【ウナギ密漁・変わらぬ業界と支える消費者】(中) DNA検査で見えた兆候――綱渡りで支えられている中国産格安蒲焼き

日本の夏の風物詩と言えばウナギの蒲焼きだが、資源環境が変わる中で静かな変化も起きているようだ。 (伊藤悟・今野大一・塩月由香)

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土用の丑の日が近づくと、スーパーや弁当店で多く目にするウナギの蒲焼き。つい中国産の安さに目が行くが、業界関係者に依ると、今年はどうも“中国産”の中身が例年と違うという。市販の蒲焼き商品のDNA検査を2011年から続けてきた北里大学の吉永龍起准教授は、こう話す。「昨年まではアメリカウナギやヨーロッパウナギを多く見かけましたが、今年は軒並みニホンウナギです」。使われるウナギの品種が変わったのだという。本誌編集部は吉永准教授の研究チームに協力を依頼し、大手外食やスーパー15社のウナギ蒲焼き商品のDNA検査を行った。検査結果は、中国産商品の多くがニホンウナギ。昨年や一昨年のデータと照らし合わせると、確かにヨーロッパウナギからニホンウナギに切り替えた企業が多く見られる。消費者の国産志向を受けてなのか? 「いいえ、ワシントン条約の影響だと思います」(吉永准教授)。ワシントン条約とは、国際取引に依って生存を脅かされている、若しくは絶滅の恐れのある野生動植物を保護する為に、輸出入に制限をかける条約だ。そのワシントン条約で2009年から規制が始まったのがヨーロッパウナギで、それこそが、過去20年ほど日本人の胃袋を満たしてきた中国産の格安ウナギの材料だという。

しかし、何故2015年の今になって、日本企業は一斉にヨーロッパウナギの使用を止めたのか? その理由は、ワシントン条約のある特徴にある。ワシントン条約には、締結後、一切の取引を禁止する“附属書Ⅰ”と、輸出国が許可証を出せば商取引も可能とする“附属書Ⅱ”がある。ヨーロッパウナギは後者だった。だが、商取引可能といっても貨物としてそれらの種が国境を越える度に、輸出入国・輸出量・利用目的・最初に捕獲した国等の情報が税関で毎回確認され、当局のホームページに公開される。中国への輸出履歴を辿ると、ヨーロッパ種の数量は年を追う毎に減少し、2013年を最後に途絶えている。ウナギは1年前後で成魚に育つ為、丁度今年に入って中国で養殖されたヨーロッパウナギの調達が難しくなったのだろう。勿論、モロッコ等のワシントン条約を批准していないシラス輸出国も僅かに存在する為、中国にヨーロッパウナギが全く流通していないとは言えない。しかし、ヨーロッパ各国等の多くの輸出国は、許可証を安易に発行することはせず、資源保護に努めているようだ。編集部はDNA検査とは別に、各企業にアンケートや聞き取り調査を行ったが、トレーサビリティーについてはどこも口が重かった。折しもこの1~2年、中国産ヨーロッパウナギの日本向け大量輸出に対して、環境保護団体から厳しい目が向けられてきた。偶々、2014年の漁期に東アジア沿岸でニホンウナギのシラスが獲れた為、“渡りに船”と切り替えたのが実情のようだ。こうした代替策もいつまで持つかわからない。ワシントン条約の更新時期が来年に迫るからだ。ワシントン条約に影響力を持つ『国際自然保護連合(IUCN)』は昨年、ニホンウナギやその他の種のウナギをレッドリストに登録した。ヨーロッパウナギと同じ道を辿れば、“中国産ニホンウナギ”の輸入も激減するだろう。各社必死の売れ筋である格安ウナギの調達だが、その持続性には疑問符が付く。




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■世界に広がるKABAYAKI市場…あの味を知ってしまったのは日本人だけではない
美味しいものは、易々と国境を超えてしまう。アメリ力でウナギの生態を研究するキャサリン・モースさんは、「アメリカ国内でのウナギの消費が年々増えているように感じる」と言う。最近では、日本食レストランで鰻丼等が出されるだけでなく、蒲焼きをアボガドと一緒に巻いた“ドラゴンロール”も人気という。使われているウナギの蒲焼きは恐らく、「中国からの輸入ではないか?」。アメリカに生息するウナギが中国に輸出され、加工されて戻ってきている傾向があるという。嘗て、蒲焼きという文化を生み、養鰻業を世界に先駆けて発展させ、「世界のウナギの7割を消費する」とまで言われた日本だが、この15年ほどでウナギ市場における中心国は完全に中国に切り替わっている。先ず、圧倒的なのはその生産量だ。2010年時点でのニホンウナギとヨーロッパウナギの世界全体の養鰻生産量は、『世界漁業・養殖業白書』に依ると27万トンなのに対し、中国の同時期における生産量は世界の8割近い21万トン(日本大学・陳文挙准教授調ベ)。一方で、水産庁調べに依る国内のウナギの輸入量は僅か2万トン(2014年)で、国内の養殖生産量も1.7万トン(同)の為、スケールが段違いだ。生産したウナギの出荷先も変化している。日本鰻輸入組合の森山喬司理事長は話す。「今では、中国のお得意様は日本だけではない」。和食レストランや寿司ブームに乗り、アメリカやロシアの富裕層への輸出を伸ばしている他、自国での消費も伸びているという。更に、中国国内での消費拡大は日本の土用の丑の日の為の買い付けにも影響を出し始めているという。「例年だと、日本の土用の丑の後に中国の活鰻相場が落ちるのですが、昨年は秋になっても落ちませんでした」(前出・森山理事長)。

中国では、秋から翌年初めの旧正月にかけて季節行事が続く。その中で、お世話になった人に高級なウナギを贈る習慣が出てきたという。「目上の方に、よく太ったものを贈りたがります。そうすると、ウナギを太らせる為に養鰻場がウナギを出荷しなくなる」。例年、秋の安い時期に来夏用のウナギを買い付けてきたスーパーのバイヤーが対応を余儀なくされたという。自国での消費を伸ばしているのは中国だけでなく、韓国もだ。韓国・忠南大学の李泰源教授に依ると、韓国国内でもBSE問題で肉が市場に不足したこと等をきっかけに、ウナギの焼き肉がプームに。韓国国民の胃袋を満たす為、養鰻池の規模を拡大する動きがあるという。嘗て、中国に養鰻加工技術の指導等を行った『カネナカ』(愛知県豊橋市)の中村好伸会長は、「中国のウナギ産業の発展は、もう止まらない」と見る。ニホンウナギの資源の減少を受けて、インドネシアでは現在、中国や韓国企業に依る大規模な養鰻・加工場ができ、熱帯種のビカーラで消費のニーズに応えようとしているからだ。勿論、日本の企業も参入している。更に、“ウナギドリーム”と言わんばかりに、東南アジアの国々も地場産業にしようと日本企業に技術指導を仰ぐ動きが活発化しているという。複数のウナギ資源の減少とは裏腹に、消費は益々拡大している。

■ウナギ完全養殖最前線…商業化成功までの果てしない旅路
ここまで読み進めた読者は、こう思うのではないか。「輸入物や密漁物に頼らなくても、そろそろウナギの完全養殖が成功するのでは?」と――。言うまでもないかもしれないが、ウナギは“養殖”といっても天然の稚魚(シラスウナギ)を採捕して太らせる“畜養”だ。ウナギの卵を世界で初めて発見した日本大学の塚本勝巳教授に依ると、国内のウナギ完全養殖研究の歴史はマグ口より古い1961年に遡る。研究機関が競い合い、2010年に漸く人工ウナギを親に持つ2世代目が誕生。「完全養殖技術は確立された」と大々的に報じられた。だが、その後はというと、成長率や生残率等の飼育技術の向上は見られるものの、「まだ発表できるほどの成果は得られていません」(水産総合研究センター)。現在は、完全養殖で生まれる稚魚を大量に低コストで飼育する為の環境整備の段階だ。一翼を担う同センターでは主に大型水槽の開発や、大量の仔魚をシラスウナギに育てる為の新たな餌の開発を担う。だが仮令、それらが開発されたとしても、「卵が孵化してからシラスウナギに変態するまでは、1年弱の時間がかかります。実証試験の成果が出るまでには、更に長い時間も必要となります」。我々も長丁場を覚悟したほうがいい。

■精ではなく脂肪が付く?…ウナギの蒲焼きを食べる時の注意点
「スタミナつけに、ウナギでも食べに行こうぜ!」は世のサラリーマンが夏に交わす定番の台詞だが、本当にただのスタミナ食なのか? 鰻丼店で太った人を多く見かけたことに疑問を抱き、『京都医療センター』メタボ外来の浅原哲子医師に聞くと、「確かに、鰻丼には太った人が好きな要素が詰まっています」。栄養価は高いが脂質や糖も多く、食べる時の注意点として「ボウル1杯分のサラダを食べてから鰻丼を食べ、ご飯も血糖値が上がり易いので半分残して」と話す。同センター栄養管理室の西田博樹室長も、こう指摘する。「食べ合わせに依っては、ウナギの栄養素を十分に吸収できていない可能性があります」。ウナギが何故スタミナ食かというと、アミノ酸の組成が優れていて、糖の代謝に不可欠なビタミンBが豊富だからだが、「アリシン等の補酵素を一緒に摂らないと、十分に吸収できない」と言う。「ウナギを食べる際にはアリシンの多いネギ類を加えて頂き、更にクエン酸のある酸っぱいものを一緒に摂ると鬼に金棒です」。因みに、ネギやレモンと一緒に調理し易い豚肉でも、栄養面でウナギに匹敵するという。


キャプチャ  2015年8月号掲載


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