【中国人の攻略法】(04) “爆買い”旅行者の正体…銀座が中国人でごった返す理由

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今年6月27日。福岡・博多港に巨大な客船が突如として現れた。『クァンタムオブザシーズ』と名付けられたその船は総重量16.7万トン、全長約350mと、客船としては世界で2番目の規模を誇る。日本に寄港した客船の中では過去最大だ。この日が日本初寄港だった船から溢れ出てきたのは、4150人の中国人観光客。東シナ海クルーズツアーの参加者たちで、全乗客の9割以上を占めていた。実は今、博多港には中国発のクルーズ船が引っ切り無しに押し寄せている。同港に依れば、外航クルーズ船の寄港回数は、昨年の99回から今年は276回まで爆発的に伸びる見込みだ(7月1日時点の予定)。その大半は上海発で、今年は約50万人もの中国クルーズツアー客が福岡に上陸する。今年1~6月の訪日外国人旅行者数は、過去最高の914万人を記録した。現在のペースでいけば、年間の訪日外国人旅行者数は1800万人前後となる見通しで、これも史上最多。45年ぶりに訪日外国人数が出国日本人数を上回るという象徴的な年になりそうだ。中でも増加が顕著なのが中国からの旅行者で、前年同期比で倍増の217万人となり、国・地域別でトップだった。激増の理由の1つが、クルーズ船の寄港が増えたことだ。クルーズツアーは4泊5日、船内の食事代込みで4000~5000元(1元=約20円)が一般的で、空路のツアーよりお得感がある。中国旅行社総社で外国旅行の責任者を務める武暁丹氏は、「3世代ファミリーでのんびり過ごせるのが利点。(航空機と違い)購入品の持ち込み制限が無いのも大きい」と分析する。定番ツアーは、日中韓3ヵ国を巡る約5日間のショートクルーズ。参加し易い日程と手頃な価格が海外旅行初心者に受け、驚くほどのヒットとなった。日中の確執の舞台である東シナ海は、今や中国人にとってレジャーの海なのである。

上陸した中国クルーズ客の福岡での“お目当て”は、中洲にある大型免税・家電量販店の『ラオックス』だ。多い日には6000人が大挙して来店する為、身動きができないほど人で溢れる。「一度に何十台ものバスが来られ、中国語対応できる家電量販店は、福岡にはラオックスしかない」。混雑の理由をそう説明するのは、今年2月に福岡空港近くに訪日客向け大型免税ドラッグストア『ドラッグオン福岡』を開いた『ケアルプラス』の満園昌嗣副社長だ。加えて、「クルーズ客のバスを手配した旅行会社やガイドに対して、ラオックスは客に依る売り上げに応じてキックバックを払う」(満園氏)という仕組みも大きく作用している。旅程に免税店訪問を入れることで、旅行会社は店からキックバックを得る。それをホテルやバス・食事・ガイド等の費用に充て、ツアーの販売価格を抑える。中国の団体旅行では今や当たり前だ。ドラッグオンも同様の仕組みを使い、中国人クルーズ客の需要を掴もうと開業した。店の外に掲げられた「クァンタムオブザシーズのお客様を歓迎します」という意味の中国語の横断幕が目を引く。店員も中国人ばかりだ。毎日のように大型バスがやって来て、団体客が吸い込まれている。「彼らを相手に商売をするなら、(キックバックの)ビジネスモデルに合わせるしかなかった」と満園氏は明かす。現状、中国人客が殺到するのはラオックスであり、同社は中国資本。「我々が何もしなければ、(商売をしたい中国人たちに)福岡を場貸ししているのと同じだ。このビジネスが何年続くかわからないが、地元にお金が落ちるようにするには誰かが始めなければならなかった」(満園氏)。このキックバックモデルは、東京や大阪でも変わらない。銀座や秋葉原のラオックス前に大型バスが停車し、中国人でごった返すのはその為だ。東京と大阪を巡る“ゴールデンルート”の場合、帰国前日までに東京か大阪で目当ての土産を購入する為、キックバックモデルの成立する免税店に向かうのだ。




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中国人旅行者の購買意欲は、訪日外国人の中でも群を抜く。観光庁に依れば、今年1~3月における中国人の1人当たり旅行支出は30万434円と、国・地域別で断トツだった。彼らが買い物に執着するのは、帰国後に各方面の知り合いに手渡す土産物で“面子”を保ちたい為。旅行における最重要ミッションであり、これが“爆買い”を生む背景の1つだ。東京で爆買いのメッカと言えば、またもやラオックスだ。秋葉原店の店頭には、中国人客を迎えるべく簡体字の商品ポップが並ぶ。1~8階のフロアはデジタル機器や家電・健康美容商品・医薬品・化粧品・ブランド品等に分かれ、その商品構成は中国人の欲しいものリストと言っていい。「美味しくコメが炊ける」との口コミがインターネットで中国全土に広がった日本の炊飯器は、5年ほど前から人気が続く。多くの客が複数買いだ。快適さと機能性に唸って、ウォシュレット(温水洗浄便座)を手に取る人もまだまだ多い。これらの家電に共通するのは、消費者に対する細かい配慮と品質向上の積み重ねへの高い評価だ。同様に今後、爆買いの対象となりそうなのが医薬品や化粧品・健康美容商品だ。今、中国のインターネット上にはこうした商品の細かな情報が溢れている。きっかけを作ったのが、東京のドラッグストアが扱う商品をカタログ風に纏めた“買い物ガイド”だ。常備薬や栄養ドリンクから、美容クリームやつけまつげまで、あらゆる商品が網羅されている上に、東京中のドラッグストアを写真付きで事細かに解説している。2012年に台湾で出版されたものの版権を中国の出版社が買い取り、簡体字版が発売された。著者である台湾在住のドラッグストア研究家・鄭世彬氏は、「中国人の医薬品ブームの起源は台湾にある」と指摘する。「台湾では昔から、日本の薬を土産に買うのが好まれた。日常的な体調の変化や不快感にも細かく応える品揃えや、実際の効き目だけでな く、パッケージがお洒落で一見薬に思えないのもいい。そして何より、台湾で買うより安い」

とはいえ解せないのは、「多くの日本企業が中国でも製品を造る今、中国で買えるものを何故日本で買おうとするのか?」ということだ。前出のドラッグオン福岡が設けた上海事務所でマーケティング調査を担当する吉田茂一所長が答えてくれた。「偽物が溢れる中国では、国民が自国製品を全く信用していない」。更に、高い関税で輸入品が高い。不動産の高騰に依る家賃上昇も、小売業者を圧迫している。そこに円安が加わった。「中国の半額なら兎も角、3分の1の水準であれば日本で買うのが賢いと考えるだろう」と吉田氏は言う。爆買いするのは観光客だけではない。在日中国人や留学生が日本で商品を買い集め、中国でインターネット販売する業者や個人に船便や国際郵便で送る“代購”と呼ばれる行為が蔓延している。その当事者たちに聞くと、「日本から発送されている(=偽物ではない)ことに価値がある」と言う。消費者は自国のインフラを中々信用できないようだ。一方で、爆買いを素直に喜べないという声も聞こえる。インターネットで特定の情報が拡散するせいか、「中国人の購入品が特定のものに集中して困る」とあるドラッグストア関係者は語る。昨秋、中国のインターネット上に“神薬”という日本旅行で買うべき12の医薬品リストが流れた。『大正製薬』の口内炎パッチや『参天製薬』の目薬『サンテFX』といった市販の家庭常備薬等が名を連ねた。中国人がよく訪れる東京都心のドラッグストアでは一気に纏め買いされ、直ぐに在庫が底を突いたという。「爆買いは昨春から本格化し、消費増税後の下支えにはなった。ただ、恩恵があるのは一部の店舗だけ」と前出の関係者は漏らす。

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訪日旅行市場は中国全土に広がりつつあり、今後も需要の拡大は見込めそうだ。嘗ては北京や上海・広州等、沿岸大都市の住民が大半だったが、最近の東京都内で見掛けるツアー客集団からは、地方色豊かな方言が聞こえる。武漢や重慶等、内陸部の客が増えたようだ。2000年に解禁された中国人向け団体旅行ビザに続き、日本政府は2009年から富裕層に限定して個人旅行ビザの発給を始め、翌2010年には所得制限の引き下げや発給窓口の拡大で対象者が大幅に増えた。足元では、早くから個人ビザの発給が行われていた北京や上海等の先発組の都市からは個人客が増え、後発組の内陸部からは団体客が伸びているという状況だ。日本旅行は一部の富裕層だけでなく、地方都市の中間層でも十分手が届く楽しみになった。2010年の茨城空港への就航以来、日本路線を積極拡充する中国のLCC(格安航空会社)最大手の『春秋航空』は、内陸都市からの便を昨年から増やしており、新需要を逸早く取り込んでいる。先述のクルーズツアーも、「今年は内陸部に客層が広がった。初めての日本旅行だという人も多い」(福岡市クルーズ課の小柳芳隆課長)という。団体客と個人客では、日本での過ごし方が全く違う。東京での団体客の移動は全てバス。彼らが立ち寄るのは浅草・新宿・お台場・銀座、或いは秋葉原に粗限られる。2013年以降の東京都心のホテルの高稼働率と価格上昇に依り、宿泊先は都内では八王子、都外では千葉や埼玉のビジネスホテルになることが多い。一方、個人客はリピーターが多く、若年層ならインターネットで収集した情報を基に、“攻略”と呼ばれる緻密な観光計画表を作る。富裕層であれば、全てを専属通訳ガイドに任せる。車をチャーターし、外資系の高級ホテルや“隠れ家”的な温泉旅館を泊まり歩く。食事はミシュラン掲載店と同等クラスでないと満足しない。彼らの最近の口癖は、「地方の温泉旅館か離島を買いたい。どこか知らないか?」。本気度は測りかねるが、その発想に驚かされる。

盛り上がる中国の訪日ブームだが、冷静に考える必要もある。爆買いの恩恵は、まだまだ大都市圏の一部の店舗や企業に限られている。全国的な広がりはこれからだ。日中の政治関係が旅行市場にどう影響するかも不透明だ。中国の消費者は政治やメディアの影響を受け易い。9月3日には北京で戦勝70周年の軍事パレードが予定されているが、関連した政治キャンペーンの影響を懸念して、「夏まではいいが、9月以降は読めない」と語る中国側の旅行関係者もいる。日中関係のリスクは、こうして爆買いにも影を落とす。刻々と変わる状況に目を配ることが肝要だ。


中村正人(なかむら・まさと) フリーエディター。1963年生まれ。出版社勤務を経て独立。中国東北地方の現地事情や訪日外国人旅行ビジネス動向等が専門。公式ブログは『ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌』。

               ◇

■訪日旅行の主役は内陸住民  『春秋航空日本』会長・王煒氏
多くの中国人にとって、訪日旅行の足は航空便だ。中国のLCC(格安航空会社)最大手である春秋航空は、2010年の茨城空港への就航以来、日本路線の拡大を積極的に進める。『春秋グループ』日本代表の王煒氏に、訪日需要の動向や今後の戦略を聞いた。 (聞き手/本誌 中川雅博)

これまでは上海等、個人所得の高い沿岸部住民が訪日旅行者の中心だったが、内陸部もここ数年で経済水準が上がった。顧客は今や内陸部のほうが多い。抑々、内陸の人を日本に連れてくるのがLCCの役割。運賃は旧来の航空会社の3分の1。直行便を増やせば、乗り継ぎ時間や余分な宿泊費も抑えられる。我々の強みは、大規模な旅行会社をグループに持つこと。様々なニーズに合った商品設計ができる。旅慣れた沿岸部の人には航空券と旅先の情報提供のみのフリープランを提供する一方、初心者向けに定番の団体旅行も手掛ける。今後重要になるのは、リピーターを増やせるかどうか。商品を多様化させないと客は離れてしまう。カギになるのが日本の地方都市だ。私は日本に来て10数年になるが、日本の地方の魅力はヨーロッパに引けを取らない。合掌造りで知られる岐阜県の白川郷等、魅力的な場所は多い。顧客のうち東京や大阪に向かうのは7~8割。将来的に、大都市と地方の割合を五分五分にする。初めて日本に来る人向けでも、東京と大阪だけでなく、東京と地方・大阪と地方という組み合わせを広げていく。関西や中部中心の航空路線も、九州や中国地方へ拡大させる。現在は、ホテルやバスが訪日者数に比して圧倒的に足りない。その為に中止になったツアーもある。煽りを食った中国-日本間の主要な春秋便では一時、搭乗率が目標の8割以下に落ちた。収容力不足の対策として、当社自身がホテルの運営に乗り出すことも一案にある。中国人が来るだけでなく、日本人にも中国に行ってもらい、相互交流を促したい思いもある。日本で開設したLCC『春秋航空日本』では、成田からの中国線就航を目指している。ツアー企画は、出資者の1つであるJTBの協力を得ながら進めていきたい。


キャプチャ  2015年8月22日号掲載


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