【中外時評】 東芝問題から何を学ぶ――“仏”も作れなかった企業統治

「『予算必達!』って強く言っちゃいけないんですか?」――企業法務や危機管理で助言する中島茂弁護士は、ある経営者から真面目な顔で聞かれた。東芝の歴代3社長が社内に圧力をかけて利益目標の達成を迫った問題を受けてだ。勿論、「経営者が予算必達を厳しく言うのも利益を重視するのも当たり前のこと」と中島氏。利益の水増しが東芝の決定的な問題な訳だが、議論の混乱も見られると中島氏は心配する。何故、歴代トップは目標必達へ過度なプレッシャーをかけたのか? 収益力を高く見せなければならない事情でもあったのだろうか? 市場関係者等には疑問も燻る。東芝を巡っては、上司の意向に逆らわない・逆らえない企業風土が問題とも指摘される。「権力に従順な日本の企業文化が東芝問題の根にある」と海外メディアは発信した。このように、利益の減額訂正が総額2248億円に上った東芝の会計不祥事には色々な見方がある。ただ、はっきりしている点がある。コーポレートガバナンス(企業統治)の仕組みの設計に不備が多々あったことだ。東芝が新経営体制を発足させる30日の臨時株主総会を前に、この問題を改めて考えたい。

「コーポレートガバナンスとは、最高の権力を持つ経営トップに対し、下から効かせるもの」と、会社法に詳しい早稲田大学の上村達男教授は言う。トップを牽制するシステムを備え、監督機能を強めることで、株式会社は投資家や資本市場の信頼を得られる。第三者委員会の調査報告に依ると、東芝では経営トップが社内カンパニーから工事損失引当金の計上の承認を求められた際、これを拒否したり先延ばしの方針を示したりしていた。カンパニーのトップも自ら“不適切”な会計処理を指示していた例があった。それらを厳しくチェックするのが内部統制システムだが、東芝ではどうだったか。第三者委報告をよく見てみよう。先ず、本社やカンパニー・関係会社等への監査を担う経営監査部。実際の主な仕事は各カンパニーの経営等への「コンサルタント業務が殆ど」で、会計処理の適否を見る業務は手薄だったとしている。




次に、各カンパニーの経理部や本社財務部。経理部は、会計処理が適切かどうかを点検する役割があった。しかし、引当金の計上が必要な事実を知りながら、何らの行動も取らない場合が見られた。財務部には、「カンパニーの経理部が実態と異なった辻褄合わせの資料を作成して、会計監査人に説明することを認識しつつ、それを制止することなく容認」した例があったという。内部監査部門をカンパニーから独立させて設けてもいなかった。ここまでだけでも、不正を防いで取締役会の監督機能を支える内部統制システムはかなり貧弱だったことがわかる。取締役会の監督機能も十分に働いていなかった。受注後に数百億円の損失発生が明らかになっても、取締役会への報告は無かった。報告事項のルールが不明確だったと第三者委は見ている。監査委員会も、パソコン部品取引での利益嵩上げで委員の1人が懸念を指摘したにも拘らず、委員会として審議する等の対応は取らなかった。財務・経理に関する監査を担当する常勤監査委員が社内出身者だったことを、第三者委は問題点に挙げる。

東芝は2003年に社外取締役が経営を監視する委員会等設置会社に移行し、企業統治改革の先進企業とされてきた。今回の問題で、そのガバナンス体制は“仏作って魂入れず”だったと言われる。実態は、内部統制や監督機能を働かせる仕組みがあちこちで脆弱だった。建物で言えば柱の一本一本がしっかり建っていないのに、委員会設置会社の看板を掲げていたようなものだ。企業統治の器作りが不十分だったことを考えると、“仏”を作れてもいなかったと言えないだろうか? 東芝問題では、担当した新日本監査法人の会計監査が適正だったかという指摘がある。金融庁が監査法人の監督を強化する動きも出ている。ただ、資本市場が投資家の信頼を得るには、何より企業自身がしっかりガバナンスを効かせ、信認されることが先決だ。これまでに東芝が発表したガバナンス改革の内容は、第三者委報告を受けてのものだけあって、取締役会・監査委員会の構成見直しや内部監査の独立性確保の為の組織改革等、基本的な点を網羅したメニューになっている。他の企業にとっても“仏”を作る手引になるだろう。 (論説副委員長 水野裕司)


≡日本経済新聞 2015年9月27日付掲載≡


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