【世界を惑わす中国経済】(01) 中国が生み出す不確実性の時代――急成長を続けてきた世界最大の新興経済国、その失速が生み出した不本意な“新たな輸出品”

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こと中国に関しては、単純な答えや陳腐な分析を信じてはいけない。しかも今、あの国が置かれている苦境は前代未聞だし、(中国政府の意思決定プロセスが不透明なせいもあって)わからないことだらけだ。実際、2015年は中国に関する神話の幾つかが疑われ始めた年として記憶されることだろう。現在の指導部やその成長戦略・政治の方向性にも大きな懸念が浮上している。多くのエコノミストは既に、あの国のGDP成長率が当面は7%を維持するという期待を捨てている。果たして、中国経済の“奇跡”も嘗ての日本のバブル経済同様、一瞬にして終わってしまうのだろうか? 投資家は大抵“いい話”を信じたがるし、中国も今まではその期待に応えてきた。だが、過去の実績は未来の配当を約束するものではない。この8月に「終末を見た」と感じた人も多いだろう。上海総合指数は暴落した。中国政府に依る突然の人民元切り下げは、世界の金融市場に衝撃を与えた。各種の経済データは、中国が景気後退局面に近づいている可能性を示唆している。本土の事情に敏感な香港では、「共産党指導部内に政策を巡る対立がある」との噂が駆け巡った。これら全てが、世界の金融市場に打撃を与えた。『スタンダード&プアーズ(S&P)500』は僅か4日で10.2%も下落。日本やドイツ・香港・韓国・ブラジル・イギリスの株式指数はもっと大きく下がった。為替レートは乱高下し、資本の逃避が始まった。そして工業製品に代わって、“不確実性”が中国最大の輸出品となった。それでも、市場は落ち着くところに落ち着く。しかし、世界の中国を見る目は今も落ち着かない。

中国政府が、輸出と投資主導の成長から内需主導の成長への移行に苦しんでいるのは間違いない。習近平国家主席は一貫して、一段の経済開放と市場原理に基づく改革、中国が持つ影響力の責任ある行使を掲げてきた。実際、中国は軍事面でより強気になり、「世界銀行のような機関に取って代わろう」という野心を前面に出し、「世界の安定と発展に寄与する国として認知されたい」という願望を剥き出しにしている。「中国の指導者たちは長年、グローバル経済における中国の主導的役割を世界が認知するよう望んできた」と、金融情報サービスのブルームバーグは先週、解説記事で指摘。「そして今週、その願いは叶えられた。残念ながら、理想的な状況ではなかったが」。そう、理想には程遠かった。株価暴落を受けて、中国政府が下した通貨切り下げの決定は世界の市場を揺るがした。為替レートの安定を李克強首相が示唆してから僅か数ヵ月後に、突如として通貨の切り下げに踏み切ったのはあまりにも身勝手、そして切迫した行為に見えた。切り下げは“一度きり”とした中国人民銀行(中央銀行)の約束も、発表翌日に人民元の価値が更に下落するとあっさり覆された。ベトナムやカザフスタンを含む周辺の新興諸国は、対抗措置として自国の通貨を切り下げた。インドネシアとマレーシアは外貨準備を取り崩して自国通貨を下支えし、資本の逃避を防ごうと努めた。人民元の切り下げはパニックの証拠であり、それが更なるパニックを招いた。株式市場への介入についても同じことが言える。今年半ばまで、政府は金利の引き下げや融資条件の緩和等に依って株価の上昇を煽ってきた。そして、政府の指示を受けた国営メディアは、何百万人もの投資初心者(その多くは高校教育さえ受けていない)に「株を買えば手っ取り早く確実に儲かる」という根拠無き信念を吹き込んだ。結果として、株価は1年で2倍以上に膨れたが、6月下旬には崩壊が始まった。そして、株価が30%ほど下がったところで指導部はパニックに陥った。株の空売りを禁止し、IPO(新規株式公開)を凍結し、約1700銘柄の取引を停止した。「一部の国有銀行に命じて、約2000億ドル相当の買い注文を入れさせた」との報道もある。要するに、中国の株価暴落への対策は検閲と情報操作と売却制限の3点セットだ。しかし、そんな絶望的対策も効かなかった。株価は一時的に反発したものの、再び下落を始め、先月25日までの4営業日で更に22%下落。上海総合指数は3000ポイントを下回り、アナリストの計算に依れば、上海証券取引所だけで5兆ドルが失われた。




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『フィナンシャルタイムズ』のマーティン・ウルフが指摘するように、中国の株式市場は小さくて閉鎖的だから、国際社会が懸念するほどのことではない。「本当に懸念すべきは、金融バブルにさえ対応に苦慮するこの国が抱える、もっと根深くて規模の大きな課題だ」とウルフは書く。ウルフの結論はこうだ。「中国政府は総需要の低下に深刻な懸念を抱いているが、自国経済の構造改革に向けた健全な計画を持っていない。しかも、彼らがこの7年間に試みてきた急場凌ぎの施策が、事態を更に悪化させてきた」。7年前、中国の輸出主導の経済成長に賞味期限が訪れた。アメリカ発の世界金融危機だ。しかし、中国政府は成長を維持する為、震源地のアメリカよりも徹底した景気刺激策を打ち出した。俄かに国中で建築ブームが始まり、高速鉄道や超高層ビルができ、荒野に新たな都市が出現した。但し、住む人はいないから軈て“ゴーストシティー”と呼ばれることになった。地方政府は借りられるだけ借り、更に実態が不透明なシャドーバンキング(影の銀行)から簿外で借り入れた資金をマネーゲームに注ぎ込んだ。結果、残ったのは海南島から東北部・新疆ウイグル自治区にまで広がる不良資産と、中国の銀行システムに潜む山のような不良債権だった。経営コンサルティング会社『マッキンゼー』の計算では、中国の負債は2007年から2014年までの間に約3倍に膨らみ、負債総額は20兆ドルほど増えて、今やGDP比282%に相当する。一方で、経済成長率は公式発表でも半減した。中国政府は現在の成長率を7%としているが、専門家は「かなり誇張された数字だ」と見ている。バンコクを拠点とするプロの投資家であるマーク・ファーバーは先頃、「今の中国経済は非常に急激に減速しており、現時点での成長率は恐らくゼロ」とする見解を発表している。

金融政策で、中国とアメリカはよく似た苦境にある。6年に亘る量的緩和でバランスシートを4兆ドル以上に膨らませた『FRB(アメリカ連邦準備理事会)』は、早ければ今月にも金利を引き上げると見られていたが、今のところ状況は微妙だ。何れにしても、今後はアメリカ経済も成長の持続可能性が問われる。アメリカが大量に売りまくった国債を大量に買いまくったのは中国だ。おかげで、中国の外貨準備高は遂に4兆ドルの大台に乗った。「中国人民銀行は国内で紙幣を増刷し、それでアメリカ国債を買った」と言うのは、ドイツ銀行で外国為替を担当するジョージ・サラベロス。しかし、人民元切り下げの後には一段の下落を防ぐ為に、外貨準備を――つまり、アメリカ国債を売った。サラベロスに依れば、中国からの資本流出額は先月だけで推定2000億ドル。「これは量的緩和の終焉、つまり量的引き締めを意味する」。世界的な資金の流れは、電光石火の速さで穏やかな海を危険な急流に変え得る。専門家は何ヵ月も前から、「アメリカの金利引き上げは、成長の鈍化した新興市場からの資本逃避を引き起こす」と警告してきた。投資家が資産の逃避先として、強いドルの恩恵を求めるからだ。中国の通貨切り下げは、スタートの合図を早めたに過ぎない。こうなると、ドルや円のような安全資産に資金が押し寄せ、その価値を押し上げ、更なる資本流入を齎す。一方で、新興諸国の借り手(主に企業)は2007年以来、9兆ドルものドル建て債務を蓄積している。自国の通貨が対ドルで安くなれば、返済は厳しくなる。今の中国指導部の面々は、毛沢東時代の末期に成人した。その時代の遺産で、拙いことが起きると彼らは党を守りたい一心で、責任を個人や派閥・裏切り者に押し付けたがる。先月には、李首相に対する党内批判の高まりが報じられた。フィナンシャルタイムズに依ると、李は「株式市場の崩壊と景気の減速に対する処置を誤った」と攻撃されており、「今は政治生命を懸けて戦っている」。香港中文大学のウィリー・ラム教授も、「習がスケープゴートを必要とすれば、切られるのは李だ」と語っている。しかし、習は自らに権力を集中し、経済運営にも口を出してきた。人民元切り下げや株式市場への介入が、習の承認無しで行われた筈はない。

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中国側がどう理屈を付けようと、国外の専門家は習の責任を見過ごさない。人民元の切り下げと株価暴落への対処に依って、古くて閉鎖的な政治風土と、「世界の大国としての信頼と尊敬を勝ち得たい」という願望の矛盾が露呈した。更に状況を悪化させたのが、中国の政策と経済指標に関する秘密主義だ。中国は先月末、上海市場の株価を下支えする為に、大規模な介入を再開した。市場は反応し、株価は前日に続いて上昇した。この時期に介入に踏み切ったのは、「第2次世界大戦勝利70周年を記念し、中国の国際的な威信を誇示する国家行事である今月3日の軍事パレードを控えて、株の暴落に依る混乱を防ぐ為だ」とも伝えられる。ブルームバーグのコラムニストであるジャスティン・フォックスは、「軍事パレードにそんな価値があるのか?」と疑問を呈した。どうせ、介入が終われば株価は再び不安定になるからだ。マクロ経済を犠牲にしてまで、中国政府は威信に拘るのか? 「中国の指導部とは所詮、外見を気にし過ぎる老人の集まりに過ぎないのだろうか?」と彼は書く。「しかし、何が本当なのかは実にわかり難い」。要するに、中国における真実とは、指導部内のことは高い壁に隠されて全くわからないということだ。それは、中国の市場や通貨・経済政策にも当て嵌まる。そうした状況を、投資家は“不確実性”と呼ぶ。そして、不確実性は“リスク”と同義語だ。 (本誌元北京支局長 ジョージ・ウェアフリッツ)


キャプチャ  2015年9月8日号掲載


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テーマ : 中国問題
ジャンル : 政治・経済

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