【派遣労働の光と影】(下) 人材流動化で役割重要に、マッチング支援が鍵――日本大学・安藤至大准教授

ポイント
○許可制に依り統廃合実現すれば望ましい
○キャリア向上策の義務付けで賃金低下も
○人口減と技術的失業見据えルール検討を


temporary staffing 03
改正労働者派遣法が11日に成立した。この派遣という雇用形態自体については、「多様な働き方を可能にする」との賛成意見がある一方、「直接雇用が原則である」として反対する考え方も根強い。労働者派遣について整理しよう。派遣とは間接雇用であり、派遣元・派遣先・労働者の3者が関わる。労働者にとっては、雇用契約は派遣元との間で結ばれ、派遣先から指揮命令を受ける。派遣にはどのようなメリットとデメリットがあるのか。先ず労働者にとっては、職種や勤務地・労働時間等を選べる。また、組織に縛られない働き方ができるというメリットがある。求職活動や労働条件交渉の面で、派遣元企業の支援も期待できる。一方で、間接雇用の為、労働者の安全衛生の面で不安がある。また、派遣労働者には不本意型も多い。2010年『就業形態の多様化に関する総合実態調査』では、現在の働き方を選んだ理由として「正社員として働ける会社が無かったから」を挙げた派遣労働者の割合は44.9%(複数回答)と、パートタイム労働者の16.0%や契約社員の34.4%と比べても高い。派遣先企業にとっては、採用や賃金支払い等の人事労務管理の費用を削減できることが主なメリットだ。一方、労働者の帰属意識が低いことや人事面での自由度が低い点がデメリットと言える。尚、派遣という働き方に対して「雇用が安定していない」「待遇が悪い」といった批判もあるが、それは派遣労働に固有のものではない。直接雇用でも有期雇用であれば安定していないし、賃金は法律の許す範囲で当事者が自由に設定できるからだ。

今回の法改正には3つの重要な変更点がある。1点目は、全ての労働者派遣事業を許可制にすることである。これは、悪質な事業者を排除することを目的とする。これまでは、常用雇用労働者のみを派遣する届出制の特定事業と、それ以外の労働者を対象とする許可制の一般事業があった。しかし、許可逃れの為に特定事業を装う事業者の存在が問題視されていた。また、社会保険の未加入等の法律違反も発生していた。2点目は、派遣労働者の雇用安定とキャリアアップの為の施策である。雇用安定に関しては3年を超えた派遣期間終了時に、労働者に対して雇用安定措置を取ることが派遣元企業に義務付けられる。具体的には、

(1)派遣先への直接雇用の依頼
(2)新たな派遣先の提供
(3)派遣元での無期雇用
(4)その他の必要な措置を取る

ことが義務化される。キャリアアップに関しては、派遣労働者に対する計画的な教育訓練を派遣元に義務付ける。3点目は、派遣期間規制の見直しである。これまで専門業務とされた26業務の場合には期間制限が無く、その他の業務には最長3年という受け入れの上限があった。改正により、全ての業務について受け入れ側の期間制限が実質的に無くなり、労働者毎に同じ課で働くことができる期間に3年の上限が課される。今回の法改正の効果を、経済学的にはどのように評価できるだろうか?




先ず許可制には、悪質事業者を排除するだけでなく、基準資産額等の要件を満たさない派遣元企業の廃業や統合を齎す効果がある。抑々日本の派遣元企業は、一般事業の約1万7600と特定事業の約6万7600、合計8万5200もの事業所がある。世界的に見ても非常に数が多い。規模が小さな派遣元企業の数が多いことは、マッチング機能やリスク分担の観点からは良いことではない。教育訓練にも規模の経済が働くことから、統廃合が進み、ある程度の規模が実現することは望ましい方向だ。次に、雇用安定とキャリアアップを評価する際、派遣労働者には本意型と不本意型がいることを考慮すべきだ。確かに不本意型の場合、より安定した雇用を実現することは、労働者本人だけでなく社会全体の視点からも望ましい。しかし、本意型にとってはどうか。仮に大企業で働く正社員と派遣社員を選べるなら、前者が良いという労働者が多いだろう。しかし、1人の労働者に注目した時には、例えば、中小企業の正社員になるか大企業で働く派遣社員になるかというのが現実的な選択肢となる。また、直接雇用化で契約社員になり、実質的に待遇が悪化するケースもある。このように、直接雇用が常に良いとは限らず、派遣労働者の為になるルールとは何かを冷静に議論する必要がある。キャリアアップ策については、派遣元企業の負担で実施することを義務付けても、結局は賃金で調整されて労働者の負担となることに注意すべきだ。派遣元が用意するキャリアアップ策を必要としない高技能労働者や定型業務を手掛ける本意型の労働者にとっては、実質的には賃金の低下を齎す可能性がある。何故、費用が労働者の負担となるのか。特定の企業でしか使えない企業特殊的な技能とは異なり、他企業でも活用できる一般的技能への投資については労働者本人が負担することになる。これはノーベル経済学賞受賞者のゲーリー・ベッカーの人的資本理論の結論である。長期雇用慣行の下では、一般的技能への投資でも企業負担となり得るといった指摘もあるが、派遣労働の場合には当て嵌まらない。

派遣期間規制の見直しはどうか。これには一長一短がある。先ず、派遣労働者の名目的・実質的な業務が26業務に当て嵌まるか否かという点で、これまで様々な逸脱等が指摘されていた。今回、統一的な基準ができることは望ましい。しかし、現行法の下では3年を超えて働くことができた労働者についても、期間制限が適用される点には問題がある。前述のように直接雇用が常に望ましいとは限らないし、それに依り契約が打ち切られる可能性もあるからだ。これからの働き方を考える上で鍵となるのは、人口減少と技術的失業だ。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2048年には人口が1億人を割る。とりわけ、15~64歳の生産年齢人口の減少が大きく、労働者不足が問題となる可能性が高い。労働者がより貢献度の高い産業に移ることが求められるようになるのは確実で、職業教育とマッチング支援が重要となる。技術進歩に依り仕事が失われるという懸念もある。例えば、自動運転車や自動翻訳機の発達等で仕事の一部が奪われれば、不可避的に産業間の労働移動が発生する。この場合にも、職業教育とマッチング支援の重要性が高まる。社会的な適材適所の実現が一層求められる社会では、国・民間企業・大学等に限らず、人材ビジネスの役割は大きい。有効活用する為にも適切なルールを考えるべきだ。具体的には、「派遣は臨時的・一時的なもの」とする原則を維持することが本当に良いのかといった根本から検討することが必要である。大企業で働く正社員の雇用が比較的安定している背景には、現在担当する業務で仮に人手が不要になっても、他の部署や地域に配置転換されるという実態がある。仕事と収入が途切れないという意味での実質的な雇用安定を考えると、企業体力があり多くの派遣先を持つ派遣元企業に雇用されることが、労働者にとって重要な選択肢となる可能性を排除すべきではない。


あんどう・むねとも 1976年生まれ。東京大学博士(経済学)。専門は労働経済学。


≡日本経済新聞 2015年9月28日付掲載≡


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