中抜きを画策? 『新国立競技場』で政治家が群がるオリンピック利権の実態

連日報道されている新国立競技場問題。政府の迷走が続く中、世論の不満は頂点に達している。抑々、何故こんないざこざが起きたのか? 問題の真相に迫った。 (取材・文 西村頑司)

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お祭りムードもすっかり水を差された感じだろう。いやはや、新国立競技場を巡るゴタゴタのことである。2020年の東京オリンピックのメイン会場となる新国立競技場は、工事を着工した途端、1600億円の予算どころか3000億円以上かかることが発覚。猛烈な世論の反発もあって、今年7月17日、安倍政権は計画案自体を白紙撤回するというお粗末な展開となっている。どうして、こんなアホ臭いことになっているのか? 事の経緯を説明していこう。老朽化した国立競技場の改修案が決まったのは、2012年7月のこと。2019年の『ラグビーワールドカップ日本大会』のメイン会場としてゴーサインが出て、同年11月、例の“自転車のヘルメット”と揶揄されたザハ・ハディド案がコンペに勝って正式決定する。実は、この時の予算は“上限777億円”。あのザハ案でも、この程度のお値段で作ることは可能だったのだ。2013年9月、2020年の夏期オリンピックが東京に決定。ここから、情勢が一気に変わっていく。メイン会場となる国立競技場の改修案はより大規模なものとなり、予算は1625億円まで膨れ上がった。そして、2014年夏から解体工事が始まるや、施工するゼネコン側が円安に依る建材の高騰と、ザハ案の“キールアーチ構造”を理由に、何と900億円以上の追加予算が必要と言い出し、世論は猛烈に反発することに。抑々、1600億円の予算でもオリンピック会場としては破格の値段なのだ。通称“鳥の巣”と呼ばれ、豪華過ぎる構造と言われた2008年北京オリンピックのメイン会場が520億円。東京より地価の高いロンドンオリンピック(2012年)も550億円なのだ。また、屋根が開閉する日本で最も高額スタジアムである福岡ドームが760億円。これらの建設費すら、追加予算で“お釣り”が出る。大体、世界一の高層ビル『ブルジュハリーファ』(ドバイ)より100億円も高い予算で、どうして900億円の追加予算が必要なのか、誰だって疑問に思うだろう。国内の建築家たちも「キールアーチ構造を止めれば予算内で収まる」と新設計の対案を出し、設計士のザハ女史も「本当に作るとは思わなかった」とコメントする始末。しかし、建設計画を主幹する『JSC(日本スポーツ振興センター)』は頑なに対案を拒否。当初の計画をゴリ押し、一旦は追加予算を通すという暴挙に出た結果、7月17日、遂に安倍政権が“白紙撤回”を宣言することになった訳だ。本来、1600億円ですら異常な予算なのである。それが一度は3000億円まで膨れあがる等、文字通り“狂気の沙汰”であろう。一体、何が起こっていたのか?




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「ズバリ、政治家たちの利権漁りが原因ですよ」。そう断言するのは、ベテランスポーツジャーナリストである。「今回の東京オリンピックは、利に集る政治家たちが介入できなかった結果、新国立競技場にオリンピック利権の全てが集約されてしまったようなんです」。オリンピックやワールドカップといったビッグイベントでは、どうしても各種トラブルが起き易くなる。先ず、会場候補地を巡って各自治体の対立、候補地が決定した後はスタジアム建設を反対する地域住民問題、そして不相応な巨大且つ豪華な施設を作った後の維持費捻出等、そうしたトラブル処理として大物政治家が介入し、予算の一部を中抜きしていく。前出のスポーツジャーナリストも苦笑いする。「石原慎太郎が主導してきた2016年のオリンピック招致計画は、政治家たちにとって実に旨味のある話でしてね」。実際、2016年の招致計画の目玉は、移転に反対する築地市場の強制移転にあった。“東京都内に残された最後の一等地”の利権を分配した上で、8万人規模の巨大スタジアムを晴海に新設する。利権政治家たちの懐を潤す為にでっち上げた招致計画と言ってよく、それだけに、2016年の招致は国際的な大恥をかいて失敗した。石原が消えた後、猪瀬直樹都知事に依る2020年の招致計画は、その意味で“真っ当”な計画となっていた。築地の移転も既に成立しており、晴海の巨大スタジアム計画も撤回、国立競技場の改修案で纏まった。結果、2020年東京オリンピックは、政治家が介入する旨味が全く無くなってしまっていたのだ。

会場となるお台場は元々、東京都の保有地で使い道の無かった土地。周辺住民もいないのだから、建設反対運動も起こらない。大会後の利用でも黒字が確実視されていた。東京都の総生産は1兆ドルで、韓国一国と粗同じ経済規模を誇る。更に、首都圏3000万人としてみれば、ヨーロッパの中堅国並みの経済圏となる。にも拘らず、東京都周辺には国際規格のスポーツ施設が少なかった。多少、豪華な施設を作ったところで、羽田空港の国際線乗り入れもあり、今後、アジア大会や各競技団体の世界大会等、採算面で問題は出ない。東京が開催地に選ばれた最大の理由は、この“後利用の採算面”と言っていいぐらいなのだ。そう考えれば、オリンピック開催決定から僅か2ヵ月となる2013年12月、突如噴出した違法献金問題で猪瀬が辞任し、その後に舛添要一が都知事に就任したのも納得がいくだろう。舛添の役割は、「東京オリンピックで政治家への“利権”を作る」という役目を引き受けたから。だから、あの“ねずみ男”は都知事になれたのだ。その証拠に、舛添は都知事に就任するやすぐさま、777億円だった新国立競技場の予算案を“オリンピック用”を名目に2.5倍増の1625億円まで拡大、利権政治家たちがたっぷり“中抜き”できる予算案にしている。

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話を整理しよう。従来の東京オリンピックの計画では政治家たちが介入できず、利権を漁れなかった。そこで猪瀬を排除し、舛添を都知事にして政治家が利権にありつけるよう、『新国立競技場』で新しいスキームを作る。それが、上限777億円で可能だった予算案を1625億円にまで拡大すること。単純に、差額は900億円前後となる。謂わば、東京オリンピック全体の利権が国立競技場の予算案に全て突っ込まれてしまっているのだ。こうした行政予算における政治家たちの中抜き率は、通常で1割、多い時で3割という。1600億円のうち、色んな名目をつけた関連予算に政治家がわらわらと群がり、2割・3割と抜いていくつもりだったのだろう。恐らく500億円近い血税が、自民党を筆頭に大物政治家たちの懐に転がり込む予定だった。実に悪辣で浅ましい計画だが、中々腹黒い政治家らしい巧妙なアイデアと言っていい。ところが、この計画に思わぬ形で邪魔が入った。サッカーファンである。正確に言えば、Jリーグのファンが「1600億円の予算は可笑しい」と突如、声を上げて反対し始めたのだ。某サッカー雑誌の記者が説明する。「Jリーグのサポーターには、“スタジアム専門家”みたいな人が山のようにいるんですよ。Jの各クラブの大半は、陸上競技場と兼用した“クソスタ”ばかりで、『何とかサッカー専用スタジアムを作ってほしい』と地元自治体に陳情しています。市民の署名集めや寄付金といった政治活動をする人も多くて、スタジアム関連の法案や予算・建設費用はプロ並みの知識を持っている人が少なくないんですよ」

政治活動というのは、決して大袈裟ではない。“専用スタジアム建設”をクラブの悲願に掲げてきた『サンフレッチェ広島』は、遅々として進まぬスタジアム建設に業を煮やした小谷野薫氏が、何と球団社長の職を辞して広島市長選に出馬したほどだ(2015年4月・落選)。Jのサポーターの大半は、スタジアム建設問題に関してはクラブを超えて協力するほど関心が高いと言われている。しかも2014年と言えば、『ガンバ大阪』が4万人規模の新スタジアム建設費用140億円のうち、足りない6億円分の募金を市民に呼びかけていた時期に当たる。140億円で屋根付きの立派なスタジアムが出来るのは、Jのファンなら常識になっていた。更に火に油を注いだのが、新国立競技場の年間維持費70億円であろう。この70億円という数字は、“日本一のサッカースタジアム”として名高い『鳥栖スタジアム』の建設費用と同額。鳥栖スタジアムは、鳥栖駅前の一等地にある2万5000人規模のサッカー専用スタジアムで、各クラブの経営者・選手・サポーターが最も希望するスタジアムなのだ。その建設費と同額が新国立競技場の年間維持費で消えると聞けば、Jのサポーターが激怒するのも当然であろう。Jの熱心なサポーターには、10万人単位で“スタジアム活動家”が存在している。しかも、国立は“サッカーの聖地”。ただでさえ関心が高いのだから、1600億円という予算の異常性にも直ぐに気づき、如何にこの予算が間違っているのか、ありとあらゆるデータを駆使して情報を発信し始めた訳だ。その情報は、twitter・Facebook・インターネットの“まとめサイト”を通じて瞬く間に拡散・共有されることになる。工事着工から僅か半年、サッカーサポーターを中心に“国立競技場の予算問題”は大きくクローズアップされていった。

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1600億円の予算案の内訳が政治課題になるのは時間の問題。そうなれば予算は圧縮、下手すれば正味の建設費用800億円まで圧縮されてしまう…。焦った利権政治家、いや、安倍政権が繰り出してきた荒技が、「3000億円まで予算が広がった」という“炎上商法”だったのである。要するに、「3000億円まで予算が拡大した」と煽りに煽り、そうして世論の怒りがピークに達した後、満を持して計画を白紙撤退、元の1600億円で納得させようという計画が始まる。それにまんまと利用されたのが、設計士のザハ・ハディドなのである。“自転車のヘルメット”と揶揄されてきた新国立競技場のデザインは、ザハ本人でさえ、あのまま忠実に作るとは思っていなかっただろう。というか、実現不可能な設計案なのだ。この設計案の中心となっている“キールアーチ”とは、簡単に言えば“吊り橋”のこと。新国立競技場は、巨大な吊り橋を2本作り、その吊り橋に屋根と観客席を吊り下げる。吊り橋部分、つまり屋根の上に2車線の道路を2本通したスタジアムを作るという案なのだ。これだけで、如何に無茶苦茶なのかわかるだろう。「地下鉄のトンネルが入り組んでいる代々木近辺で、吊り橋の橋梁をどうやって建設するのか?」という以前に、巨大な吊り橋を2本も建設すれば予算は数千億円になる。だからこそ、ザハ本人も「本当にキールアーチを採用するとは思わなかった」と語っていたのだ。事実、ザハ案を採用した2012年時点では、ザハ特有の有機的なデザインコンセプトが目的であり、最初からキールアーチにしないのは777億円という予算が証明している。1600億円に予算を拡大した後も、中抜きが目的なのだから、キールアーチを採用する気は無かったことだろう。ところが、1600億円の予算に注目が集まったことで、「キールアーチだから金がかかる」と言い訳した為に、それを受けて建設会社も、「キールアーチにすれば3000億円、いや、3000億円でも足りません。当たり前でしょ?」と言い出したに過ぎない。

安倍政権は安保法制の強行採決直後、このザハ案を白紙撤回した。強行採決で下がった支持率を押し上げるのにも悪用する姑息な手も使っている。何れにせよ新国立競技場問題以降、ロゴマークの盗作問題・ダサい“おもてなし制服”等、立て続けにケチが付き出しているのは、オリンピックで金儲けしようという連中が、我が物顔で跋扈している何よりの証拠であろう。2013年9月、スポーツ関係者が絶賛した当初のプランは日に日に劣化している。あと5年で、一体どれほど酷い状態になるのだろうか…。


キャプチャ  2015年10月号掲載


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