【日曜に想う】 “絶滅危惧種”宏池会の活路は

九州朝日放送のラジオ番組に時々電話出演して、政治解説をしている。先日、安全保障法制や自民党総裁選を巡ってキャスターから「自民党のハト派やリベラル派はもう少し頑張ってほしいですね」と問われ、私は「あまり幻想を抱かないほうがいいですよ」と答えた。「世間では、意外にも自民党ハト派・リベラル派への期待が残っているのだな」と感じた。私は、「ハト派・リベラル派を代表する宏池会(現在の岸田派、衆・参で計45人)は衰退するばかりで、展望が見い出せない」と考えていたからだ。嘗て宏池会と言えば、宮沢喜一氏や河野洋平氏のような“護憲派”の集団だった。今回の安保法制は、殆どの憲法学者から「違憲」と指摘されているのに、宏池会から違憲論は聞かれない。総裁選でも、宏池会の若手議員が野田聖子前総務会長の推薦人になろうとしたら、「派閥幹部から『安倍晋三首相に刃向かう訳にはいかない。絶対に止めろ』と迫られた」そうだ。

宏池会が弱体化してきた背景を、私は3つの視点で考えている。第1に、長期的な構造。宏池会の基本理念を、現会長の岸田文雄外相は「軽武装・経済優先」と説明する。宏池会の創設者・池田勇人氏が師事した吉田茂氏の政治哲学とも言われてきた。ところが、「吉田氏自身は『軽武装・経済優先』を普遍的理念だと考えていた訳ではない」という指摘は多い。小沢一郎氏は自民党の実力者だった1993年の著書で、「吉田首相は、冷戦下の戦略として経済優先の政治を選択したに過ぎない」と書いている。冷戦下では、アメリカが日本を“反共の前線基地”として重視し、“軽武装”の日本を守ってくれたが、冷戦後はそうはいかない。「日本も“普通の国”になるべきだ」というのが小沢氏の主張だ。宏池会が国際情勢の変化に応じた新しい理念を示せているとは思えない。第2に、最近の自民党内力学だ。2000年以降の政権では森喜朗・小泉純一郎・福田康夫各氏、更に安倍氏が2回と圧倒的に清和会(現在の細田派)が占めている。ハト派の宏池会と対抗してきたタカ派の清和会優位が続いてきた。自民党幹事長等を務めた梶山静六氏は、自らが所属した田中・竹下派と宏池会について、「竹下派が自動車のエンジンなら、宏池会は車体だ。エンジンが無ければ、綺麗な車体でも動かない」と話していた。選挙や国会対策を仕切ってきた竹下派と、官僚出身者が多く政策には強いが、権力闘争は苦手の宏池会との関係を上手く言い表していた。今の自民党では、竹下派の流れを汲む額賀派も精彩を欠き、宏池会との連携も見えてこない。エンジンも車体も旧式のまま切り離されている。第3に、看板が奪われている点だ。民主党の枝野幸男幹事長は、自民党総裁選が無投票だったことに関連して、「『宏池会会長だった大平正芳氏に象徴される保守本流が、自民党内で絶滅した』と改めて認識した。保守本流の政策的理念は我々が持っている」と語った。岡田克也代表も、「日本の外交は、昔の宏池会の路線でいいと思う」と述べている。アメリカと協調しつつ中国も重視するという宏池会の路線が、民主党に引き継がれていくかもしれない。




こう見てくると、宏池会は政策でも党内力学でも“絶滅危惧種”になりかねない情勢だ。岸田会長を支える小野寺五典元防衛相に聞いてみた。「岸田氏は安保法制の責任者でもあり、安倍首相との政策的な違いは出し難かった。法律が成立したので、これからは経済政策で宏池会らしさを打ち出す。大平氏が地方再生策として掲げた田園都市構想の再評価を進め、ポスト安倍で岸田政権を目指す。右に振れ続けてきた振り子を真ん中に戻すことは、自民党にとっても大切だ」。振り子を戻すのは、そう簡単ではないだろうが、宏池会の盛衰が自民党の先行きを占う1つの指標になることは間違いない。 (特別編集委員 星浩)


≡朝日新聞 2015年9月27日付掲載≡


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