【真央が帰ってくる】(中) 心揺さぶる“特別な選手”

2014年のソチ冬季オリンピックのフィギュアスケート。アメリカ・NBCテレビの実況解説席に座る長野オリンピック金メダリストのタラ・リピンスキーとジョニー・ウィアはその瞬間、絶句した。メダル争いの一角にいた浅田真央が、ショートプログラムのジャンプを酷く失敗、16位と出遅れ。大会前に浅田を独占取材する等、リピンスキーは“真央派”を公言して憚らない。その2人は、フリーで浅田がトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を決め、本来の力を示すと、再び言葉を失った。今度は感動の涙で。舞台裏では、フリーを滑り終えた浅田を振付師のローリー・ニコルが抱きしめた。「偉大なメンバーの仲間入りね」と語りかけたニコルが名前を挙げた。五輪のメダルだけは取れなかったカート・ブラウニング(カナダ)、五輪の金だけ無いミッシェル・クワン(アメリカ)――フィギュア界で語り継がれる伝説的スケーターだ。「凄いわ。真央も大丈夫よ」。浅田はリスクを恐れず、攻める。そんな女子選手は少ない。金姸兒(キム・ヨナ、韓国)とのライバル関係が盛り上がったのは、質の高さを優先した金姸兒と好対照をなしたことが大きかった。やれることは全部やり、完璧な演技で観客を引き付けたい――これが浅田。

「必ずしも結果に固執しない。前向きで、自分の演技のほうが重要なんだ。今のフィギュア界に無いもの。真央の復帰は凄くいい」。羽生結弦らの振付師で、2008年世界王者のジェフリー・バトル(カナダ)は話す。「ジャンプで勝負する選手は演技の細部を蔑ろにしがちだが、浅田は違う」とバトルは言う。「真央は常にいいプログラムを演じる。10歳の頃から知っているけれど、昔から動きが自然」。高難度の技に挑むスリルを味わうと同時に、美しい演技に感動を覚える。観客の欲張りな願望を満たす選手が浅田だ。ソチ冬季オリンピックでのフリーの浅田がまさにそうだった。メダル絶望で迎える厳しい状況下、高難度の技に挑戦して成功しただけでなく、観客の心を鷲掴みにしてみせた。「駄目だった後、どうリカバーするかが人生では大切。本当の勝者はメダルだけじゃない。立ち上がり、恐怖や不安とどう向き合ったか。だから、真央は心に響くの」。競技生活で浮沈を繰り返し、3度目のオリンピックとなるソチでメダルを取ったカロリナ・コストナー(イタリア)は、共感を覚える1人だ。「真央は特別」とウィアは言う。結果抜きで浅田を見たいのだ。 《敬称略》


≡日本経済新聞 2015年9月23日付掲載≡


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テーマ : フィギュアスケート
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