教えてくれなかった」は、もう言い訳でしかない。来る人生100年時代を生き抜く為の“知恵”を、貴方は身につけているだろうか…。


町亞聖(まち・あせい) フリーアナウンサー。1971年、埼玉県生まれ。立教大学文学部英米文学科卒業後、1995年に日本テレビにアナウンサーとして入社。その後は報道局に移り、報道キャスター・厚生労働省担当記者として、癌医療・医療事故・難病等の医療問題や介護問題等を取材。2011年にフリー転身。脳障害の為に車椅子の生活を送っていた母と過ごした10年の日々、両親を癌で亡くした経験を纏めた著書『十年介護』(小学館文庫)を出版している。現在、TOKYO MX『週末めとろポリシャン!』(毎週金曜日11時~12時)、文化放送『大竹まことのゴールデンラジオ!』(毎週水曜日13時~15時30分)等に出演中。


キャプチャ  2015年9月4日付掲載


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テーマ : 貧困問題
ジャンル : 政治・経済

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