【中国経済はどこまで重症か】(03) 色褪せた習近平の“中国夢”――形振り構わぬ通貨切り下げに突然の大爆発事故、僅か1000日で難題山積の習政権はどこへ行くのか?

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中国・天津市の化学物質貯蔵庫で大爆発が起きた8月12日は、習近平が2012年11月に中国共産党トップの総書記に就任してから、丁度1000日目だった。その前日には、中央銀行に当たる中国人民銀行が突然、人民元の切り下げを発表。6月以来の上海株式市場の急落で広がっていた中国経済の安定性に対する世界の疑念は、沈静化するどころか一層大きく膨らむことになった。習の任期は前任者の胡錦濤と同様、10年間と考えられている。現在は任期の4分の1を過ぎたところだ。だが、“第1コーナー”を回ったばかりなのに、習政権は胡錦濤時代と比べものにならないほど難題に直面し、同時に物議を醸す行動を取り続けてきた。リーダーとしての習の最大の特徴は、国内向けにも国外向けにも“鉄仮面”を外そうとしないところにある。国内向けには、腐敗した政府高官を中央からも地方からも根こそぎにする反汚職キャンペーンを続けてきた。元最高指導部メンバーの周永康や軍ナンバー2といった聖域にも切り込んだのは、習が自らの権力基盤を固める狙いもあった筈だ。習は周辺諸国に対しても、これまでの国家主席より強硬な態度を取っている。2013年11月、東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定すると、続いてフィリピンやベトナムと領有権を争う南シナ海で暗礁を埋め立て、滑走路や施設を造る動きを本格化した。

一方で、習は次から次へと国家と政権を飾る“看板”を掲げてきた。就任直後に先ず持ち出したのが、中華民族の偉大な復興を実現するという“中国夢”。マルクス主義を事実上放棄した後、新たに13億人を統合する為のナショナリズムの利用だ。ナショナリズムは、中国政府に依る南シナ海や東シナ海での強硬な領有権の主張を裏から支えている。更に、習政権は世界第2位の経済大国としての地位を根拠に、『アジアインフラ投資銀行(AIIB)』、21世紀の新シルクロード“一帯一路”という新構想を打ち出した。アメリカを意識したかのようなリーダー的振る舞いだ。一方で、李克強首相の名前から取った“リコノミクス”や“新常態(ニューノーマル)”といった経済政策の新たなスローガンも、頻りに唱えられるようになった。何れも、最早嘗ての高成長が望めず、中成長へと舵を切らねばならない中国経済の方向転換を国民に納得させる為の看板に他ならない。総じて言えば、習と李はこの2年半余り、「30年以上前に鄧小平の改革開放に依って始まった高度成長時代を、どうソフトランディングさせるか?」という難問に振り回されてきた。胡錦濤と温家宝首相の時代には“保八(成長率8%維持)”が合言葉だったが、今や7%になり、実質的な成長率はそれ以下だと囁かれる。共産党が中国を支配できるのは、国民に“今日よりよい明日”を約束する経済成長を続けてきたからだ。それが揺らげば、独裁体制が続く保証は無くなる。経済がソフトランディングする為の不可欠な条件が構造改革だが、“第2の深圳”を目指して李が旗を振る自由貿易試験区には、今のところ目立った進展が無い。本来は、国家の干渉を減らして市場の力を強めねばならないが、先日の上海株急落では臆面もなく政府が市場介入して、株を買い支えた。途上国にインフラ整備を日指すAIIBも新シルクロード構想も、見方を変えれば過剰になった中国国内の生産力の受け皿探しだ。国土から遠く離れた南シナ海で強引に領有権を主張するのは、列強諸国に国土を切り刻まれた過去の歴史のトラウマ故。思うように進まない経済の立て直しから、国民の目を逸らす効果もある。ただ、経済力に陰りが見える中国が強引なやり方を続ければ、反発も出る。昨年、台湾と香港で共に学生運動が起こり、“中国的価値観”に強く反発した。このことは、経済力に陰りの見え始めた中国が、民主主義や人権といった“普遍的価値観”を無視すれば、台湾・香港にも相手にされないという現実を示している。習にとっては大きな挫折だ。




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100人を超す死者が出た天津の大爆発事故は、はっきりした原因がわからず、「現場で神経ガスが発生した」という未確認情報すら飛び交っている。ただ、流石にこの事故を「習ら中央政府の直接の責任だ」と言うのは難しい。しかし今回の事故でも、危険物専用倉庫の建設許可等を巡る高官の収賄疑惑が取り沙汰されている。終わり無き反腐敗キャンペーンを続けても尚、汚職を背景にこのような大惨事が起きるのなら、中国の闇はあまりに深い。これもまた、習の挫折だろう。上海市場の株価は先週、再び6%も急落して世界に不安を広げた。ただ一方で、不動産価格は持ち直しの兆しを見せており、経済崩壊が目前に迫っているという状況ではなさそうだ。中国のある大手不動産会社は昨年、今年の販売日標を2014年の5分の1に設定した。バブル崩壊を予想させる動きだったが、販売目標を低く設定するのは、予め事態を予測し、コントロールする意思の表れでもある。昨年から今年春にかけて調整局面に入っていた新築住宅価格は7月、北京や上海等の大都市を中心に値を戻し始めた。ただ、どう贔屓目に見ても“中国夢”は色褪せている。政敵と国民を黙らせる為に、習は恐らく残り4分の3の任期中も強面のまま走り続けようとするだろう。習政権の命運を握るのは、国有企業等の既得権益層を切り崩して、経済を国家中心から市場中心に変える構造改革の成否だ。国家の力が弱まり、逆に市場の力が強まれば、習の権威も削がれて、今まで通り強面でいられなくなるかもしれないのだが。 (長岡義博)


キャプチャ  2015年9月1日号掲載


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テーマ : 中国問題
ジャンル : 政治・経済

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