【中露接近で何が起きるか】(01) 習近平とプーチンが演ずる“新・世界秩序”の舞台裏…そして中央アジアでの覇権争いが始まる

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――中国とロシアが関係を強めている状況がある。2013年3月、習近平が中国国家主席になってただちに、最初に訪問した国はロシアだ。中露接近の背景をどう見るか?
「現在の中露関係は極めて実利的(プラグマティック)だ。友好関係の背景にイデオロギーなど無い。彼らが言うところの“アメリカの世界的覇権”を弱体化させることに、中露は共通の利益を見い出している。中露接近の理由は、第1にそれだ。この1年を見ると、更にウクライナ情勢が接近の背景となっている。昨年3月のクリミア半島併合の結果、ロシアはヨーロッパ連合(EU)やアメリカ等から制裁を受けることになった。そこで、ロシアは支えが欲しかった。そんな中で、(同年5月には)中露が向こう30年間に及ぶ巨額の天然ガス供給契約で合意する。10年近くに亘った交渉が妥結した。中国は、ロシアが提示した価格を相当値切ったと言われる。プーチン大統領にしてみれば、『それでも構わない』という気持ちだろう。プーチンは、『見かけだけでも、中国との関係が大きく前進したということにしたい』と決めていたのだ。天然ガスの価格は二の次、中国の言うままで構わなかった。これは、同盟関係等というのとは違う。ただ、この中露接近は、接近を必要とさせる条件がある限りは続く。その条件の1つは、中露の領土拡張への野心と、それに対する米欧や日本等の西側諸国の抵抗である。長い目で見ると、中露はお互いの間に多くの問題を抱え込んでいる。ロシアとの国境地帯に住む中国人は多い。両国間では活発な経済活動が行われているが、このまま行けばロシアは中国に(経済面で)かなり依存する格好になる。その事へのロシア側の懸念がある。そんな状況を見ると、今の接近が長期的な同盟関係に繋がっていくとは思えない」

――中国側から見ても、やはり相当実利的な理由がある訳か?
「中国側の動きを見ると、国力の増進と共に野望が膨らんでいる状態だ。その好例が、“アジアインフラ投資銀行(AIIB)”だろう。AIIBを創設し、そこに出資して、何れは世界銀行よりも大きくしようと狙っているかもしれない。そうなると、まさにアメリカの持つグローバルパワーの(中国への)移行の典型的シンボルとなるだろう。中国は、第2次世界大戦後にアメリカが中心になって作った現行の国際システムに不信感を抱いている。『アメリカの利益を主眼にして作られたシステムだ』と見ているからだ。アメリカは、世界銀行や国際通貨基金(IMF)に中国をもっと積極的に取り込もうとすべきだった。大きな失策を犯した。中国にしてみれば、『自分たちには何兆ドルという外貨準備があって利用できるのに、お前ら(アメリカ)は巨額の借金を抱え込んでいるではないか。自分たちが開発銀行を作って何が悪い』ということだ。アメリカはそうした動きを止めようとしたが、屈辱的な敗北を喫した。結局、主要国でAIIBの創設メンバーに入らなかったのは、アメリカと日本だけということになった。中国は僅かずつながら、実に粘り強く、世界を自分たちの利益にそぐう形に作り変えていっている。そこには、長期戦略が窺える。南シナ海を見ても、少しずつ少しずつ支配を広げている。東南アジア諸国連合(ASEAN)の小国群にはそれを押し留める力は無い。ロシアとの友好関係は“パートナー作り”と言っていい。今のところ、ロシアは中国を支えている。中国が自分たちに都合の良い国際秩序を作ろうとするのに、手を貸している」




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――中国は大きな戦略を持っているのかもしれないが、中国の指導層には『現在の中国の繁栄は、アメリカ主導で作られた“自由で開かれた国際秩序”のおかげだ』と考えている人もいる。意見は分かれているのではないか? 中国に都合の良い国際秩序とは、自由で開かれた秩序でないとしたら、どんな秩序なのか?
「『国際貿易や投資に対する彼らのアプローチに、既にしてそれは表れている』と私は思っている。『開かれた制度を維持することは、基本的には自分たちの利益に適う』と彼らは思っている。ただ、自分たちの経済システムの中では“国家(state)”に大きな役割を担わせている。国有企業も大きな力を持っている。強い力を持った“国家”や国有企業が、中国の戦略的な資源となっている。べトナムと領有権を争っている南シナ海の海域に石油掘削装置を繰り出したりしたのは、(“国家”と国有企業が戦略資源となっている)いい例だ。中国が作ろうとしている国際秩序は、今よりももっと“国家”を中心に据えた(国家主義的な)ものになろう。近年、西側諸国は投資に当たって、『投資先の国の政府が腐敗していないか?』『環境基準や労働基準は守られているか?』といったことに大いに注意を払うようになってきた。だが、中国が目指す国際秩序では、そうした問題にはあまり関心は払われないだろう。だからといって、それが必ずしも悪いと言っているのではない。確かに、多くの途上国にとっては(道路や鉄道・発電所・通信網…といった)インフラへの投資こそが先ず必要だ。そうした途上国のニーズに応じることはまた、中国の狙いや経済的利益に適っている」

――なるほど。では、ロシアが中央アジアの国々と一緒に作り、拡大を狙っている『ユーラシア連合』についてはどう考えるか? ロシアのこうした動きの一方で、中国はヨーロッパに向かって陸路・海路の現代版シルクロード経済圏である“一帯一路”構想を打ち出し、中央アジアの国々に影響力を広げようとしている。ロシアの計画とバッティングする。将来的にどうなっていくのだろうか?
「中央アジアは、中国とロシアにとって競争の場にも協力の場にもなり得る。ロシアが目指すのは、経済的な面での旧ソ連の復活だ。関税同盟を作って旧ソ連諸国を囲い込み、その中で盟主になろうとしている。その一方で、中国が貿易や投資で入り込もうとしている中央アジアや周辺の国家は、そうしたロシアの影響力から逃れようとしている。その典型例がモンゴルだ。モンゴルは旧ソ連の衛星国家だった。だが、今ではモンゴル産業界への最大の投資者は中国だ。という訳で、鉄道のゲージ(軌間)を巡って大騒動が起きている。モンゴルは元来、ロシア式の軌間(広軌)だ。中国は、それより狭い標準軌を使っている。中国はこの標準軌で、モンゴルの銅鉱山まで鉄道を入れようとしている。これに対してロシアは抵抗しており、軌間を巡って外交戦を仕掛けている。中央アジアの国々の多くでは、今のところロシアが大きな影響力を行使しているが、クリミア半島併合以来、カザフスタン等ではロシアに対する不信感が強まっている。ロシア無しでも済むように、代わりのものを求めている。それを提供できるのはどの国か? 中国だ。『中央アジアでは、ロシアと中国が真の協力関係を作ることはできないだろう』と私は見ている」

――どこか、19世紀の“グレートゲーム”(ロシア帝国と大英帝国がユーラシアの覇権を巡って中央アジアで繰り広げた勢力争い)を思わせるところがある。イギリスに代わって、中国がプレイヤーになっている。中央アジアが中露の草刈り場になるということか?
「その可能性があるということだ。その一方で、中露が協力し得る分野も中央アジアにはある。ロシアはヨーロッパを抜ける天然ガスのパイプラインに代わって、中央アジア方面にパイプラインを延ばすことに関心を持っている。中国にとっては天然ガスは勿論、その他の資源も益々必要になっていく。そこには協力の契機がある。ただ、それでもやはり、中央アジアにおける覇権を巡ってゲームが繰り広げられることになろう」

――中央アジアでは今後、競争の契機と協力の契機が共にあるということか。ただ、過去を見ると中露両国は敵対の歴史が長い。互いに不信感が強い。そうした両国民の過去からくる“感情”は、今後どういう意味を持つだろうか?
「中露の間は、友好関係があって当たり前という状況ではない。両国を取り囲む国際情勢が変われば、今の友好関係ががらりと変わることは十分想定できる。例えば、プーチンはいつまでも指導者として居続ける訳ではない。今日のロシアの体制は、プーチンに負うところが大きい。謂わば、プーチンとその仲間たちが作るネットワークが今のロシアだ。プーチンが権力から去ればどうなるか、予測し難いところがある。今よりずっとヨーロッパに目を向けた国に変わっていくかもしれない。そうなると、現在の中露接近というのは方向転換してしまうかもしれない。同様にして、中国も今の習近平率いる指導部がいなくなればどうなるか、予断を許さないところがある。中国側も、状況は急変する可能性がある。だからこそ、中露関係を見る時には思想とかイデオロギーとかではなく、底流にある力関係や両国其々の国益といった点に目を凝らす必要がある」

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――中露接近は確かに実利主義的であり、両国の指導部が代われば関係はがらりと変わる可能性があるだろう。ただ、現在実際に進んでいる中露接近に対し、世界はどう対応していったらいいのか? 特にアメリカだが、適切な対応を取っていると思うか?
「対処法には、幾つか必要な要素があると思う。中露の接近そのものを直接どうこうするという訳にはいかない。アメリカであれ他のどの西側先進国であれ、両国の接近に直接影響を及ぼすことはできないだろう。問題は、中露其々と西側各国との関係だ。中国との関係を考えてみると、既に述べたように、中国がルールを決めていく世界に向かうのは避けられない。中国にはルールを決めていく財力もあるし、パワーもある。それに単純に抵抗しようとするのは馬鹿げている。『アメリカは、AIIB参加に同意していたほうがずっと良かった』と私は思う。内側からAIIBを、より西側的な組織に変えていくよう働きかけることができる筈だ。その一方で、中国の主張に対抗して抵抗していくべき分野がある。領土問題が特にそうだ。中国に対しては、これまでのように協力と対抗の両方を併せ持つ政策が必要だ。ロシアは、中国とは異なるタイプの大国だ。今のようにナショナリズムが高まり、好戦的に力を誇示するような状況では、プーチンと協力できる契機は見つかりそうもない。プーチンは国内でナショナリズムを煽り過ぎて、引くに引けないところまで来てしまった。その点では、習近平とは大いに異なる。去年の習近平はナショナリズムを煽って、領土問題で主張を前面に出し、中国の権益を広げようとしたが、今年に入って手綱を緩めている。稍、沈静化の気配がある。プーチンには、そうした柔軟性は見られない。国際的規範を破っているのは明々白々で、やっていることもずっと酷い。現在起きている事態に対し、我々はもっと厳しく対応していかねばならない」

――対露政策だけでなく、対中政策でも米欧の違いが浮き彫りになってきた。EU主要国はAIIBへの参加を決めた。この違いをどう見ているか? ヨーロッパのほうが賢いということか?
「当然だが、中露両国に対して其々に違った対応が必要だ。ロシアのウクライナ侵攻に対するヨーロッパの対応は甘いと言わざるを得ない。ウクライナへの軍事支援は、ある程度は必要かもしれない。ただ、それで情勢が大きく変わるということでもないだろう。大切なのは、ウクライナが自ら政府の腐敗問題に対処し、経済を立て直して、ロシアの攻勢を凌げるくらいになる力を付けられるように支援していくことだ。ヨーロッパ諸国は、その点にもっと力を注いでほしい。中国のAIIBについては、反対するのは大きな間違いだと思う。アジアの多くの途上国はインフラ面で足りないところがあり、中国はその必要を満たそうとしているのだ。その点でアメリカは十分な仕事をしていないし、世界銀行も途上国の必要に応じていない。AIIBに抵抗を続けるのはどうかと思う。最初から参加して、内部から資金の使い方等で影響を与えていこうというヨーロッパ諸国のほうが賢明だ。日本の不参加には、日米関係への配慮という問題があるのではないか」

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――歴史的に言えば、1990年代後半のアジア通貨危機の際、日本がアジア通貨基金構想を打ち出したのに対し、アメリカが反対した経緯がある。その歴史を踏まえれば、アメリカはAIIBに反対せざるを得ない。アメリカ側にこそ、日米関係への配慮がありそうだ。
「歴史を遡れば、1990年から1991年にかけ、マレーシアのマハティール首相に依る“東アジア経済会議(EAEC)”構想が出た時には、アメリカと日本は一緒に反対に回った。『アメリカやカナダ抜きでのアジアだけの経済共同体は好ましくない』という理由だった。AIIBの場合は、問題は『アジアを中心とした機関を持つことがいいのかどうか?』という点ではない。寧ろ、『アメリカが現在持っている力への評価が間違っているのではないか?』という問題だ。1990年代には、他の諸大国に比べて、特に中国と比べた場合、アメリカは圧倒的に優位な力を持っていた。しかし最早、そういった状況にはない。それが、否応なく受け入れざるを得ない現実だ。その現実を考慮せざるを得ない。アメリカ議会はIMFの増資を拒んできた。国際金融機関や開発機関で中国にもっと影響力を持たせていく為に必要な規約の変更を、アメリカ議会は認めたくないのだ。それが、今回の事態の背景になっている。アメリカ議会は、新たな現実に対応する気が無いのだ」

――ロシアとヨーロッパについては、ドイツを抜きには語れない。ヨーロッパにおいて、ドイツの力は抜きん出てきた。ドイツのウクライナ問題への対応に懸念はないか?
「周知のように、ドイツは板挟みのような状態だ。ロシアと極めて強い経済関係を持っているからだ。ドイツ財界は対露制裁に反対し、制裁を防ごうと一生懸命ロビー活動をした。ただ、そのドイツを対露強硬路線に引き込んでいったのはアメリカだけではない。ポーランドやバルト3国等、ロシアの脅威を強く感じている国々だ。これらは“北大西洋条約機構(NATO)”加盟国でもある。ドイツはウクライナを巡って、ロシアが突き付けている挑戦に毅然と立ち向かえないでいる。残念なことだ。ロシアがウクライナだけで事を終えるとは思えない。軈て、バルト諸国・モルドバ・グルジア等の嘗てのソ連に属していた周辺諸国とも、問題を起こすことになるだろう」

――ロシアがバルト諸国やモルドバ等にも手を出していったら、中国はどう反応すると思うか?
「俄かに答え難い。中国は、ロシアのクリミア併合を黙認した。ロシアとの友好関係を優先したからだ。しかし、ロシアの行動を歓迎している訳ではない。中国は、領土の主権を対外政策の中心に据えている。ロシアが隣国の領土主権を侵しているのを見て、嬉しい訳はない。ロシアがあのような拡張政策を取るのを、積極的に支持する訳にはいかないだろう。自分たちを利するとは思えないからだ」

――日本にとっては中国との関係も難しいが、ロシアとの関係も北方領土問題を抱えており、難しい。安倍晋三首相は、ロシアとの領土問題解決を狙っている。更に、日露は経済面での実利を狙って、互いに接近したいと考えている。そこで、日中露の複雑な駆け引きが見えてくる。どう思うか?
「『ロシアが北方領土問題で大きな譲歩をするとは思えない』と、先ず言っておきたい。この数年間で、ロシアのナショナリズムは国内で劇的に高まっている。プーチンが北方領土で譲れるような状況にはない。この問題で、安倍首相はプーチンから妥協を引き出せると考えているようだが、そんなことが実際に起きるとはとても思えない。ロシアに接近することは、孤立するロシアに安堵感を与えてしまうことになる。今は、ロシアを孤立させることが必要な時だ」

――中露接近がアジアやヨーロッパ以外の他の地域、特に中東情勢に及ぼす影をどう考えるか?
「中露接近は同盟関係という訳ではない。眼前の問題に対処する必要性に依る結び付きを超えるものではない。NATO諸国がアフガニスタンまで出て行って、一緒に問題に対処するというような関係とは違う。ただ、中露は例えば、アメリカが人道的理由や人権擁護の目的でスーダンやシリアのようなところ等に介入しようとすると、一致してその阻止を図ってきた。そこに、一定の協力関係を見ることはできる。他方で、中露は共にイスラム過激派のテロに悩まされている。『ジハード主義が世界中に拡大して、テロリストたちが自国に舞い戻ってきたりする事態は避けたい』と考えている。かといって中露共に、現在中東で起きているスンニ派とシーア派の争いの中に飛び込んで行き、対処する気は無い。そんなことをすれば、更に事態を悪化させかねない。中露が共に避けたいと思っているのは、アメリカが中東で大きな役割を担い、圧倒的な影響力を行使する状況だけだ」 (聞き手・構成 会田弘継)


Francis Fukuyama(フランシス・フクヤマ) 政治学者・スタンフォード大学シニアフェロー。1952年、アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ生まれ。コーネル大学で古典哲学を学んだ後、ハーバード大学大学院で政治学博士号を取得。ランド研究所を経て、1980年代にアメリカ国務省政策企画部で中東・ヨーロッパを担当。1989年11月の『ベルリンの壁』崩壊直前に『ナショナルインタレスト』に発表した論文『歴史の終わりか?』が一躍脚光を浴びる。著書に『歴史の終わり』(三笠書房)・『アメリカの終わり』『政治の起源 人類以前からフランス革命まで』(共に講談社)等。

会田弘継(あいだ・ひろつぐ) フリージャーナリスト・青山学院大学教授。1951年、埼玉県生まれ。共同通信ワシントン支局長・論説委員長等を経て、2015年より現職。著書に『戦争を始めるのは誰か 湾岸戦争とアメリカ議会』(講談社)・『追跡・アメリカの思想家たち』(新潮社)。


キャプチャ  2015年6月号掲載


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テーマ : 国際政治
ジャンル : 政治・経済

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