【特別対談】 “橋下劇場”が炙り出したもの――藤井聡×適菜収

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適菜「橋下維新の“大阪都構想”は無事否決されて、大阪市の存続が辛うじて決まりました。我々は橋下維新の危険性を指摘し続けてきましたが、藤井さんがメルマガで書かれた“大阪都構想:知ってもらいたい7つの事実”に対し、橋下らが卑劣な攻撃を仕掛けてきたのが、住民投票の約100日前でしたね」
藤井「当時は、あの程度のことすら言い辛い空気があった。住民投票直前にはかなり言論空間が確保されてきましたが」
適菜「橋下が失敗したのは、ケンカを売ってはいけない相手にケンカを売ったこと」
藤井「公権力を駆使した彼の“言論弾圧”に依って、逆に『言論封殺に屈しない』という動きが一気に高まったのは事実ですね。でも、維新外の政治家の中にも維新シンパはいたし、『都構想は素晴らしい』という空気もあった。都構想の実態を知らない人たちにしたら、スマートな改革が行われているように見えたのでしょう。多くの国会議員にしても、都構想の危険性に気づいたのは4月後半から5月に入ってからではないかと思います」
適菜「自民党幹事長の谷垣さんが、『“都構想”と立派な名前で言っているが、羊頭狗肉だ。大阪市を解体して弱くするだけの話ではないか』と言ったのは4月15日。これに石破氏が、『谷垣幹事長の発言は当然』と同調します。二階俊博さんは、『住民投票で反対派が負けてしまえば、大阪の政治は滅茶苦茶になる』ときちんと言いましたが、住民投票が終わった後なんですね。官邸に配慮したのでしょうが、住民投票前に言うべきです」
藤井「気づいていなかった可能性もある。私が東京の国会議員の先生方に呼ばれて説明をすると、都構想の惨さに驚く人が大半。国会議員でもそうなのですから、一般の方はわからない筈です。小林よしのりも、適菜さんと私の週刊誌対談記事を読んで、初めて危険性に気づいたらしい」
適菜「官邸は、橋下維新を改憲の駒として使おうとしていた訳です」

藤井「当方個人の活動を振り返れば、言論の無力を感じることも多かったが、橋下維新との100日間の言論戦を通して、一定の言論空間は確保できたと思います。広がりは小さいですが、ゼロではなかった」
適菜「勿論、言論に依り悪を阻止することはできた。しかし、『やはり絶望しかない』というのが今の気分です。住民投票の後に『これでノーサイドだ』という言葉が出てきたでしょう。『大阪市は橋下維新に依り2つに分断されたけど、これからは一緒になって新しい大阪を築いていこう』みたいな。こうした流れには凄く違和感があった。抑々、“ノーサイド”は橋下が言い出したんですよ」
藤井「卑怯としか言い様がない」
適菜「自分が大阪市民を2つに分断しておいて、“ノーサイド”も何もない。この橋下の手法に、大阪市会の野党も同調してしまったフシもある。今回の住民投票は、政策の違いを問うものではありません。『橋下維新の政策と野党の政策のどちらがいいですか?』という話ではない。政令指定都市である大阪市の財源と権限を狙う勢力から、大阪市延いては日本を守る戦いだった訳です。強盗がやって来て、何とか撃退した後に、やられた側がニコニコしながら、『これからはノーサイド』って言いますか?」
藤井「全くです。2011年6月29日に、橋下は都構想の目的について、『大阪市が持っている権限・力・お金を毟り取る』と言っています」
適菜「今やるべきことは、都構想なる大型詐欺事件の全容を解明することです。背後でどのようなカネが動いたのか、誰が一番儲かる算段になっていたのか、官邸や宗教団体とどのような密約があったのか、それらを全て明らかにしなければなりません」
藤井「要するに、橋下維新は“人災”だった訳です。専門用語で言うと、橋下維新こそが大阪・日本における明確なハザードだった。但し、懸命に努力した人がいて、幸運も重なって、今回の大惨事は既のところで防ぐことができた。日本が大きく傷つくことが避けられた。先ずは神に感謝するしかありません。しかし、例えば超大型台風に依る何十兆円という被害を奇跡的にギリギリで防いだ時には、『よかったね』と言って何もかも忘れりゃいいという訳にはいかない。真っ当な防災担当官なら、『何故、こんなヤバい状態になったのか?』『どこにシステムの脆弱性があったのか?』等の徹底的な検証を直ぐに始める。然もなければ、この先のリスクを避けることができなくなるからです。ところが、都構想の事後検証の話をしようとすると、『終わったことをいつまでも言うな』『前を向いて大阪の未来を考えろ』といった反発がある。『ちょっと待て』と。『前を向いているから検証する言うとるんや』と。そういう人々は結局、『都合が悪いこと、自分の気分が悪いことは忘れたい』と言うだけで、未来のことなど考えていない。全くの欺瞞です」




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適菜「今回、都構想の本質に気づいた人は極少数だった。だからこれを、民主主義の勝利と捉えると大きく間違うと思います。住民投票で否決された後、一部で『市民社会の勝利だ』『民意は橋下維新にノーを突きつけた』と盛り上がっていますが、それは違う。橋下を封じ込めたのは民主主義ではなくて、知性です。橋下を生み出し、ここまで増長させたのは市民社会ですよ。民意を礼讃すると間違います」
藤井「それは明らかですね」
適菜「こうした問題を民意(つまり住民投票)に委ねること自体が間違っているのであり、一度は議会で否決されたものを、ルールを無視した工作に依り復活させた訳で、これは議会主義の無視に他なりません。橋下らは悪事の限りを尽くしてきた。『“二重行政の解消”に依る財政効果は“無限”』等と嘘を吐き、テレビCMで『教育費を5倍にした』等とデマを流した。タウンミーティングや街頭演説では目盛りを誤魔化した詐欺パネルを使い、大阪市民を騙し続けてきた。こうした橋下の手法を放置したらどうなるのか? 政治に対する信頼そのものが崩壊するんです」
藤井「橋下氏は実際、『これは詐欺でしょう。嘘ではないけれど』と発言している」
適菜「言論に圧力をかけ、デマを拡散する集団を、官邸が利用しようとしていたことは、きちんと覚えておいたほうがいい。住民投票後に菅義偉は、『退路を断って政治をしてきた人だ。橋下氏らしい。政界に出ることを説得した1人なので感概深い』等と寝言を言っていた。悪質な人間ですよ」
藤井「今回は住民投票(直接民主制)という形になったので、一般公衆に“特別区設置協定書”の内容を説明する必要があった。しかし、これは非常に困難でした。行政の仕組みが“変わる”ということを説明する為には、“現状の仕組み”の知識が必要になるからです。市議会にしろ国会にしろ、議員なら地方自治の仕組みを一定知っているので、直ぐにわかってもらえた。今回の経験を通して、“代議制”“議会制”というものがきちんと機能していることを改めて実感できたのはよかったのですが、一般の人に理解してもらうのはかなり難しかった」
適菜「しかも“協定書”は分厚くて、普通の市民が読む訳がない。賛成派も反対派も、殆どの人が読んでいないと思います。住民投票が通れば、“協定書”に記載されていない部分は殆ど白紙委任になることも理解されていなかった」
藤井「つまり、“協定書”の内容が理解されないまま、住民投票に突入してしまった訳です。実際、直前のアンケートでも37%の人が、『都構想の内容がよくわからない』と答えていた」

適菜「橋下はタウンミーティング等で、『住民は都構想について、細かい内容を理解する必要はない』と言っている。街頭演説もデマばかり。本誌5月号にタウンミーティングの潜入ルポを書いて、その辺りは全部明らかにしましたが、あれは間違いなく確信犯です。橋下は最初から、都構想なるものが詐欺であることを知りながら、明確な悪意の下、大阪市民を騙したのです」
藤井「理性的に考察して、その仮説以外考えられない。だから、彼の振る舞いは正確な定義の下、詐欺としか言い様がない」
適菜「詐欺だと断言できる証拠は幾らでもあります。先程も言いましたが、橋下維新は目盛りを誤魔化したパネルを山ほど作っていますよね? 問題は、市民団体や学者が『可笑しい』と指摘した後も維新の会のウェブサイトに掲載し、街頭演説やタウンミーティングで使い続けてきたことです。この一点だけでも詐欺と断言していい」
藤井「今回の教訓は、『政治家は平気で嘘を繰り返す時がある』ということです。橋下氏の発言は嘘に塗れていた。住民投票前の時点でその“事実”を指摘すると『誹謗中傷している』と勘違いされ、言論の力の毀損が危惧されるので、“詐欺”“嘘吐き”という表現はできるだけ避けてきましたが、客観的に見てそう言うしかない。客観的事実として、橋下氏は嘘とデマを驚くべき頻度で繰り返した。例えば、彼は『二重行政の解消で大阪を豊かにする』と何度も強調した。でも、その一方で二重行政解消に依る財政効果には『あまり意味が無い』とも断定している。つまり、これだけ取っても何れか一方が嘘であることは明白です」
適菜「2014年7月3日の定例記者会見ですね。『二重行政の解消に依り、年間4000億の財源を生み出す』と当初は言っていたけど、それは全部粉飾。それがばれてメディアから追及されると、橋下は『財政効果はあまり意味が無い』『僕の価値観は、財政効果に置いていない』と言った。でも、橋下はその後も嘘を吐き続け、最後には『財政効果は“無限”』と言い出したんですよ。ここも詐欺と断言できるポイントです」
藤井「橋下氏や推進論者たちは完全に事実を無視し、それどころか『藤井や適菜はデマを流している』と言い続けた。これは彼らの典型的な手口の1つで、全ての批判をデマだと声高に断定する」
適菜「大阪都構想の危険性について、100人以上の学者が所見を表明しましたよね。そしたら橋下は、『反対派の批判は不安を煽るだけで全部デマだ』って。無茶苦茶です」
藤井「橋下氏がデマゴーグであることは幼稚園児でも証明できる。100人以上の学者の所見に1ヵ所でも本当のことが含まれていれば、『全部デマ』と言った橋下氏は嘘吐きということになるからです。実際、その所見の中には、誰が見ても事実としか言い様のないことが山ほど書かれていた。そして、彼は何のどこがデマなのか、1つとして説明しなかった。だから、橋下氏が嘘を吐いたのは客観的に判断して明白です。つまり、今回の都構想否決が“ギリギリ”だったということは、大阪が詐欺師に支配される寸前のところだったということです。国民は、公権力が平然と詐欺を行うことがあるという事実を冷静に受け止めるべきなのです」

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適菜「詐欺に加担する卑劣なメディアの動きも見えましたね」
藤井「特に酷かったメディアを1つ挙げるとすると、やはり産経新聞でした」
適菜「『安倍政権に近いから、改憲の駒になる橋下維新も温存しておこう』みたいな判断が働いたのでしょうか。住民投票の翌日に産経はこう書いている。『反対した各党にも反省を求めたい。議会での数の優位から、否決すれば都構想は潰せると見て、対案を出さずに消極的な対応に終始した。現状維持は対案でもビジョンでもない』。アホ過ぎ」
藤井「この主張の何が悍ましいかわからない方もいるかもしれませんが、大手新聞社とは到底思えない批判です」
適菜「これが今の日本の新聞のクオリティーです。『強盗から家を守らなければならない』という話に、対案も何もない」
藤井「そうです。“論外”な都構想如きに対案を出す道義的義務など誰にもない。しかも、それにも拘らずご丁寧なことに様々な対案も出されている。だから、この批判は二重に間違っている訳です」
適菜「産経新聞の“iRONNA”というサイトにも酷い目に遭いましたね。『都構想に関する記事を書け』と依頼されて断っていたのですが、『どうしても…』というので書いた」
藤井「私もiRONNAに1つ寄稿した」
適菜「それで、掲載されたサイトを見て仰天しました。特集のタイトルが『大阪都構想、やってみなはれ』だって」
藤井「あり得ない。私も仰天した」
適菜「しかも、編集長なる人物がリードで、「二者択一の選択で揺れる大阪市民の皆さん、ごちゃごちゃ悩まんと(やれるもんなら)やってみなはれ』と書いている。そして、殆どが編集長の無茶苦茶な文章で埋められており、私と藤井さんが寄稿した記事はリンクが貼られているだけ」

藤井「編集長の白岩賢太氏は、こう書いている。『彼(橋下氏)が発する“甘言”は全て嘘だと思っている。それでも、彼の攻めの姿勢には賭けてみたい』」
適菜「橋下の嘘に賭けると」
藤井「しかも、『そんなフロンティア精神こそ、大阪の活気の源であると信じたい』とまで書いている。つまり、詐欺師と知りながら『その姿勢に賭ける』と言い、『それこそが大阪の活気の源だ』と。どこかの一般人が個人のブログで書くならいざ知らず、メディア編集長がこれでは絶句する他ない」
適菜「それで、私は『体裁が可笑しくないですか?』と担当の女性編集者に電話して、苦情を入れた。例えば、雑誌だったら編集長が雑誌の大半を使って文章を垂れ流すことってあり得ないですよね? “朝まで生テレビ!”だったら、番組の最初から最後まで田原総一朗がずっと喋っているようなもの。色々考えずに『やってみなはれ』と、社会の良識から完全に逸脱したことを述べている。女性編集者に『これについてどう思うのか?』と聞くと、『昼過ぎに返事をする』と。それで連絡が来て、『タイトルも体裁も一切変更するつもりはない』と」
藤井「限られた発言機会が失われるデメリットを考え、一瞬泣き寝入りも考えましたが、こんな暴挙への荷担は却って言論を無力化する。だから、即刻取り下げた」
適菜「私も原稿を取り下げて、『原稿料を払うな』と電話で連絡した」
藤井「抑々、『全て嘘だと思っているが、賭けてみたい』ってことは、『何だかわかんねえけど、やんだよ!』ってこと。これでは、「兎に角、でっけえことやんだよ!』と叫ぶヤンキー精神そのままです。大手新聞社の言論サイトの編集長が、ヤンキー精神で都構想を推進した訳です」
適菜「特集のタイトルが『やってみなはれ』ですからね」

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藤井「これは、『やれるもんならやってみろよ。びびってんじゃねえよ』っていうニュアンスが明確に入った関西弁です」
適菜「ただ、そう見えないようにする為に、反対派の意見も一応リンクを貼っておく訳ですね。確信犯ですよ」
藤井「ヤンキー精神が赤裸々にばれるのが嫌だから、誤魔化そうとした」
適菜「その女性編集者は、『両論併記で多様な言論が…』等と言っていた。誰がどう見てもそうなっていない。編集長の意見をリンクにして、我々の原稿のリンクと並べるのなら理解できますよ」
藤井「しかもこの白岩編集長は、『都構想を批判するインテリの方々も、“橋下憎し”の一点だけで結束しているように見えてならないのは、筆者だけだろうか?』と書いている。これはあまりに凄過ぎて笑ってしまいました。本人は気づいてないでしょうが、これは編集長から寄稿者への咋な誹謗中傷。藤井と適菜の原稿を掲載しておきながら、それらを掲載した編集長が『コイツらは単に橋下氏が嫌いなだけで、色々理屈書いているが、それは全て感情論だから真面目に読まなくてもいいと思うよ』と態々宣言したに等しい。これ、言論サイトだから一応“公器”ですよね? こりゃもう、凄過ぎるギャグです(笑)」
適菜「メディアの劣化はとんでもないところまで来てしまっている」
藤井「但し、酷いのは産経新聞だけではない。多くの言論機関が可笑しな空気に飲み込まれていた。雑誌もテレビもそうです。本当は都構想を応援しているけど、それを露骨に表に出すと放送法に引っかかったり、報道の公平性が疑われるので、体裁上、両論併記形を偽装して都構想賛成に誘導する訳ですね。iRONNAは、そんな偽装中立の典型例だという訳です」

適菜「そう言えば、橋下は『藤井は偽装中立だ』と的外れなことを言っていましたね」
藤井「あれももう、殆どギャグレべル。抑々、我々がやってたのは反対でなく“説明”。都構想の実態を説明しようとしていた訳です。謂わば、我々は“説明派”。ところが、嘘を吐いている彼らからすれば、説明派は反対派と同じく単なる邪魔もの。寧ろ、“説明派”のほうが自分たちの嘘をばらすので、一層厄介でもある。だから、彼らは躍起になって“反対派”とレッテルを貼った。そこで我々が『説明しただけじゃないか』と言うと、『偽装中立だ!』と罵った訳です。ところが、実際に偽装していたのはiRONNAのような推進派メディアだった」
適菜「橋下は、未だに指摘された事実について回答していない。『反対派は逃げ回っている』とデマを流しながら、自分は逃げ回る。『在阪のテレビ局や京都大学に文書で圧力をかけた時点で、普通の集団ではないと気づけよ』という話」
藤井「ホントそうです。橋下維新やそのシンパは、あらゆる嫌がらせや言論テロを仕掛けてきた。あまりの酷さに、途中から暴力テロにまで至る感触を現実に感じるようになりました。だから、言論戦中は地元の警察とも相談しつつ、最悪の事態も覚悟していました。今のところ事無きを得て、漸く少しほっとしています」

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適菜「私は、『今回の都構想詐欺事件は何かに似ているな』という思いが頭の片隅にずっとあった。それは、“金嬉老事件”です。1968年に在日韓国人2世の金嬉老が人を殺して、その後、温泉宿で監禁事件を起こした。十数人を人質に取り、ライフル銃やダイナマイトで武装して籠城した。これは、劇場型犯罪の嚆矢とされています」
藤井「なるほど」
適菜「今回の都構想も、劇場型犯罪の要素がある。金嬉老事件の時もメディアは卑劣に動きました。ワイドショーは面白がって連日のように報道し、ライフルを空に向けて撃たせる演出までした。金嬉老が殺人を犯した理由はただの借金問題なのに、金の発言に誘導されるような形で、在日韓国人・朝鮮人に対する差別問題に絡めて報道されるようになっていく。金嬉老は無期懲役になり、最終的には韓国に強制送還されたのですが、そこでまた悪いことをやっているんです。愛人の夫を殺そうとして、放火までやった。つまり、純粋な悪人なんです」
藤井「うん」
適菜「この金嬉老事件について、三島由紀夫が“若きサムラヒのための精神講話”という文章で言及しています。三島が一番驚いたのは、金嬉老でもその周辺で発生したパニックでもなくて、人質の中の数人の青年の振る舞いだったと。20代前半の血気盛んな年頃であるにも拘らず、4日間に亘り、金嬉老が風呂に入っている間も手出し1つしなかったと。『われわれはかすり傷も負いたくないという時代に生きているので、そのかすり傷も負いたくないという時代と世論を逆用した金嬉老は、実にあっぱれな役者であった」と三島は書いている」
藤井「ああ、なるほどね」
適菜「三島は続けて、こう述べてます。『泰平無事が続くと、われわれはすぐ戦乱の思い出を忘れてしまい、非常の事態のときに男がどうあるべきかということを忘れてしまう』――『金嬉老事件は小さい事件かもしれないが、将来これが非常に拡大された形で発生するだろう』と三島は予言した。掠り傷1つも負いたくないという時代において、口八丁で世論を誘導した金嬉老は、まさに橋下じゃないですか」
藤井「全くそうです」
適菜「掠り傷1つも負いたくない奴らは、橋下維新を批判しなかった。それで、如何わしい勢力が拡大してしまった。多くの人間がワイドショーの視聴者・傍観者として振舞ったのです」

藤井「私は某連続監禁殺人事件を想起しました。暴力の種類は違いますが、構造は似ている。監禁された空間の中では、市民社会のルールや道徳は一切無視される。そして、独裁者・トップの思いつきで全てが動きます。嘘も吐き放題、法律も曲げ放題。そうなると、所謂“ストックホルム症候群”が発生する。つまり、監禁した側に媚を売る人たちが出てきて、その内に自分自身をも騙し始め、挙げ句の果てに“愛して”しまう。そうなると、一般社会の常識・法体系から完全に逸脱した密室空間における歪んだロジックが完成し、テロルが正当化され、遂行されていく訳ですね」
適菜「はい」
藤井「私は言論戦中、屡々テレビで外国の暗殺や粛清の事件について解説する機会があったのですが、そんな時、内心、『これは大阪で起こっていることと同じ話だ』と感じていました。正邪の判断をさて置いて政治が進められれば、それは必ずテロルに結びつく。それに対する危機感を、適菜さんを含めた私の周辺の数人の言論人は持っていた。しかし、それ以外の言論人にはそういう危機感は殆ど見られなかった。それで改めて、『日本では、最低の資質すらない言論人が大半なのだ』という事実を理解しました。言論人は、言論の自由を奪うテロルに対して徹底的に敏感であるべきだからです」
適菜「しかも、“保守”を自称する連中が真面に動かなかった。所謂“保守系雑誌”で書いている連中は、飽きもせずに朝日新聞や中国や韓国・北朝鮮を叩くだけで、本当の国の危機を見据えようとしない」
藤井「悍ましいとしか言い様がない」
適菜「それで、安倍晋三や菅義偉を支持していたり。橋下が暴走したのは官邸の責任でもある。最後の最後は見切ったのかもしれないけど、ずっと橋下維新を甘やかしてきた。それに対する反省もしていない。尤も、真面な保守層は最初から安倍や菅など相手にしていない。今の政権支持層は、単なる反左翼の思考停止した連中か、新自由主義を保守と勘違いしているバカか、改革幻想に踊らされた自称保守(=B層)だと思います。戦後の幻想の平和に酔っていたバカが、幻想のリアルポリティクス(その実態は売国)に酔っているだけで、平和ボケであることには変わりがない。移民政策・配偶者控除廃止の検討・農協の解体…。我が国の国柄を破壊する勢力を自称“保守”が支持しているのだから、話にならない。保守の存在意義って、安倍や橋下みたいな変な人間が出てきた時に戦うことしかない訳でしょう」

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藤井「橋下氏は住民投票で負けると、都構想をあっさり諦めた。これを潔いと言う人間もいますが、噴飯ものです。何故なら、これまで散々『都構想をやらなきゃ大阪は滅茶苦茶になる』と言い続けた訳ですから。そんなにあっさり諦めるということは、『大阪のことはどうでもいいと思っている』か、『都構想で大阪が良くなるとは思っていなかった』か、何れかだと考えざるを得ません」
適菜「橋下は当初、『住民投票で否決されても何回でもやる』と言っていたのに、そのうち『都構想の住民投票はこれが最後』と正反対のことを言い出した。凄かったのは、住民投票で否決された後の発言。『僕が間違ってたってことになるんでしょうね』と」
藤井「“正しい”かどうかは住民投票の結果とは関係ない。“真実は少数に宿る”なんてことは日常茶飯事です」
適菜「要するに、日本人をナメているんです」
藤井「これで怒らない日本人に、私は幻滅してしまいます。完全に橋下氏にバカにされているのに気づかないんですから」
適菜「結局、橋下はバカを騙すのに成功した。否決後の会見を見て、『潔い』『爽やか』『鮮やか』等とバカが言い出した。まだ引退してもいないのに“政界復帰”を望むとか…。あの手のバカもリストアップしておいたほうがいいですね」
藤井「それは大事です」

適菜「大物だと松本人志。これはちょっと驚きました」
藤井「彼の大ファンだった私にとって、これは本当に残念な話でした」
適菜「松本は、『都構想が良いか悪いかは置いておいて、これだけエネルギッシュな人を辞めさせてしまったことは、大阪市民の失敗だなと思いますね』と言う訳です。それで、『(やしき)たかじんさんや(島田)紳助さんが若しいれば(結果が変わっていた)と言っている人がいた。僕も“あるかもね”と正直思う』と。完全に大阪市民をバカにしている。芸人の勘として致命的でしょう」
藤井「返す返す残念です」
適菜「あと、雑魚だったら田原総一朗とか小泉進次郎とか辛坊治郎とか。田原は、『将来を担う若い世代が賛成したが、高齢者に反対されて大阪都構想が実現しなかったのは、とても残念だ』等と言っていた。老害はお前だろうと。結局、卑怯な人間ばかりになってしまった。日本の社会自体が卑劣になったということです。住民投票の結果が出る時に私たちが集まっていたら、フジテレビが取材に来ましたよね。多分、彼らは否決された瞬間に『万歳!』とかやる姿を撮りたかったのでしょう。でも、私はずっと『ふざけんな』と思っていた。メディアが腐っているから、こういうことになった訳で」
藤井「否決可決以前に、反対票に賛成票が拮抗したという事実だけでも残念だと思います。何故なら、抑々今回の住民投票は『皆さんの税金を府に吸い上げますよ』『市を解体しますよ』ということ。そんなもの、普通なら全員が反対する筈ですが、大勢が“詐欺”に騙され、大阪を乗っ取られる寸前にまで至った。その事実だけでも残念な話です」
適菜「“オレオレ詐欺”じゃなくて“ボクボク詐欺”。『ボクの言うことを信じてください』『反対派はボクのことが嫌いなんです』という訳です。橋下は会見で『将来に亘り政治家はやらない』と言っていたが、信用できる訳がない。だから、私が連載している週刊文春の“今週のバカ”で、『橋下は“府知事選出馬は2万%あり得ない”と言って知事になり、任期途中に“市長を辞職することはない”と言って市長を辞職した職業的デマゴーグだから、既に国政に出る気満々だろう』と楔を刺しておいた」

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藤井「今回、橋下氏はひょっとすると、『こんな嘘話でもここまでやれたんだから、日本人なんてチョロイものだ』と思っているかもしれません」
適菜「そうですね。この程度の詐欺でも票が拮抗するということに気づいてしまった。しかも多くの日本人が、大阪だけではなくて国全体の問題であることに気づかない訳だから」
藤井「それに、先程の編集長もそうだけど、多くの人々がヤンキーと政治家の区別がついていない。“ワンピース”や“クローズ”と政治の区別がついていないんです。若しこれが一緒なら、政治家は毎日でっかい夢を追いかけて冒険しないといけなくなる訳です。或いは、悪い国があれば直ぐ戦争しに行ったり。“クローズ”はそういう話です。住民投票で否決された後、『残念だ』という人が全国調査で42%。これは結局、“大阪解体”という刺激的なショーを見られずに『つまんない』と言ってる人がかなりいるってことじゃないかと」
適菜「お下劣ですね」
藤井「政治は人の生き死に・子孫の幸福等全てに影響する。遊び感覚で政治に関与してはいけないのに…。残念です。大阪が疲弊しているのは事実です。そこに、所謂“ショックドクトリン(大衆の不満を煽って改革を行うという手口)”がぶつけられた。社会に対する不満のエネルギーを巧く使えば、今回のような事件に進展するということです。ナチスのヒトラーも、不況を利用して伸し上がっていった」
適菜「しかも、橋下はヒトラーより洗練されたデマゴーグです。教科書に載っているようなプロパガンダの手法を忠実に再現した。社会に蔓延する悪意を効率よく纏めた訳です。この20年に亘り急速に政治が劣化しましたが、その最終的な形で橋下のような全体主義者が出てきたのだと思います」
藤井「それを止めるのはマスメディアや言論人の役割ですが、大阪のメディアには橋下シンパが多かった。メディアが特定の独裁的人物を応援したということも今後、検証しなければならない。白馬に乗った王子様なんていないんですよ。自分で何とかせなあかんのに、人に何かやってもらおうとするから、ああいうモンスターが生まれてくる。本当に、今の日本は色んなところで腐り始めている」
適菜「今回の住民投票にきちんと反対していた人間は、喜んでいる訳ではありません。絶望しているんです。家に強盗が入ってきて、追い出してドアを閉めて目出度し目出度し…では終わらないじゃないですか。目の前の危機を回避しただけで、強盗に狙われていること自体には変わりがない。問題は何も解決していません」
藤井「そうですね。これからは本当に、全体主義という人災に対する徹底的な“防災活動”が必要なのだと思います」


藤井聡(ふじい・さとし) 京都大学大学院教授・内閣官房参与。1968年、奈良県生まれ。京都大学工学部卒。同大学院修了。イエテボリ大学心理学科客員研究員。東京工業大学教授等を経て現職。著書に『大阪都構想が日本を破壊する』(文春新書)・『“凡庸”という悪魔 21世紀の全体主義』(晶文社)等。

適菜収(てきな・おさむ) 作家・哲学者。1975年、山梨県生まれ。早稲田大学で西洋文学を学び、ニーチェを専攻。著書に『キリスト教は邪教です!』『日本をダメにしたB層の研究』(共に講談社)・『バカを治す』(フォレスト出版)・『なぜ世界は不幸になったのか』(角川春樹事務所)等。


キャプチャ  2015年7月号掲載


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