反発招いた首相の“誤算”、安保関連法が成立

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集団的自衛権の行使を限定的に容認する安全保障関連法が成立した。法案を国会に提出した5月15日から約4ヵ月。安倍晋三首相がアメリカ議会の演説で「夏までに成就させる」と宣言したのは、まだ法案を国会に提出する前の4月29日だった。「この国会で通す」という首相の意志は固かったが、学生や主婦・有識者ら一般大衆の抗議行動が国会を取り囲むほど拡大したのは、想定外だったかもしれない。審議時間は、衆参両院合わせて200時間を超えた。野党が牛歩戦術で抵抗した1992年成立の『国連平和維持活動(PKO)協力法』の際も193時間で、今回は国会に記録が残る戦後の安保関連の法案審議としては最長だという。それでも、「採決は早い」「何故焦るのか」という声は野党だけでなく与党内からも聞かれた。PKO協力法は3国会を跨いだが、今回は国会を大幅に延長して1国会で成立させた。この為、審議時間が長い割に急いだ印象が強まった面は確かにある。だが、それだけだろうか?

1つは国会の議事運営だ。例えば、17日午前の参院特別委員会の採決は、鴻池祥肇委員長の不信任動議を与党の反対多数で否決した後、締め括り総括の質疑を全て打ち切ってそのまま採決に突っ込んだ。鴻池委員長は強行的な議事進行に慎重だとされてきた。衆議院は与党が3分の2以上を占めるが、参議院は与野党の議席数が拮抗しているからだ。採決を急ぐように参議院にプレッシャーをかけたのは、衆議院の自民党執行部だった。佐藤勉国会対策委員長は採決に先立つ幹部会合で、参議院に送られた法案が60日以内に採決されない場合は否決したと見做して、衆議院の3分の2以上で再可決できる“60日ルール”の適用も視野に入れて対応する意向を表明した。安保関連法は、自衛隊法等の既存の法律10本の改正案を束ねた『平和安全法制整備法』と、他国軍の後方支援に関する新法『国際平和支援法』の2本立て。10本の改正案を個別ではなく一括審議した結果、議論がわかり難くなったことも大きい。もう1つ、首相や関係閣僚の説明不足もあった。首相は審議の最終盤でも、「法案にまだ支持が広がっていないのは事実だ」と述べた。そう胸を張って語ったのも、「それでも必要な法律なのだから採決は当然だ」との確信があったからだろう。「時が経つうちに間違いなく理解は広がっていく」とも予言してみせた。リーダーとしては何とも頼もしい発言だが、「黙って俺についてこい」だけではついて行けない。首相の言葉と説明には、説得力と裏付けとなる根拠が必要だ。




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8月末の日本経済新聞の世論調査では、集団的自衛権の行使・安保法案を今国会で成立させる政府の方針の何れも、賛成が27%で、反対は倍の55%に上った。アメリカや日本を家に見立てた火事の例え話で納得する国民は少ない。日本を取り巻く安保環境は大きく変化している。だが、無条件に集団的自衛権の行使を認めれば憲法違反になる。「憲法改正は困難だから、憲法の解釈を変更して限定的に認めるしかない」という政府の本音は、どこまでいっても野党とは噛み合わない。更に、「集団的自衛権を行使する新たな要件の“密接な関係国への武力攻撃で日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険”とは、具体的にどのような危機か?」という話になると、益々わかり難くなる。「安保政策を大転換するなら、それだけの危機が今迫っている」とわかり易く説明しなくてはいけない。だが、これまで数少ない具体例として挙げた“ホルムズ海峡における機雷掃海”についても、首相はここへきて「今の国際情勢に照らせば、現実問題として発生することを具体的に想定しているものではない」とトーンダウンした。報道の自由を制限するような発言が公然と挙がった自民党の勉強会に加え、礒崎陽輔首相補佐官の「法的安定性は関係ない」という発言が、益々首相の姿勢に対する不安を煽った。首相が昨年12月の衆院選で信を問うたテーマは、消費増税の延期とアベノミクス継続の是非だった。「景気回復、この道しかない」と銘打った自民党のマニフェスト(政権公約)では、安保法案に関して「平時から切れ目ない対応を可能とする安全保障法制を速やかに整備します」と後ろの方に触れた程度だ。自民党に投票した有権者には、違和感を持った人もいただろう。

国会の“自民党一強”状態は、衆院選で過去最低の55.66%という低投票率と、得票率に比べて議席占有率が高くなる小選挙区の特性に依るところが大きい。2012年の衆院選で自民党の得票率は48%と半数以下だったが、議席占有率は76%に及んだ。自民党の総得票数は、2009年の衆院選から3回続けて減っている。野党の体たらくと政治への無関心に助けられたと言ってもいい。会期の大幅延長には、安保法案の採決と自民党総裁選の日程をぶつけて対抗馬を封じるという首相の再選戦略も透けた。“安倍一強”が生んだ“自民党一強”という稀な状況で、国論を「違憲か? 合憲か?」で二分した安保関連法は成立した。19日未明、参議院本会議で法案の反対討論に立った民主党の福山哲郎氏は、「本当に申し訳ない。野党は力不足だったが、やれることを懸命にやってきたつもりだ」と強調。野次を飛ばす与党席に向かって、「武士の情けはないのか!」と激高した。維新の党・小野次郎氏の反対討論には他の野党も拍手を送り、討論を終えた共産党の小池晃氏は民主党席にガッツポーズをしてみせた。弱小野党にも遅まきながら変化が出てきた。「強行採決、絶対反対」「憲法守れ」――デモ隊の叫びがいつまでも木霊する深夜の国会内。「首相は無投票再選を果たし、安保関連法も成立した。しかし、やり方をミスったかもしれない」。そんな声が公明党内から漏れた。 (大場俊介)


≡日本経済新聞 2015年9月19日付掲載≡
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