【オワハラ時代の大学と就活】(02) 息子・娘をブラック企業に入れない為に…オワハラは企業体質を反映する

就職活動スケジュールの後ろ倒しに依って目立つようになったのが『就活終われハラスメント(オワハラ)』だ。そんなことをするような会社には本来、行かないほうがいい。 (取材・文/ジャーナリスト 横山渉)

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東京の私立大学3年生の三宅隆さん(仮名)は、5月に大手情報通信会社から内々定を得た。その時、採用担当者から書類を手渡され、こう言われたという。「三宅さんご自身と保護者、そして大学からも捺印してもらい、1週間以内に提出をお願いします。そうすれば、正式に内定を出します」。書類には、「今後は就職活動を継続しないと誓います」との一文が添えられていた。担当者からは、「他社の説明会の予定があればキャンセルするように」と念を押された。三宅さんにとって、その会社は第2志望の数社の1つ。決して、入社するのが嫌な訳ではない。それどころか、早々に内々定を貰って安心したという。しかし、親はこの会社のそういう卑怯なやり方に怒っていたと話す。「両親に反対され、悩みました。第1志望の会社説明会には参加する予定でしたし、他の業界の話ももっと聞きたかったですから。大学の就職担当者に相談すると、『入社するつもりなら捺印する』と言われ、更に迷いました」(三宅さん)。三宅さんは大学の就職担当者のこの言い方から、言外に「就活を続けたいのだったら捺印しない」と感じたそうだ。結局、三宅さんは悩んだ末に親の了解を得て、大学からも捺印を貰って、その会社に書類を提出した。三宅さんのケースのように、就活中の学生に対し企業が内定を出す条件として、他社の就活を終わらすように圧力をかけるオワハラがクローズアップされている。企業に依る『就活終われハラスメント(嫌がらせ)』という意味だ。

今年は、経団連加盟企業が面接・採用選考開始時期を昨年までの4月1日から8月1日に後ろ倒しした。しかし、外資系や中堅・中小企業等の非加盟企業にとって、経団連の指針など無関係だ。非加盟企業は従来通りのスケジュール、即ち8月1日より前に採用活動を始めて、優秀な人材には早めに内々定を出してきた。こうした状況についてメディアは、「後から選考に取り掛かる企業に学生を取られたくないとして、オワハラが多発するようになった」という論調が多い。しかし、企業が他社の選考を辞退させたり、内々定後に“懇親会”や“研修”と称して学生を拘束したりする行為は以前からあった。今年から初めて見られるようになった現象と認識しては、本質を見失う。『オワハラ』を命名・定義付けし、改めて社会に問題提起したのが、就職活動の制度改善に取り組むNPO法人『DSS』だ。辻太一朗代表は、「ハラスメントというのは、優位な立場や権限を利用し、逆らい難い立場にある人に対して不利益を与える行為を指す。その意味で、『内定を出すから他社を断ってウチに来てほしい』と真摯に働きかけるのは、オワハラとは言わない。学生の自由な職業選択を高圧的に妨げるのがハラスメントだ」と解説する。辻代表に依ると、このオワハラを放置しておけば、採用活動における企業の“早い者勝ち競争”が助長されると警鐘を鳴らす。より早期に学生を獲得し、内々定を出した学生を囲い込んでおくほど、企業にとって有利になるためだ。その結果、就活時期の早期化に歯止めがかからなくなる。辻代表は、「経団連加盟企業でも、指針を無視して採用活動を進めているところがある。『ルールをきちんと守っていますよ』と言っておきながら、裏では選考活動を続けているのだから、企業社会全体で学生に嘘をついている状態だ」と指摘する。学生を騙すようにして入社させたり、入社を強要したりする現状にどう対処するべきか? その為には、先ずオワハラがどう行われているかを理解しておく必要があるだろう。




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オワハラには幾つかのパターンがある。1つ目は、企業が「就活を終えると約束しなければ内定を出さない」等と、学生を不安にさせるような言動を示す行為。2つ目は、就活を終了することを言質や書類等の目に見える形として求め、他社の面接予定や内々定を辞退するよう精神的な圧力をかけること。3つ目は、イベント等の選考期間や選考頻度を必要以上に多くし、学生の行動を拘束して、他社の選考に参加するのを阻害すること。4つ目は、リクルーター等が学生との先輩・後輩の関係を利用して、内定の承諾や就活の終了を強要する行為である。辻氏に依れば、最近は大学の推薦状を持ってくるよう求める企業が増えているという。冒頭に紹介した三宅さんの例がそうだ。大学は、1人の学生に対して通常、企業に提出する推薦状を1通しか出さないことが多い。このルールを逆手に取って、学生を確保する手口である。また、企業の人事部以外の関与を指摘する声もある。法政大学キャリアデザイン学部の上西充子教授は、「オワハラは、企業が独自に考える場合もあるだろうが、採用や人事を専門とするコンサルタントも指南しているようだ。中小企業が3~4月に内定を出す段階で、学生に就職情報サイトの“リクナビ”を止めるように指示したり、大手企業の面接が始まる8月1日から離島研修を始めたり、内定学生を逃がさない為の方法が巧妙化している」と指摘する。これでは、まるで社会ぐるみで学生を騙すようなものだ。オワハラを引き起こす根源にある採用活動の“早い者勝ち”競争は、何故一向に無くならないのか? 大きな原因の1つに、企業が主に文系学部の学生を選考する際に学業成績を重視していないことがある。こうした企業の姿勢を反映して、就活に臨む学生も、「大学の成績より課外活動のほうが面接でアピールし易く、就活に有利だ」と考えている。出席するだけで単位や一定の好評価をくれる授業も多く、こうした授業が学生から人気を集めていることも、企業が学生の成績を信用しなくなってしまった背景にある。

DSSは、「大学教育と就活の間に、こうした“負のスパイラル”の関係がある」と分析する。企業が大学の成績を信用しないから、大学も授業の質や成績評価の信用性を高めるような取り組みを行わない。学生も、単位の取り易い授業を優先し、成績を上げる為の努力もしなくなる。その結果、企業は更に大学の成績に重きを置かなくなるという図式だ。そこでDSSは、企業の採用担当者に学生の判断材料として、履修履歴を活用するよう呼び掛けている。この負のスパイラルを解消し、学生の学業に対する姿勢が報われるような社会の実現を目指す。辻代表は、「採用担当者にいきなり『学生の成績を重視して下さい』とお願いしても、無視されてしまう。そこで我々が提案しているのが、履修履歴の活用だ。学生が何故その授業を選択したか、その授業から何を学んだかといったことを面接で質問すれば、学生の問題解決能力を見極める為の判断材料が増える」と話す。日本の就活では長らく、“体育会系学生有利”の状況が続いてきた。この状況は、企業が学生に対して何を求めてきたかを端的に物語る。採用担当者に依って表現は違うが、「厳しい練習に耐えてきたことで培われた強い精神力」「勝つ結果を出すことへの執着心」「リーダーシップ」「礼儀正しく、目上には絶対服従(上意下達)」等がその理由の大半だ。少なくとも、専門知識や語学力・独創性等を挙げる担当者は皆無だ。日本企業の新卒採用、中でも文系学生の採用に当たっては、学生が入社してからどれだけ成長が期待できるかを基準とする“ポテンシャル(潜在力)”重視の採用が中心だ。企業からすれば、入社してから教育し、戦力に育て上げればいいということである。しかし、外国人や女性の登用に積極的な日本企業が増え、体育会系学生の地位は相対的に低下している。辻代表らの取り組みもまた、学業重視の方向に流れを変える可能性を秘めており、日本企業の採用基準を長期的に変えていくかもしれない。

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では、実際にオワハラを受けた場合、学生はどう対処すべきか? 結論から言えば、学生が自らの判断で断るのがベストだ。仮に、内々定を出す代わりに誓約書の提出を求められたとしても、そのような誓約書には何ら法的拘束力は無い。企業自身も、法的拘束力が無いことを知っていながら、学生の不安感を煽る為に利用しているに過ぎないのだ。学生は誓約書にサインをしようがしまいが、堂々と納得いくまで就活を続ければいい。年間1500件の労働相談を受けているNPO法人『POSSE』の坂倉昇平理事は、こうアドバイスする。「大学のキャリアセンターの中には、『内定を断ってはいけない』と学生に言っているところもある。大学としては、1つでも多くの内定実績が欲しい為だ。その為、大学に相談しても問題を解決できないこともあるだろう。会社がどのように言ってきても、是非就活を続けてほしい。例えば、内定を取り消された場合、我々に相談してもらえば会社側と争うこともできる」。更に坂倉氏は、「抑々、オワハラをするような企業には、採用者を長期間に亘って雇用する気があるのか、疑問だ」と言う。「所謂ブラック企業には、長時間労働やパワハラ(パワーハラスメント)・不当解雇に手を染めるという共通点がある。大量に採用して、入社後に耐えられないような社員を篩にかけることを前提としているところもある。オワハラをするような会社も、本当に欲しい優秀な人材にだけ内定を出すというよりは、取り敢えず沢山の学生に内定を出して、大量入社させようという意図があるのではないか」。ブラック企業の多くは、社員を長期雇用することを前提としていない。そんな企業は社員を使い捨てにし、業績だけを伸ばそうという姿勢が目立つ。採用時にも、こうした姿勢がオワハラという形で表れる。DSSの辻代表も、「オワハラに関しては、企業によって『あり得ない』と言う人事担当者もいれば、『その程度は当然』と考える担当者もいるようだ。オワハラは採用という企業人事の活動の中で起きることであるから、オワハラをする企業とそうでない企業とでは、企業の風土が全く違うのではないか」。坂倉・辻両氏の意見に共通するのは、「オワハラは企業の風土を反映するので、オワハラをするような企業を選ぶべきかどうか、学生自身がきちんと冷静に判断する必要がある」ということだ。一時期の内定欲しさに、その後の人生の長い時間を棒に振るような間違いを犯してはならない。

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就職・採用日程の変化に伴い、学生向けに面接での受け答えや業界・企業選びを支援する“就活塾”が活況だ。1992年の創設で、老舗とされる『我究館』を運営する『ジャパンビジネスラボ』(東京都港区)の熊谷智宏館長に依れば、就活塾は2008年のリーマンショックを受けた“第2の就職氷河期”以降に増え始め、「今では100社近くあるのでは」と言う。我究館は、専任の講師が面接の対処法や自己分析の仕方を教えるのに加え、塾のOB・OGが企業や職場の実態を教えたり、学生の相談に乗ったりしている。受講料は、入会時期に拘らず卒業まで一律15万8000円。年300~350人を受け入れる。『ガクー』(東京都中央区)が運営する2004年設立の『内定塾』は、フランチャイズチェーンを含め全国12ヵ所に展開。受講者数は計1200人に上る。受講料は、卒業まで17万8000円。これから活動が始まる3年生も、既に50人超が入会したという。売上高は年約3億円だ。両社とも、受講者は首都圏の有名私大生が多いという。この他、城南予備校の『城南進学研究社』は『城南就活塾』を展囲。『ベネッセホールディングス』は、人材サービスの『インテリジェンス』と共同出資する子会社を通じて、10月に新卒者向けの就職支援事業を始める予定だ。サービスの形態や受講料・規模は各社各様だ。複数の講師を揃える大手から、エントリーシートの書き方だけ、面接指導だけといった個人塾もある。但し、『国民生活センター』に依ると、就活中の学生から寄せられた“教室・講座”に関する相談は、2014年度に130件に上った。ピークだった2009年度の347件から減少したものの、中にはしつこく勧誘されたり、高額な契約を迫られたりした事例もあるという。 (池田正史)

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■“履修履歴”活用で好循環を  衆議院議員・小林史明
『NTTドコモ』で採用を担当した経験から、今回の採用選考活動の開始時期の後ろ倒しは、企業にも学生にもメリットが無いことは当初から予想できた。経団連の倫理憲章は、経団連に加盟する一部の大手企業と大学に依る紳士協定で、拘束力は無い。私が採用を担当していた当時から、優秀な学生を確保したい企業はインターンやリクルーターを活用して早期に採用に乗り出し、大企業に就職したいと考える意識の高い学生も早く就活に取り組み始めるといった動きがあった。今回のスケジュール変更では、学生を確保したい企業が早期に内定を出した学生に対して就活の終了を迫るオワハラがクローズアップされているが、実態的には以前からあったことだ。その要因として、日本独自の企業に依る新卒一括採用の弊害を指摘する向きもある。しかし、企業ばかりを責めても問題の解決にはならない。抜本的な見直しには、一部の大企業にしか適用されず、しかもそれさえ形骸化しつつある倫理憲章を設けることで生じた不公平な実態と、大学で学業に取り組んだ努力が評価され難い環境の改善が必要だ。現状では、協定を守る企業が優秀な学生の獲得チャンスを逃してしまう。加えて、早く内定を出した企業の求めに従順に従った学生が、本来の志を貫けなくなることで割を食うといった事態が起こり得る。こうした状況を改善する為には、倫理憲章を止めてしまえばいい。極端な話、本当に優秀だと思ったら企業は1年生に内定を出したっていい。但し、そこで企業が学生に就活終了を強要するのはよくない。そんな企業の行いは、オワハラをする企業(=ダメな企業・ブラック)という社会的な認知が進めば抑制される。また、大学の授業を真面目に受けた学生が就職に有利になる状況を作ることも大事だ。しかし、企業側に大学の成績を評価するよう依頼するだけでは難しい。学生が大学でどんな授業を選択し、どんな成績を収めたかを示す“履修履歴”を面接で活用してもらうことから始めるのだ。授業の中には、学生にとって本当は苦手だが、必要な単位の為に止む無く取り組んだ科目もある筈だ。そうした嫌なことに取り組む姿勢を見る上で、履修履歴は役に立つ。その結果、一部の理系ゼミのように「○○大学の○○ゼミを履修した学生は優秀だ」といった企業側の評価が定着するようになっていけば、大学の授業の質も向上するし、多くの優秀な学生の輩出に繋がる。すると、更に企業のそうした評価を行う姿勢がより強まるという好循環が生まれる。


キャプチャ  2015年8月25日号掲載


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